Fate/stay night BS×BS   作:征嵐

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 サブタイなど(おもいつか)ない。


8,

 side 士郎

 

 

 ──周りを見回すと、そこは、いつぞやの死に絶えた丘だった。いつかと違うのは、そこに突き立っていた無数の剣が、一振り足りとも見当たらないことだ。

 

 「···。」

 

 ただそれだけ、と、そう言い表すには大きすぎる差異。その筈だが、分かる。ここは、「あの」丘だと。死に絶えた大地は、少しの風でも細かい砂を舞い上がらせる。目を庇って風をやり過ごすと、肌や服が少しざらついていた。

 

 

 ──なんの脈絡もなく、唐突に。ばきん、と、金属同士の擦れ合う音がした。

 

 「···?」

 

 今のは、左側から聞こえた気がする。なんだかいつもより思い左手を持ち上げ──なんだ、これ。

 

 左腕を覆う──いや、左腕の筋肉を裂き、皮膚を破って()()()いる、無数の銀色。縁と中心部で色の違うそれは、紛うことなく、剣だった。

 

 「っ」

 

 え? なんて、声を上げるより早く、肩までが剣に覆われる。鋼の重さに耐えかねて姿勢を崩す。遅れてくる痛みが、とうに夢だと気づいているこの世界を終わらせることは無かった。

 

 ばきん、ばきん、と、続けざまに金属音を鳴らし──全身を押さえつける鋼の重さに耐えかねて、その場へ倒れ伏した。

 

 

 

 ──焼けた砂を最後に、景色が切り替わる。

 

 目に映るのは、今度は「生きて」いる丘と、無数の武器たち。

 

 「···?」

 

 だと、勝手に思っていた。本当に見えたのは、中世のヨーロッパにありそうな、石造りの街並みだった。予想と違う光景に戸惑っていると、すぐ隣を、見慣れた顔が通り過ぎた。

 

 「クソ雑魚過ぎて笑えなかったな。お前だけで終わるって想定してなかったから、他の奴らが不満タラタラで怖いよ。グラム。」

 「あら、それは、私が信頼されていないというコトかしら? 傷付くわね。」

 「そうじゃないよ。勿論、おまえのコトは信頼してるし、愛してる。大好きだよ。けど、けど、だよ。」

 「···え?」

 「流石に防御寄りの霊獣を一撃って怪物過ぎるだろ。もっと、こう、俺の練ってた作戦とか、準備してたアイテムとか、いろいろと駆使してみたかったんだよ。」

 「待って、マスター」

 「と、いうか、そのレベルで想定してた相手をおまえ、不意に出てきたからって「驚かせないで」とか言いながら一刀の下に···え、ホントにどうなってるんだ?」

 

 連れ添って歩きながら、セイバーが一方的にまくし立てていた。愚痴や叱責のようにも聞こえるが、その顔には満足そうな笑みが浮かんでいた。が、言っていて異常性に気付いたのか、急にその顔から表情を消した。

 

 「一応、今回の相手って戦略級···下手すりゃ対国家級の相手って聞いてたんだけど?」

 「あら、良かったわねマスター。それなら、貴方は英雄じゃない。そんな相手を、単騎で仕留めたんだもの」

 「そうだな? ところでグラム、知ってるか? 英雄ってのは、最期は往々にして──」

 「守った民に裏切られる、ふふふ、貴方も陳腐なコトを言うようになったわね?」

 

 うるせぇな、死ぬのは怖いんだよ。そう嘯いて、セイバーは歩調を早めた。肩を竦めて、「やれやれ」とでも言いたげなジェスチャーをしながら、グラムが後に続く。

 

 「貴方は死なないわよ、マスター」

 「···まぁ、確かに、お前たちが居るからな。そう簡単には死なないだろうな」

 「えぇ。···そうね、もし、貴方が死ぬときは」

 

 私の腕の中で死なせてあげるわ。光栄でしょう?

 

 そう言って、グラムが凄惨な笑いを浮かべる。対してセイバーは、苦い笑いを浮かべて振り返った。

 

 「それ、お前に殺されてないか?」

 「あら、それもそうね。なら、貴方は絶対に死なないわ。良かったわね、マスター」

 

 そのりくつはおかしい。セイバーはそう言って笑いながら、『魔界ギルド』と書かれた看板の掛かった建物へ入っていった。

 

 

 

     ◆

 

 

 

 景色が切り替わる。

 

 目に映るのは、肌色と、赤と、白と、銀色。

 

 より具体的に描写すれば、破れ、引き裂かれたドレスから覗く、グラムの肌と、普通であれば扇情的なその柔肌を覆う、彼女自身の血液。下手人たる軍勢の纏う、白い軍服。そして、セイバーが抱き締めるグラムの背中に突き立つ、直剣の銀色。

 

 「そんなに強く抱き締めないで、マスター。痛いわ」

 「嘘つけ。···もう、痛みなんて感じないくせに」

 

 あら、バレていたの。当たり前だ、魔核がそんなにボロボロなんだから。

 

 肺が破れたか、或いは別の理由か、虫の鳴くような声しか出せないグラムを抱き締め、セイバーも耳元で囁くように会話する。

 

 「腕の中で死ぬのは、お前の方だったな、グラム」

 「···そう、なってしまったわね」

 

 満身創痍のグラムを抱き締めて、全く無傷のセイバーが笑う。

 

 「逃げなさい、マスター。あなたの最高戦力である私でも、こんなザマなのだから。他の娘では重いわ」

 「···あぁ。分かったよ」

 「そう、いい子ね···マスター」

 「俺は子供か···と、いうか、お前の言葉に、俺が逆らった事があったか?」

 

 無かった、のだろう。セイバーの記憶の、その断片の一片しか知らない士郎が分かるほど、グラムの反応は明らかだった。

 

 「えぇ、そうね···。マスター」

 「今度はなんだよ? ちゃんと逃げるから、心配すんなって」

 「────。」

 

 

 「···あぁ。分かってるよ」

 

 

 満足そうな笑みを浮かべて、グラムの身体が、粒子となって消えていく。儚げな笑みを浮かべて、セイバーはそれを見送り、抱き締めていた身体の重みと、手応えが無くなったことで少しよろめく。

 

 「はァ···」

 

 天を仰ぎ、ため息を漏らす。雲ひとつない快晴の、南中の太陽がセイバーの目を苛む。

 

 「逃げるんでしょ、マイマスター。はやくしなきゃ──」

 「()()()()()()

 

 ぞく、と、背筋が震えた。その場にはいない、傍観者である士郎すらそうなのだ。セイバーを取り囲む無数の軍勢は、セイバーの最高戦力を討ち取り、どこか安堵していた兵たちは、沸き上がる生存本能と恐怖に耐えかね、絶叫した。

 

 

 

     ◆

 

 

 

 ──景色が切り替わる。

 

 目に映るのは、見慣れた天井板と、太陽の光。

 

 「···うわ」

 

 寝汗で貼り付くシャツと、背中の辺りが染みになった布団。一応下半身を確認して···うん、セーフ。

 

 「何やってんだ、士郎?」

 「うわぁ!? セイバー!?」

 

 冬場に似合わぬこの汗の元凶が、姿を見せた。

 

 

 side out.

 

 

 

 

 

 布団をめくり、下半身を確認してため息を漏らす。もはや何があったのか察せられない者がいない、込められた意図が明確な挙動だった。

 

 「士郎、お前···17だっけ? 18か? どっちにしろ、オネショするには···」

 「違う、断じて違うっ!!」

 

 ホントかよ。本当だってば。じゃあ見せろって。なんでさ!? ほら、布団が。違うぞセイバー、これは汗で。うぇーい、漏らしひでぶ。

 

 士郎の夢とはうってかわって、コミカルな朝の空気が漂う。ちなみに、最後の「ひでぶ」は、下ネタに興じすぎたセイバーへ、戦斧が柔らかく直撃したときに漏れた声だ。

 

 「うぅ···まぁ、汗ってことにしておくから、早くご飯作ってくれ。」

 「セイバー···」

 

 飯抜きにしてやろうか。そんな怨嗟の声が聞こえてきそうな表情で、士郎がセイバーを見つめる。

 

 「あぁ、セイバー。」

 「ん?」

 「···飯の後でいいから、ちょっと話したいことがあるんだけど、いいか?」

 「···構わないけど?」

 

 

 

    ◆

 

 

 

 昨夜の戦闘のせいか、やたらと長かった朝食を終えた頃には、もう士郎は遅刻寸前だった。

 

 「で、話って?」

 「それどころじゃない!! セイバー、ちょっと手伝ってくれ!!」

 

 自分のサーヴァントの過去を「それどころじゃない」とは酷い言い種だが、流し台に山と積まれた食器の量が、士郎の語調を強くする。というか、なんなら陶器の山は高くなる。流石にセイバーとて、作り手である士郎が片付けをしているというのに、新しく皿を生産するのは不可能だ。料理はないし、追加もないのだから。ただ。

 

 「士郎、ココ置くぞ」

 「まだあったのか!?」

 

 使用済みの食器は、未だ食卓に二山ほど残っている。

 

 「だ、駄目だ、終わらない···桜は先に行っちゃったし、もう間に合わないか···」

 「いや、大丈夫だ。士郎。俺に任せ──」

 「そう言って、セイバー、おまえは何枚の食器を割った!!」

 

 サムズアップしながら手伝いを申し出ようとしたセイバーに、士郎が鬼の形相で詰め寄る。例の食材暴食事件の日、「流石に食べっぱなしは」と後片付けを申し出たセイバーが、使った皿を半分と、何故か使っていないはずの皿を数枚割ったという怪奇現象込みの大惨事は、士郎の記憶野にしっかりと刻まれていた。

 

 「その節は本当に···だからさ、士郎。魔剣にやってもらうからさ。」

 「···それなら、まぁ···じゃあ、お願いします。」

 

 士郎は頭を下げたかと思うと、慌ただしく家を出ていった。

 

 「おい、士郎、鞄ー。」

 「サンキュー、セイバー!!」

 

 居間に置きっぱなしだった学生鞄を掴み、セイバーが縁側から投擲する。無回転で士郎へと殺到した皮革の長方形が、丁度士郎の胸に収まった。

 

 「···さて」

 

 ──下手な魔剣を呼び出せば、「私をそんな目的に使うとはいい度胸だ」とボコされる。

 

 セイバーはバーサーカーに相対したときに並ぶ緊張感を持って、慎重に頭を回転させた。

 

  (家事の出来そうな···お姉ちゃんズか。いや、甘やかし連合を呼ぶと、帰ったあとで他の子が(俺に)何をするか分かったモンじゃない。保留。となると、台所の凶器たち···包丁型のマカブイン、マグロ型のマグロ···こう言うと変な感じだな。あとは···フライパン型のフライパンか。うーん、この違和感よ。あとまな板型のルールメイカーか。)

 

 どれを呼んでもなんとかなりそう。折角だし、いっそ全員を呼んで···呼んで、どうする?

 

 「うーん···」

 「お困りのようね、マイマスター!!」

 「誰だ貴様は!! と、冗談はさておき、ホントに制御下なのか? おまえら」

 

 顕現させたつもりのない魔剣が颯爽と現れ、セイバーが嘆息する。赤と白で織り成されたドレスを纏う、焔色の髪をした少女が、快活な笑みと共に腕捲りをする。

 

 「火事なら私に──」

 「そんなオチだろうと思ったよ!! 引っ込んでろ!!」

 「えぇー、ひどーい」

 

 ぶつくさ言いながら、その少女は姿を消した。一体何がしたかったのか、と、セイバーは表情を歪ませる。

 

 「仕方ない···グラム、手伝っ」

 『嫌よ、雑用なんて。魔剣もどきにでも頼みなさい。』

 「はーい···」

 

 ボコされなかっただけマシ。と、セイバーは底冷えのする声を聞かなかったことにした。

 

 「じゃあ、ジャガーノート···」

 『はぁ···マスターさんはー、本当に救えないひとですねー。私は、『破壊によって救済を与える』道具ですよー? マスターさんはー、お皿をぜーんぶ粉々にしたいんですかー? だったら協力しますけどー』

 「ごめんなさいでした」

 

 流石にこれ以上皿を割ると、士郎が聖杯に「お皿をください」とか願いかねないので自重···。

 

 「じゃ、じゃあ」

 『マスター』

 「ん? どうした?」

 

 真剣な声色で呼ばれ、セイバーが表情を改める。呼んだのは、索敵警戒に当たらせていた魔剣のうちの一人。

 

 「マスターのマスターのいる学校に、別のサーヴァントが居るわ。アーチャーじゃない、別の。」

 「そのまま見張っててくれ、ハンターシャフト。気取られないようにな。」

 「お安いご用よ、マスター。」

 

 ──で、お皿どうしよ。もう自分でやればいっか。

 

 

 ◇

 

 

 

 修復魔術とか、蘇生術、魔剣リヴァイヴによる復活と、壊れていない状態を「正しい」とした、ルールメイカーによる修繕。

 

 「いやー、割れたお皿を直すのにも結構な手段がありますねぇ!!」

 『マスター、貴方、前から思っていたけれど···馬鹿でしょう?』

 「そうだよ···」

 

 確率にして、十分の一。それが、セイバーの手によって洗われ、無事に食器棚へと収まった食器の割合である。どうして樹脂製のものまで混じった食器が、そんな確率でしか生存できないのか甚だ疑問である。とは、彼の魔剣たちの総意である。

 

 「もう、ね、『壊れる』っていう現象を切り離すべきだよね、エンプレス。」

 『そんなことをしなくても、私が洗いますよ···?』

 「うん、今度からはお願いします···」

 

 皿の破片で怪我をするほど、セイバーは不器用ではない。だから、修復系の技能をもつ魔剣を食器へと総動員出来たのは大きい。さらに、初めの数枚で割ることに慣れ、破砕音をBGMに作業を続けられたお陰で、食器洗いは速やかに終了した。

 

 「ふーん、暇だなぁ···適当なサーヴァントに喧嘩売りに行くか?」

 『それなら、まずマスターのマスターの安全を確保するのが先じゃない? なんか襲われてるんでしょ?』

 「···は?」

 

 襲われてる? 他のサーヴァントが居るって、そういう?

 

 めんどくさっ!! そう叫ぶより早く、声が聞こえた。

 

 

 ──来い、セイバー!!

 

 

 「···めんどくさ。」

 

 そう呟いて、令呪が身体を引くに任せた。

 

 

 

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