『状態を見るに、今までの傷は完全回復とはいかないまでも、ある程度は回復しているようだな』
ラウラさんが冷静に判断する。 その言葉に、ハイパーセンサー越しに福音を観察すると、所々ボロボロなものの装甲自体が新しくなっているところがあった。 移行するときにそんな機能があるとは知らなかった。 そもそも、セカンドシフトも世界で数件確認されている程度らしいのだが。 対してこちらは、それまでの戦いもあり弾薬、エネルギーともにほぼ空だ。 いや、福音にダメージを与えられる武器類の残弾がと言う話だが。 それに、足を引っ張るのが二人いる。 状況は最悪だ。 唯一の救いが、移行中で攻撃が来ないことだ
『状況は最悪だけど、どうする?』
『撤退、出来ると思うか?』
ラウラさんに聞けば、そんな答えが返ってきた。 流石にこの状況では軽口など叩けるはずもなく、俺も黙り込む
『・・・・・・作戦は失敗だ、帰投を命じる』
『織斑先生!しかし!!』
『ボーデヴィッヒ、お前もわかっているはずだ』
歯を食いしばるラウラさん。 まぁ、こういう状況だ、 福音を放っておくのは気が引けるが、俺たちもまずい状況だ。 補給なりも済ませなければ、次につなげる事も出来ない。 酷な話だが、この海域には教員部隊もいる。 一時的、という話なら任せられる。 その場合、俺とオルコットさんが同じように先行してと言う形になるだろうが。 みんなもラウラさんの指示を待っているのか、ラウラさんを見る
『・・・・・・撤退する』
俺たちは頷き、旅館の方に進路をとろうとすれば。 ロックの警告が鳴り響く
『シャルロット!!』
『わかってる!』
さっきの最後の悪あがきの砲撃が、かわいいと思えるくらいの砲撃が飛んでくる。 シャルロットさんはガードではなく、ビームを弾くように盾を構えるが勢いに押される。 何とか明後日の方向に弾くことはできたが、盾は消えてしまう
『この威力は、まずいね。 連続してなんて、無理だよ』
盾を再展開するが、顔は厳しいままだ。 防御特化のパッケージでも防ぎきれない砲撃、それはこの状況では絶望的だった。 この状況に、ラウラさんは素早く指示を飛ばす
『鈴とセシリアはそのまま篠ノ之を、私は織斑を抱えてこの場を脱出する!シャルロットさんは防御、簪と翼で牽制を頼む!』
『ダメだ、それじゃあイタチごっこだ』
ラウラさんの指示に、俺は待ったをかけた。 それじゃあ、駄目だ。 俺と簪さんと言うが、簪さんはエネルギーに余裕があるものの残弾がほぼない。 俺はエネルギーは少し心もとないが、切り札がある。 それに俺は片方がエラーを起こしているとは言え、この中では唯一福音のスピードについていける。 なら
『俺が残って福音を抑える』
『それは!』
『・・・・・・それしかないわね』
オルコットさんが何か言おうとしたが、鈴さんがそれを遮る。 そんな鈴さんの顔も、悔しそうだった。 誰が考えたって、分かることだ。 スピードや攻撃力、福音に対抗しうる力を持つのは俺だけだ。 うぬぼれてるわけじゃないが、状況的にはそうするしかない
『くっ!!翼、足止めは任せる!』
『まぁ、泥船に乗った気持ちで安心してくれ』
右手には葵、左手には
『翼君』
『簪さん?』
最後まで残っていたのは簪さんで、ハイパーセンサーで確認すればこちらをじっと見ていた
『必ず帰ってきてね、返事、まだ聞いてないから』
『・・・・・・あぁ、本音さんと待っててくれ。 それと、出来るだけ早く来てくれよ?』
『うん』
俺に背を向け離れようとする簪さんに、そう言えばと俺は装備を渡す。 もちろん、ロックは解除してある
『これ......』
『備えあれば憂いなしってね。 もしもの時は、頼む』
『・・・・・・』
簪さんは高速で飛び去って行く。 これで俺一人になったわけだが、状況は相変わらず最悪。 脚部ブースターは相変わらずエラーを吐き続け、心なしか少し熱くなってきたような気がする。 ビームマシンガンを撃つが、効果がない上に当たらない。 かといって、35ガトを持とうにも今より遅くなればハチの巣だ。 それに、この濃い弾幕の中ガトにまで気を使って飛んでいる余裕はない。 一応近づくことはできるので、葵をたたき込んではいるのだが、学習しているのかだんだんとこちらに傷が増えてきた。 切り傷なんて当たり前で、深いところもある。 いやぁ、格闘一発一発が絶対防御越えてくるってどういうパワーしてるんだよ。 左腕は折れているし、とっつきを装備しているため本当の隙にしか使えない
「本当に、最悪な状態だ。 悪いな相棒、こんなことに付き合わせて」
一瞬相棒に視線を移すが、すぐに前にいる福音に戻す。 それにしても、エネルギー垂れ流しにもかかわらず、エネルギーが切れないこと。 軍用だとしても、おかしい。 となると、あの異常なエネルギー反応なのだが、正直言って原因は不明。 一瞬、特殊なシステムでも積んでるのでは、とも思ったがそんなの公開するはずがないし。 そんなことをのんきに考えてる暇はなく、途切れていた弾幕が再開される。 避けはするのだが、段々と脚部ブースターの調子が悪くなってくる。 まぁ、エラーをそのまま放置して飛び続けているのだ、そんなことは当たり前だ。 そして、最悪のタイミングで脚部ブースターが壊れる。 再度接近して攻撃を仕掛けようとブースターにエネルギーを送り込んだ瞬間、爆発。 一応福音には向かっていくが、片足のブースターが壊れたためかうまく操縦できない。 スピードも遅くなり、ここぞとばかりに弾幕が集中する。 方向転換しようにも、ブースターを収納しなければならず、そんなことをすればスピードが落ち余計にハチの巣にされる。 俺は一か八かかの賭けに出ることにした。 エネルギー消費が激しいため最大加速まではしなかったのだが、一気に最大までもっていく。 それによりスピードが上がり、一気に弾幕を突っ切る。 それすらも予想の範囲内ということだったのか、福音から砲撃が発射される。 だが、俺はそれを真正面から盾で受ける。 この盾も改良に改良を重ね、あの時の無人機の砲撃も数分単位で耐えられようになったのだ。 それを構え真っ向から近づく。 福音は砲撃をやめ、迎撃態勢だが俺はそこで盾を離し宙返り。 そのまま、
「本命は、こっちなんだよ!!」
煙も晴れ、よく見えるようになった福音の頭にとっつきを振りかぶるが、すんでのところで弾かれてしまう。 だが、頭のバイザーなのだろうか、そこにひびを入れることができた。 だが、その腕も捕まれ。 翼に包まれ、そして。 無数の衝撃と共に閃光に包まれる。 ようやく視界が戻った時には、俺は落下していた。 機体はダメージレベルDにちかいCで、展開しているが奇跡的な状態だ。 シールドエネルギーは一桁。 ・・・・・・ほんと、よく残ったよな。 だんだんと福音が遠ざかっていく。 夕暮れの赤と青が混じった空と、どこか悲しそうに見える福音。 俺の見間違いかもしれないが、顎のふちに水滴のようなものが見えた
『オ.......イ。 オウ......シロ!!蒼海!』
織斑先生の声が聞こえた。 だから俺は
『すみません織斑先生。 あと、簪と本音にごめんと......』
これ以上言葉にならなかった。 俺は海に落ちる。 さっきまでは明るかったのに、もはや真っ暗だ。 俺はそっと意識を手放した