やる夫とクラスメイトがバトロワに参加させられたようです   作:MASUDA K-SUKE

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「何勘違いしているんだ…!!」
「ひょ?」
「まだ俺の小説は終了していないぜ!!」

ハーメルン学園3年β組45名 名簿

○→生存、●→死亡

● 男子01番 浅倉威
○ 男子02番 阿部高和
● 男子03番 天野河リュウセイ
● 男子04番 泉研
● 男子05番 オルガ・イツカ
● 男子06番 井之頭五郎
● 男子07番 剛田武
● 男子08番 相楽左之助
● 男子09番 じーさん
● 男子10番 先行者
● 男子11番 多治見要蔵
● 男子12番 でっていう
● 男子13番 永沢君男
● 男子14番 獏良了
● 男子15番 ヒューマンガス
● 男子16番 日吉若
● 男子17番 ベネット
○ 男子18番 ドナルド・マクドナルド
● 男子19番 ケニー・マコーミック
○ 男子20番 ドラコ・マルフォイ
○ 男子21番 やらない夫
○ 男子22番 やる夫
● 男子23番 ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ
● 女子01番 うさみちゃん
○ 女子02番 木之本桜
● 女子03番 桐敷沙子
● 女子04番 日下部みさお
○ 女子05番 古明地こいし
● 女子06番 佐天涙子
● 女子07番 沙耶
● 女子08番 水銀燈
● 女子09番 枢斬暗屯子
○ 女子10番 フランドール・スカーレット
● 女子11番 ちゅるやさん
○ 女子12番 デデンネ
● 女子13番 ベータ
● 女子14番 北条沙都子
○ 女子15番 ポプ子
● 女子16番 まっちょしぃ
● 女子17番 美樹さやか
● 女子18番 見崎鳴
● 女子19番 ルーシー・モード・モンゴメリ
● 女子20番 山田葵
● 女子21番 山村貞子
● 女子22番 両儀式

【生存者 残り10人】


18話

116

 決まったお…!

 やる夫は先ほどの自分に酔いしれていた。

 やっぱりこの世に生まれたからには、一度くらいこういうセリフを言ってみたかったんだお!

 そんなやる夫の内心の喜びを知らない古明地こいしは、やる夫に向かって話しかける。

「ねえねえ、転校生のやる夫君。貴方もこのプログラムを終わらせて帰りたいのね?」

「その通りだお!」

「じゃあ、私を殺しに来たという事で間違いないよね?貴方もよりにもよって今日転校してくるなんて。さらに一人追加で殺さなくちゃいけないのね」

「いやいや、やる夫は誰かを殺す気はないお。これ以上の死人を出さずにこの島から帰る方法があるんだお!」

「ふーん。教えてくれる?」

「もちろんだお!この先の首輪管理室で、皆の首輪を解除するんだお!」

「へー、もしそうなったらこの島から逃げる子が出てきちゃうね」

「その通りだお!――ん?逃げる子が出ちゃうって、別に構わないんじゃないかお?まるで、それをされたら不都合みたいな言い方だお」

 こいしはやる夫に返事することなく、先ほど木之本桜が通った方向へと走り出した。

 それを見たドラコ・マルフォイは声を振り絞ってやる夫に怒鳴った。

「お前は何て馬鹿なことを言ってくれたんだ!」

「ええっ!?」

「あいつは――古明地はプログラムに乗ってるんだぞ、そんな説得が通じる訳ないだろう!」

「いやっ、首輪を無効化できればこれ以上殺し合いをする必要もなくなるから、戦いを止めてくれるんじゃないかと――」

「残念だね、古明地はそういう理屈が通じる奴じゃないんだよ!」

「でもあの子は首輪管理室の方へ走って行ったお。きっと首輪を解除しに行ったんだお」

「違うね!既に僕の仲間が一人、首輪管理室に首輪を解除しに向かっている。古明地はそれを邪魔しに行ったんだ!」

 ブーッ、と大きい音を出してやる夫は噴き出した。マルフォイは床に倒れたまま、やる夫に話し続ける。

「僕も動きたいが、残念な事にこんな怪我をしてしまってね。だから君がすぐにでも古明地を止めてくれ!」

「わ、分かったお!まったく、本当にこのクラスには危ない人が多すぎるんだお!さっきのポプ子といい、いまの古明地という人といい、プログラムに乗ってる人ばっかりだお!」

 やる夫は黄金の剣をこいしの背に向け、光弾を放った。やる夫の体力が光弾の発射に消費され、疲労感がやる夫を襲う。

 放たれた光弾がこいしを目がけて飛んでいく。こいしは走りながら後方に目をやると、光弾が飛んでくるのを確認し、横へ素早く跳んだ。光弾はまたもこいしの側を飛んでいった。

 こいしはやる夫の方を振り向く。それでも、こいしの表情には怒り、焦りといった変化は見られない。いつも通りの表情だった。

「まあいいや。仮に首輪が外れても、皆が逃げるよりも先に殺せばいいだけだよね」

 こいしは鱧切り包丁を片手にやる夫へ向かって走り出した。

 

 

 

117

 木之本桜はたどたどしい足取りで首輪管理室へと入った。

 かつては黒服たちが全生徒の首輪を管理するために在中していたが、今は全員避難しており、この部屋はもぬけの殻となっていた。

 さくらは眼前に大きな機械が設置されているのを見つけた。ゆっくりと歩いてその機械に近寄る。

 機械には一つのタッチパネルがついていた。そこにはさくらを含めた全生徒の名前が表示されており、名前の横には生存、死亡を示すマークが表示されている。

 今は、首輪を自らの手で解除したデデンネを除く9人が生存となっていた。既にオルガ・イツカの名の横にも死亡を示すマークが表示されている。

 だが幸いな事に、さくらがオルガの死に気づくことは無かった。さくらの目はこの名簿ではなく、タッチパネル右下に表示されていた文字に引き寄せられていた。

 そこには全参加者の首輪解除と書かれたボタンが表示されていた。

 これで――みんな助かるんだよね――。

 さくらは震える右手でそのボタンを押した。

 タッチパネルに全参加者の首輪を解除しますか、と表示された。さくらはYESと書かれたボタンを押した。

 その直後、眼前の機械の電源が落ちた。それと同時に、さくらの首輪から電子音が鳴った。電子音が鳴り止むと、さくらの首輪が首から外れ、カランと音を立てて床に落ちた。

さくらは震える両手でゆっくりと自分の首を触った。プログラムが始まってから数時間、さくらを始め、生徒らを苦しめていた首輪は無くなっていた。

 やったよ――マルフォイ君、オルガ君、みんな――。

 さくらは弱々し気に笑みを浮かべた。

 これでもう殺し合わなくていいんだよね。あとはみんなで一緒にこの島から――帰ろう――。

 さくらの体から急速に力が失われていく。さくらはその場に倒れた。

 あれ――?駄目だよ、まだやらなくちゃいけない事はあるのに――。なんだかとっても眠いや――。

 さくらは静かに目を閉じた。

 

【女子02番 木之本桜 死亡】

【生存者 残り9人】

 

 

 

118

 やらない夫とドナルド・マクドナルドはビル内を走り、ついに利根川ら委員会が放送を行い、プログラムの進行を監視していた部屋へと辿り着いた。

 この部屋にも黒服は一人もいなかった。

 その時、やらない夫とドナルドの首輪が電子音を上げ、床に落ちた。

 やらない夫とドナルドは自分の首を触って首輪が解除されたことを確認した。やらない夫とドナルドは互いの顔を見て、笑みを浮かべた。

「しゃっ、オラァ!あいつら、やったんだな!」

 やらない夫が自分のこぶしを強く握りしめた。

 ドナルドは丸太を立てかけ、笑顔でランランルーをした。

「ランランルー!」

「なあ、それって嬉しくなるとついやっちゃうんだろ?」

「その通り!」

「まあ、今なら俺もランランルーをやりたい気持ちも分かるぜ。でもな、俺達だってやるべき事があるだろ?」

「勿論さぁ☆ドナルド達も早くレコードプレーヤーを探さないと。残念な事にデデンネちゃんはいまだ暴れているみたいだしね」

「おうよ!俺がランランルーをするのは全てを終わらせてからだな」

 やらない夫とドナルドは部屋を見回してレコードプレーヤーを探した。

 しばらくして、「あったぞ!」とやらない夫が叫んだ。

 ドナルドは部屋にあった機械を操作し、レコードプレーヤーと機械をつないだ。ドナルドは機械を操作する。

「よし、これで島中のスピーカーとレコードプレーヤーの接続は完了さ!さあ、やらない夫君、キチガイレコードをセットするんだ!」

「了解!」

 やらない夫はキチガイレコードをセットし終えると、両手で耳を塞いだ。

「いつでもいけるぜ!やれ、ドナルド!」

 ドナルドは無言で頷き、機械を操作した後、両耳を塞いだ。

 これで、デデンネは止まる。首輪も解除された今なら、この島から脱出できる!

 二人はいつキチガイレコードからメロディが流れても大丈夫なよう、耳を塞ぐ準備した。

 だが二人の予想を裏切り、静寂が訪れた。いつまでたってもメロディは流れなかった。

 やらない夫とドナルドの顔に冷や汗が浮かぶ。

 やらない夫はレコードプレーヤーを見たが、キチガイレコードは今も回転し続けている。

 ドナルドは無言で機械を操作した。しばらくして、ドナルドはこの作戦の重大な欠陥に気づいた。

「アラーッ!?」

「ど、どうした!?」

「島中の――スピーカーが全て壊れている――!」

 

 

 

119

 ポプ子とフランドール・スカーレットは今も戦いを続けていた。とはいえ、フランの一方的な攻撃からポプ子が逃げる形となっていた。

 ポプ子がスーパースコープで放った光弾は全てリボルケインに防がれる。だから釘バットで接近戦に挑んだが、フランの身体能力の高さにポプ子は終始押されていた。

 仮にフランのリボルケインがポプ子の体を貫けば、ポプ子の体は爆発四散する。一方で、ポプ子が渾身の力を込めてフランを釘バットで殴れば、フランにもダメージを与えられるだろう。だが確実に殺せるかどうかは分からない。

 実際、今のフランはそのような攻撃を受けても倒れるとは思えないほどに高揚していた。フランは笑いながらリボルケインを振り回す。ポプ子は小さい体を利用してフランの攻撃を必死にかわす。フランがリボルケインをポプ子の体に貫こうと勢いよく突き出す。それをポプ子は身を屈めてかわす。

 獲物を捕らえ損ねたリボルケインが壁に突き刺さった。

 チャーンスッ!

 ポプ子は釘バットを上段に掲げ、ここぞとばかりにフランへと迫る。

 だがフランの顔には今も満面の笑みが現れていた。

 フランがリボルケインを壁から引き抜く。リボルケインが壁に突き刺さった事で生じた小さな穴から勢いよく火花が噴き出している。

 ポプ子はそれに気づかなかった。絶好の機会を得たとばかりにポプ子がフランに近づく。

 その瞬間、リボルケインからエネルギーを注ぎ込まれた壁がエネルギーに耐え切れずに爆発した。壁から炎が噴き出し、勢いよく瓦礫が吹き飛ぶ。

 ポプ子は爆発の衝撃に吹き飛ばされた。悲鳴を上げながら床を転がる。ようやく勢いが治まり、ポプ子の回転が止まって床に倒れた。

 ポプ子の眼前で炎がくすぶっている。ポプ子は炎の中からフランの笑い声を聞いた。

 床に手をついて、ポプ子は瞬時に立ち上がる。

 それと同時に炎の中から悪魔の如き形相でフランが飛び出した。フランの体は煤で汚れ、至る所にやけどの痕が見られる。それでもフランは楽し気な笑い声を上げている。

 フランはリボルケインをポプ子の体目がけて突き出した。ポプ子は釘バットでその攻撃を防ぐ。リボルケインがポプ子の釘バットに突き刺さった。

 ポプ子は冷や汗を浮かべ、釘バットを手放した。

 釘バットがエネルギーを注ぎ込まれて爆散する。釘バットを手放すという咄嗟の判断でポプ子は釘バットの爆発に直撃するという事態を避けることが出来た。だが、釘バットの爆発により、バットに刺さっていた釘が辺り一面に凄まじい勢いで放たれた。

 勢いよく飛んできた釘がポプ子、フラン二人の体を掠めて傷を創る。

 痛みでポプ子は床に尻を付けた。そんなポプ子の元に、リボルケインを持ったフランがゆっくりと歩み寄る。先ほどの釘で、フランの体にも傷が付いており、その傷からゆっくりと血が滴り落ちる。フランの顔にもわずかの血が付着していた。

 そんな顔でフランは微笑んだ。

 その時、二人の首輪から電子音が流れる。その直後、二人の首輪が外れて床に落ちた。

「あーっ!」とポプ子は叫んだ。自分以外全員の首輪を爆破するという目論みが失敗に終わった悔しさから出た声だった。

 一方のフランは床に落ちた首輪をつまらなそうにチラと見た。すぐにその視線がポプ子を向く。

 ポプ子はフランへ命乞いを試みる。

「フランちゃん!首輪もなくなったんだから、これ以上の戦いは無意味だ!もうやめよう!」

「何言ってるの?まだポプ子ちゃんは生きてるじゃない。首輪なんて関係ない、死ぬまで私と遊んでくれるんでしょ?」

 フランは聞く耳を持たなかった。そのままゆっくりとポプ子に歩み寄る。

「ン゛ン゛ン゛ーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!」

 ポプ子は怒りの呻き声をあげた。

 

 

 

120

 古明地こいしはやる夫へ向かって走り出す。

 やる夫は三度剣から光弾を放ってこいしを迎え撃とうとするが、剣から光弾は放たれなかった。

 やる夫の剣は光弾を放つ際にやる夫自身の体力をエネルギーとして要する。だが、やる夫は直前に二発の光弾を放っており、三度目の光弾を放つための体力が残っていなかった。

 疲労感で倒れそうになったやる夫だが、ぐっと足に力を込めて踏ん張った。

 こいしは懐から取り出した透明マントを被り、姿を消した。

「消えたっ!?」とやる夫が驚きの声を上げる。

 床に倒れたドラコ・マルフォイもこいしがマントを被って姿を消したのを見た。

「あれは――透明マントか!?よりにもよって、こんな時に――!本当に忌々しい道具だ――!」

 マルフォイは恨みがましく言う。

 やる夫はこいしの姿が消えた事に戸惑っていた。それを見たマルフォイがやる夫に話しかける。

「おい、やる夫!古明地は姿を消しているが、焦る事は無い。アイツの武器は包丁だ。近づけさせなければ問題ない!さっきの光弾等で、アイツを近づけないようにしてくれないか!」

「いや、光弾はもう限界――よし、名案が思い付いたお!」

 やる夫は黄金の剣を両手で持ち、ハンマー投げよろしく、その場で回転を始めた。黄金の剣はやる夫の回転による遠心力を受ける。

「どうだ見たか!これなら近づけないお!」

 ぐるぐると回り続けるやる夫の姿を見てマルフォイは顔を歪めた。

 あのバカ――!

 マルフォイは頭を動かして床に耳を近づけた。

 仮に古明地が持っているのが透明マントなら、決して勝ち目がないわけじゃない。透明マントで姿は消せても、足跡や足音、においまでは消せない。室内だから足音は外よりも響く!それに古明地も外履きでこのビルへ入って来たのは間違いない。だったら靴底が汚れていて、床に足跡が付く事も考えられる!

 マルフォイは神経を床に集中させ、こいしを見つけようと努めた。だが、剣を持って回っているやる夫の存在がマルフォイの気を散らした。

「やる夫!回るのは止めてくれ!」

 マルフォイが叫んだ。やる夫はそれに応じるように回転を止めた。やる夫は目を回してよろめいている。

 マルフォイは再びこいしの気配を探るのに集中した。

 その時、マルフォイの首輪から電子音が鳴り、首輪が外れた。

 く、首輪が外れたっ!そうか――やり遂げたんだな、木之本!ありがとう!あとは僕とオルガが――いや、オルガはきっと大丈夫だ。オルガがあんな事で死ぬはずがない。だから僕も立ち上がって――。痛たたたたたっ!

 体に力を込めて立ち上がろうとしたマルフォイだったが、こいしに切り付けられた傷が痛んだ。

 マルフォイはさくらが首輪を解除した事に喜んでいる間にやる夫の首輪も同時に外れた。やる夫の首から外れた首輪が床に落ちて音を立てた。

「や、やったおーっ!こ、こ、これでやる夫たちは自由だお!プログラムなんて、くそくらえだお!もう殺し合いはしなくていいんだお!」

 やる夫は歓喜に満ちた表情で叫んだ。

 それと時を同じくして、やる夫の左方でカランと甲高い音がした。それをマルフォイは聞き逃さなかった。

 今の音は――まるで何か固いものが床に落ちたような――!そうか!今この場にいるのは、僕とやる夫と――古明地!恐らく木之本は全員の首輪を解除しただろう。だったら今の音は古明地の首から首輪が落ちた音――!

「左だ、やる夫―!」

 マルフォイは咄嗟に叫んだ。

 それと同時に、こいしが透明マントをかなぐり捨て、鱧切り包丁を片手にやる夫の左側から襲い掛かった。

 突き出された鱧切り包丁にやる夫も対応しようと身構える。その時、先ほど回転していたからか、やる夫の足がもつれた。そしてやる夫は後ろ向きに倒れた。

 だがそれがやる夫にとって幸運だった。

 倒れるやる夫の頭上をこいしの鱧切り包丁が通過した。

 やる夫は思いっきり背中を床に打ち付けたが、包丁に刺される事は免れた。やる夫は背中を打ち付けた痛みを、歯を食いしばって耐える。やる夫は両手で体を起こそうとする。

 それよりも早く、こいしがやる夫の右腕を踏みつけた。

「はぁん…」と、やる夫の口から悲鳴が漏れる。黄金の剣がやる夫の手から離れ、元のキーホルダー状へと戻る。

「マズイっ!」と呟き、マルフォイがエクスカリバールを手に取って立ち上がろうとする。だが先ほどの傷が痛み、そこから血が床に滴る。マルフォイは痛みに顔を歪める。

 一方でこいしはやる夫の右腕を踏みつけながらやる夫に話しかける。

「貴方も可哀そう。転校初日でこんな殺し合いに巻き込まれるなんて。せめて他のクラスにでも転校してくれば良かったのにね」

「確かに殺し合いは嫌で堪らないお。でも悪い事だけじゃなかったお。このプログラムで――やる夫には大切な友達が沢山出来たんだお!」

「へー凄いね。殺し合いが無ければ私と貴方も友達になってたのかな?」

「甘いお。やる夫は君と友達以上のムフフな関係を築いていた筈だお」

「そうなんだー。だとしたら素敵だったかもね?」

 こいしの無機質な瞳がやる夫の顔を捉えた。そしてこいしは鱧切り包丁を高く振り上げた。

 

 

 

121

 阿部高和はBR法委員会本部であるツインタワービルの入り口前でストームトルーパーらと戦っていた。

 阿部は一人のストームトルーパーを仮面ライダーカイザに変身させた後に尻の穴を掘り、その男を時に盾に、時に攻撃手段として使っていた。

 カイザに変身させられたストームトルーパーは名を道下正樹という。道下は、最初は抵抗していたものの、すぐに阿部のイチモツを受け入れた。阿部に掘られるという快感を知った道下は委員会を裏切って阿部に協力する道を選んだ。そして今では阿部と共にストームトルーパー相手に戦いを繰り広げていた。

 既に阿部は道下の尻からイチモツを抜いている。二人は中々のコンビネーションでストームトルーパーを次々に倒していった。

 ストームトルーパーらの攻撃は、道下が阿部の盾となる事で防いでいたが、流石に防ぎきるのにも限度がある。次第に阿部も体にダメージを負っていく。

 さらに阿部はこれまでのクラスメイト達との戦いで多くの傷を負った。だが阿部はその痛みに耐えて戦い続けた。阿部が戦いを続けられた理由として一つはクラスメイト達のため。そして、阿部に心を奪われた道下が積極的にストームトルーパーと戦った事が挙げられる。

 そして阿部と道下はついに全てのストームトルーパーを倒したのであった。それと同時に、阿部の首輪が外れた。

 おっ!ヤったんだな、あいつら!

 阿部は首輪が外れた喜びを噛み締めた。だがそれもつかの間の出来事だった。

 島の上空に広がっていた雷雲がツインタワービルを中心として球状に凝縮していた。

 おいおい、冗談だろ!?まさかデデンネはアレをこの島に落とす気か!?そんな事されたら、このビルどころじゃない、この島自体が大変な事になるぜ…。レコードの再生はまだか?いや――ここは俺がヤるしかねえな。

 阿部は両目を閉じてため息をついた。そして、周囲を見回し、両手を天高く上げているデデンネを見つけた。

 悪いなやる夫にやらない夫。結局俺はお前らの為に犠牲になるという選択をしちまうんだ。お前らとの約束一つ守れねえなんて、とんだ悪い男だよ――。

 阿部は仮面ライダーカイザに変身している道下に話しかけた。

「なあ道下。お前、最後まで俺に付き合ってくれるかい?」

「もちろんだよ!阿部さんとならどこまでもついて行くさ!それが委員会に属した僕の償いなんだ!」

「嬉しい事言ってくれるじゃないの。お前、俺なんかよりよっぽどいい男じゃないか。なんでこんなくそみそな委員会に入っちまったんだ?」

「阿部さんは最高のいい男だよ!僕も色々あったんだ――。もし阿部さんともう少し早く出会えてたなら、こんな事は――」

「俺だって友達との約束一つ守れない最低の男さ。それなら、悪い男同士、俺と一緒に地獄へ――行かないか?」

 阿部が離れた場所にいるデデンネを親指で指さした。

 道下は無言で頷いた。

 阿部と道下は二人でデデンネへと駆け寄る。阿部の後ろを道下がホイホイついて行く。

 デデンネは研ぎ澄まされた感覚で、阿部と道下の接近に気づいた。デデンネは首を回して、阿部と道下の姿を見るや、作画崩壊した顔で二人を睨みつけた。

 阿部と道下が共に上空高く跳び上がる。阿部の飛び蹴りと道下のゴルドスマッシュによるダブルキックがデデンネへ向けられる。

 デデンネも二人の方を向いた。そして両手を向ける。

「ハァァァァァーッ!」

 デデンネの両手から青白い電撃が放たれ、向かって来る阿部と道下の体を貫いた。電撃が阿部、道下の体内を破壊する。

 電撃に貫かれ、空中で阿部と道下の体が一旦止まり、その後地面に落ちる。

 阿部は地面に仰向けに倒れ、二度と動く事は無かった。

 同様に道下も地面に倒れていた。道下の変身が解除され、仮面ライダーカイザの姿から元のストームトルーパーの姿に戻る。だがそれも一瞬の出来事だった。ストームトルーパーの装甲の下にある道下の体が灰化する。内部の肉体が失われ、ストームトルーパーの装甲が地面に落ちた。

 風が吹いた。

 道下であった灰が風に乗って流される。その灰が阿部の体へと飛んで行く。そして阿部の傷ついたイチモツを隠すかのように、阿部のイチモツの上に灰が降り積もった。

 それを見ていたデデンネは顔中に汗を浮かべ、肩で荒く息をしていた。

「今度は阿部――お前ら雑魚の悪あがきはもううんざりなんでちゅ!お前が今更何をやっても、この島が消えてなくなるのは変わらないでちゅ。阿部!お前命懸けの行動は、精々この島が滅ぶのを数秒遅らせたに過ぎないんでちゅよ!」

 デデンネは再び上空を見上げて両手を挙げた。今や雷雲は巨大な雷球と化した。そしてゆっくりと降下を始めた。

 

【男子02番 阿部高和 死亡】

【生存者 残り8人】

 

 

 

122

 デデンネの電撃は島中に甚大な被害をもたらした。その内の一つが、島中に設置されたスピーカーが雷に撃たれて壊れたという事である。

 そのため、島中のスピーカーを使ってキチガイレコードのメロディを流すという作戦は水泡に帰した。

 だがやらない夫とドナルド・マクドナルドに落ち込んでいる暇は無かった。

やらない夫が焦燥を隠すことなくドナルドに話しかける。

「な、なあ、ど――どうするんだよ?これじゃあ島中にレコードのメロディを流せないぞ!」

「くっ――。仕方がない、窓を突き破り、外へメロディが聞こえるようにしてレコードを再生するしかない。音量が小さくなるからデデンネちゃんの耳に届くかは分からないけど――やらない夫君、レコードプレーヤーを出来るだけ窓に近づけてくれ」

 ドナルドの指示通り、やらない夫がレコードプレーヤーを持ち上げて窓の側に運ぶ。

 ドナルドは丸太を手に持ち、部屋中を見る。

「せめてこの部屋にスピーカーでもあれば、音量を上げられるのに――」

 ――あれ?

 ドナルドの一言がやらない夫の脳を刺激した。

「なあドナルド。お前の支給武器は参加者全員の支給武器とその効果が書かれたシートだったよな?」

「そうだよ。それがどうしたというんだい?」

 やらない夫は自分のバッグを漁る。

「だったら――俺の支給武器が何なのかも知ってるだろ?」

 弾かれたようにドナルドはやらない夫を見た。ドナルドは息を呑む。

「高性能拡声器―――!」

 やらない夫の手には、支給された高性能拡声器が握られていた。

 この拡声器はただ声を大きくするだけではない。スピーカーとして使う事も出来る。

 やらない夫とドナルドは瞬時に動いた。やらない夫は高性能拡声器とレコードプレーヤーを接続する。ドナルドは丸太で窓ガラスを破壊した。その窓の側にやらない夫が駆け寄る。

 やらない夫は右手に高性能拡声器を持ち、窓の外へと高性能拡声器を出す。そして左手と右の肩で自分の耳を塞ぐ。

 ドナルドも両手で自分の耳を押さえる。

 やらない夫がドナルドの顔を見た。二人は無言で頷いた。

 やらない夫が高性能拡声器のボリュームを最大にし、ドナルドがレコードプレーヤーのスイッチをオンにした。

 キチガイレコードが回転を始める。高性能拡声器から最大音量で殺人レコードによる恐怖のメロディが流れ出した。

 聞いた者を発狂、衰弱させる恐怖の旋律が島中に鳴り響いた。

 

                *

 

「うぎゃあああああああああっ!!!!!」

 突然聞こえて来たキチガイレコードのメロディを聞いたポプ子は両耳を塞いでその場に倒れた。

 このメロディに苦しんでいるのはフランドール・スカーレットも同様だった。ポプ子へと迫る足を止め、今は耳を塞いで音を聞かないように努めている。フランは音に耐えかねその場に膝をついた。

 これをポプ子は好機と見た。キチガイレコードのメロディが流れる中、ポプ子はスーパースコープをフランへ向けようとした。

 だがすぐに限界が来た。

 ポプ子は再び呻くとそのまま後ろに倒れる。そして勢いそのままにポプ子は後方へと転がって行った。床を転がる事による痛みとキチガイレコードの恐怖のメロディによって、ポプ子の顔は大きく歪んでいた。

 ポプ子は転がりながら憎悪の声を上げた。

 フランはそんなポプ子が遠ざかっていく様を憎々しげに見ていた。ポプ子を追いかけようとしたが、キチガイレコードの旋律の中では、流石のフランも動けなかった。

 

                *

 

 ドラコ・マルフォイは突然キチガイレコードのメロディを聞いて苦し気に唸った。そしてすぐさま両耳を手で塞いだ。

 やる夫は右腕を古明地こいしに踏みつけられていた。だが、レコードのメロディを聞くや、全身に力を込め、こいしの足を払いのけた。そして床にうずくまって耳を塞いだ。

「す――凄まじい音だお――!これは――まさかのキチガイレコード!?」

 キチガイレコードのメロディはこいしにとっても苦痛だった。こいしは手に持っていた鱧切り包丁を床に落とした。鱧切り包丁は甲高い音と共に床を跳ねた。

 やる夫やマルフォイが両目を閉じて苦悶の表情を浮かべているのに対し、こいしの表情にはさほど変化が見られない。だが、こいしの体は小刻みに震え、その目はどこか遠くの一点をじっと見つめている。

「なにこれ――?凄く耳障り――」

 耳をふさいだまま、こいしはささやいた。

 

                *

 

「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ――こ、このデデンネにさからららららららら…!」

 島を襲ったキチガイレコードのメロディは、耳が発達したデデンネにこの上ない地獄の苦しみとなって襲い掛かった。

 デデンネは先ほどまで高く上げた両腕で耳を塞ぎ、地面をのたうち回っている。

 デデンネからの念を受けて降下を始めていた雷球は空中でその動きを止めた。デデンネによる制御を失った雷球は、内部に溜め込まれていた膨大なエネルギーによって不安定化した。そのエネルギーは行き場を求め、雷となって雷球から放出される。放たれた無数の雷がツインタワービルを始め、島中を襲った。ビルの窓ガラスは砕け散り、島に落ちた雷によって火の手が上がる。

 それらの雷の威力は凄まじかったが、この島を吹き飛ばすには程遠い。だが、最早デデンネには再び雷球を作る力どころか、降り注ぐ雷を制御する力すら残されてはいなかった。

 今やデデンネは地面に倒れ、口から泡を吹きながら目を血走らせ、キチレコのメロディに苦しむだけだった。

 

                *

 

 やらない夫とドナルド・マクドナルドは顔に汗を浮かべてキチガイレコードの再生に耐えていた。

 キチレコを再生してからしばらくして、デデンネの雷球による雷がビルを襲った。その直後、やらない夫とドナルドのいる部屋の電気が落ち、キチレコの再生も止まった。

 やらない夫は肩で息をしながら高性能拡声器とレコードプレーヤーを見た後、部屋の照明が消えている事を確認した。

「停電――?」

「どうやらそのようだね。さっきこのビルに無数の雷が当たったみたいだけど、それによって電気系統に何らかの問題が起こったのかもしれない」

「まさか、その雷もデデンネがやったっていうのか?」

「そうとしか思えないね。でも、キチガイレコードのメロディはデデンネちゃんにも確実にダメージを与えた筈だ。他の皆も心配だけどね。とにかく、今はデデンネちゃんがどうなったのかを調べよう」

 やらない夫とドナルドは割れた窓からそっと顔を出して下を見た。

 

 

 

123

 デデンネの雷によってキチガイレコードの再生は止まった。

 フランドール・スカーレットは足に力を込めて立ち上がると、転がって消えたポプ子の姿を探し始めた。

 キチレコのメロディによる後遺症か、フランはわずかによろめいた。しかしながらもポプ子を探して歩いていた。

 その時、フランはある事が気になった。

 そもそも、さっきのイかれた音楽って、作戦にあったレコードよね?あんなに酷い音だとは思わなかったわ。アレはデデンネを止める為に流す予定だったって事は――まだデデンネは生きているって事でしょ!

 フランは眼前にあった窓ガラスに駆け寄ってリボルケインを突き刺した。窓ガラスが爆散する。そこから顔を出して地面を見下ろした。

 地面にはキチレコのメロディを聞いたことによって苦しむデデンネの姿があった。デデンネは息も絶え絶えになりながら、苦しそうに地面を叩いている。

 やっぱり生きてるじゃん。だったら――これ、使っていいよね?

 フランはバッグから支給されたスマートボムを取り出した。そして勢いよく、地面のデデンネへ向けてスマートボムを投げ下ろした。

 フランの手から離れたスマートボムは次第に速度を上げながらデデンネの元へと落下していく。

 一方で、地面で苦しんでいたデデンネはふと上を見た。デデンネの強化された目は自分の頭上へ降ってくるスマートボム、そのはるか上、窓から体を乗り出したフランが笑顔で自分に手を振っているのを見た。

「バイバイ♪」とフランが言ってビルの中へ姿を隠した。

 だが、今のデデンネがフランの動きの意味、そして降って来る物が何なのかを見る事が出来ても理解できたかどうかは定かでない。

 フランは窓に背を向けてそこから離れる際、「ドカーン」と言った。

 それもかすかにデデンネの耳には届いていた。

 デデンネは首を傾げた。

 スマートボムが光を放つ。その直後、激しい爆発音と共に爆風が放たれた。爆炎は一瞬で広がり、デデンネの姿もその中へと消えた。

 ひょんな事から超人化の薬を飲み、その結果破壊の限りを尽くしたデデンネの最期であった。

 

【女子12番 デデンネ 死亡】

【生存者 残り7人】

 

 

 

124

 フランドール・スカーレットが投げたスマートボムはその激しい爆風でデデンネだけでなく、ビルの下層も包み込んだ。その衝撃がビルを揺さぶった。

 やる夫はキチレコのメロディが止まってから、ゆっくりと起き上がろうとしていたが、この衝撃で再び床にうずくまった。

 それに対して、古明地こいしは淡々としていた。先ほど落とした鱧切り包丁を拾い上げると、持っていた透明マントを取り出した。そしてやる夫とマルフォイを見る。

「じゃあね、マルフォイ君とやる夫君。こんな状況だと貴方達二人は放っておいても死にそうだけど、もし生きてまた会えたら、私が殺してあげるね」

「ははは、ヤンデレは勘弁してほしいお」

 やる夫が両手両足を床につけてそう言った。

 それに答える事無く、こいしは透明マントを被って姿を消した。

「逃がして――たまるかっ!」

 ドラコ・マルフォイが叫んだ。体の痛みに耐え、マルフォイは立ち上がる。右手にエクスカリバールを持ち、周囲の気配を探る事に集中した。

「そこだっ!」

 マルフォイは力を振り絞ってエクスカリバールを投げた。エクスカリバールは勢いよく回転しながら宙を舞う。そして鈍い音と共に、エクスカリバールの回転が空中で止まった。そのままエクスカリバールは床に落ちる。その先で透明マントからその姿を見せたこいしが床に倒れた。

 こいしは床に手をついてゆっくりと起き上がる。首を回してマルフォイの方を見る。こいしは口では何も言わなかったが、なぜ自分の居場所が分かったのかが不思議であるように首を傾げる。

 そんなこいしを見てマルフォイは勝ち誇った笑みを浮かべる。

「フン、普段から透明マントには色々と煩わされていてね。それでどこに隠れていても姿を見つけられるよう、周囲の様子を念入りに観察するようになったんだ。お陰で君に一矢報いることが出来た――」

 マルフォイは喋っている途中で体から力が抜け、床に倒れそうになる。マルフォイが倒れる直前、やる夫が駆け寄ってマルフォイの体を支えた。

 こいしはマルフォイの弱った姿を見ると、そっとその場から姿を消した。

 やる夫はそんなマルフォイに話しかける。

「おい、しっかりするお!えっと――」

「僕はマルフォイ。ドラコ・マルフォイだ。僕の名が可笑しいか?」

「そんな事ねえお、やらない夫の方が可笑しいお!」

「フン、君はやる夫だな。似たような名前の君がそんな事を言える立場じゃないだろう?」

「くっ…」

「まあいい。さっき君は古明地に友達が沢山出来たと言っていたが――本当かい?」

「本当だお!首輪も解除したし、レコードも流したお。今頃皆、脱出の準備をしている筈だお。マルフォイ、お前もついて来るお!」

「フッ――友達は選んだ方がいい。なんなら僕が教えてあげようかと思ったけど、君にその必要は無さそうだな…」

「なんだって?なんなら、やる夫とマルフォイはもう友達だお!」

 やる夫がマルフォイに手を差し出す。

「ハハハハハ…全く、君とはいい友達になれそうだよ。もっと早く出会っていれば、オルガも木之本も無事に――」

 マルフォイはうつむいたまま、やる夫と握手した。

 やる夫は握られた手の中に何か固いものの感触を得て疑問に思った。マルフォイが静かに手を離す。やる夫の手にはマルフォイの支給武器であるデオドラントスプレーが握られていた。

 マルフォイは不敵に笑う。

「やる夫、君の友達である僕からのプレゼントだ。有難く受け取るといい。君はちょっと汗臭いぞ。それで臭いを消せ」

「ギクッ!や、やっぱりやるおの体は臭うのかお?やらない夫にも聞かれたお。ちゃんと昨日は風呂に入ったのに――」

「昨日はって、その言い方からして、毎日は風呂に入っていないみたいだな。自分の体臭に気を遣うのは当然さ。それは僕よりも君にふさわしい」

 その時、ビルが再び大きく揺れた。度重なる雷に、ビル内の戦い、そしてスマートボムの爆風でビルが崩れ始めたのだ。

 やる夫がマルフォイの体を支えようとしたが、それをマルフォイは拒んだ。マルフォイの体から急速に力が抜け、マルフォイは倒れた。

「マルフォイ!しっかりするお!こ、こうなったらやる夫が背負って――」

「僕の事はいい!それよりも君はすぐにこのビルから出るんだ。このままじゃ君も巻き込まれるぞ!」

「で、でもマルフォイは――」

「おいおい、僕にも仲間はいるさ。先ほど首輪を解除した仲間がね。僕は彼女と、もう一人の仲間と共に逃げる計画があるのさ。僕はその二人と共にこのビルから脱出するさ」

「マルフォイ――」

「やる夫。島から出てからまた会おう」

 やる夫はデオドラントスプレーを握り締めて頷いた。やる夫はビルから出るべく、来た道を走って戻り出した。

 マルフォイはやる夫の後ろ姿を見ていた。だが、次第にマルフォイの意識は遠ざかっていき、視界に靄がかかり始める。遂にはマルフォイの視界は真っ暗になった。

 

【男子20番 ドラコ・マルフォイ 死亡】

【生存者 残り6人】

 

 

 

125

「危ない、下がれ!」

 ドナルド・マクドナルドが叫ぶと同時にやらない夫の体を後ろに引っ張った。

 それとほぼ同時に、ビルの下でスマートボムが爆発した。爆風はわずかながらもやらない夫達がいる部屋にまで上がって来た。その衝撃で部屋が揺れる。

 やらない夫は立ち上がり、手で顔を押さえながらゆっくりと窓に近寄る。

「今の爆発は一体――?」

 ドナルドがそれに答える。

「爆発の規模から見て、恐らくスマートボム…。フランちゃんが使ったみたいだね」

「って事は、デデンネは――」

 やらない夫の言葉に対し、ドナルドは何も答えなかった。

 その直後、再びビルが音を上げて揺れた。やらない夫の顔に緊張が走る。

「今の揺れは――」

 ドナルドが笑顔で言った。

「このビルが壊れ始めているんだね」

「やっぱりか!おい、大変じゃないか、すぐにでもここから下りねえと!」

「今からこのビルを下りたって間に合わないよ」

「だったら――!」

 ドナルドは窓の外を指さした。やらない夫はドナルドの指の先を見る。指の先にはツインタワービルの西棟があった。

 やらない夫は開いた口が塞がらなかった。ゆっくりと首を回してドナルドの顔を見る。

「お前はバカか?」

「ドナルドはなにも言ってないよ。バカな考えを持ったのなら、やらない夫君がバカなんじゃないのかい?」

「――そうかもな」

 やらない夫は苦笑いを浮かべる。

 かつてのやらない夫なら、そんな事を言われたら必死になって否定しただろう。だが、今のやらない夫は自分も馬鹿の一人であると自覚していた。

 やらない夫はため息をついた後に言った。

「向こうのビルまで飛ぶんだろ?」

「その通り!向こうのビルの方がまだ安全だ。あっちへ渡れば崩れる前にビルから出られるだろうね」

「ただ飛ぶたって、向こうまでは距離があるぞ。車もバイクも馬もないのに、どうやって渡るんだ?」

「さっきの爆発から考えると、このビルは向こうのビルに倒れるように崩れると思うんだ。だからここで限界まで待ち、向こうのビルとの距離が縮まった時に飛ぶ」

「着地の時の衝撃はどうする?」

「あれを使って和らげる」

 ドナルドは西棟の屋上を指さした。

 そこには、BR法委員会がvipの為に準備したプールがあった。

「へー」と呆れたようにやらない夫が言う。

 ドナルドは向こうのビルまで飛ぶ作戦をやらない夫に話した。やらない夫はそれを黙って聞いていた。

 ドナルドが丸太を手にガラスを突き破った。そしてやらない夫に尋ねる。

「さて、ここまでの話を聞いて、やらない夫君はどう思う?」

「凄く馬鹿でイかれた作戦だと思う。いや、作戦なんてもんじゃない、無茶苦茶だ」

「ドナルドもそう思うよ」

 またもビルが大きく音を上げて揺れた。次第に西棟へと傾いていく。ドナルドは丸太を持ち、窓から離れ始める。

「で、どうする?」

「やらないよ――という答えは無いんだろ?」

 やらない夫が答えた。




ハーメルン学園3年β組45名 名簿

○→生存、●→死亡

● 男子01番 浅倉威
● 男子02番 阿部高和
● 男子03番 天野河リュウセイ
● 男子04番 泉研
● 男子05番 オルガ・イツカ
● 男子06番 井之頭五郎
● 男子07番 剛田武
● 男子08番 相楽左之助
● 男子09番 じーさん
● 男子10番 先行者
● 男子11番 多治見要蔵
● 男子12番 でっていう
● 男子13番 永沢君男
● 男子14番 獏良了
● 男子15番 ヒューマンガス
● 男子16番 日吉若
● 男子17番 ベネット
○ 男子18番 ドナルド・マクドナルド
● 男子19番 ケニー・マコーミック
● 男子20番 ドラコ・マルフォイ
○ 男子21番 やらない夫
○ 男子22番 やる夫
● 男子23番 ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ
● 女子01番 うさみちゃん
● 女子02番 木之本桜
● 女子03番 桐敷沙子
● 女子04番 日下部みさお
○ 女子05番 古明地こいし
● 女子06番 佐天涙子
● 女子07番 沙耶
● 女子08番 水銀燈
● 女子09番 枢斬暗屯子
○ 女子10番 フランドール・スカーレット
● 女子11番 ちゅるやさん
● 女子12番 デデンネ
● 女子13番 ベータ
● 女子14番 北条沙都子
○ 女子15番 ポプ子
● 女子16番 まっちょしぃ
● 女子17番 美樹さやか
● 女子18番 見崎鳴
● 女子19番 ルーシー・モード・モンゴメリ
● 女子20番 山田葵
● 女子21番 山村貞子
● 女子22番 両儀式

【生存者 残り6人】
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