やる夫とクラスメイトがバトロワに参加させられたようです 作:MASUDA K-SUKE
ハーメルン学園3年β組45名 名簿
○→生存、●→死亡
● 男子01番 浅倉威
○ 男子02番 阿部高和
● 男子03番 天野河リュウセイ
○ 男子04番 泉研
○ 男子05番 オルガ・イツカ
● 男子06番 井之頭五郎
● 男子07番 剛田武
● 男子08番 相楽左之助
○ 男子09番 じーさん
● 男子10番 先行者
● 男子11番 多治見要蔵
● 男子12番 でっていう
● 男子13番 永沢君男
● 男子14番 獏良了
○ 男子15番 ヒューマンガス
● 男子16番 日吉若
● 男子17番 ベネット
○ 男子18番 ドナルド・マクドナルド
● 男子19番 ケニー・マコーミック
○ 男子20番 ドラコ・マルフォイ
○ 男子21番 やらない夫
○ 男子22番 やる夫
○ 男子23番 ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ
○ 女子01番 うさみちゃん
○ 女子02番 木之本桜
● 女子03番 桐敷沙子
○ 女子04番 日下部みさお
○ 女子05番 古明地こいし
○ 女子06番 佐天涙子
● 女子07番 沙耶
○ 女子08番 水銀燈
● 女子09番 枢斬暗屯子
○ 女子10番 フランドール・スカーレット
○ 女子11番 ちゅるやさん
○ 女子12番 デデンネ
○ 女子13番 ベータ
● 女子14番 北条沙都子
○ 女子15番 ポプ子
● 女子16番 まっちょしぃ
○ 女子17番 美樹さやか
● 女子18番 見崎鳴
● 女子19番 ルーシー・モード・モンゴメリ
● 女子20番 山田葵
○ 女子21番 山村貞子
● 女子22番 両儀式
【生存者 残り23人】
68
この男――オルガ・イツカが過去のプログラムの優勝者――!?
オルガの突然の告白にドラコ・マルフォイは激しく動揺した。その隣で話を聞いていた木之本桜も驚きの表情を浮かべている。
しばしの沈黙の後、オルガが口を開いた。
「俺達は修学旅行でバスに乗っていた。しばらくするとバスの中で急に眠くなり、目が覚めたら知らない教室にいた。そこに委員会の男、蓮見聖司が入って来て俺たちに殺し合うように命じたんだ」
蓮見聖司――!?
「待ってくれないか。その蓮実っていうのは――」
「お前らの学園の英語教師だ。だがな、奴の裏の顔はBR法委員会の会員だ。その事は既に調べがついている。俺は奴に落とし前を付けるために今回のプログラムを狙って参加した。蓮実なら自分の学園の生徒を平気でプログラムに参加させるだろうと思ってな。蓮実は自分の学園の生徒たちが殺し合う姿を見て面白がる――だから蓮実はこのプログラムに必ず現れる。そう思ったんだが――」
「姿を見せたのは蓮実ではなく利根川という男――だったね」
「ああ…」
オルガはため息をついた。
「そんな――蓮実先生が、委員会の人だったんて…」
さくらは沈痛な面持ちでそう言った。
「辛いだろうが、本当の事だ。えっと――」
「木之本桜です。そ、そんなに気を使わなくて大丈夫ですっ、イツカさん」
「オルガで構わねえぜ。それと俺に対して敬語は使わなくていいぜ」
「分かったよ。じゃあ、わたしの事もさくらって呼んで、オルガ君」
「分かったぜさくら。で、お前は――」
オルガがマルフォイの方へ顔を向ける。
「僕はマルフォイ。ドラコ・マルフォイだ」
それを聞いて、オルガは小さく笑った。
「なぜ笑う?僕の名が可笑しいか、オルガ・イツカ――」
「いや違うんだ、すまない。可笑しいのは生きている奴を既に死んだ奴と見間違えた俺自身だ」
それは、もしかすると――。
「マクギリス――という人の事かい?」
「ああそうだ…。さくらにドラコ、ちょっとだけ俺の話を聞いてくれねえか?長くなるが寝るんじゃねえぞ…」
オルガは自分が経験した過去のプログラムについてゆっくりと話し始めた――。
*
「うっ、うう――はっ!」
オルガ・イツカは目を覚ました。
ここは――?
疑問に思い、周囲を見回すオルガ。オルガは自分が教室内にいる事を把握した。室内には多くの机と椅子があり、そこにはクラスメイトの姿もあった。皆、机に伏したり、椅子にもたれたりして眠っている。
さらにオルガは自分を含め、皆の首に奇妙な首輪が付いている事に気づいた。
教室――じゃねえか…?どうなってやがる…俺たちは、修学旅行でバスに乗っていたはずだ。話したり、遊んだりしているうちに急に眠くなってきて――。
オルガは横を見た。隣に置かれた机に伏せるようにして、オルガの親友である男子生徒、三日月・オーガスが眠っていた。オルガと三日月・オーガスはお互いの事をオルガ、ミカと呼び合う仲である。
「おいっ、起きろ、ミカァァァァァァ!」
オルガがミカを揺さぶりながら大声を出した。それにより、ミカは目を覚まし、ゆっくりと体を起こした。ミカは周囲を見回した後、オルガに話しかけた。
「ここ教室じゃん。ねえオルガ、修学旅行はどうなったの?」
「勘弁してくれよミカ――。俺だって何が何だか分からないんだ」
「駄目だよオルガ、俺はまだ止まれない」
「待ってろよ」
「教えてくれオルガ」
「待てって言ってるだろうが!――ぐっ!」
ミカがオルガの胸倉をつかんだ。ピギュという音がした。ミカはオルガを睨みながら「ここが俺たちの場所なの?」と尋ねた。
それを聞いてオルガは何も言えなかった。
「旅行先に着くまで俺は止まらない。止まれない。決めたんだ。あの日に決まったんだ」
「ああ――」
オルガとミカのやり取りで教室が騒がしくなり、次第に他の生徒も目を覚ました。そして、自分が置かれた異常な状況を認識し、教室内がざわめきだす。
その時、教室の扉が開き、スーツを着こんだ黒髪の男が入って来た。その男の容貌は非常に整っている。その男は教卓の前に立ち、オルガら生徒を見回した。男の後ろには黒いサングラスをかけた黒服の男が複数人立っている。教卓に立った男は笑みを浮かべ、「Hello everyone!今日からみんなのクラスの担任となった蓮実聖司だ。突然だが今から君たちには殺し合いをしてもらう!」と言った。
それを聞いて教室内の生徒が騒ぎ出す。
「お前を殺す」
「命は――おもちゃじゃないんだぞおお!」
「お前――消えろよ」
「あんた正気か?」
ミカとオルガも蓮実に怒りをぶつける。
蓮実はそれらの文句を一切意に介さず、黒服らに何かしらの指示を与えた。それを受け、複数人の黒服が布に覆われた何かを教室内に運んできた。
黒服が布を外した。そこにあったのは、オルガたちの担任であったビッグマグナム黒岩先生こと、黒岩鉄夫の変わり果てた姿であった。
あの黒岩先生が…!?嘘だろ…!?
オルガを始め、生徒たちに衝撃が走る。
そんな生徒たちの姿を見た蓮実は満足げに頷き、プログラムの説明を始めた――。
*
プログラムが始まってから、オルガはミカを始めとする鉄華団の団員を探していた。走り回っていたオルガは、遠くにミカの後ろ姿を見た。
「ミカァァァァァァ!」
オルガは後ろから大声でミカを呼んだ。
その時、銃声が鳴った。
不安に駆られたオルガはミカの元へと駆け寄る。
そこでオルガが見たのは、血を流して倒れている一人のクラスメイトと、拳銃を持ったミカの姿であった。
ミカが撃ったのは明らかだった。
「何やってんだミカァァァァァァッ‼」
「――こいつは死んでいい奴だから」
*
「やあオルガ団長、三日月・オーガス」
「マクギリスじゃねえか…」
クラスメイトのマクギリス・ファリドがオルガとミカに話しかけて来た。
「なんだ、チョコレートの人か」
マクギリスは以前ミカにチョコレートをあげた事がある。それ以来、ミカはマクギリスをチョコレートの人と呼ぶ。
「これは空き家で見つけたものだ」と言い、マクギリスはチョコレートの入った袋をミカに渡した。ミカはそれを受け取り、中に入っていたチョコレートを食べた。
「三日月・オーガス、私の元に来ないか?」
「何で?」
「言葉にすれば大した話でもないのだがな――。鉄華団とは今後もいい関係でいたいのだよ。そう身構えないで貰いたい」
そう言うとマクギリスはオルガに近づき、このプログラムを潰そうとしている事を打ち明けた。それはオルガらにとっても決して都合の悪い提案では無かった。
オルガとマクギリスの間でしばしのやり取りの後、オルガはマクギリスに協力する事を決めた。
「分かった。鉄華団はあんたの側に乗ってやる」
「では――共に駆け上がろうか」
オルガとマクギリスは握手をした。
*
「プログラムを潰す――革命はまだ終わっていない!諸君らの気高い理想は決して絶やしてはならない! アグニカ・カイエルの意志は常に我々と共にある!皆、バエルの元へ集え!」
マクギリスは島で見つけた拡声器を取り出し、辺り一帯に聞こえる声で演説を行った。
マクギリスの作戦とは、拡声器でクラスメイトらにプログラムに反抗するよう呼びかけ、それに応じた生徒を集めるというものであった。
マクギリスは左手には支給武器であるガンダム・バエルのプログラムを持ち、高く掲げている。
演説が終わった後、マクギリスは満足げな顔をしていた。そんなマクギリスの頬をオルガは力いっぱい殴った。殴られた頬を擦りながら、マクギリスが不満げな目でオルガを睨む。
こんなの、俺たちの居場所はここだと言ってるようなものじゃねえか!プログラムに乗っている奴が来たらどうするつもりだ!
内心で焦るオルガ。だが、次に起こった事はオルガの想像とは異なっていた。
「バエルだ!」
「アグニカ・カイエルの魂!」
なにっ!?
オルガの予想を裏切り、演説を聞いてマクギリスに賛同した四人の男子生徒が走ってやって来た。彼らはクラスでも仲良し四人組と呼ばれている。
「そうだ――ギャラルホルンの正義は我々にある!」
顔から血を流した一人の男子生徒も姿を見せた。
「准将おおおおおおおおおおおお!」
マクギリスを准将と呼び慕う男子生徒、石動・カミーチェもやって来た。
「団長!車の用意できました!」
鉄華団団員であるライド・マッスが車に乗ってやって来た。
何だよ…結構上手くいったじゃねえか…!
オルガもこの光景にまんざらでもなかった。
俺、ミカ、マクギリス、ライド、そしてマクギリスを慕う奴が6人。全部で10人、事を起こすには悪くねえ数だ。
マクギリスはやって来た生徒を見て、口を大きく開けて満足げに笑った。
「君たち全員に109アグニカポイントを与えよう」
嬉しそうなマクギリスがそう言うのもつかの間、どこからともなく大量の爪楊枝が飛んできた。つまようじがオルガ達を襲う。オルガ、ミカ、マクギリスは爪楊枝をかわすも、仲良し四人組やライドの体には爪楊枝が刺さり、痛みに苦しんでいる。中には数多の爪楊枝を体に受け、その場に倒れた者もいる。
不幸はさらに続く。ライドが用意した車に爪楊枝が刺さる。刺さった場所が悪かったのか、車は轟音と共に爆発した。
オルガやライドはこの事態に唖然としていた。
足音が聞こえた。オルガ達はその方向を向いた。
立っていたのは男子生徒、イオク・クジャンであった。その手には大量の爪楊枝が握られている。
「このイオク・クジャンの裁きを受けよッ!」
イオクが再び爪楊枝を放った。
「バエルを持つ私の言葉に背くとは――」
マクギリスが怒りを露わにする。
「見せてやろう、純粋な力のみが成立させる世界を!」
マクギリスはガンダム・バエルのプラモデルを手に、イオクに戦いを挑んだ。
「やっちまえミカァァァァァァッ‼」
オルガにそう言われたミカも拳銃を取り出し、戦闘態勢に入った。
*
その後オルガは数多の戦いを繰り広げた。オルガも多くの傷を負った。そして多くのものを失った。今やオルガに残されたのはミカに支給された拳銃だけである。
はっ!
オルガは後ろに人の気配を感じた。
だが、オルガが振り返るよりも速く、オルガの体を数多の銃弾が貫いた。
ぐぅっ!
「うおぉぉぉぉっ!」
叫びながら最後の力を振り絞ったオルガは、振り向いて数発の銃弾を放った。その内の一発が、オルガを背後から襲った生徒、ヒットマンの脳天を貫いた。ヒットマンが倒れ、オルガへの銃撃も止んだ。
「はぁ…はぁ…はぁ…。なんだよ、結構、当たんじゃねえか――」
笑みを浮かべたオルガは痛む体に力を入れて立ち上がる。そしてゆっくりと前に歩き出した。
よく分からねえが――俺の本能がこうしろと叫んでやがる…。
かすれ行く意識の中、オルガはそう思った。
まだだ――まだ、止――
これを最後にオルガの意識は消えた。
*
「うっ、うう――はっ!」
オルガは目を覚ました。
ここは――?
まず目に入ったのは白い天井だった。
疑問に思い、周囲を見回すオルガ。四方を白い壁に囲まれ、床も同様に白かった。それらの壁や床、天井にはシミ一つ無い。一目で清潔感を感じさせる部屋であった。
オルガは自分がベッドの上に寝ていたことを確認した。さらに、ベッドの側には何やら複雑な機械が置かれていた。その機械から伸びたチューブがオルガの体につながっていた。
まるで病院だな…。――はっ!?
オルガは、自分がプログラムに参加させられた事、多くの仲間を失った事、そして自分も凶弾に倒れた事を思い出した。
「うわあああああっ!」
オルガは声を上げ、自分の顔を押さえた。
「ライドォ!マクギリス――ミカァァァァァァ!」
この時、部屋の扉が開き、中に大勢の黒服の男が入って来た。プログラムの始まりの場である教室にいたものと同じ姿をしている。
黒服らはオルガの寝ていたベッドを囲んだ。
ここはあの世か――?だとしたらこいつらは天使か――いや悪魔だな。勘弁してくれ――。
「Congratulation!」
は?
黒服たちはオルガを囲んで拍手を始めた。パチパチパチと、室内に拍手の音が鳴り響く。
拍手が止み、一人の黒服がオルガに話しかけてくる。
「優勝おめでとう、オルガ・イツカ君」
優勝?この俺が?一体どういうことだ!?
「おいあんた、一体何が何だか――詳しく説明してくれ」
黒服はオルガに次の事を語った。
今回のプログラムで最後に残ったのはオルガと、オルガを背後から撃った男、ヒットマンの二人だった。ヒットマンはオルガの体を撃ち抜いたが、オルガが死ぬよりも先に、オルガの銃弾でヒットマンは息絶えた。それにより、最後まで生き残ったのはオルガ・イツカとなった。だが、撃たれたオルガも虫の息だった。それをプログラムの主催者である唯一神エンテイが助けたのだという。
オルガは自分の体を確認した。プログラムで負った傷は一つも残っていなかった。
オルガがいるのは委員会の息のかかった病院で、オルガは検査のために入院したのだという。
「そうか…。なあ、あんたら。このプログラムの優勝者は唯一神と会って、願いを一つ叶えてもらえるんだろ?今すぐ会わせてくれ。この馬鹿げたプログラムで死んだ皆を生き返らせたい」
「残念だがそれは出来ない。本来ならあそこで死んでいた君を唯一神様が助けた時点で、唯一神様は君の願いを叶えたことになる。優勝者が叶えてもらえる願いは一つだけだ」
「待ってくれ、俺の命はどうなってもいい。俺の命の代わりにクラスの皆は生き返らせてくれ、頼む!俺ならどうにでも殺してくれ。何度でも殺してくれ!」
「お前が我々に望んでもそれを叶える力は我々には無い。望みを叶えたければ、もう一度プログラムに参加して優勝する事だ。そうすれば唯一神様に謁見して、今回死んだ皆を生き返らせてもらえる。理解できるな?」
「はっ…」
「オルガ・イツカ君、この番号に連絡すれば、次のプログラムの対象となった学校とクラス、生徒の名前が分かる。参加したくなったらいつでも言ってくれ。我々は君を歓迎する」
オルガは黒服から番号の書かれたメモ用紙を受け取った。
「Excellent!プログラムで優勝したばかりなのに、もう次のプログラムへ参加する意欲を見せるとは、素晴らしい!それでこそ優勝者だ、オルガ・イツカ君!」
病室に場違いなほど明るい声が響いた。
この声は――!
オルガは声のした方向を睨みつける。部屋の扉が開き、笑みを浮かべた蓮実聖司が入って来た。
蓮実は拍手をした後、黒服に話しかけた。
「オルガ・イツカ君に優勝賞金を」
「はっ!」
数人の黒服が動き、アタッシュケースを持ち上げた。黒服らが蓋を開く。中には大量の札束が入っていた。
「優勝賞金として、末代まで遊んで暮らせるお金だ。受け取ってくれ」
オルガは数多のアタッシュケースの内の一つを受け取った。オルガの眼前には、オルガがこれまでに見たこともの無いほどの大金がある。
オルガは歯を食いしばった。
「ふざけんじゃねえ!」
オルガは声を荒げ、アタッシュケースを黒服の一人に投げつけた。アタッシュケースからは数多の札束が舞った。オルガの行動に室内がざわめきだす。
「こんな金、欲しくはねえ!今すぐ皆を生き返らせろ!そして蓮実、テメエはぶっ殺してやる!」
ベッドの上で立ち上がったオルガだが、すぐに大勢の黒服らによって取り押さえられた。蓮実はそれを確認し、部屋から出ていった。
身動きの取れないオルガの挙げた怒声が室内に響いた。
*
「これで俺の話は終わりだ。この後、俺は病室から放り出され、賞金も没収となった。残ったのは、委員会への連絡手段だけだった。本当なら、大金を得て、悠々と暮らす事も出来た。だが俺にはそんな事は出来なかった。俺は皆の為に委員会に落とし前をつける。馬鹿な話だろ?笑いたければ笑ってくれて構わねえ」
オルガの話をマルフォイとさくらは沈痛な面持ちで聞いていた。
「俺は落とし前をつけるまでは止まらない、止まれない。目を閉じると頭の中で声が聞こえるんだ。止まるんじゃねぇぞ…止まるんじゃねぇぞ…ってな。皆がそう言ってるんだ」
オルガは自虐ぎみに笑った。
マルフォイとさくらは笑う気にはなれなかった。
「で、二人はこれから先、どうするんだ?委員会のビルに入り込んで首輪を解除し、この島から逃げるんだったな」
マルフォイとさくらは黙って頷いた。
「そして協力してくれる仲間を探していた。それなら、俺と手を組まねえか?」
何だって!?
このオルガの提案はマルフォイにとって驚きだった。
「いいの!?それはわたしたちにとっても嬉しい提案だけど…」
さくらが躊躇いがちにオルガに尋ねた。
「ああ。俺だって落とし前をつけるにはあのビルに入る必要がある。その為に協力者を探していた。このクラスは予想以上にゲームに乗る奴が多くて辟易してたんだが、お前らみたいにゲームに反対の奴らと会えて嬉しいぜ」
マルフォイとさくらは気まずそうな顔をした。
「なあ、オルガ。ビルに乗り込むと言っても、何か作戦はあるのか?まさか、真正面から突っ込むなんて言わないだろうね?」
オルガは落ちていた木の枝を拾い、地面に文字を書き始めた。オルガが書いたのは次のような短い一文だった。
俺たちの会話は委員会に盗聴されている。
「えっ!?盗ちょ――」
マルフォイの口をオルガが塞いだ。さくらも両手で自分の口を押えている。その目には驚きが現れている。
マルフォイの口から手を離したオルガは再び地面に次のような文字を書いた。
俺たちの首輪には盗聴機能がついている。これから話す作戦は委員会に聞かれると面倒だから筆談で行う。いいな?
マルフォイとさくらも枝を拾って頷いた。それを見て、オルガは次の作戦を地面に書いた。
委員会の本部ビルは東と西のツインタワービルだ。俺達は皆、東側の正面玄関から出た。だが、西側のビルにも同様に玄関がある。どちらも警備のストームトルーパーがうろついているが、西側の方が警備は手薄だ。俺達は二手に別れる必要がある。一方が東側の玄関目がけて爆弾を投げつける。それで東側で大騒ぎとなったら、西側の警備はより手薄になる。その隙にもう一方の組が西側からビルへ突入する。東西のビルはいくつかの連絡通路でつながっているから、仮に首輪の管理を東側のビルで行っていたとしても問題はねえ。
そこまでオルガが書いた後、さくらが文字を地面に書いた。
爆弾なんかわたしたち持ってないよ。作るの?
オルガが地面に返事を書く。
俺はこのプログラムが始まる前に、ビル内でいくらか武器に関する情報を得た。それによると、今回は支給武器に凄まじい威力の爆弾が一つ含まれているらしい。今のところ、この島でそれほど大きな爆発音や爆発の跡は見ていない。恐らく、爆弾はまだ無事だろう。爆弾が誰に支給されたかは分からねえ。だが、爆弾がまだ残っていれば、持ち主を探して協力してもらうことが出来る。
でも、爆弾の持ち主が僕らに協力してくれるとは限らない。このクラスなら、むしろ嬉々としてクラスメイトに爆弾を投げつけてきそうだ。
マルフォイはそう思ったものの、書くことはしなかった。それよりも一つ疑問が生じ、それを聞きたかった。
その作戦だと、東側から本部に爆弾を投げる組と、西側からビルに突入する組の二組に分かれる必要があるんじゃないかい?突入組の方が多い方が良いと思うが、その点についてはどうする?
オルガの返事は早かった。
俺もそれを考えていたが、先ほどいい解決策が見つかった。さくら、さっきの髭男が使っていた人形を出してくれ。
さくらはコピーロボットを取り出した。
そいつを調べてくれ、とオルガが書いた。
さくらはコピーロボットを調べ、鼻の位置にボタンが付いているのを見つけた。さくらは無言のまま、動きで二人にボタンを押してみると伝えた。二人共同意した。
さくらがコピーロボットの鼻を押すと、コピーロボットの姿が変わり、瞬く間にさくらと同じ姿になった。
「ほえ~、
さくらはそういった後、青ざめた顔で口を押えた。
「もう一度鼻を押してみてくれ」
さくらの疑問にオルガが答えた。それに従って、さくらがコピーさくらの鼻を押すと、再び元の人形に戻った。
オルガは地面に『作戦の根本的な所以外は口に出して構わねえ。むしろ、さっきまで話していた俺達がずっと黙り込む方が、盗聴している委員会に怪しまれる』と書いた。
それを見たマルフォイは頷いた。
やっぱりね。鼻を押すと、押した人の姿となり、もう一度鼻を押すと元の人形となるようだ。誰が鼻を押しても人形に戻ってしまうようだから気を付けておこう。
マルフォイは先ほどのベネットの戦いで、コピーベネットが自分で鼻を押して人形に戻った事を思い浮かべていた。
――僕も変身させてみたいんだが。
マルフォイもコピーロボットの鼻を押そうと指を伸ばすがそれより先に、オルガがコピーロボットを取り上げた。
こいつは俺が持っておく。俺にコピーさせて東側から爆弾を投げさせる。恐らく委員会に睨まれている俺の姿をしていた方が、囮役として何かと好都合だろう。
オルガはそう書くと、コピーロボットをバッグにしまった。それをマルフォイは恨みがましい目で見ていた。
「これで以上だ。正直無茶な作戦だ。だが俺はやると決めた以上は前に進むしかねえ。二人共、俺に力を貸してくれ!」
オルガが頭を下げた。
「勿論だよオルガ君!わたし達も協力してくれる人を探してたから、オルガ君が仲間になってくれるなら嬉しいよ!ね、マルフォイ君!」
「ああ、そうだね――」
恐らくオルガが言った事は本当だろう。高い身体能力に、一度プログラムを経験して生き延びた事を考慮すると、味方になってくれれば頼もしいな。僕と木之本の二人では、ビルへの進入も不可能だろう。よし――。
「オルガ、僕も君の側に乗ってやろうじゃないか。ただし、僕と木之本は戦闘には向いてない。島から脱出するまで、僕らの身を守ってくれるかい?」
「ああ。鉄華団は決して団員を見捨てない。団長である俺がお前らをビルへと連れてってやるよ」
オルガはそう言うと、マルフォイと握手をした。
あれ?それって、僕と木之本も鉄華団とかいう謎の団体の一員って事かい?
疑問に思ったマルフォイの横で、さくらとオルガも握手をした。
「だがなマルフォイ、せめてこれくらいは持っておけ」
オルガがそう言って、マルフォイにエクスカリバールを渡した。
「これは――ベネットの武器だね」
「ああ。言っちゃ悪いが、もうアイツには必要ねえ。お前もスプレーだけじゃ、ちと不安だろ?」
「ああ――」
マルフォイはエクスカリバールを受け取った。
そうだ、ビルに入ろうとすれば委員会との戦いは避けられない。自分の身は自分で守れって事か――。
エクスカリバールを握る手に力を込めるマルフォイ。マルフォイの体は小刻みに震えていた。
【男子20番 ドラコ・マルフォイ】
【身体能力】 C 【頭脳】 B
【武器】 デオドラントスプレー、エクスカリバール
【スタンス】 仲間を集めて本部に乗り込み、首輪を外して島からの脱出
【思考】 生きて皆と帰る
【身体状態】 正常 【精神状態】 正常
【女子02番 木之本桜】
【身体能力】 A 【頭脳】 C
【武器】 レーダー
【スタンス】 仲間を集めて本部に乗り込み、首輪を外して島からの脱出
【思考】 オルガ君が仲間になってくれて嬉しいな
【身体状態】 正常 【精神状態】 正常
【男子05番 オルガ・イツカ】
【身体能力】 A 【頭脳】 B
【武器】 トカレフTT-33、S&W M29、コピーロボット
【スタンス】 委員会に落とし前をつけ、島からの脱出
【思考】 爆弾の持ち主及び協力者を探さねえと…
【身体状態】 正常 【精神状態】正常
69
ちゅるやさんは座り込んでいた。
『ちゅるやさん、お前には失望したぞ。おかげでまた戦いをしなければならなくなった』
『ゲームは終わりだ。俺がここに来たのは話し合いで解決するためだ』
『落ち着くんだ!誰かを殺さなければ自分が殺されるという、お前たちの恐怖は分かる。だが、俺のやり方でやる。俺のやり方でだ。殺し合いは散々やった。もういい、お互い何の得もない。この際俺が妥協案を出そう!皆でこの島から立ち去るのだ!生きている全ての生徒、全ての武器を使ってこの島から立ち去るのだ!その過程の安全は俺が保証する。大人しく従え、そして恐怖に終止符を打て!どうするかはお前たちしだいだ。24時間以内に決めろ』
「う、うるさいにょろおおおおっ!」
怒りにまかせ、ちゅるやさんはリボルケインを振るった。肩で息をしていたちゅるやさんは自分の額に手を当てた。
ちゅるやさんの脳内では、ヒューマンガスの言葉が目まぐるしく繰り返されている。
黙るにょろ!わたしはスモークチーズの為に――皆を殺してこのプログラムで優勝するにょろ!
心に葛藤を抱えたちゅるやさんはリボルケインを振り回した。
「お~い、ちゅるやさーん、ちゅるやさーん!」
呼ばれたちゅるやさんは声のした方を見た。
そちらから、じーさんが芋虫の如く這うようにしてやってきた。
じーさんにょろ…。せめてスモークチーズを持っていれば、このイライラも少しは解消されるにょろ…。
「やあやあじーさん、じーさん。スモークチーズはあるかい?」
「スモークチーズか?それならバッグの中に――」
じーさんは立ち上がって、自分のバッグを漁り始めた。ちゅるやさんは期待に胸を膨らませる。
「ねーーーーーーーーーーーーーーよ!!!!!!!!!!!」
目、鼻、口と顔の至る所から勢いよく汁を噴き出しながらじーさんが笑って言った。
「にょろーん」
いつも通りの反応。だがちゅるやさんのはらわたは煮えくり返っていた。
じーさん、アンタにはスモークチーズという大義の為の犠牲となってもらうにょろ!
ちゅるやさんはリボルケインをじーさんの体を目がけて突き出す。じーさんは不気味な動きでちゅるやさんの攻撃をかわし続けた。
「やーい、バーカ!バーカ!うんこ!うんこ!」
じーさんはちゅるやさんの攻撃をかわしながらも、ちゅるやさんを煽ってくる。
カーッ!じーさん、アンタをさっさと殺してスモークチーズを手に入れるにょろ!
『殺し合いは散々やった。もういい、お互い何の得もない』
ちゅるやさんの脳内をヒューマンガスの言葉がよぎる。
ちゅるやさんのリボルケインを持つ腕の動きが止まる。その瞬間、じーさんがちゅるやさんの腕を掴んだ。
「腕が震えておる。迷いがあるようじゃな。そんな事では、10億光年たっても、ワシどころか、誰一人殺せんよ」
「光年は――時間じゃなくて距離の単位にょろ、このクソジジイ!」
「ぎゃあああああああああああああっ!!!」
ちゅるやさんはもう一方の手で、じーさんの顔面を殴った。悲鳴を上げてじーさんは倒れた。倒れたじーさんに近寄り、ちゅるやさんはじーさんの体を何度も蹴る。
「じーさん、光年に関するボケをするなんて、いよいよ本当にボケて来たんじゃないかい?この!この!にょろ!」
ちゅるやさんはじーさんの体を何度も蹴る。その間、じーさんは抵抗したり、逃げたりせず、防御すらしなかった。ただちゅるやさんの蹴りを受け続けていた。
その事がちゅるやさんをますます苛立たせた。ちゅるやさんはさらに蹴りを入れ続ける。
「どうだいじーさん、わたしはじーさんを殺し、皆を殺してスモークチーズを満腹になるまで食べるにょろ!」
「ちゅるやさん、そんなにスモークチーズが食べたいのか」
「勿論にょろ!」
「さっきもう食べたじゃろ」
「えっ」
ちゅるやさんの蹴りが止まる。
「はっ、食べてない、食べてないにょろ!あやうく騙されるところだったにょろ!そもそもそういうネタはじーさん、アンタか志村けんがやる事にょろ!私のキャラじゃないにょろ!」
ちゅるやさんはリボルケインを持ってじーさんへと走り寄る。
「フ――誰かを殺せば、それは一生ちゅるやさんの心に刻まれる。そしたら、ちゅるやさんは二度と美味しくスモークチーズを食べる事は出来ないぞ」
ちゅるやさんの足が止まる。
「いいか、ちゅるやさん。スモークチーズが大好きで、それを沢山食べたい、そのために努力する、それは素晴らしい事じゃ。だがな、スモークチーズの為にクラスメイトを殺すのは間違っとる。スモークチーズが無くなったらまた買えばいい。しかし――友を失ったら二度と買うことは出来ない!そんなかけがいのない友をちゅるやさんは自分の手で殺そうというのかー!」
「うるさいにょろ――うるさいにょろー!」
ちゅるやさんは地面に倒れたじーさんの体にリボルケインを振り下ろす。その瞬間、じーさんが瞬時に飛び上がり、ちゅるやさんの後方へ着地した。ちゅるやさんは振り下ろしたリボルケインを再び持ちあげ、じーさんへと迫る。
「目を覚ませー!ちゅるやさん!」
じーさんのこぶしがちゅるやさんの頬を捉えた。ちゅるやさんが後ろへ吹っ飛ぶ。ちゅるやさんの手から離れたリボルケインが宙を舞う。
にょろ…。
じーさんに殴られた頬が痛む。でもそれに対する苛立ちは無かった。今のじーさんの一撃で、さっきまでちゅるやさんの胸の内に詰まっていたモヤモヤが晴れた。倒れたちゅるやさんは不思議な爽快感を感じていた。
倒れたちゅるやさんの側にじーさんが近づいた。
「悪夢は覚めたか?ワシと共にこの島で生き延び、それからスモークチーズを腹一杯食べればいいじゃないか」
「じーさん…」
ちゅるやさんが体を起こす。
プスリ。
にょろ?
ちゅるやさんは体に違和感を覚えた。ふとじーさんの顔を見ると、血走らせた目を大きく見開いている。じーさんの髭は勢いよく跳ね上がり、口を大きく開いている。じーさんの体は生まれたての小鹿の如く小刻みに震えている。
ちゅるやさんは自分の腹を見た。
ちゅるやさんの腹にはリボルケインが突き刺さっていた。突き刺された場所から火花が噴き出している。
「にょろろろろろっ!?」
衝撃でちゅるやさんは自身の黒丸の目を大きく見開き、より大きな黒丸の目となった。
め、め、めがっさピンチにょろ!ど、ど、どうしたらいいんだい!?リボルケインをすぐ抜くべきか――それともこのままにしておくべきか――。
「じ、じーさん!じーさんは世の中の危険から身を守るプロだろう?この状況はどうしたらいいか、教えて欲しいにょろ!」
「ワシに任せろ!ワシにかかれば、ちゅるやさんはメアリーセレスト号に乗ったも同然!安心してワシにその身を委ねやがれー!」
もうダメにょろ――!
ちゅるやさんの目の前が真っ暗になる。
「いくぜちゅるやさーん!どおりゃあああああああっ!!!!」
じーさんは勢いよく、ちゅるやさんの体からリボルケインを引き抜いた。
「そいやああああああっ!!!!」
素早くじーさんは落ちていた石をリボルケインによってちゅるやさんの腹に生じた穴に詰め込んだ。
火花が――止まったにょろ!
「じーさん、ありがとにょろ!」
いつもの純真な顔でちゅるやさんは立ち上がった。
ポン。
軽い音がして、ちゅるやさんの腹に詰め込んだ石が外れた。そこから火花が噴き出している。
沈黙。
じーさんはウインクをして、自分の頭を小突いた。その直後、じーさんはちゅるやさんに背を向けて走り出した。
「じーさんーーーーーー!」
「ゴメンごめーん♪めんゴメーン♬うっふんあっはんすっぽんぽーん♬」
じーさんは謝りながらも凄まじい速度でちゅるやさんから離れる。
「タダでは死なん――じーさん、アンタも道連れにょろ!」
ちゅるやさんはじーさんを捕まえようと走るが、急速に体の力が抜けていく。ちゅるやさんがじーさんに追いつくことは叶わない。
ちゅるやさんの体がゆっくりと前のめりに倒れていく。
「ス――スモークチーズ、万歳!」
ちゅるやさんが爆発した。
【男子09番 じーさん】
【身体能力】 D 【頭脳】 E
【武器】 リボルケイン
【スタンス】 プログラムを安全に生き抜く
【思考】 キリンはどーしてキリンなんですか?
【身体状態】 小ダメージ 【精神状態】 正常
【女子11番 ちゅるやさん 死亡】
【生存者 残り22人】
70
日下部みさおとヒューマンガスは島の民家の中にいた。
「どうだ日下部、なかなか良い家だろう。ここを拠点とし、島を歩いて皆を集める」
「へー、いいんじゃねーか」
みさおは適当に答えた。
流石だZEヒューマンガス、隙が全くありゃしねえ。さてさて――こいつをどうやって料理してやろうかな――。そうだ!
「なあなあ、ヒューマンガスはどんな武器を支給されたんだ?」
「俺の武器が気になるのか。まあいい、見せてやる」
ヒューマンガスはバッグから黄色い竹トンボの様なものを取り出した。
「これはタケコプターだ。体に取り付ける事で、空を自由に飛ぶことが出来る。一つしかないから、一度に飛べるのは一人だけだ。だが俺ならもう一人ぐらいは抱えて飛ぶことが出来る。今は首輪があるため、飛ぶことでこの島から逃げることは出来ない。しかし!この武器は必ず後に役立つ時が来る。俺はその時に備えて準備中だ。日下部、お前も協力してもらうぞ」
「勿論だってヴぁ!」
みさおは力強く胸を叩いた。
ふう、ヒューマンガスの武器は、わたしの武器よりも便利そうだな~。でも、銃とかじゃなくてよかったZE。
この時、みさおに妙案が浮かんだ。
「なあ、ヒューマンガス。わたし、喉が渇いたんだけど、この家には水道ってないか?ほら、支給された水は万が一に備えて取っておきたくてさ」
「いい判断だ日下部。水は大事だからな。水道はあそこだ。水が出る事、及び飲める事は確認済みだ」
ヒューマンガスが水道を指さした。みさおは水道へと向かった。
へっへー、まんまと罠にかかったな。
みさおは水道にコップが複数個置いてある事を確認し、その内の二個を取った。蛇口をひねり、二個のコップにそれぞれ水を入れた。みさおは手に隠し持った緑色の液体が入った三角フラスコを取り出し、その中の液体を二、三滴、一方のコップに入れた。
みさおは三角フラスコをしまい、二個のコップを持ってヒューマンガスの元へと歩いて来た。
「ほら、お前も飲めよ」
「礼を言う」
みさおは緑色の液体を加えたコップをヒューマンガスに渡した。
みさおはコップに入った水を一気に飲み干した。
「ぷは~。うめえっ!こんなにも美味い水を飲んだのは初めてたZE!」
「戦場で飲む水より美味い水は無いからな」
だがヒューマンガスはコップを手に持ったまま、口をつけてはいない。
「ヒューマンガス、飲まないのか?」
「飲みたいが、このマスクがあっては飲むことも難しい。ストローでもあればいいんだが」
ヒューマンガスは顔面を覆い隠す鉄仮面を指でつついた。
あっちゃー。ヒューマンガスのマスクの事を忘れてたぜ。そういえば、コイツが飲み食いする時にもマスクを外してるの見た事ねーや。確か専用のストローとか持ち歩いてたっけか。ヒューマンガスと貞子の素顔ってホント、謎なんだよな~。あーあ、毒殺作戦も失敗か~。
「折角、俺の分も水を入れてくれたのに悪いな日下部。こいつもお前が飲んでくれ」
ヒューマンガスがコップをみさおに渡してきた。
ええっ!?そ、そいつは勘弁してくれよ!
「い、いや~わたしも今飲んだばっかりだから、これ以上はいらないな」
「いや、これから動く以上、飲める時に飲んでおいた方が良い。遠慮するな、俺は一切口を付けていないから綺麗だぞ」
ヒューマンガスがみさおにコップを渡した。
一切口を付けてないってのが、問題なんだってヴぁ!
「なら仕方ないな~。もったいないけど、誰も飲まないなら捨てるしかないな~、ハハハッ」
みさおがコップの水を捨てる為、水道へと向かう。
それを見たヒューマンガスは右手の平にタケコプターを取り付けた。タケコプターのプロペラが高速で回転を始める。室内で風が吹き始めた。
風!?ここは部屋の中だZE!?
驚いたみさおが振り向く。そこにヒューマンガスが立っていた。
「ど、どうしたんだよヒューマンガス。今からお空のお散歩でも行くのか?そりゃ、お前がそうしたいなら、わたしは止めないさ。で、でもなぁ、タケコプターって掌より頭とかに付けた方が左右のバランスが良くなっていいんじゃないのか?」
「――タケコプター!」
鉄仮面の下でヒューマンガスが呟いた。瞬時にヒューマンガスがみさおに襲い掛かる。不意打ち、さらにヒューマンガスの巨体と素早さに圧倒され、みさおの足が震える。だがみさおはまだ負けてはいない。
「うぎゃああっ!」
みさおは手に持っていたコップをヒューマンガスへと投げつける。だがヒューマンガスは最小限の動きでそれをかわす。コップが床に落ちて砕け散り、中の液体が飛び散った。
ヒューマンガスはプロペラが回転したタケコプターを取り付けた掌で、みさおの腹に掌底突きをお見舞いした。
ヒューマンガスの肉体から放たれる掌底突きに、高速回転したプロペラが加えられ、みさおの腹が抉られた。
痛みでみさおは悲鳴を上げる。腹から肉や血が飛び散り、みさおは倒れた。
しばし苦痛で呻いた後、みさおは動かなくなった。
「1分経過。5秒以内なら菌が付かないだとか言ってたが――もはや3秒ルールどころの話ではないな、日下部」
動かなくなったみさおをヒューマンガスはじっと見下ろしていた。
【女子04番 日下部みさお 死亡】
【生存者 残り21人】
71
みさおが動かなくなったことを確認したヒューマンガスは、みさおが隠し持っていた三角フラスコを奪い取った。
毒か。あの落ち着きのない目、俺への適当な返事、挙動不審な態度、頼んでもないのに水を渡してき事等から警戒しておいたが、正解だったようだな。あれほどコソコソしていれば、お前が俺を殺そうと計画していたのはお見通しだ。
ヒューマンガスはタケコプターと三角フラスコをバッグにしまった。
日下部の血が飛び散った以上、ここはもう使えない。後始末も面倒だから、さっさと引き払うべきだ。それにしても毒とは、日下部は良い物をプレゼントしてくれた。相手の信用を勝ち取れば、食事に毒を盛る事は容易い。仮に複数人がいれば、誰が毒を持ったかで疑惑は広がり、疑心暗鬼になって仲間同士で殺し合う。そして優勝は俺のものだ。
タケコプターのプロペラに付着した血をぬぐいながら、ヒューマンガスはそう考えていた。
マーダーどもは放っておけばいい。見つけるべきは、怯えて逃げ隠れしている奴らと、対委員会を目論んで結束している奴らだ。そいつらに取り入る。そして殺す。
鉄仮面の下でヒューマンガスはほくそ笑んだ。
【男子15番 ヒューマンガス】
【身体能力】 S 【頭脳】 S
【武器】 タケコプター、緑色の液体
【スタンス】 ステルスマーダー
【思考】 プログラムに反対する奴らを探す
【身体状態】 正常 【精神状態】 正常
72
「やっと鎌を見つけたでちゅ!」
島にある小さな民家でデデンネは歓喜の声を上げた。
天使の如き可愛らしさを持つこの私に一見アンバランスな鎌というアイテムが、小悪魔的要素を付加し、私の魅力をより一層向上させるのでちゅ!
デデンネは鎌の持ち手にほっぺを擦り付けた。
ん?
デデンネは鎌の置いてあった所に小さなメモ用紙が置いてあるのに気づいた。それを取り上げると、次のような事が書かれていた。
デデンネ、ポケモンアニメに久しぶりの登場!湧き上がるお茶の間!
これはBR法委員会からデデンネに向けてのメッセージであった。
わおっ!私がまたアニメに出演したでちゅか。やったでちゅ!私がレギュラーに舞い戻る日も近いでちゅ!
さらに1枚の写真が付けらていた。アニメでデデンネとトゲデマルが共演したシーンの写真であった。
ああ――すっごく可愛いでちゅ…♡こんなに可愛い私と並べられると、トゲデマルはより一層ぶちゃいくなのが際立ちまちゅね、可哀そうでちゅ(笑)。
メモの裏にはBR法委員会による『最近印象に残った電気ポケモンは?』というアンケートの結果が書かれていた。
結果は1位がゼラオラ、2位がピカチュウ、そして3位にデデンネの名があった。ちなみに4位はデンリュウだった。
くっ…!やはり、夏の映画のゼラオラ、そしてポケモンの看板であるピカチュウは人気でちゅ…。でも私も3位!皆も私の可愛さが分かって来たみたいでちゅねぇ。よし!このプログラムで優勝し、より可愛さと強さを手に入れるでちゅ!目指せ、人気ポケモン1位!
「ほあようごぁいまーしゅ!」
突然の挨拶と共に、民家のドアが勢いよく開かれた。デデンネは振り向く。
そこに立っていたのは釘バットを手にしたポプ子であった。
「ポプ子ォ…」
デデンネは自分の可愛さを理解しないポプ子を呼び捨てにした。
「あっ、あたちゅ、かちゅぜちゅわるいんしゅ。いまのま、ほあようごぁいましゅって、いいたかったんしゅ!」
冷や汗をかきながらポプ子が聞き取りにくい弁解をする。
「ほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
ポプ子は走り出し、釘バットをデデンネ目がけて振り下ろした。
デデンネは背負ったジェットパックで高く飛び上がり、ポプ子の攻撃をかわす。デデンネはポプ子の攻撃が届かない天井付近で浮いていた。
「ポプ子ォ…私の可愛さを理解しないという罪――罰を受ける時間でちゅ!見よ!私の新必殺技、デデンネZの力を!」
背負ったジェットパックの力を使い、デデンネはポプ子目がけて高速で襲い掛かった。
「もう見た」
つまらないものを見たとでも言いたいような顔をしたポプ子は釘バットを構える。
この時、空を飛ぶデデンネが高速できりもみ回転を行った。手に持った鎌との合わせ技でかまいたちが発生する。
「は?」
ポプ子は咄嗟に横に飛ぶ。デデンネの体当たりはかわすことが出来たが、デデンネから繰り出されたかまいたちがポプ子の体を傷つける。ポプ子の手や足には紙で切ったかのような薄く細い傷が複数生じていた。わずかながらも血が流れ出ている。
「あん!?」
ポプ子は傷ついた自分の体を見て目を大きく見開いた。ポプ子は手で自分の傷を押さえる。
「どうでちゅかポプ子、デデンネZの威力は!分かりまちゅか?なら教えてやる――この私が世界で一番強いって事なんでちゅ!」
ポプ子は大きく笑った。
「さらばだポプ子ォ!ひき肉になるでちゅ!」
再びきりもみ回転したデデンネがポプ子に迫る。
ポプ子は釘バットを上段に構えたまま動かない。デデンネから放たれたかまいたちがポプ子の制服や体を傷つける。だがポプ子は動かない。デデンネがポプ子に体当たりする直前である。
「とうっ!」
ポプ子が飛び上がった。デデンネの体当たりをギリギリの距離でポプ子はかわした。ポプ子の股下をデデンネが通る。
「チェストー!」
ポプ子は釘バットを思いっきり振り下ろした。鈍い音が生じた。
このポプ子の攻撃を受け、デデンネの回転が止まり、デデンネは地に足を着けた。
「ふん、今のはちょっと油断しただけでちゅ。もう二度と今の攻撃は通用しないでちゅ!その釘バットが私を捉えるよりも先に、お前は切り刻まれているのでちゅ!」
デデンネは再び飛び上がろうとしたが、自分の体が上がらない事に気づく。
な、何ィ~!?
デデンネは首を回してジェットパックを見た。ジェットパックはデデンネの指示を受けつけず、動きが止まったままである。先ほどのポプ子の釘バットはデデンネのジェットパックにダメージを与えたのだ。
焦るデデンネにポプ子が走り寄る。
くっ!
デデンネは持っていた鎌をポプ子に投げつけた。ポプ子は走るのを止め、飛んできた鎌を釘バットで冷静にはじき返した。
その間にデデンネは走って民家から逃げ出した。
ポプ子は後を追おうとするが、小さくすばしっこいデデンネを捉える事は出来なかった。
「ア゛ォ゛ア゛ー!」
一人残されたポプ子は目を血走らせて地団駄を踏んだ。
【女子12番 デデンネ】
【身体能力】 B 【頭脳】 E
【武器】 ジェットパック(故障)
【スタンス】 全ポケモンの頂点に君臨する
【思考】 結局私が一番強くて凄いんでちゅね
【身体状態】 正常 【精神状態】 正常
【女子15番 ポプ子】
【身体能力】 C 【頭脳】 D
【武器】 釘バット、ハイドラパーツY,Z
【スタンス】 皆殺し
【思考】うるせえよ、うるうるせえよ、うるせえよ
【身体状態】 小ダメージ 【精神状態】 正常
73
BR法委員会本部、ツインタワービル東棟最上階。ここでは委員会の黒服たちが本部ビルに近づく生徒がいないか、島に仕掛けられたカメラ及び望遠鏡を使ってビル周辺を監視していた。
そこにいる多くの黒服のうち、先輩である慈英と後輩である計の二人はサングラスをかけたまま望遠鏡で周囲を見ていた。その時、彼らの興味を引いた出来事があった。
彼らが見つけたのはビル周辺で行われた複数人の生徒による戦いだった。これに勝利した三人の生徒がしばらく話し合った後、突如地面に文字を書いて筆談を始めたのだ。その三人の生徒とは、ドラコ・マルフォイ、木之本桜、そしてオルガ・イツカであった。
これは二人の黒服にとって驚きであった。先輩である慈英が口を開く。
「まさかあの生徒たち、首輪に盗聴器が付けられている事に気づいた…?」
「そんな嘘でしょう…。あいつら何者なんです!?」
「マーダーばかりのクラスでここまで生き残っている生徒だ。相当の手練れだとは思うが…ちょっと待てよ!」
「何です?」
「あれは…鉄華団団長、オルガ・イツカ!」
「鉄華団団長…オルガ・イツカ?」
慈英は計にオルガが過去のプログラムの優勝者であり、委員会に恨みを持っている可能性が有る事を教えた。
オルガは委員会上層部で今回の要注意人物としてみなされていた。先輩である慈英はその事を利根川から知らされていたが、計はまだ知らされていなかった。
「オレ達は出しゃばるより、すぐに利根川先生に報告した方が賢明だ」
慈英がそう言った。
「そんな要注意人物が本部の周辺で不審な動きをしていたと知ったら、あの利根川先生…黙っていませんね」
顔に冷や汗を浮かべた計は、すぐに利根川にこの事を伝えるべく、階下へ降りて行った。
ハーメルン学園3年β組45名 名簿
○→生存、●→死亡
● 男子01番 浅倉威
○ 男子02番 阿部高和
● 男子03番 天野河リュウセイ
○ 男子04番 泉研
○ 男子05番 オルガ・イツカ
● 男子06番 井之頭五郎
● 男子07番 剛田武
● 男子08番 相楽左之助
○ 男子09番 じーさん
● 男子10番 先行者
● 男子11番 多治見要蔵
● 男子12番 でっていう
● 男子13番 永沢君男
● 男子14番 獏良了
○ 男子15番 ヒューマンガス
● 男子16番 日吉若
● 男子17番 ベネット
○ 男子18番 ドナルド・マクドナルド
● 男子19番 ケニー・マコーミック
○ 男子20番 ドラコ・マルフォイ
○ 男子21番 やらない夫
○ 男子22番 やる夫
○ 男子23番 ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ
○ 女子01番 うさみちゃん
○ 女子02番 木之本桜
● 女子03番 桐敷沙子
● 女子04番 日下部みさお
○ 女子05番 古明地こいし
○ 女子06番 佐天涙子
● 女子07番 沙耶
○ 女子08番 水銀燈
● 女子09番 枢斬暗屯子
○ 女子10番 フランドール・スカーレット
● 女子11番 ちゅるやさん
○ 女子12番 デデンネ
○ 女子13番 ベータ
● 女子14番 北条沙都子
○ 女子15番 ポプ子
● 女子16番 まっちょしぃ
○ 女子17番 美樹さやか
● 女子18番 見崎鳴
● 女子19番 ルーシー・モード・モンゴメリ
● 女子20番 山田葵
○ 女子21番 山村貞子
● 女子22番 両儀式
【生存者 残り21人】