やる夫とクラスメイトがバトロワに参加させられたようです 作:MASUDA K-SUKE
ハーメルン学園3年β組45名 名簿
○→生存、●→死亡
● 男子01番 浅倉威
○ 男子02番 阿部高和
● 男子03番 天野河リュウセイ
○ 男子04番 泉研
○ 男子05番 オルガ・イツカ
● 男子06番 井之頭五郎
● 男子07番 剛田武
● 男子08番 相楽左之助
○ 男子09番 じーさん
● 男子10番 先行者
● 男子11番 多治見要蔵
● 男子12番 でっていう
● 男子13番 永沢君男
● 男子14番 獏良了
● 男子15番 ヒューマンガス
● 男子16番 日吉若
● 男子17番 ベネット
○ 男子18番 ドナルド・マクドナルド
● 男子19番 ケニー・マコーミック
○ 男子20番 ドラコ・マルフォイ
○ 男子21番 やらない夫
○ 男子22番 やる夫
○ 男子23番 ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ
● 女子01番 うさみちゃん
○ 女子02番 木之本桜
● 女子03番 桐敷沙子
● 女子04番 日下部みさお
○ 女子05番 古明地こいし
● 女子06番 佐天涙子
● 女子07番 沙耶
● 女子08番 水銀燈
● 女子09番 枢斬暗屯子
○ 女子10番 フランドール・スカーレット
● 女子11番 ちゅるやさん
○ 女子12番 デデンネ
○ 女子13番 ベータ
● 女子14番 北条沙都子
○ 女子15番 ポプ子
● 女子16番 まっちょしぃ
● 女子17番 美樹さやか
● 女子18番 見崎鳴
● 女子19番 ルーシー・モード・モンゴメリ
● 女子20番 山田葵
● 女子21番 山村貞子
● 女子22番 両儀式
【生存者 残り15人】
98
「うおおおおおおおお!!」
BR法委員会ツインタワービル西棟入り口でオルガ・イツカの叫び声が響く。
オルガは両腕を大きく振りながら走る事で、普段以上に体を大きく見せていた。オルガなりの相手を威圧する方法である。
突然現れたオルガを見て、ストームトルーパーは驚きを隠せない。
「うわああああああ!」
ストームトルーパーの一人が悲鳴を上げた。それを黙らせるかのように、オルガは懐からトカレフTT-33を取り出して撃った。
この一撃でストームトルーパーは倒れた。
「こ、こいつは生徒だ!」
「くそっ、この雷騒ぎの共犯って事か!」
別のストームトルーパー達がオルガに銃を向けた。
それでもオルガ・イツカは止まらない。
ストームトルーパーらよりも早くオルガは二発の銃弾を放った。またも一撃で二人のストームトルーパーが倒れた。
「おい、誰かこいつの首輪を爆破しろ!」
「駄目だ!それは俺達じゃなく、黒服らにしか出来ねえ!」
「じゃあ黒服はさっさとコイツの首輪を破壊しろ!こんな時に一体何をやってるんだ!」
今やストームトルーパーらの注意は止まらないオルガに向けられていた。マルフォイとさくらはそれを確認すると、なるべく足音が出ないように努めながら速足でビルの入口へと近づいた。さらに身を低くすることで、極力見つからないようにした。そのかいあってか、二人はストームトルーパーに見つかることなく、順調に入口へと近づいていった。
「畜生!このクラスの生徒共はどうなってやがるんだ!空を飛ぶ!首輪を自力で解除する!島中に雷を落とす!かと思ったら戦艦とネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲も沈める!挙句は他の生徒が空飛ぶマシンでビルに突撃する!お前らそれでも人間か!?お次は単身、ビルの入り口で銃撃戦と来た!アンタ一体何者だ!」
オルガはストームトルーパーの言葉に耳を傾けようとはしなかった。だが、今まさにマルフォイとさくらの二人が気づかれる事無くビルに侵入しようとしていた。
オルガは二人を見ると、内心で叫んだ。
足を止めるなぁ!!あと少し、あと少しで!
オルガは二人を無事に行かせるために、より一層自分に注目を向けさせる事にした。オルガは足を止め、ストームトルーパーらに向き合う。
「俺は…鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ…!」
そう言ったオルガの気迫にストームトルーパーらが怯んだ。
オルガは眼だけを動かしてマルフォイとさくらの様子を見た。
よしっ!
この瞬間、マルフォイとさくらは無傷でビルへと侵入した。
それを見て安心したオルガは再び全力疾走を始めた。そんなオルガをストームトルーパーらは追いかける。走るオルガを狙ってストームトルーパーがブラスターから光弾を放つ。放たれた弾丸がわずかにオルガを掠める。それでもオルガは止まらずに走り続ける。
死なねぇ!死んでたまるか!このままじゃ…こんなところじゃ…終われねぇ!!
「こっちこっち!」
この声は――さくらかっ!?
オルガは声の聞こえた方、ビルの入り口付近に目を向けた。そこではさくらが大きく手を振りながら、その場でジャンプしていた。
突然の出来事にオルガを狙っていたストームトルーパーらの動きが止まる。その中で一人のストームトルーパーがさくらにブラスターを向けた。
その瞬間、物陰からマルフォイが姿を現した。マルフォイは持っていたエクスカリバールを、そのストームトルーパーの頭に振り下ろした。
マルフォイの存在に気づかなかったストームトルーパーはマルフォイの一撃を頭に受け、さくらに光線を放つことなくその場に崩れ落ちた。
「くそっ、仲間がいたのか!」
残ったストームトルーパーらはマルフォイにもブラスターを向けようとした。だが、それよりも早く、オルガが数発の銃弾を放った。ストームトルーパーらに銃弾が直撃したのを見るや、オルガとマルフォイは走り出した。
ついにオルガは委員会の本部であるビルに侵入した。一人、入り口付近で待機していたさくらとも合流した。
「いい仕事だぜ二人共!」
オルガは笑みを浮かべてマルフォイとさくらの行動をほめたたえた。マルフォイとさくらは共に照れくさそうな顔をした。
「突然作戦には無い行動を取ったから驚いたぜ。ハラハラさせやがって」と走りながらオルガが言った。それに対してマルフォイが答えた。
「おや?そんな事言って、僕と木之本のサポートが無ければ、今頃君はブラスターの餌食となっていたかもしれないじゃないか」
「――その通りだな。二人共、恩に着る!次もこの調子で頼むぜ?」
「ええっ!?出来ればこういう事はもうやりたくないかな…」と、さくらが困った顔で言った。
三人は走っていたが、正面の壁にビルの案内図が示されている事に気づいた。じっと案内図を見ていた三人だが、さくらが案内図の一ヶ所を指さした。
「二人共、ここを見て!首輪管理室って書いてあるけど、もしかして――」
「ああ。恐らくこの部屋で僕らの首輪を管理しているんだな」
「そのまんまじゃねぇか…。この案内図、えらく親切だな」
マルフォイとオルガは呆れたように言った。だが、三人の表情には希望が現れていた。
「この部屋に行けば、みんなの首輪を外す事も出来るよね?そしたら――もうみんなで殺し合いなんてしなくていい。一緒にこの島から帰れるんだよね!」
「あと一踏ん張りってところかな。頑張るフォイ!」
さくらとマルフォイは喜び露わに言った。だが、オルガだけは違っていた。オルガは未だ案内図を見ている。やがて、オルガは二人に向き合った。
「どうやら首輪管理室への行き方には複数通りあるみたいだ。二人は最短経路で向かってくれ」
それを聞いて、さくらが驚いた。
「二人って――オルガ君はどうするの!?」
「俺は別ルートで寄り道してから向かう。前にも言ったが、俺は委員会に落とし前をつけなきゃならねぇ。その為に俺はここまで生きて来たんだ」
「でもっ――」と言ったさくらをマルフォイが止めた。
「それで構わないさ。君は落とし前でも復讐でも、好きにやればいい。だが――絶対に死なないでくれよ。折角、君とは親しくなったんだ。それなのに憎き委員会の奴らに殺されでもしたら、僕としても気分が悪いからね」
「ああ――俺は死なねえ、約束だ。鉄華団団長として、団員を裏切りはしねえさ」
「だから僕は団員になった覚えはないんだけどな」
「参ったな――」とオルガが言った。
それを聞いて、さくらが笑った。つられるようにマルフォイ、オルガも笑った。だが、それもすぐに止まる。三人は無言で頷いた。
マルフォイとさくらはオルガと別れた。そして、それぞれの目的を果たすために走り出した。
99
オルガらの侵入を許したストームトルーパー達はうろたえていた。
「どうする?」
「奴らを追いかけるべきじゃないのか?」
「放っておこうぜ。ビル内の奴らが始末してくれるだろ」
「そうだな」
その直後、デデンネのインディグネイションによって東棟最上階が吹き飛ばされた。
ストームトルーパー達はこの事態に言葉を失った。
「なんだよ――これっ!?」
「うわあああああっ!もう嫌だああああああ!」
「こんな島にいられるか!俺は泳いででも帰らせてもらう!」
「そ、そんな事――委員会上層部に聞かれたら、お前の命は無いぞ!」
「うるせえ!どうせ、この島にいても雷にやられて死ぬだけだ!」
ついにはストームトルーパー同士でいがみ合いが始まった。そんな光景を見かねてか、どこからか二人のストームトルーパーが現れた。この二人は、いがみ合っているストームトルーパーらに近づいた。
「お静かに」
二人の内の一人が落ち着いた声で言った。ただ、その言葉には聞いた者を黙らせるほどの迫力があった。ストームトルーパー達は突如現れた二人の仲間に驚いた。
「なんだ、お前らは。どこの警備担当だ?」
「私は利根川直属の舞台だ。生徒の電撃により通信回路が破壊された。緊急事態につき私が臨時に指揮をとる。私の言葉は利根川の言葉と思って戴きたい」
「と、利根川先生直属だって!?」
現れたストームトルーパーの突然の発言にストームトルーパー達がざわついた。利根川直属の者だと名乗ったストームトルーパーは話を続ける。
「例の女子生徒は東側のビルの最上階付近にいる。姿を現した瞬間を仕留めろ」
「それって――俺達に東棟へ行けって言う事ですか!?」
「それが委員会からの命令だ」
「そんな――」と、ストームトルーパー達が反論しようとした。だが、利根川直属のストームトルーパーの内のもう一人が手に持っていた大きな銃を突きつけると、瞬時に黙り込んだ。
「あれ~、そんな態度取っちゃっていいんですかぁ~?私たちに逆らうって言う事は、利根川先生ましてや委員会に逆らうって事ですよ?でしたら――今ここで全員死ぬか?」
この一言で、ストームトルーパー達の行動は決まった。
「ぜ、全員、ひ、ひ、東棟へ行くぞ!」
そう言ってストームトルーパー達は東棟へと走っていった。
それを見ていた利根川直属と名乗ったストームトルーパーの二人は静かに本部のビルへと入った。この二人は周囲に人がいない事を確認すると、身につけていた防具を脱ぎ捨てた。
中から姿を見せたのはロムスカ・パロ・ウル・ラピュタとベータだった。
二人はオルガらがビルへ侵入しようとしている姿を見つけると、そこから離れた場所でその様子を窺っていた。ストームトルーパーらの注目がオルガに集まるのを確認すると、オルガの銃弾に倒れたストームトルーパーを二人見つけ、その装備を奪い取って身につけたのであった。
「やっぱり侵入するとしたらこの格好を利用しない手は無いですよね~」
「私もそれには同感だ」
ムスカとベータはそろって走り出した。
「さっき、東側ビルの屋上を吹き飛ばしたのはデデンネで間違いないだろう」
「私もそう思いますよ」
二人は案内図を見つけると、東棟への経路を確認し、走り出した。
100
「ああもう!キツイ!狭いんだけど!」
「やる夫はこの圧迫感が堪らないお…」
「ちょっと!やる夫、あんたどこ触ってるのよ!」
「やる夫じゃないお。触ってるのはドナルドだお」
「アラーッ!?」
「道化師さん?」
「ドナルドじゃないです。フランちゃん、狭い車内で暴れないでね。君はスマートボムを持ってるんだから」
「いやいや、道化師さんの丸太が邪魔くさいのよ!」
「おおおっ!?やる夫の体に柔らかいものが当たって――」
「やる夫、キモおっ!」
やる夫、フランドール・スカーレット、ドナルド・マクドナルドの三人は車の後部座席に乗って騒いでいた。
運転している阿部高和はそんな三人の騒ぎ声を聞いて笑みを浮かべた。
助手席に乗っていたやらない夫は頭を後ろに向けた。後部座席の三人もやらない夫の顔を見る。
ニヤリとやらない夫は笑った。そんなやらない夫にドナルドが不満をぶつける。
「ズルいじゃないか、やらない夫君。真っ先に助手席に座るなんて。これでドナルドは狭い後部座席にすし詰めにされてしまったよ」
「そうよ!こういうのは女の子に譲るべきでしょ」
「やる夫としてはやらない夫に感謝」とやる夫が呟いた。
それに対し、やらない夫は誇らしげに言った。
「何とでも言え!速いもの勝ちだ!」
フランとドナルドはやらない夫の変化について話し始めた。
「やらない夫ってこんな奴だっけ、もっと暗い奴だと思ってたけど」
「んー、ドナルド達の知らない所で彼らも色々あったんだろうね。まあ、今の性格の方が良いんじゃないかい?」
やらない夫は聞いているだけで恥ずかしくなり、前を向いた。この話を終わらせるべく、やらない夫は別の話題を切り出した。
「おい、そんな事より、今後の計画についてもう一度確認した方が良いんじゃないか?」
それにドナルドが応じる。
「勿論さあ☆ドナルド達はただビルに突っ込んで、はいお終いとはいかないからね。主な目的は二つ。絶賛大暴れ中のデデンネちゃんを止める事と、首輪を解除する事だね。デデンネちゃんを止める方法は、阿部さんが手に入れたキチガイレコードを島中のスピーカーから大音量で流すという事だったね」
「利根川が放送してたのと同じ要領だな」とやらない夫が言う。
「ああ。ドナルドの武器シートによれば、キチガイレコードには聞いた人々を発狂させる恐怖のメロディが入っている。そして、デデンネちゃんが超人化の薬で超人と化しているとすると、その五感も発達している筈だ。だからこそ、キチガイレコードのメロディによる影響がドナルド達よりも大きくなるはずだ。ただし、ビル内にレコード再生機があるとは限らない。その時は仕方がないけど――」
「私のスマートボムの出番ってわけね」とフランが言った。
ドナルドは無言で頷いた後、再び話し始める。
「もう一つの首輪解除の方法は単純さ。委員会がドナルド達の首輪を爆破する前に、この混乱に乗じて首輪の管理権を奪う事さ。その為には素早くビル内で首輪の管理室を見つけないといけない。とにかく急ぐ、そして邪魔する委員会の連中は全員倒す。それが重要かな」
「だったら、首輪の解除の方は私がやるわ。だって凄く面白そうだもの」
「やる夫もフランちゃんに同行するお!」
フランとやる夫が首輪解除組になる事を希望した。ドナルドは笑って頷いた。
「じゃあ、そっちはフランちゃんとやる夫君に任せるよ。やらない夫君と阿部さんはドナルドと一緒に――」
「すまない。俺はその前にやる事がある」と阿部が運転しながら言った。
車内の全員が阿部を見る。阿部は運転したまま話し始める。
「俺はお前らを入り口で降ろした後、警備の奴らがビルに入れないように、この車で暴れるつもりさ。この作戦はビル内の敵が少ないほど成功率が上がる。入り口の警備をかいくぐってビルに入ったとしても、後ろから警備の兵士が追って来たら厄介だろう。俺達は警備の奴らと違って銃といった飛び道具をもっていないからな」
「阿部さん…」とやる夫が言う。
「心配するな、やる夫。警備の奴らを片付けたら俺もすぐに向かうぜ。それにまだ、やる夫とやらない夫とドナルドを掘ってないしな! 俺だってお前ら掘らずに死ぬ気はないからな」
阿部は笑った。だが、その直後に、阿部はやらない夫に話しかけた。
「やらない夫――俺にカイザギアを貸してくれないか?」
やらない夫の顔つきが変わる。
「――変身する気か?」
阿部は黙ったまま運転を続ける。やらない夫はため息をついた後に阿部に話しかける。
「阿部。お前が変身しないというのなら、こんなものはくれてやるよ。俺だって危なっかしくて、いつまでも持ってはいたくないだろ。だがな――お前が変身するつもりなら、これを渡すわけにはいかないだろ、常識的に考えて」
「その通りだお、やらない夫!」とやる夫が後部座席から言った。さらにやる夫は続ける。
「自分の命を犠牲にしてまでカッコつけるなんて、やる夫らの立場がますますなくなるお!いい男にも程があるお!」
「いや、俺はそういうのとは違って――まあいいや、とりあえず阿部。自己犠牲とかで変身するのは止めろ。そんな考えの奴にこのベルトはやれねえだろ」
そう言ったやらない夫の顔には今までにない真剣みがあった。それを阿部は横目で見た。
「そうかい――分かったぜ、二人とも。俺はこのベルトで変身しない。約束だ。ただし、万が一に備えて、武器になるものが欲しい。そのベルトは振り回せば鈍器にはなると思う。そういう目的なら、ベルトを使ってもいいだろう?」
阿部の話を黙って聞いていたやらない夫はしばし考えた後、カバンの中からカイザギアを取り出すと、阿部に手渡した。阿部は運転しながら、片手でそれを受け取った。
「いい男なら、約束の一つぐらい守れよ」
「分かってるさ」
阿部はそう言うと、持っていたキチガイレコードをやらない夫に受け取るように言った。やらない夫はゆっくりと、阿部の持っていたキチガイレコードを引き取った。
「それに強い衝撃を与えないように気を付けてね」と、ドナルドが言った。
彼らを乗せた車は次第にBR法委員会のツインタワービルに近づいていく。ついに視界にツインタワービルが入った時である。
デデンネのインディグネイションによって東棟最上階が吹き飛んだ。この光景に車内は大騒ぎとなった。最初に声を上げたのはやる夫だった。
「な、なんだお!?」
「雷が落ちたのか!?」と、やらない夫も驚く。
「いや、さっきからの落雷とは比べ物にならない威力だね――。きっとデデンネちゃんの仕業だろうけど」
「お、俺達、あんな化け物と戦うのかよ――」
冷静に分析したドナルドの発言を聞いて、やらない夫は青ざめた。
だがフランは怯むどころか、より一層テンションを上げた。
「凄いね今の!皆見たでしょ?ああもう、祭りは始まってるのね、私達は出遅れちゃったじゃん。ねえ阿部さん、もっと飛ばしてよ」
「いや、これでも法定速度の限界で運転してるんだが…」
阿部は運転しながら苦笑いを浮かべた。フランはそれを聞いて、阿部の座席を蹴った。
「ここは道路じゃないから、もっと飛ばしていいのよ」
「しかし――」
「私が許可する。飛ばせ」
「その言葉を待ってたぜ!」
阿部は力いっぱいアクセルを踏み込んだ。その瞬間、車はよりスピードを上げて進みだした。やる夫とやらない夫は青ざめた顔で、座席を掴んでいる。
ドナルドは特に表情に変化が見られない。フランは笑いながら、楽しそうに腕を振っている。
阿部は笑みを浮かべると、さらに速度を上げた。ハンドルさばきも先ほどとは一変して激しいものとなった。
フランは笑顔で阿部の座席を叩く。
「いいじゃん、阿部さん!もっと飛ばせ飛ばせー!」
「了解!」
阿部の運転する車の速度がさらに上がり、ツインタワービルとの距離がみるみる縮まっていく。車とツインタワービルの距離が数百メートルほどになった時点で、阿部が言った。
「皆、よく聞いてくれ。今から10秒後にこの車をビルの入り口に止める。そしたらお前たちはすぐに車から降りて、ビルに入ってくれ。さっき言ったように、俺が警備の奴らを引き付ける。また、警備の奴らが銃を撃ってくることも考えられる。だからお前らは身を低くしておいてくれ」
阿部はそう言った後、10秒のカウントダウンを始めた。
「阿部さんがカウントダウンすると、なんだか良からぬ想像をしてしまうお」
やる夫のボケにツッコむ者は誰もいなかった。
「10…9…8…」
車はついに、ビルの前に現れた。ストームトルーパー達の素顔が仮面で見えなくとも、車が向かって来ることに慌てる様子は見て取れた。
「7…6…5…」
慌てて車から離れるストームトルーパーが大勢いたが、その中には果敢にもブラスターを構える者もいた。
「4…3…」
車がストームトルーパーの集団へと突っ込んだ。逃げ遅れた者や、ブラスターを構えた者は車に跳ね飛ばされた。
「2…1…」
走る車の後方から生き残ったストームトルーパーがブラスターを放つ。阿部は見事なハンドルさばきで光線をかわしつつ、入口へと近づいていく。
「ゼロ!」
阿部が急にハンドルを切り、車がドリフトをした。そのまま車はビルの入り口で止まった。それと同時に、車のドアが開き、やる夫、やらない夫、フラン、ドナルドの四人が勢いよく飛び出した。四人は振り返ることなく、ビルへと入っていく。
阿部は運転席で四人が無事にビルへ入ったのを見ると、再び車を発進させた。四人の侵入者及び、運転する阿部を狙って、ストームトルーパーらがブラスターを構えた。その一団に、扉の開いた状態の車を運転して阿部が突っ込む。ストームトルーパーらは慌てて車から距離を取った。
阿部は車を見事に運転してストームトルーパーらをビルに入らせないようにした。だが、車も少しずつブラスターの光弾を受け、ダメージが溜まっていく。
その時、一発の光弾が車のタイヤを撃ち抜いた。阿部の運転が途端に乱れる。車が傾き、横滑りを始める。
「今だ、撃てー!」
ストームトルーパーらは総員で阿部の車にブラスターを放った。遂に阿部の車が止まる。その直後、車は大きな音と共に炎を上げて爆発した。
「やったか!?」
ストームトルーパーらは叫んだ。
そんなストームトルーパーらの期待を裏切るかのように、炎の中から足音が聞こえてくる。
「おいおい、折角の名車が台無しだぜ。それに、俺のお気に入りのスカートまで灰にしやがって」
そう言って、阿部高和が姿を見せた。阿部の言う通り、紙で作ったスカートは無残にも焼け落ち、阿部の男性器が露わになっている。また、やる夫の剣でつけられた傷が痛ましい。今の阿部は一切の衣類を纏っていない。ただ、右手にはカイザギアが握られている。
そんな阿部の姿を見て、ストームトルーパー達は目を背けるように顔を後ろや下に向けた。だが、ストームトルーパーの中に一人だけ、阿部の生まれたままの姿から目を背けるどころか、阿部に見入っている者がいた。
阿部も、自分をじっとそのストームトルーパーを見つめた。阿部はそのストームトルーパーに近づく。ストームトルーパーは阿部から目を離す事も出来ず、じっとその場に佇んでいる。
その瞬間、阿部が素早くストームトルーパーの背後に回り込んだ。阿部は後ろからストームトルーパーに声をかけた。
「やらないか」
それを聞いたストームトルーパーのマスクの下から、ハッと息を呑む声がした。
だが阿部はストームトルーパーを掘らず、手に持っていたカイザギアをストームトルーパーの腰に巻き付けた。
阿部はカイザフォンのボタンを9、1、3、エンターの順に押した。カイザフォンからスタンディングバイと音声が流れる。
「俺が変身して戦えば手っ取り早いんだが、あいつらとの約束を破るわけにはいかないからな」
阿部はそう言うと、ストームトルーパーの腰に巻き付けられたカイザドライバーにカイザフォンを装填した。
コンプリートという音声と共に、ストームトルーパーの体が黄色い光に包まれる。次の瞬間には、ストームトルーパーは仮面ライダーカイザに変身していた。
変身させられたストームトルーパーは、突然の出来事に慌てた。その直後、自分の尻に異変を感じ、大声で「アッー!」と叫んだ。
変身した男の尻を、変身させた姿の上から阿部が掘ったのだ。
「こうすればリュウセイも死なずに済んだのにな――」と阿部が呟く。
一方で、掘られた男は全身の力が抜け、その場に膝をつきそうになった。だが、阿部が後ろから掘っているため、阿部に支えられる形となって、未だ立ち続けている。
「俺は阿部高和。委員会の奴らは敵だが、お前は俺と同じ穴の貉だろう。だから死ぬ前に天国を見せてやるぜ」
「はひ…」と、阿部に掘られた男が声を漏らす。
この光景に嫌気がさしたストームトルーパー達は阿部と阿部に掘られたカイザへブラスターを放つ。それらの光弾を阿部はカイザを掘った状態でかわす。かわし切れない光弾は、阿部がカイザを盾にする形で防いだ。ストームトルーパーらはこのままでは埒があかないと考え、阿部の背後を取ろうとした。だが、阿部の素早いフットワークの前では不可能な事であった。阿部の背後を取れないストームトルーパーらを見て阿部がつぶやく。
「甘いな。その程度じゃ俺の
エクシードチャージと音声が流れる。それと同時に阿部及びカイザが高くジャンプする。そして、ストームトルーパーの集団目がけ、必殺のゴルドスマッシュを放った。
101
「馬鹿な――この程度の威力だと!?」
デデンネは自分のインディグネイションの威力の低さに驚きを隠せなかった。本来であれば、ビルの最上階だけでなく、さらに数フロア下まで破壊できると見積もっていた。だが実際には最上階のみを吹き飛ばす程度に終わった。
デデンネは原因を考えた。一つは、先ほどから電撃を使い過ぎた事による体内の電気の不足。これはデデンネ自身にも心当たりがあった。故に、コンセントから不足した電力を補おうとビルに近づいたのだ。
もう一つは、ポプ子に片方の髭を切り落とされたこと。デデンネの髭は電気を撃ち出す役割がある。その内の一つを失ったがため、この様な威力の低下が起こったのだろう。
またポプ子――。本当に、憎らしい奴でちゅね!
デデンネは雄叫びを上げた。
一刻も早く、コンセントから電気を吸収する必要がある。デデンネは、吹き飛ばした最上階からビルの中へと入った。
102
BR法委員会ツインタワービル内のvipルームも大騒ぎとなっていた。参加生徒の大半が本部のビルへと突入してきたうえ、委員会は生徒らを殺すどころか、この島から逃げるという決断をくだしたからだ。
これがvipらを怒らせる事となった。彼らは生徒が無残に殺されるのが見たいのであって、生徒に殺されたくはないからだ。
このままでは、自分らの身も安全とはいかない。vipらは怒りを抑えつつ、利根川の放送に従って島からの脱出を選んだ。
また、どの生徒が優勝するかに関するギャンブルに参加したvipたちも大騒ぎとなっていた。vipらも現段階で優勝者はデデンネだと確信した。なお、デデンネに賭けた者は最初の時点で二、三人しかいなかった。故に賭け金を巡った諍いも生じていた。
この時、vipルームの扉が勢いよく開いた。vipらは皆、扉の方を見た。
「なんて事だ――こんなに多くのジュラル星人が!全滅してやるぞ」
侵入者が叫んだ。
扉を開けて、vipルームに入って来たのは泉研だった。右手にはイングラムM10、左手にはパラソルが握られている。
この闖入者にvip達は驚き、騒ぎ始めた。
「だ、誰だお前は!?」
「見れば分かるでしょ、生徒の一人よ!」
「俺は知ってるぞ!い、泉だ!泉研だ!」
「は?」
「ちょっと、誰か何とかしなさいよ!」
「委員会はなにをやってるんだ!早くこいつを殺せ!」
「まあまあ、皆さん。お静かに」
あるvipが拳銃を片手に、研の前に歩み出る。
「どうだい、クソガキ。この拳銃はプレミアムの品でね、一度コイツで人を撃ってみたかったんだよ」
それでも研は動こうとしない。この研の様子を怖気づいたと見たのか、次第にvipらも勢いづく。
「オイオイオイ」
「死ぬわアイツ」
「ほう、イングラムM10ですか…たいしたものですね。イングラムM10の発射速度は非常に高いらしく近接戦闘で使う者もいるくらいです」
「なんでもいいけどよォ」
「相手はあのプレミアム拳銃だぜ」
「それにもう一方の手にある傘。これは相手の視界を遮るもののようです。しかも、急に広げれば相手を驚かせることもできる。それにしてもこれだけの数を相手だというのに、あれだけ落ち着いていられるのは、超人的な度胸というほかはない」
プレミアム拳銃を持ったvipが研に銃口を向けた。それと同時に、研はパラソルを前方に広げる。プレミアム拳銃から放たれた弾丸は研のパラソルによってはじかれる。研はその直後にパラソルから身を出し、イングラムM10で銃弾を放った。
vipルームで悲鳴が上がった。室内はvipの悲鳴と銃声で包まれたが、ほんの1,2分後には静まり返った。
再び扉が開き、中から研一人だけが出て来た。研は次なるジュラル星人を探し求めて走り出した。
その後、vipの人間を誘導するために黒服がvipルームへ訪れた。この黒服が扉を開けると同時に悲鳴を上げ、腰を抜かしたのは言うまでもない。
103
ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタとベータは東棟を登っていた。その過程で、二人を殺そうとする黒服らに出会ったが、二人は殴る、蹴る、トランプで斬る、撃ち殺すといった手段でここまで切り抜けて来た。
先を走るムスカが振り向いてベータに話しかける。
「来たまえ、こっちだ」
「言われなくても分かってるぜ。デデンネに会うまで登り続けりゃいいんだろ?」
ベータの瞳の色は青紫色、攻撃的な性格になっており、口調も荒々しくなっている。
その時、ベータの背後に突然誰かが飛び出してきた。
ベータは振り返ると同時にEM銃を背後の誰かに向けて撃った。撃たれた人物が叫んだ。
「みそしるーーーーーっっ!!!!!」
じーさんが絶叫した。
ベータの背後に飛び出してきたのはじーさんだった。
じーさんの断末魔の叫びにムスカとベータは一瞬きょとんとした。
光速の弾丸を受けたじーさんの体は後方へ勢いよく吹き飛ばされた。そして、勢いそのまま壁のガラスを突き破り、西へと跳んでいった。
じーさんの姿が消えた後、ベータの瞳が赤紫色になる。
「あらやだ、ごめんなさぁい☆撃っちゃったぁ」
ベータはてへぺろをした。ムスカは呆れた顔をしている。
「なぜ――最後の言葉が味噌汁なんだ?」
「お椀に入った暖かい味噌汁を死ぬ前に飲みたかったんじゃないですかぁ?ここじゃあ食べられるのは支給されたパンぐらいですし」
「そうか――いいな、味噌汁。私も帰ったら一杯、頂くとしようか」
「生きて帰れたらいいですね~」
「当然生きて帰るに決まってるだろう」
無駄口を叩きながらも、二人は東棟を登っていく。
【男子09番 じーさん 死亡】
【生存者 残り14人】
104
利根川幸雄は部下の黒服らを連れて格納庫へと走っていた。
先ほど、vipらを迎えに行かせた黒服からvipルーム内でvip全員が何者かによって撃ち殺されたと報告が入った。
利根川は歯を噛み締めた。
爆破しておくべきだった…生徒共の首輪を…!
利根川はビル内の全ての黒服に避難指示を出した。首輪管理室の黒服らも同様である。今や首輪管理室はもぬけの殻となっており、生徒の首輪を爆破するには誰かが首輪管理室まで行かなくてはならない。
だが、長年委員会に尽くしてきた利根川にとって、委員会の都合で首輪を爆破するという事は躊躇われた。
首輪はあくまで生徒らに逃げ場がない事を実感させて殺し合いを進行させるためのものであり、委員会が勝手な理由で首輪を爆破する事はあってはならないと利根川は考えている。
でも…もう分からん…!一体、何人の生徒がビルに侵入しているのか…!
デデンネによる騒ぎから始まり、唯一神様と蓮実の逃走、屋外でのストームトルーパーらの死、ビル内での黒服らの死、そして次はvipらの死と来た。混乱のさなかで、情報が錯綜しており、誰の首輪を爆破すればよいのかが分からなかった。
仮にも島の中を未だ逃げ回っている生徒がいたとして、その生徒の首輪を爆破するようなことがあっては、プログラムの実行委員会として許されない。
当然…!生徒らに殺し合いを強いる時点で、生徒らの委員会への反抗も…!推奨している…!果敢にも本部へ戦いを挑むことを…!
だが、今となっては全員の首輪を爆破しておけば良かったと利根川は思った。
しかし、この悪夢ももう終わる。
利根川と黒服は格納庫の前に到達した。利根川は黒服らを見やる。
「誠に残念だが…我々も多くの同僚、そしてvipの皆様を失った。しかし、ワシらがするべきは彼らの復讐ではない。生きてこの島から逃げる事だ!そして、逃げ切った後、ワシから唯一神様に交渉する…奴ら生徒の皆殺しを…このプログラムで命を落とした黒服たちを甦らす事を…!だからこそ!ワシらは生きねばならん!」
利根川の言葉に応じるように黒服たちは掛け声を上げた。
利根川は頷くと、格納庫の扉に手をかけ、勢いよく開いた。
その瞬間、扉が吹き飛び、中から凄まじい勢いで爆炎が噴き出した。突然の爆炎に利根川、及び数多の黒服が巻き込まれた。幸い爆炎に巻き込まれなかった黒服たちも、爆風のあおりを受けて転げた。利根川はまるで土下座をしているかのような体制で動かなくなった。
その時、扉から離れた場所にいた黒服、
「――バックドラフト…!」
ざわざわ…。
無事だった黒服らは萩野の方を向く。萩野は話を続ける。
「火を放ったんだ…格納庫内に…誰かが…!そして扉をしめ切って…さっき扉を開けた時点で…酸素が入って…爆発…!おそらく引火した…中の飛行機やヘリコプター…!もう使えない…逃げられない…俺達は…!」
ざわ…ざわざわ…ざわ…。
黒服たちはそれを聞いて青ざめた。その時、どこからともなく声が聞こえてきた。
「オジサンたちごめんね。もし誰かにヘリコプターでも使われて逃げられちゃったら、私が帰れなくなっちゃうの」
歌うような少女の声が聞こえてきたが、その姿は見えない。黒服らは一層戸惑うが、それらを意に介さず声は今も聞こえてくる。
「これでこの島からは誰も逃げられないから一安心。でも、こんな状況じゃあもう誰が生き残ってるか分からないし――全員殺す事にするね」
黒服らは誰がこんな物騒な事を言ってるのか、声の主を探そうと試みるが、一向に見つけることが出来ない。
「ところで――オジサンたちは全員に含まれてるのかな」
透明マントが脱ぎ捨てられる。
古明地こいしがそこにいた。
火炎放射器は黒服らに向けられていた。
105
「ついに見つけたでちゅよ、コンセント!」
デデンネはビル内のコンセントを見つけると、狂喜乱舞した。早速、電気を補給するために、コンセントにしっぽを突き刺した。
その時、飛んできた一枚のトランプがデデンネのしっぽを切り落とした。
デデンネは悲鳴を上げ、後ろに飛び退いた。そんなデデンネの体の側を光速の弾丸が駆け抜けた。
デデンネは恨みがましい目で、光弾の飛んできた方を見る。
デデンネの視線の先にはムスカとベータがいた。ムスカの手にはゾリンゲン・カードがあり、ベータはEM銃をデデンネに向けて構えていた。
データは隣にいたムスカを睨みつけた。
「テメエ、しっぽを切断すると同時に弾丸を当てる手筈だっただろうが!トランプを投げるタイミングが速いんだよ!」
「そうか――私のカード捌きはついに光速をも凌駕した――という事かね?」
「はいはい、王様は凄いな」
呆れたようなベータの発言に、ムスカは高笑いをする。
だが、デデンネは笑っていられるような状態ではなかった。切り落とされたしっぽを掴んだデデンネはムスカとベータを睨みつける。
そのデデンネの顔を見るや、ベータは再び光速の弾丸をデデンネへ放った。
だが、デデンネは弾丸をかわした。デデンネの目はベータの指にわずかな力が入るのを見逃さなかった。それを見ると、極限まで鍛え上げられた全身に力を込め、横へ跳んだのだ。
デデンネが弾丸を避けたという事態に、ベータも驚きを隠せない。
「何だよ、あの反射神経。化け物か?」
「化け物――こ、こ、この可愛らしい私に向かってなんて無礼なぁぁッ!」
「え?可愛らしい?面白いの間違いですよねぇ~?鏡で今の貴方の姿を見たら、きっとびっくりしちゃいますよぉ」
ベータは元の性格に戻り、デデンネの怒りの火に油を注ぐよう煽る。
デデンネが手をベータへと突き出し、その手から電撃が放たれた。ベータも持ち前の反射神経でデデンネの手が動くと同時に、身を屈めて横へ跳び、電撃をかわした。
「ああもう、何なんですか!なんでデデンネ一人だけ電撃使えるんですか?ズルーい!」
「怖気ついたか?だったら君は床に伏せていたまえ」
ムスカはそう言ってベータの前に立つ。そして、手の中でゾリンゲン・カードを広げる。
「天より大地を支配するのはラピュタ王、ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタをおいて他にない。デデンネ、君には即刻、仮初の王座からお引き取り願おうか」
106
蓮実聖司は自分の警備としてストームトルーパーを二人傍らにつけ、ビルを歩いていた。
このような非常事態に備え、蓮見は自分専用の小型ヘリコプターをこの島に隠しておいた。
いつまでもこの島にいては自分の命が危ない。それに、自分の命を賭してまで委員会に尽くす必要は無い。
蓮実はビル内のあちこちから聞こえる喧噪に耳を傾けながら、ゆっくりと歩く。今ではこの騒ぎを楽しむ余裕すら生まれていた。
その時だった。蓮実が急に足を止めた。二人のストームトルーパーは蓮実の顔を見る。蓮実は無言のまま、二人にも口を閉じて止まるよう、ジェスチャーで示した。
ストームトルーパーらも静かに蓮実の隣で動きを止めた。
この沈黙を破るように、遠くから足音が聞こえて来た。音から判断して二人。テンポの速さから走っているのだと推測できた。足音は次第に大きくなっている。
蓮実は物陰からそっと顔をのぞかせ、走っているのが誰であるかを見た。
それは木之本桜とドラコ・マルフォイの二人であった。次第に蓮実らのいる場所へと近づいてくる。
蓮実は笑みを浮かべると、二人の前に突然飛び出した。
「Great! マルフォイ君に木之本さん、君たちがこの殺し合いでここまで生き残ったとは、先生にも予想外だ。君たちの健闘をたたえようじゃないか!」
常日頃の授業と同じような高いテンションで蓮実はマルフォイとさくらに声をかけた。驚いた二人は走るのを止め、後ずさった。さくらの顔からは怯えているのが見て取れる。マルフォイは蓮実への嫌悪感を露わにしている。
そんな二人の顔を見て蓮実は笑った。
「その顔――先生がここにいる事を知って驚いたのとは違うね。俺が委員会の会員だと君たち二人は知ってたんだね。オルガ・イツカ君から聞いたんだろう?」
マルフォイとさくらは無言のまま、ゆっくりと後退する。マルフォイがさくらの前に立ち、蓮見を睨みつける。マルフォイは両手でエクスカリバールを持って蓮実に向ける。
蓮実は肩をすくめた。
「おっと。俺もこの後の予定が詰まっていてね。可愛い教え子でもある君たちの努力を称して、苦しまずに殺してあげよう」
蓮実がそう言うと、二人のストームトルーパーが蓮実の左右に並ぶ。ストームトルーパーがブラスターをマルフォイとさくらの顔面に向けた。マルフォイとさくらは目を閉じる。
蓮実が手を振った。
二発の銃声が鳴り響いた。
しばしの沈黙が訪れた。
マルフォイとさくらは撃たれたと思ったものの、体に痛みが無い事に気づく。恐る恐る目を開け、自分の体を確認した。二人共、ブラスターによる光弾を受けてはいなかった。
マルフォイとさくらは正面を見る。二人のストームトルーパーが床に倒れていた。蓮実は今、二人を見ていない。首を回して後ろを見ていた。
「よう蓮実。落とし前をつけに来たぜ」
その声を聞いて、マルフォイとさくらは蓮実の後ろにいる人物を見た。蓮実も笑みを崩すことなく、その人物に話しかける。
「オルガ・イツカ――」
蓮実、マルフォイ、さくらはオルガの姿を見た。
オルガがS&W M29を両手で構え、銃口をしっかりと自分の頭に向けられている事に蓮実は気づいた。
その瞬間、蓮実はその場に膝をついた。そして両手を頭の後ろで組んだ。
「Excellent!よくぞ、この地獄の殺し合いを生き延びた、オルガ・イツカ!それも一度ならず二度までも!もう間違いない、君が優勝だ!」
オルガは蓮実の言葉に耳を貸さずに睨みつける。それでも蓮実は話を止めない。
「この時点で続行は不可能、もうプログラムは終了だ! これ以上の殺し合いは無意味だ、すぐにでも止めさせよう。しかし、委員会では君を二度目の優勝者として、特別に唯一神様との面会を認めよう!」
「あんた正気か?」
オルガが吐き捨てる。それでも蓮実は動じない。
「Exactly!私の権限を使えば、君を唯一神様に会わせる事は可能さ。そして、私も君と一緒に唯一神様に頼むとするよ、君の望みを!何が望みだ?かつての君のクラスメイト、全員を生き返らせる事かい?」
蓮実は自分の頭を床に付け、オルガに頭を下げる形となった。
この蓮実の行動に、オルガの視線が一瞬蓮実からずれた。
その隙を蓮実は逃さなかった。
蓮実は瞬時に手を伸ばし、倒れたストームトルーパーが持っていたブラスターをつかむ。
オルガは、この蓮実の行動に驚きつつも、引き金にかけた指に力を込めようとする。
だが蓮実の方が速かった。蓮実はブラスターを拾い上げると同時に、オルガへ数発の光弾を放った。放たれた光弾がオルガの体を貫いた。
オルガは左手の人差し指を前に伸ばすようにして倒れた。
蓮実の笑い声だけがこだました。
ハーメルン学園3年β組45名 名簿
○→生存、●→死亡
● 男子01番 浅倉威
○ 男子02番 阿部高和
● 男子03番 天野河リュウセイ
○ 男子04番 泉研
○ 男子05番 オルガ・イツカ
● 男子06番 井之頭五郎
● 男子07番 剛田武
● 男子08番 相楽左之助
● 男子09番 じーさん
● 男子10番 先行者
● 男子11番 多治見要蔵
● 男子12番 でっていう
● 男子13番 永沢君男
● 男子14番 獏良了
● 男子15番 ヒューマンガス
● 男子16番 日吉若
● 男子17番 ベネット
○ 男子18番 ドナルド・マクドナルド
● 男子19番 ケニー・マコーミック
○ 男子20番 ドラコ・マルフォイ
○ 男子21番 やらない夫
○ 男子22番 やる夫
○ 男子23番 ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ
● 女子01番 うさみちゃん
○ 女子02番 木之本桜
● 女子03番 桐敷沙子
● 女子04番 日下部みさお
○ 女子05番 古明地こいし
● 女子06番 佐天涙子
● 女子07番 沙耶
● 女子08番 水銀燈
● 女子09番 枢斬暗屯子
○ 女子10番 フランドール・スカーレット
● 女子11番 ちゅるやさん
○ 女子12番 デデンネ
○ 女子13番 ベータ
● 女子14番 北条沙都子
○ 女子15番 ポプ子
● 女子16番 まっちょしぃ
● 女子17番 美樹さやか
● 女子18番 見崎鳴
● 女子19番 ルーシー・モード・モンゴメリ
● 女子20番 山田葵
● 女子21番 山村貞子
● 女子22番 両儀式
【生存者 残り14人】