Fate/stay night BS×BS   作:征嵐

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 魔剣たちが魔剣使いを裏切るわけないんだよなぁ・・・


9,反攻

 空気に赤い色が付いたような、奇妙な感覚。身体をねっとりと覆う不快感と倦怠感。令呪による強制転移で強引に喚ばれたセイバーを迎えたのは、そんな情景だった。

 

 「何この···え? これ宝具じゃね?」

 

 サーヴァントを相手に効果を持つレベルの結界。魔術だとすれば、陣地内でのキャスタークラスにしか再現できない芸当だ。だが宝具であれば、どのクラスのサーヴァントであっても可能。特に、学校には一度ライダーが出現しているらしい。

 

 「マスター様、排除致しましょうか?」

 「あー、いや、まだ大丈夫。こっちの手の内を明かすのは早い。」

 

 まだ全クラスのサーヴァントと遭遇すらしていない現状で、しかもこの結界がライダーのものという確証すらない状態では、流石にこれ以上魔剣を見せるのは得策ではない。境界を切り裂く魔剣ティナ=エンプレスなどという特級の切り札は特に。

 

 「いいよな、士郎?」

 「···いや、セイバー。この結界を壊す手段があるなら、直ぐにやってくれ。まだ大勢の生徒が閉じ込められてるんだ。桜も危ない。」

 

 マスターからのオーダーに、セイバーは少しだけ嫌そうな顔をした。が、すぐにその右手に黄金の大鎌を顕現させた。

 

 「エンプレス、やってくれ。」

 「はい、マスター様。」

 

 即座に、空気に付与されていたあらゆる事象が消滅する。空間隔離の効果も、弱体化も、魔力吸収も、全て、結界ごと斬って捨てられた。士郎と凛が安堵の息を漏らすと同時に、階下で大きな気配が揺らいだ。

 

 「ライダーか? ···いや、違うな。」

 

 セイバーが呟いた直後、廊下のタイルから滲み出るように、カラカラと乾いた音を立てながら、骨でできた人形が這い出した。

 

 「竜牙兵か、カモだな。」

 「えぇ、その通りね、マスター。」

 

 魔剣グラム。竜種の頂点にほど近い厄龍ファフニールを打ち倒した剣。最上級の龍殺し特性を持つ彼女にとって、龍の牙を元にしたクリーチャーなど、的としてすら不十分。鴨撃ちより容易い。

 

 「問題はキャスターの方なんだが···」

 

 キャスターの宝具、『破壊すべき全ての符(ルールブレイカー)』は、現行の魔術全てを破壊する。既に成立した魔術は──変化され終えた現象は覆らないという現代魔術の前提を覆す、特級の武器だ。武器そのものとしての殺傷能力はほぼ無いが、付与されている能力が桁違いに強い。魔剣『ラストリゾート』に似た宝具といえる。

 

 「まぁ、気配遮断なんてないだろうし、あったとしても──お。」

 

 カラカラと音を鳴らしながら、竜牙兵が突撃してくる。骨で出来た剣を持った怪異が、合計二十以上。

 

 「いっせーの!!」

 

 セイバーはグラムをフルスイングし、その尽くを一撃で滅ぼし尽くした。

 

 ──だが、如何に敵が的以下の存在とはいえ、ここは敵地のど真ん中。ライダーのものと思しき結界を解いているとはいえ、キャスターが介入している現状では、油断するべきではなかった。

 

 「っ、セイバー!!」

 

 士郎が叫ぶまでもなく、セイバーはその気配に気づいていた。だが、フルスイングした大剣を消すより、姿勢を戻すより、士郎がその人影に殴りかかるより、凛がガンドを撃つより、セイバーの背後に現れたキャスターが、手にした短剣を降り下ろす方が早い。

 

 「破壊すべき全ての符(ルールブレイカー)!!」

 

 真名が解放され、手にした毒々しい色の短剣が怪しく煌めき──セイバーの背中へ吸い込まれた。

 

 「っ、愚かなことをしたわね、魔術師。」

 

 セイバーの横に顕現した銀髪の少女──魔剣少女形態のグラムが、波打つ刃の大剣で以てキャスターを切り伏せる。

 

 刃が肩口までを切り裂き、キャスターの霊核に致命の一撃を与えるその寸前で、グラムの動きが止まった。

 

 「マスター?」

 「──戻れ、グラム。」

 

 士郎たちに背を向けたまま、セイバーがこの場に相応しくないほど明るく指示を出す。振り返った顔には、微笑が浮かんでいた。これ幸いとキャスターが姿を消すが、誰も追撃しない。キャスターも士郎も凛も、セイバーから漏れ出る異質な空気を感じ取っていた。目を背けてはいけないと、直感していた。

 

 「令呪の縛りが消えた。聖杯の軛も。」

 「そう···それじゃ、マスター。」

 「あぁ。」

 

 

 「()()()()()()()()?」

 「()()()()()()()()()()()()。」

 

 グラムは自身そのものである大剣を振りかぶり、セイバーはそれとよく似た色違いの大剣を構える。

 二つの切っ先が向けられた()()は、咄嗟に飛び退き────凛に引き倒された。

 

 「衛宮くん!!」

 「あら、いい勘ですこと。」

 

 二人の背後から横薙ぎに首を狙った剣戟を繰り出した少女は、凛と同じ黒髪のツーサイドアップだった。しかも凛の全体的に赤いコーディネートとは真逆の白ベース。

 

 「折角、刃を血に染めようと思いましたのに。」

 

 うふふ、と、少女が長剣を提げて笑う。挟まれた形の二人は素早く姿勢を立て直すと、士郎がセイバーたちに向かい、凛が白い少女を背中合わせで警戒する。

 

 「へぇ、不意打ちを外したのか、ダイン。」

 「申し訳ありませんマスター様。背中に気を配り過ぎましたわ」

 

 少女────ダインスレイフがそう言うと、凛が小さく舌打ちをした。

 

 「アーチャー、気づかれてる!!」

 

 言いながら宝石を投擲し、さらにガンドを連射する凛。

 対して士郎は、唐突な変貌を遂げたセイバーに言葉をぶつけ────る間もなく、グラムに肩口から腰までを袈裟斬りにされていた。

 

 「衛宮く────」

 

 倒れた士郎を捨て置き、正面のダインスレイフと背後の士郎、意識を二分され集中を欠いた凛にも二つの凶刃が迫る。

 

 「赤原を征け────緋の猟犬!!」

 

 矢と化した剣が飛翔する。それは防御行動に入ったダインスレイフ()避け、グラムの大剣を弾いた。

 

 「魔剣フルンティング!? ・・・いや、その模造品か!!」

 

 セイバーが興奮を隠さず笑い、大剣を投擲した。

 

 「アーチャーを殺せ、オルタ!!」

 「は、はい。マスターさん!!」

 

 その大剣はアーチャーの目前でグラムによく似た少女にキャッチされ、投擲と飛翔の勢いを乗せた斬撃が繰り出された。

 

 「せ、いばー・・・どうして・・・」

 

 士郎が掠れ声で言うと、セイバーとグラムが驚いたようにそちらを見た。

 

 「え、グラム、殺し損ねたのか?」

 「そんなはず────」

 

 言いながら、グラムがもう一度士郎に剣を振る。今度は首を断ち切る軌道で。

 

 「・・・そう。そういうこと。」

 

 凜にも、アーチャーにも止められない一閃だった。

 だが、確かに大剣の────グラムの刃は、士郎の首を落とせなかった。

 

 「あぁ、僕は止めないよ? 勿論、どちらかが暴走しそうになったら別だけど。」

 「えぇ、分かっているわ、マスター。」

 「えー、いいんですかー? そんな余裕ぶっちゃってー。私たちに止められちゃいますよー?」

 「それならそれでもいいんだよ、ジャガーノート。」

 

 へらへらと気の抜けた笑顔でグラムの一撃を受け止めたのは、戦斧を携えたナース服の少女。

 

 「そう。なら、マイマスター。最終戦争ね。」

 「あぁ。やっぱりお前はそっちだよな、レヴァンテイン。」

 「い、一応言っておくけど、私たちは貴方のために────」

 「そんな心配してないよ。全力で来い、ブリューナク。タスラムもそっちだろう?」

 「ん・・・」

 

 士郎の負っていた傷は最早ない。リヴァイヴか、或いは他の蘇生系魔剣が士郎を癒したのは明白だった。

 

 「戦力比が悪すぎるなぁ・・・他にあっち行く奴いる? ・・・オーケィ。」

 「配下の魔剣に裏切られたか、セイバー。」

 

 顕現しているだけでも4人の魔剣が、セイバーから士郎を庇うように立っていた。

 グラムたちを消したセイバーは、アーチャーの皮肉そうな笑みにへらっとした笑みを返すと、唐突にその姿を消した。

 

 「ッ消えた!?」

 

 しばらく警戒していた凛とアーチャーだが、数分しても何の動きもないことと、置いて行かれた、どうやらセイバーと敵対しているらしい4人の魔剣が警戒もしていないことから「逃げた」と判じた。

 

 「・・・それで、どうする、凛?」

 「・・・どうもこうも、まずはこの子たちでしょう。」

 

 その場に残された魔剣たちは、なにも言わずに二人を見返していた。

 

 




 魔剣たちが魔剣使いを裏切るわけないんだよなぁ・・・
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