この空を飛びたくて(仮)   作:サクサクフェイはや幻想入り

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2018.6.10 話数修正しました


第二十話 泣き鈴ちゃんなう!

夜、食堂でご飯を食べて簪さんがシャワーを浴びるということで、いつもの通り購買によってお菓子を補充した帰り、何かがいた。 それは人一人くらいの大きさで、廊下の隅に居た。 てかぶっちゃけ見覚えがある、鈴さんだ。 膝を抱えているところを見ると何かあったのだろうが、声かけづらい。 いやしかし、ここで声をかけないというのもどうかと思うので一応かけることにした

 

「もしもーし、どうしたの?」

 

「グスッ......」

 

うわー、あきらか首を突っ込んじゃいけないやつだ。 仕方ないが遠回りをして帰ろうと回れ右をして歩き出そうとしたのだが、ズボンに抵抗を感じる。 ほんの少しだが、何かがつかんでいる。 いや、現実逃避はやめましょう。 鈴さんが泣きはらした顔を上げ、俺のズボンのすそをつかんでいた。 本当に、どうしてこうなった!

 

「泣いている女の子を放っておくなんて、グスッ...... ひどいんじゃないかしら」

 

「まぁ、そうねぇ...... とりあえず部屋に行こう、ここじゃ目立つ」

 

自分の購買で買った荷物の他に、鈴さんの脇にあったボストンバッグを持つ。 俺が歩き始めると、鈴さんは俯きながらついてくる。 はぁ、本当にどうしてこうなった...... とりあえず、無心で部屋の前まで来た。 ノックして部屋の中に声をかける

 

「簪さーん」

 

「大丈夫」

 

安全を確認して部屋の中に入る。 ノックしてはいらず、もし着替え中に出くわしたら気まずいどころの話ではなく、即御用問題になる。 なので、俺が部屋に入る際は必ずノックをするようにしている。 もちろん、簪さんもノックしてから入ってきてはいるが。 俺は別に見られて困るわけじゃないけど、お互い気まずい思いはしたくないし。 部屋の扉を開けると、簪さんの姿は見えない。 どうやら奥のようだ。 奥に進むとパジャマ姿の簪さんがおり、髪の毛を拭いていた。 そういうのやめてくれませんかねぇ!? 毎回思うんですけど、俺の理性がゴリゴリ削られるんですよぉ!? 風呂上りということもあり、少し上気した頬、パジャマのおかげでかわいさが出て、おっと客がいるしやめよう。 なんか後ろから冷ややかな視線を感じる。 本音さんもそうなのだが、女の子はみなニュータイプか何かなのかな? それとも俺が顔に出やすいだけなのか

 

「お帰り、蒼海君。 毎回言ってるけど、別に部屋から出てなくてもいいよ?」

 

「ははは」

 

笑って誤魔化しておく。 主にやばいのは俺のリビドーなので、そこらへんは簪さんに説明してもわからないだろうし。 てか下手に説明して、簪さんからごみを見るような目をされたらそれこそ立ち直れない。 さておき、とりあえず拾ってきた鈴さんの紹介をしなければ

 

「・・・・・・拾ってきた」

 

「えぇ...... もうちょっと紹介の仕方あったでしょ......」

 

言われた本人の鈴さんは呆れていた。 いや、泣いていて放っておけなかったとか言ってみろ、それはそれで突っかかってくるだろう君が。 余計なことは言わないが。 驚いて目を丸くする簪さんだが、鈴さんを見て何か察したのか鈴さんを手招きをしていた。 鈴さんは不思議そうにしながら簪さんによって行ったので、俺は紅茶を淹れにキッチンにこもることにした。 淹れてから思ったのだが、鈴さんは紅茶を飲むのだろうか? まぁ、淹れてしまったものは仕方ないよね!開き直って紅茶を淹れて部屋に戻ると、簪さんと鈴さんは話し合いをしていた

 

「紅茶入ったよー」

 

「ありがとう」

 

「アンタ、気が利くのね」

 

驚いたみたいな目をされるのは地味に傷つくんだゾッ☆ 自分でやってて気持ち悪くなってきた...... 紅茶を置き、向かい側、つまり俺のベッドに座り紅茶を飲む。 つられて簪さんと鈴さんも紅茶を飲み一息つく。 鈴さんの様子を伺ってみると、ある程度は持ち直したようだ

 

「気を遣わしたみたいね、ありがとう」

 

「いえいえ、気にしないでくれ。 どっちかと言うと、簪さんにお礼を言うべきでは?」

 

「もう言った後よ。 紅茶ありがとう、もう落ち着いたし帰るわ」

 

「またね」

 

「えぇ、簪もありがとう」

 

来た時とは違い、元気に帰っていく鈴さん。 元気になったのはよかったが、俺何もしてなくね? 紅茶淹れたぐらいだし......

 

「それで、結局鈴さんはなんで泣いてたの?」

 

「・・・・・・鈴が逃げてきた、っていうのもあるけど原因は......」

 

「あぁ、みなまで言わなくていいその表情で分かった」

 

また織斑か。 簪さんの苦虫を数匹嚙み潰したような表情で察した。 その後に鈴さんから聞いたことを説明してくれた。 どうも篠ノ之さんとオルコットさんの練習後男子更衣室に差し入れに行ったらしいが、織斑と篠ノ之さんが話しこんでいたため断念。 その後寮の部屋に行ったらしいのだが、篠ノ之さんはおらずチャンスと言わんばかりに少し込み入ったことを聞いたそうだ。 ズバリ、篠ノ之さんと付き合っているのかどうか。 鈴さんも勇気あるなーと思いつつ話を聞いていたが、話はまだまだ続く。 織斑はその問いをのらりくらりと交わし結局答えは聞き出せなかったそうだが、鈴さんは別の話題を攻めたたそうだ。 聞いた瞬間、これは変化球だとか古風だとか思ったが

 

「酢豚?」

 

「うん、酢豚」

 

私の料理がうまくなったら、毎日酢豚を食べてくれる? そう織斑に言ったらしい。 織斑はその約束を覚えていたらしい、しかもその時に雰囲気づくりをしたらしく、鈴さんの顎をとり織斑の方に向かせたらしい。 これには鈴さんも喜ぶと思われたのだが、そこで鈴さんは違和感を感じたみたいだ。 いや、正確には恐怖だろうか。 鈴さん曰くその時の織斑は織斑ではなく、別の人に思えたらしい。 一年くらいあってないわけだし、一年もあれば人が変わるのでは? と簪さんも、織斑の話は嫌ではあるがそこは鈴さんのため、話していたらしい。 だが鈴さんが言うには、あんな一夏見たことがないそうだ。 俺たちは織斑と長い付き合いではないし、普段から関わり合いがないためわからない。 鈴さんもそのことに気が付いたのか、違和感の話はそこで切れたらしい。 それで続きなのだが、鈴さんはそこから逃げ出し廊下で泣いていたらしい

 

「まぁ、理由は分かった。 でも違和感ねぇ......」

 

確かに人が変わったように睨んできたり、豹変したことは今まで何度もあった。 いい例がこの間のクラス代表戦だ。 だが俺には判断材料が足らない。 ひとまず、この問題は先送りにすることにした

 

「本当に、サイテー......」

 

やはり彼女、彼女じゃないにしても自分の近場に女の子が一人いるのにもかかわらず、別の女の子を口説くという織斑の行為に簪さんは怒っていた。 と言うよりも、元からなかった好感度がマイナスを天元突破したみたいだ。 まぁ、ハーレムは男の夢なんて言うけど、女性からしたらそうですよねー。 まぁ、男の俺でも織斑のはっきりしない態度に嫌悪感を抱くが。 あれだよ、口説こうとしてるのにもかかわらず篠ノ之さんと付き合ってるか明言しないとか。 そこらへん誠意が足らないんじゃない? ハーレム目指す時点で駄目ですか、そうですか...... 俺は誰に謝っているんだろうか?  話はそれたが、だいぶ時間も遅い。 そろそろシャワーを浴びて寝なければ

 

「なんにせよ、簪さんも織斑には気を付けるように」

 

「・・・・・・」

 

無言で睨むのはやめてください、怖いですしHPが削られます

 

「例のうわさもあるんだしさ」

 

「噂は噂。 それに私は大丈夫、蒼海君がいるから」

 

「なんで俺なのさ? まぁ、織斑がそういう目的で簪さんに近づくなら容赦はしないけど。 それじゃあ、シャワーを浴びるから」

 


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