今回はちょっと詠唱ポイントがある。
side 士郎
──夢を見た。
無数の剣が生い茂る、不毛の丘。世にあっては名剣、宝剣と謳われるであろう数々の剣が、無限に──いや、"無限"などこの世には存在しない。だが、数えることができない程に膨大ならば、それは無限であることと、尽きないことと遜色ないのではなかろうか。
無数の鉄。無限の剣。無彊の鋼。それらは悉くが
剣は、死んでいた。無機物である剣が死ぬとはどういうことか。剣のもつ切れ味や殺傷力を落とすために刃をなくすことを「刃を殺す」というが、そういうことか?
否。
剣が錆び朽ちたか?
否。
曲がり折れ、実用に堪えないか?
どれも、否。
武器が武器足り得なくなる条件など一つだけ。
担い手を失った。愛用者が絶えた。使用者が消えた。ただそれだけの理由で、この剣たちは、この
それが、どうしようもなく寂しく感じた。
──世界が切り替わる。
いや、本当に切り替わったのだろうか。目に映るのは、やはり無数に突き立つ、武器。先ほどと違うのは、槍や斧といった剣以外の武器まであることか。それに、砂漠のように乾ききっていた大地は潤い、鮮やかな芝生に包まれている。
先ほどの世界も、かつてはこうあったのかと錯覚させるほどに似通った世界。ただ絶対的な差異がある。この丘の剣は、まだ
主に仕えている。使用者を守護している。敵を殺している。武器として「生きている」。
(あれは···?)
剣の丘の遥か頂上に、ひとつの人影を見た。目を凝らすより早く、一陣の風が吹く。世界そのものの魔力が大きく動いて発生したその風は、豊かな芝生を微かに揺らす程度の勢いにしかならない。しかし、端くれとはいえ魔術師である士郎にとって、それは木々すら薙ぎ倒す暴風に他ならない。目を閉じ、体を縮めて遣り過ごす。
「ふぅ···。···っ!?」
数秒もの間吹き続けた暴風が漸く止み、目を開けると、またしても世界は一変していた。
「人···!?」
違う。そう本能が叫んでいる。だが、目に映るのは、確かに両足で緑の大地を踏みしめる、視界を覆うほどの少女たちだった。
「え、あ···」
たった二つしか使えない魔術のうちの一つ、強化の魔術を使う過程で磨かれた「解析」の目が、明確に「これは人ではない」と告げている。
かつての記憶が、「敵対したら今度こそ死ぬ」と叫んでいる。
だが。十数年しか使っていないが、十数年の間使い続けて来た、器官としての目と脳は、「常識」を以て、目の前のヒトガタたちを「人間である」と認識していた。
「あ、れ···?」
分からない。理解できない。否。理解してはならないのか。そういうモノも混じっているようだ。
「えぇ。それで正解よ、マスターのマスター。私たちを理解できるのは、
正面から掛けられた声。いつか聞いた綺麗な声に導かれて、丘を少し上る。
「止まりなさい。ここは、貴方が来て良い場所ではないわ。」
そう言って、十数歩先に佇む銀髪の少女は、ドレスを翻して周囲を指す。
「なっ!?」
周りに居るのは、悉くが美人·美少女だった。男であれば「ここで死んでもいい」とすら思えるほどの楽園だが、しかし。彼女たちは思い思いの武器を携え、目の前のたった一人を除いて全員が、俺のことを睨んでいた。
「そうか、おまえは、いや、おまえ達は···ここは···」
「あら。存外、頭の回転が早いのね。えぇ、そうよ。私たちは
──目が覚めた。
一番に目に入ったのは。
「うわっ!? ととと、遠坂!? なんでここに!?」
「おはよう、衛宮くん。取り敢えず落ち着いて?」
遠坂の黒い瞳だった。慌てふためく俺の様子が可笑しかったのか、少しだけ笑いを溢す。遠坂はそのまま立ち上がり──あれ?
「遠坂、どこに行くんだ?」
遠坂は、既に外套を隙無く纏っていた。俺にでも分かるほどの外行きの格好で、なんだって俺の部屋に?
「どこって、自分の家に帰るのよ。今日は休日だけど、家でやることも沢山あるしね。」
「あ、そ、そうか···。」
「じゃあね、衛宮くん。分かっていると思うけど···次に会ったときは敵同士だから。」
ほんの僅か、胸が詰まる。遠坂と敵対するのは今でも嫌だ。けれど。
「あぁ。俺だってマスターとして参加するって決めたんだ。敵になるなら、全力で遠坂と戦う。」
「···そう。」
遠坂は短い返事を残し、お邪魔しました、と、律儀に腰を折ってから出ていった。···それを言うために俺の部屋に来たのだろうか。
「···そうだ、セイバー。」
体を起こし、服を着替える。この無駄に広い屋敷のどこかに居るはずの、俺の相棒を探すために。
side out
「あ、おはほうしほう。」
士郎が子供の頃に「自称保護者」と隠れんぼをする過程で編み出した、屋敷の中を効率よく歩くルート。その中でもそれなりに早い段階で覗いた居間で、「あ、おはよう士郎。」と、そう聞こえないこともない挨拶で、セイバーは士郎を出迎えた。
「お、おはようセイバー。傷はもう大丈夫···そう···だな。」
士郎は頬を引き攣らせている。それもその筈だ。セイバーが座った座布団の周囲には、食卓から溢れ返った食材の山が築かれていた。いや、雪崩れていた。
「な、何、してるんだ?」
「なにって、もぐもぐ、そりゃ、はむはむ、食事だよもぐ。」
「いや、でもセイバー、それ···。」
セイバーが食べているのは、
「あーーーーー!?」
冷蔵庫を開け、続いて流し台の下、食材の詰まっていた棚と、順番に見た士郎が絶叫する。
「もぐもぐ···士郎、うるさい。食事くらい静かにさせてくれ。」
「言ってる場合か、セイバー!! 向こう一週間分の食材、全部食べちゃったのか!?」
「はむはむ···いや、まぁ、戦闘さえしなけりゃ確かに一週間ぐらいは保つ量だったけど。」
「とりあえず、食べるのストップ···。と、いうかセイバーってサーヴァント···使い魔の一種なんだろ? なんで食事が必要なんだ?」
使い魔は、使役者の魔力を動力源とする。卵にすらなれていないへっぽこ魔術師の士郎にも、そのくらいの知識はあった。
「そういうセリフは、ちゃんと魔力を供給してから言ってくれませんかねぇ···。」
いくらか険を持ったセイバーの声に、士郎が僅かに気後れする。その隙を衝いて、セイバーは。
「ぱくぱくもぐもぐもぐ···ごくっ。」
「あ、こら、セイバー!!」
雪崩を悉く消し去ってみせた。
◇ ◇ ◇
「で、どこから話そうか。」
「初めから頼む。あと、コレが終わったらセイバーも一緒に買い出し。···そういえば、
「あぁ。それは、クラス名だな。俺たちサーヴァントは、過去の英霊──って言って分かるか?」
英霊。過去に存在した、いわゆる"偉人"。知性か、力か、或いはカリスマ性か、勇敢さか、はたまた強運か。その要素の如何を問わず、人類の最高峰とされる者たち。伝説であり、伝記となって然るべき、伝奇小説じみた人間を、なんなら人間以外までもを、「聖杯」は時間を遡って現代に喚び覚ます。
ただし、如何に聖杯が万能とは言えど、7人もの伝説を──七柱と数えられてもおかしくないほどの存在を、そのまま呼び出すのは無理がある。無理ではないが、負荷が大きい。故に、セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、そしてバーサーカーの7クラスという「枠」に当て嵌めて召喚するのだ。当然ながら、その「枠」は"人間スケール"であり、神々のような「大きすぎる」存在は入らない。
そも、神の子の血を受けた杯の模倣品である「聖杯(笑)」なんぞを、ワザワザ神々が欲しがるとは思えないが。
その「枠」の定める条件は曖昧だが、大まかに言えば、剣が得意な英霊ならセイバーになるし、魔術が得意な英霊ならキャスターになる。
「やっぱり、その"セイバー"ってのは、本名じゃないんだな。じゃ、なんで本名を隠してるんだ?」
「そりゃ、名前を明かすことは、弱点を明かす事に繋がるからな。」
首を傾げた士郎に、セイバーが苦い微笑を浮かべる。
「じゃあ士郎。お前の目の前に、どんな攻撃をしても傷つかないサーヴァントがいる。どうする?」
「え? そりゃ···戦わなくても済む方法を探す、とか。」
「そう。敵わない相手なら、戦闘を避けるしかない。逃げるか、或いはマスターから先に殺すか。じゃあ、そいつが「アキレウス」って名前を名乗ったとしたら?」
「ギリシャ神話のアキレウスか? だったら···あ。」
「そういうこと。」
名前が分かれば、英霊──つまるところ死人である、それも有名な死人であるサーヴァントは、歴史書を紐解くだけで弱点が露見してしまう。かの有名なアキレウスやジークフリートであれば、調べるまでもなく知っている者も居るだろう。それを避ける為の、クラス名。
「名前がバレて困るのは防御面だけじゃない。攻撃する場合でもだ。···士郎、俺たちサーヴァントには、大体一人一個、「切り札」がある。宝具って言うんだが。」
「宝具···。アーサー王の、エクスカリバーみたいな感じか?」
「そう。···まぁ、かの聖剣なら、名前が分かった所でどうしようもないけどな。」
星の聖剣ほど極端な代物なら関係ないだろうが、例えば、「半径5メートル以内を致死性の毒ガスで満たす」という宝具だとしたら、防毒面を着けるなり、そもそもレンジに入らないなどで対策され、一方的に倒されてしまうだろう。そのような事態を避ける為にも、情報はなるべく隠さなくてはいけない。
「なるほど···。ところで、セイバーの真名って?」
「俺の真名か? あー···いや、実は名前を忘れててな···。自分が何者かは分かるし、宝具も分かる。ただ、名前だけがなぁ···。」
「そ、そうなのか?」
「あぁ。だから、宝具と出自だけ教えておく。」
◇ ◇ ◇
この世界は、一本のロープに喩えられる。幾つもの平行世界という繊維によって編まれた、一本のロープ。その細い繊維の内側からは、
──そして。そのロープから少し離れたところに、他のロープがある。全く別の文明、どころか、全く別の概念で運営されている世界が。ナイフでもメスでも届かない位置で、脈々と生きていた世界。その世界では「魔界」と呼ばれていたロープは、ほつれ、ほどけ、千切れてしまった。──セイバーは、自分の所為だと語った。淡々と。騙ったようには見えなかった。
「そこで暮らしてた"魔剣使い"なんだよ。俺は。槍とか弓もあるけど···愛して···じゃない、愛用してたのが剣だったから、セイバーなのかな。」
「じゃあ、セイバーの宝具は、やっぱりあの大剣なのか? 他にも剣を持ってたみたいだけど。」
「ん? あぁ、ラストリゾートのことか。じゃ、宝具の方も説明しておくか。えーっと···うん。これは見せた方が早いかな。」
セイバーが座布団から立ち上がる。そのまま腕を一振りすると、右手には見慣れつつある大剣が握られていた。
「その大剣が宝具···って訳じゃないとすると、その剣は何かの起動キー、とか? 普通の武器じゃないよな? それ。」
「お、鋭いな、士郎。そ、これは──」
『マスター。悪い事は言わないから、私以外も顕現させるべきよ。』
「え? でも、今の魔力量だとキツイんだけど···。」
いきなり一人で話始めた(ように見える)セイバーに、士郎が怪訝な目を向ける。セイバーは構わず、自分にしか聞こえない声と会話する。
『そこまで切羽詰まっているの?』
「まぁ、生肉とか生の野菜とかを食べなきゃいけない程度には?」
『···そうね。他の子には、私から言っておくわ。』
「うん。ありがとう、グラム。」
「そういえば、セイバー、なんで食材だけをドカ食いしてたんだ?」
一段落したことを察したのか、ちょうど良いタイミングで士郎が声を掛ける。
「ん? あぁ。士郎は魔術師として二流だからさ、ちゃんと魔力が来ないんだよ。だから、魔力補給のため。」
「魔力が···そうか、すまん。セイバー。俺、そうとは知らずに···。」
「いや、構わないよ。普通に暮らす分にはそこまで魔力も食わないし、ちゃんと飯を食ってりゃ良いんだから。期待してるぜ、士郎。」
「あぁ、任せてくれ。戦闘では役に立たない分、こういうことで貢献しないとな。」
「──じゃ、そろそろ宝具の説m」
セイバーが再度、口を開く。が、それと同時に電話が鳴る。出鼻を挫かれた感のあるセイバーが、心なしか肩を落として士郎に「出ていいよ。」というボディランゲージをした。
「あ、桜? おはよう。···え? 藤ねぇの弁当? 分かった、すぐ作って持っていく。」
「おい、マジかよ士郎···おっけ。俺も付いていくよ。帰りに買い出しをしよう。」
「あー···いや、そうだな。そうするか。」
とまぁ、そんな理由があって、士郎は右手に弁当を持って。
セイバーはその後ろを、右手を銀髪の少女と絡めて。
歩いていた。目指す先は、士郎の通う穂群原学園。
◆ ◆ ◆
ステータス情報が更新されました。
◆ ◆ ◆
クラス:セイバー
マスター:衛宮士郎
真名:??
性別:男
属性:中立·中庸
ステータス
筋力:D
耐久:C
敏捷:D
魔力:EX
幸運:B
宝具:??
スキル
単独行動:EX マスター不在でも数週間は現界可能。マスターとパスが繋がっており、この時間軸に自らを固定しておく楔として機能していれば、自分の魔力だけで宝具の真名解放すら可能である。