やる夫とクラスメイトがバトロワに参加させられたようです   作:MASUDA K-SUKE

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ほんとに、最後まで俺に付き合ってくれてありがとう!!また会おう!!

ハーメルン学園3年β組45名 名簿

○→生存、●→死亡

● 男子01番 浅倉威
● 男子02番 阿部高和
● 男子03番 天野河リュウセイ
● 男子04番 泉研
● 男子05番 オルガ・イツカ
● 男子06番 井之頭五郎
● 男子07番 剛田武
● 男子08番 相楽左之助
● 男子09番 じーさん
● 男子10番 先行者
● 男子11番 多治見要蔵
● 男子12番 でっていう
● 男子13番 永沢君男
● 男子14番 獏良了
● 男子15番 ヒューマンガス
● 男子16番 日吉若
● 男子17番 ベネット
○ 男子18番 ドナルド・マクドナルド
● 男子19番 ケニー・マコーミック
● 男子20番 ドラコ・マルフォイ
○ 男子21番 やらない夫
○ 男子22番 やる夫
● 男子23番 ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ
● 女子01番 うさみちゃん
● 女子02番 木之本桜
● 女子03番 桐敷沙子
● 女子04番 日下部みさお
○ 女子05番 古明地こいし
● 女子06番 佐天涙子
● 女子07番 沙耶
● 女子08番 水銀燈
● 女子09番 枢斬暗屯子
○ 女子10番 フランドール・スカーレット
● 女子11番 ちゅるやさん
● 女子12番 デデンネ
● 女子13番 ベータ
● 女子14番 北条沙都子
○ 女子15番 ポプ子
● 女子16番 まっちょしぃ
● 女子17番 美樹さやか
● 女子18番 見崎鳴
● 女子19番 ルーシー・モード・モンゴメリ
● 女子20番 山田葵
● 女子21番 山村貞子
● 女子22番 両儀式

【生存者 残り6人】


19話

126

 ツインタワービルの東棟は西棟に向かって倒れ始めた。やらない夫とドナルド・マクドナルドは互いの顔を見る。

 ドナルドが口を開く。

「さあやらない夫君、準備はいいかい?」

「ああ。俺はいつでも行けるぜ」

「それじゃあ作戦開始だ!」

 やらない夫は窓へと駆け寄る。やらない夫の手にはやらない夫とドナルドの首に付けられていたた委員会の首輪が二つあった。やらない夫はその内の一つを西棟に備え付けられたプールより下のフロア目がけて投げつけた。

 やらない夫がドナルドの顔を見る。

「外すなよ!」

「勿論さぁ!」

 ドナルドはキチガイレコードを宙を飛ぶ首輪目がけて投げた。キチガイレコードが急速に首輪へと迫る。先に投げられた首輪が西棟の外壁に当たる直前だった。その首輪にドナルドが投げたキチガイレコードが衝突した。

 キチガイレコードは衝撃を加えると発火する性質がある。勢いよく首輪とキチガイレコードがぶつかり、キチガイレコードが火の手が上がった。その火が首輪に燃え移る。

 その瞬間、首輪が爆発した。その爆発が西棟ビルの外壁を破壊した。そして、その上部にあったプールに蓄えられていた水が下のフロアへと流れ落ちる。

 やらない夫とドナルドはその光景を見ると、丸太を掴んで持ち上げた。やらない夫が口を開く。

「よし!ここまではいい!いくぞ!」

「ああ!」

 やらない夫がもう一個の首輪を床に置く。そして二人は勢いよく走り出した。ビルは西棟へと大きく傾いている。躊躇うことなく二人は走り、窓のそばまで寄ると、丸太を床に力いっぱい叩きつけた。

 二人は丸太を棒高跳びの棒として代用したのだ。

 だが、柔軟性に乏しい丸太では飛距離は出ず、向こうのビルまでは届かないだろう。そこで二人は、先ほど床に置いた首輪の真上に丸太を叩きつけた。

 丸太によって衝撃を加えられた首輪が爆発した。

 丸太を使った跳躍、そして首輪の爆発による爆風に乗って、二人は西棟へと飛んで行く。二人の体の先には先ほどの首輪による爆発でこじ開けた穴、そして上から流れて来た水が溜まっている。

 やらない夫とドナルド、二人の体はそのまま水のたまった西棟のフロアに突っ込んだ。水がクッションとなり、二人は大怪我だけは避けられた。

 やらない夫とドナルドは水中を泳ぎ、顔を出した。

 ドナルドは笑顔を浮かべる。顔が水に浸かっても、ドナルドの顔には変化が一切ない。

「やったね、やらない夫君!どうだい、ドナルドの作戦は完璧だろう」

「ああそうだな、そう言っとくよ!それより、こっちのビルもいつまでも安全じゃないんだろ?早く外に出ようぜ」

「うん。フランちゃん、やる夫君、阿部さんの安否も心配だしね」

「ああ。なら一刻も早くここを出て皆を探さねえとな」

 やらない夫とドナルドは再び水中に潜る。そして、西棟ビルから出るべく、全力で泳いだ。水の無い階まで降りると、二人は休むことなく走ってビルを下り出した。

 

 

 

127

 キチガイレコードが鳴りやみ、スマートボムが爆発した後、東棟ビルは崩壊を始めた。

 だが、ポプ子は未だ東棟にいた。

 フランドール・スカーレットとの戦いの中でキチガイレコードのメロディが流れ出し、それに耐えかねたポプ子は床を転がり、それがフランから逃げる事につながった。

 ポプ子の転がりが止まる頃にはキチレコのメロディも止まっていた。

 ポプ子は目が回っていたが、立ち上がるとペッと床に唾を吐いた。

「あの野郎――命拾いしたな」

 それと時を同じくして、スマートボムが爆発した。その爆発がビルを揺さぶる。

「な、何だぁ!?」

 ポプ子は壁に手をついて揺れに耐えた。揺れは治まったが、ビルは音を立てて次第に西棟へと傾いていく。

「こいつはやべぇな、ビルが崩壊直前じゃねーか。これに巻き込まれちゃ、私も無事じゃいられねえし――」

 ポプ子は顎に手をやって考えた。

「向こうのビルへ飛べばいいんだ!」

 ここにも馬鹿がもう一人。

 ポプ子は持っていた伸縮サスペンダーの両端をそれぞれビルの柱に括り付けた。それからポプ子はスーパースコープから光弾を放ち、目の前のガラスを破壊した。割れたガラスの先には西棟が見えた。

「さーて、キミがいればでも流してくれれば最高にテンション上がるんだけどなー」

 ポプ子はキミがいればを口ずさみながら、窓から後ろに下がった。

 ポプ子の体が先ほど柱に括り付けた伸縮サスペンダーに触れる。

「まだだ…まだ反発力が足りない…」

 ポプ子はさらに後退を続ける。強化ゴムで出来た伸縮サスペンダーは後退するポプ子の体を前へ突飛ばそうとする。

「もっと…もっとだ…!」

 次第に強まる伸縮サスペンダーの反発力にポプ子は歯を食いしばって耐える。顔をこわばらせ、フランとの戦いで負った傷が痛みつつも、ポプ子はじりじりと後退を続ける。

 ビルが大きく揺れた。

「今だ!」

 ポプ子は伸縮サスペンダーにもたれかかるようにして両足を上げた。

 その瞬間、伸縮サスペンダーによる反発力が、パチンコの要領でポプ子の体を前方へ突飛ばした。

 猛烈な速度で放たれたポプ子の体は先ほど割ったガラスの間を潜り抜ける。そのまま弾丸の如く、ポプ子の体は高速で東棟から西棟へと飛んで行った。

 ポプ子の目の前には西棟の外壁が迫っている。ポプ子の体の勢いは弱まらず、このまま行けばポプ子の体は外壁に高速で衝突し、ポプ子の体も無事では済まないだろう。

 だがポプ子はこの事態を想定済みだった。

 空中でポプ子は手に持っていたスーパースコープの銃口を西棟の外壁に向ける。先ほどからポプ子はスーパースコープのエネルギーを充填していた。

「オーラキャノン!!!!!!」

 ポプ子のスーパースコープに残された全てのエネルギーが一つの巨大な光弾となって放たれる。光弾がポプ子の目の前の壁を突き破った。

 その光弾を追うようにポプ子の体も宙を飛ぶ。光弾が空けた穴にポプ子も入るようにして西棟に入った。そして勢いが落ちたポプ子は西棟の床に体を打ちつける。

 打ちつけた体を手でさすりながらポプ子は起き上がる。全てのエネルギーを使い果たし、無用となったスーパースコープを投げ捨てた。

 それからポプ子は西棟から出るべく走り出した。

 

 

 

128

 やる夫は崩壊を続ける東棟ビル内を走っていた。その時、ビルが音を立てて大きく揺れた。やる夫はよろめいた。

 それでもやる夫は走るのを止めなかった。

 そしてやる夫は来た時にも見た二人の男子生徒の遺体を見た。

 やる夫は名も知らない二人、オルガ・イツカと泉研だった。

 その時、やる夫は研の側にパラソルが落ちているのを見つけた。

「こ、これは――これがあれば、空中浮遊が出来るんじゃないかお!?」

 やる夫はパラソルに近づいて持ち上げる。その途端、再びビルが揺れ始めた。

「くっ、やる夫の足じゃ、ビルの倒壊に間に合わないお。こうなったら、一か八か――!」

 やる夫の周囲の床に亀裂が走り始める。やる夫はパラソルを広げた。

 それとほぼ同時に、やる夫の周りの床が崩れた。やる夫も床の崩壊に巻き込まれ、そのまま瓦礫と共には落下していった。

 だがその速度はやる夫の周囲の瓦礫と比べて緩やかだった。

 やる夫は広げたパラソルを頭上に構えたことで、落下の速度を軽減していた。やる夫の頭上からも、ビルの瓦礫が降って来るが、パラソルがやる夫の体を守っていた。瓦礫の雨の中、ゆっくりとやる夫は地面に降り立った。

 パラソルを広げたまま、やる夫は崩壊を続けるツインタワービルから離れた。

 ここで皆を待つお。そうだ、汗の臭いを取り除いて生まれ変わったニューやる夫となって、やらない夫達を驚かせてやるお!

 やる夫はドラコ・マルフォイから受け取ったデオドラントスプレーを取り出して自分の体に吹きかけた。

 先ほど、やる夫は泉研の側にあったパラソルを見つけた事で、無事にビルから脱出した。やる夫は研の事を知らない。だから研の支給武器であるイングラムM10が研の側に落ちていなかった事に違和感を覚えなかったのも当然である。

 

 

 

129

 フランドール・スカーレットは倒壊を続けるビルの中を笑いながら走っていた。

 クラスメイトであるポプ子との戦いで負った傷に加え、キチガイレコードによるダメージ、さらには崩壊するビルの瓦礫や割れたガラスによってフランの体は無数の傷を負っていた。

 だがそれら全てがフランにとってこの上ない快感だった。生死を賭けた遊びも、全身を襲う痛みも、そして崩れ去ろうとしているビル内部を駆け抜ける事もフランは楽しんでいた。走るフランの足から血が流れているが、そんなものはフランを止める要因とはならない。

 その時、フランの周囲の床が音を上げて崩れ出した。

「あはははははは!最高よ、遊びはやっぱりこうでなくっちゃ!」

 フランは崩れかけた壁に向かって飛びかかり、リボルケインを突き刺した。

 直前までフランが立っていた床が瓦礫となって崩れ落ちていく。

 フランはリボルケインを壁に突き立てた事で、自分の体を支えていた。だがそれもすぐに限界が来た。

 フランにではなく、壁の限界である。

 リボルケインが突き刺さっている部分から火花が噴き出した。リボルケインを突き刺されたことで、壁には膨大なエネルギーが注ぎ込まれていた。そのエネルギーに壁が耐え切れず、ついに爆発した。

 その爆発にフランは巻き込まれた。そのままフランの体は外へと吹き飛ばされる。

 宙を舞ったフランは体を地面に強打した。だがフランはこの事態にすら笑っていた。

 全身から血を流し、体は悲鳴を上げていたが、それを心地よく感じながらフランは立ち上がった。

 ふとフランは足音を聞いた。それは他人のもので、次第にフランへと近づいて来る。

 フランは歓喜と共に振り返った。

 古明地こいしが立っていた。

 狂喜に満ちた顔でフランはこいしに話しかける。

「こいしじゃない!そういえば貴方との遊びも中途半端で終わっていたわね。こうして貴方から遊びに来てくれたのなら、乗らない訳がないじゃない!」

 ボロボロの体のどこにそんな力が残されていたのか、フランはこいしへと強烈な速度で襲い掛かった。

 一方のこいしはフランとは対照的に静かだった。こいしはゆっくりと懐からイングラムM10を取り出し、フランへと銃弾を放った。

 こいしがビルから逃げる際に、泉研の遺体の側にあったイングラムM10はこいしが回収していた。

 放たれた銃弾がフランの体を貫いた。それでもフランの動きは止まらなかった。体中から血を流しながらもフランはこいしに近寄るとリボルケインを突き出した。

 こいしはそれを間一髪でかわすと、再びイングラムM10から銃弾をフランへと放った。

 この銃撃を受け、フランは地面に倒れた。しかしフランはまだ笑っていた。フランは持っていたリボルケインをこいしの顔目がけて投げつけた。こいしは顔を動かしてリボルケインをかわす。

 三度、こいしはイングラムM10をフランに向けた。だがフランは既に動かなくなっていた。

 こいしはフランの顔を見た。フランは満面の笑みを浮かべて斃れていた。

 こいしは無機質な瞳でフランを見ると、ゆっくりと歩き出した。こいしの歩みは乱れていた。

 こいしは首を傾げて自分の体を擦った。ドラコ・マルフォイが投げつけて来たエクスカリバールがぶつかった部位だった。

 こいしはふらふらと覚束ない足取りでこの場から立ち去った。

 そんなこいしとフランの戦いを物陰から見ていた人物がいた。

 ポプ子である。

 ポプ子は物陰から姿を見せるとほくそ笑んだ。周囲に誰もいない事を確認すると、ポプ子は最後にフランが投げたリボルケインを拾いに向かった。

 ポプ子はリボルケインを拾い上げると両手で掴んで天高く掲げた。

「ジジイは死んだ!デデンネも死んだ!そしてフランちゃんも死んだ! そして今、私の手にはフランちゃんが使っていた最強武器がある!今や敵は古明地こいし只一人!私の優勝はもう目前、莫大な優勝賞金と願いを叶えてもらえる権利は私の物!ヴェーハハハハハハハハッ!!!」

 ポプ子の笑い声が響いていた。

 

【女子10番 フランドール・スカーレット 死亡】

【生存者 残り5人】

 

 

 

130

 やらない夫とドナルド・マクドナルドは走ってツインタワービルから出た。無事だったビルもすぐに倒壊すると見て、二人は走ってビルから距離を取った。

 ドナルドがやらない夫に話しかける。

「やらない夫君、急いでやる夫君、フランちゃん、阿部さんを探そう」

「ああ。どうする、二手に別れるか?」

「んー、それは止めておこう。まだプログラムに乗ってる子がいる可能性もある。皆と会うまでは戦力を分散しない方がいいと思うよ」

 やらない夫はドナルドに同意して頷いた。

 それから二人はしばらく皆を探して走り出した。しばらくすると、やらない夫が前方に人影を見つけた。その人物は赤と白のパラソルを持っていた。

 やらない夫がそれを見ると、ドナルドに話しかける。

「ドナルド、向こうに誰かいるぜ。傘みたいなモノを持ってる奴だ」

「傘――パラソルは確か水銀燈ちゃん――いや、もうあの子は――。ドナルド達の中にパラソルを持っていた子はいなかったし、用心に越したことは無い。ゆっくり近づいていこう」

 やらない夫とドナルドはゆっくりと忍び足でパラソルを持つ人物に近づいていった。一方でパラソルを持つ人物はその場で微動だにしない。

 やらない夫は首を傾げ、ドナルドの方を向く。

「ドナルド、アイツは俺達に気づいてないみたいだぜ。ちょっと距離もあるし、ここから声をかけてみないか?」

「そうだね。良いと思うよ。あの様子じゃ、あの子はプログラムに乗っているようには見えないしね」

 それを聞くと、やらない夫はパラソルを持った人物に向かって声をかけた。

 それを聞いて、パラソルを持った人物がピクリと動いた。そしてその人物が声のした方へ振り向く。

 パラソルを持った人物はやる夫だった。

 やる夫とやらない夫の目が合う。

「や、やらない夫―!」

「やる夫ー!」

 やる夫とやらない夫はほぼ同時に叫んだ。そして二人は瞬時に駆け出した。

 やる夫とやらない夫の距離が狭まっていく。ドナルドは微笑んでこの光景を見ていた。

 銃撃が響いた。

 やる夫の体から血が噴きだした。そのままゆっくりとやる夫の体が前に倒れていく。

 やらない夫は周囲の世界がスローになった感覚に陥った。

 やらない夫はやる夫へと手を伸ばして走る。

 やる夫の体が地面につく。その瞬間にやらない夫の感覚が元に戻る。

「やる夫っ!」

 やらない夫がやる夫の名を叫んで走り出す。

 その直後、「危ないっ!」とやらない夫の後方でドナルドが叫んだ。

 ドナルドが凄まじい速度でやらない夫の背後に迫る。そのままドナルドがやらない夫を後ろから突き飛ばした。やらない夫とドナルドは前のめりに倒れる。

 再び銃撃音が鳴る。倒れた二人の側を数多の銃弾が掠めた。ドナルドがやらない夫を突き飛ばさなければ、やらない夫は今の銃撃で蜂の巣にされていただろう。

 やらない夫が顔を上げた。

 そこにいたのは古明地こいしだった。こいしの手にはイングラムM10が握られ、銃口はやる夫達の方へと向けられている。

 先ほどの銃撃の張本人がこいしである事は明白だった。

 こいしは倒れたやる夫を見て、淡々と話しかける。

「また会ったね、やる夫君。約束通り殺してあげたよ」

 それを聞いたやらない夫は弾かれたようにやる夫を見る。

 やる夫は体から血を流し、苦痛に顔を歪めている。呼吸も小さくはなっているが、まだやる夫は生きていた。

 やる夫が持っていたパラソルが、こいしの放った銃弾の一部を防ぐ役割を果たしたのだ。

 やらない夫は這ってでもやる夫のもとへ向かおうとする。

 こいしはそれを見ると、やらない夫にイングラムM10を向けた。

 その時、こいしの体がよろめいた。体が痛むのか、こいしの銃を持つ手は下がり、その手で自分の体を押さえている。

 その間にやらない夫はやる夫のもとへと至った。やらない夫は必至にやる夫に話しかける。

「おい!しっかりしろ!死ぬな、やる夫!」

「やらない夫…」

 意識も絶え絶えにやる夫が返事をした。

 一方で、こいしは再びやる夫とやらない夫に銃口を向けた。

 こいしもこれまでの戦いでダメージを負い、口からは血が流れている。それでもこいしの無機質な瞳に苦痛といった感情は現れていない。

 ただ冷静に、こいしは引き金を引こうとした。

 それよりも早く、ドナルドが砂を掴み、こいしへと向けて投げた。

 こいしは咄嗟に顔を手で覆って砂から身を守る。

 砂がこいしの目くらましの役割を果たしている間に、ドナルドがやる夫とやらない夫の元に駆け寄った。

 ドナルドは真剣な表情でやる夫とやらない夫の顔を見た。ドナルドはやる夫とやらない夫に小声で話しかける。

「二人共、今からドナルドの言う通りに従ってくれるかい。まず――」

 ドナルドが何かを話している間に、こいしは顔に付いた砂を払い落とした。そして銃口を三人へと向ける。

 それと同時にやらない夫がやる夫、ドナルドの元から離れるように走り出した。

 こいしは銃口をやらない夫に向けようとする。だが、すぐに前方へ再び銃口を向けた。

 ドナルドがこいしを目がけて全力で走り出したからだ。

 長い手足を利用し、ドナルドはみるみるこいしに近づいて来る。こいしの瞳がドナルドを捉える。こいしはイングラムM10をドナルドに向け、引き金を引いた。

 銃撃音と共に、無数の銃弾が放たれた。

 ドナルドの足が止まった。ドナルドの体は数多の銃弾に貫かれ、その体から血が噴きだした。

 だが、それはドナルドだけに限った話ではない。

 ドナルドが銃弾に貫かれたと同時に、こいしの持っていたイングラムM10もまた、銃弾に貫かれた。この銃撃で壊れたイングラムM10の破片がこいしの手を傷つける。

 銃弾が貫いたのはドナルド、イングラムM10だけではない。こいしの体にも二、三発の銃弾が放たれていた。

 ドナルドは口元に笑みを作ると膝をついて倒れた。

 一方のこいしは、傷ついた手で自分の腹部を触った。銃弾がこいしの腹を貫通しており、そこから血が流れ出ている。こいしの指に生暖かい血が触れる。こいしは腹から手を離し、その手を顔の前へ持ってきた。

 こいしの口から声が漏れた。

「あれ――?」

 こいしはキョトンとした表情で、倒れたドナルドを見る。

 ドナルドの手には半分になったひらりマントが握られていた。

 このひらりマントは、ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタとの戦いで負けたうさみちゃんの支給武器だった。切断されて半分になったひらりマントをドナルドがうさみちゃんの手から抜き取って持ち歩いていたのである。

 先ほど、ドナルドは正面からこいしへと向かって行った。そうすれば、こいしが銃弾を撃つと見込んでの事だった。ドナルドの予想通り、こいしは銃弾を放った。その直前でドナルドは半分になったひらりマントを懐から取り出して振った。ひらりマントが半分のサイズとなっていたため、イングラムM10から放たれた全ての銃弾を跳ね返すことは出来なかったが、わずかな銃弾を跳ね返す事には成功した。跳ね返された銃弾はイングラムM10を破壊し、こいしにもダメージを与えた。

 ドナルドは自分の顔と胸がひらりマントで隠れるようにしてマントを振った。そのため、体の様々な部位が銃弾に貫かれてはいたものの、辛うじて顔や心臓への銃撃だけは防いでいた。

 こいしは倒れたドナルド、自分の手、腹を交互に見やった。

 その時、こいしの背後からやらない夫の叫び声が聞こえた。

 こいしは振り向く。やらない夫が叫びながら自分の元へ向かって来るのをこいしは捉えた。こいしは残された武器である鱧切り包丁を血に濡れた手で取り、やらない夫に向けて構えた。

 それと時を同じくして、やる夫が力の限り叫んだ。

「受け取れ、やらない夫ー!」

 やる夫が渾身の力を込めて、剣のキーホルダーを投げた。

 こいしは飛んできたキーホルダーに反応して振り向いた。

 キーホルダーはこいしの頭上を越え、やらない夫の元へと飛んで行く。やらない夫が手を伸ばしてキーホルダーを掴んだ。

 刹那、黄金の輝きを放ちながらキーホルダーは巨大化し、剣へと変化した。

 本来、この剣は持ち主であるやる夫にしか使えない。やる夫以外の人物が剣を使うには、やる夫を殺して奪い取るか、やる夫本人からキーホルダーを受け取る必要がある。今、やる夫がやらない夫にキーホルダーを投げ、それをやらない夫が受け取った時点で剣の所有者はやる夫からやらない夫へと移動した。

 こいしは鱧切り包丁でやらない夫に切りかかる。やらない夫は黄金の剣を両手で握り、鱧切り包丁へ剣を振るった。黄金の剣と鱧切り包丁がぶつかり、甲高い音が響く。

 この衝撃で、こいしの持つ鱧切り包丁の刃が折れた。折れた刃は回転しながら宙を飛び、地面に突き刺さる。

 やらない夫は黄金の剣を上段に構えて叫んだ。

「―――うおおおおおおおおおっ!」

 やらない夫がこいしへと剣を振り下ろした。

 振り下ろされた剣の一撃を受け、こいしの体から血が流れ出る。こいしはかすれた声でつぶやいた。

「あーあ残念。もう少しで帰れたのに…」

 糸が切れたようにこいしは倒れた。そして再び動く事は無かった。

 やらない夫は無言のまま、倒れたこいしを見ていた。こいしが動かないのを確認すると、やらない夫は手でこいしの瞼を閉じてやった。

 やらない夫は地面に倒れているやる夫とドナルドを見た。二人共、弱っているがまだ生きている。

 やらない夫は疲労の溜まった体に鞭打ち、やる夫の元へと歩いた。

やらない夫がやる夫の顔を見る。やる夫は弱々しい笑みを浮かべ、やらない夫に話しかける。

「やらない夫…。やる夫の体からいい匂いがしないかお?」

 そう言われ、やらない夫はやる夫の体臭を嗅いだ。だが、疲れで感覚が鈍くなっているのか、やらない夫はやる夫の体臭に関して特に感想を持たなかった。

 それを伝えると、やる夫が不満げにため息をついた。そして懐からデオドラントスプレーを取り出した。

「じゃーん!やる夫の体から漂う良い匂いの正体は――」

「お勤めゴックロォォォウ!三人共ォォォッ!」

 突如、甲高い声が響いた。

 生き残った最後の女子生徒、ポプ子が姿を見せた。

 

【女子05番 古明地こいし 死亡】

【生存者 残り4人】

 

 

 

131

 やらない夫はポプ子の声を聞いて振り返った。

 ポプ子はリボルケインを片手にゆっくりとやらない夫達の元へと近づいて来るが、突然足を止めた。

 やらない夫がそれを訝しんでいると、ポプ子は親指で後方を指さした。

 やらない夫はポプ子の親指の先、BR法委員会の倒壊したツインタワービルを見た。

 その瞬間、ツインタワービルが爆発した。

 爆発の衝撃がやらない夫達の場所にまで届く。

 やる夫は驚いてデオドラントスプレーを落とした。デオドラントスプレーが地面を転がり、ドナルド・マクドナルドの所まで行って止まった。

 ツインタワービルは跡形もなく爆散し、かつて委員会の威光を示したビルの跡地には無残な瓦礫の山が出来ている。

 ポプ子は瓦礫の山を見て勝ち誇った笑みを浮かべた。

「あのツインタワービルを爆破したのは――俺だ俺だ俺だ俺だー!」

 ポプ子は両手の親指で交互に自分の胸を指さした。

 やらない夫はこの事態に唖然とした。

 ポプ子はリボルケインを取り出し、やらない夫に見せつけるように構える。

「やらない夫、お前がこいしを殺してくれて助かったぜ。アイツだけは銃を持っていたから困ってたんだよ。でも、もう銃は無い。つまり――そこの虫の息となった二人とやらない夫、お前を殺せば私の優勝は確実なんだよっ!」

「なっ――ま、まだ誰か生き残っている筈だ!阿部さんにスカーレット――」

「フランドール・スカーレットなら私が殺した。この武器はフランちゃんが持っていたものだからねぇ…」

 ポプ子は堂々と嘘をついた。ポプ子はじりじりとやらない夫に近づいていく。

 その時、ドナルドがデオドラントスプレーを掴んで立ち上がった。ドナルドは掴んだデオドラントスプレーを華麗なアンダースローでポプ子へ向かって投げた。

 ポプ子は目を血走らせて、ドナルドが投げて来たデオドラントスプレーを捉えた。そして勢いよくリボルケインをデオドラントスプレーに突き刺した。

 ポプ子はリボルケインに突き刺さったデオドラントスプレーを見ると、それを見せびらかすように肩をすくめた。

「はー、しょーもな。完全に小学生レベルの悪あがきですわ。せめて石とかなら分かるけど、こんなスプレー缶を投げてくるなんて、マクドナルドも焼きが回ったか?ほら――返すぜ?」

 ポプ子はリボルケインをドナルドへ向けて振るった。突き刺さっていたデオドラントスプレーの缶が抜け、ドナルドへと飛んで行く。

 ドナルドは動かなかった。否、動く必要は無かったのだ。

 ドナルドは手に持っていた半分になったひらりマントを振るった。ひらりマントがスプレー缶をポプ子へと跳ね返す。スプレー缶はポプ子の懐へと飛んで行った。

 スプレー缶にはリボルケインによってエネルギーが注ぎ込まれており、既に火花が噴き出し始めている。

 ポプ子はドナルドの死を確信しており、スプレー缶が跳ね返される事など予期していなかった。故に、防御も回避も出来なかった。

 スプレー缶がポプ子の懐で爆発した。スプレー缶の破片が勢いよくポプ子の体を切り刻む。

「ぎゃああああああああああああああっ!」

 ポプ子は悲鳴を上げて倒れた。全身から血を流しながら、ポプ子は憎らし気につぶやいた。

「覚えてろ…地べたを這い、泥水すすってでも優勝してやる…」

 そう言い残し、ポプ子は動かなくなった。

 そんなポプ子の姿をドナルドは悲しそうな表情で見ていた。ドナルドはやらない夫とやる夫に背を向けたまま話し始める。

「なんだかんだ言って、ドナルドはこのクラスが好きだったんだ。だから、戦いは避けられないとしても、殺しまではやりたくなかったんだけどね――」

 ドナルドは支給された全参加者武器シートを手に取った。

「やらない夫君、ドナルドから君へのハッピーセットだ。受け取ってくれるかい?」

 やらない夫はゆっくりとドナルドに近づき、全参加者武器シートを受け取った。

 ドナルドが小さく笑った。

 ドナルドの体が倒れる。やらない夫が慌ててドナルドの体を支えた。だが、ドナルドの脈は既に止まっていた。

 やらない夫はうつむき、静かにドナルドを寝かせた。

 

【女子15番 ポプ子 死亡】

【男子18番 ドナルド・マクドナルド 死亡】

【生存者 残り2人】

 

 

 

132

 やらない夫は倒れたやる夫の側へ走って行った。やる夫がやらない夫の顔を見て尋ねた。

「ドナルドは…?」

 やらない夫は無言で首を振った。

 やる夫は目を閉じてため息をついた。

 やらない夫はやる夫の側でしゃがんだ。そして、やる夫の体の傷を確認した。

「気をしっかり保てよ、やる夫!ちょっとじっとしてろ!」

 やらない夫はやる夫の傷の止血を試みるが、経験の無いやらない夫には困難な事であった。やらない夫は制服の上着を脱いで、やる夫の体の上から傷口を押さえようとした。だが、無意味な事であった。

「く、くすぐったいお、やらない夫…。あー、どうせなら、美人ナースに看病されたかったお…」とやる夫が言った。

「ば、馬鹿野郎!こ、こんな時にお前――そうだ!」

 やらない夫はドナルドから渡された全参加者武器シートを見た。

「こ、この中に何か回復用の武器が載ってるんじゃ――」

 縋る思いでやらない夫は武器シートを開いたが、そこにやらない夫が望む情報は載っていなかった。あるのは誰かを殺すために支給された道具の説明のみだった。

「くそっ…。あっ、アレだ。ドナルドが持っていたマントなら止血に使えるんじゃ…」

 やらない夫は動かなくなったドナルドの手に握られていたひらりマントを抜き取った。それをやる夫の傷の上から巻き付けようとする。

 やる夫が息も絶え絶えにやらない夫に話しかける。

「やらない夫…やる夫の体、良い匂いがするだろ…?さっきデオドラントスプレーをかけたんだお…」

「ははっ…そうだな…。やる夫にしては良い匂いがすると思ったんだが、そういう事か」

「やる夫にしてはって、どういう意味――」

 やる夫の言葉が途中で途切れた。やる夫は口から血を吐いた。

 この事態にやらない夫は動揺した。

「もういい、喋るなやる夫!生きてこの島から帰るんだろ?だったら少し黙ってろ!帰ったらやらなきゃならない事、やりたい事がいっぱいあるんだろ?俺だって、お前と約束したように、コンビニで大量のエロ雑誌を買わなきゃならねえんだ!」

「ああ…そんな約束もしたお…その光景を見ずに死ぬのはちょっと残念だお…」

「だろ!だったら死ぬな、やる夫!」

 やらない夫は無我夢中でやる夫の体から流れる血を止めようとする。やる夫は再びやらない夫に話しかけた。

「転校初日で新しいクラスの皆と殺し合いをさせられるとは思ってなかったお…。でも…やる夫にとっては良かったお…。このプログラムを通して…最高の友達が出来て…」

「そ、それなら俺だって同じだろ。初めて友達と言える奴がこの島で出来たんだから…」

「ええっ!?それってやる夫の事かお?わーい、やらない夫の初めてはやる夫が貰ったお…」

「何だよ、まだそんな冗談を言える余裕があるのか。なら、回復も近いだろ。とりあえずもう喋るな。黙って体力を回復させるべきだろ、常識的に考えて」

そう言うとやらない夫はやる夫の顔を見た。

やる夫は両目を閉じ、まるで眠っているかのように穏やかな顔をしていた。

「やる夫…?」

 やらない夫がやる夫の名を呼んだ。

 やる夫の返事は無かった。やる夫の永久の眠りについていた。

 

【男子22番 やる夫 死亡】

【生存者 残り1人】




ハーメルン学園3年β組45名 名簿

○→生存、●→死亡

● 男子01番 浅倉威
● 男子02番 阿部高和
● 男子03番 天野河リュウセイ
● 男子04番 泉研
● 男子05番 オルガ・イツカ
● 男子06番 井之頭五郎
● 男子07番 剛田武
● 男子08番 相楽左之助
● 男子09番 じーさん
● 男子10番 先行者
● 男子11番 多治見要蔵
● 男子12番 でっていう
● 男子13番 永沢君男
● 男子14番 獏良了
● 男子15番 ヒューマンガス
● 男子16番 日吉若
● 男子17番 ベネット
● 男子18番 ドナルド・マクドナルド
● 男子19番 ケニー・マコーミック
● 男子20番 ドラコ・マルフォイ
○ 男子21番 やらない夫
● 男子22番 やる夫
● 男子23番 ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ
● 女子01番 うさみちゃん
● 女子02番 木之本桜
● 女子03番 桐敷沙子
● 女子04番 日下部みさお
● 女子05番 古明地こいし
● 女子06番 佐天涙子
● 女子07番 沙耶
● 女子08番 水銀燈
● 女子09番 枢斬暗屯子
● 女子10番 フランドール・スカーレット
● 女子11番 ちゅるやさん
● 女子12番 デデンネ
● 女子13番 ベータ
● 女子14番 北条沙都子
● 女子15番 ポプ子
● 女子16番 まっちょしぃ
● 女子17番 美樹さやか
● 女子18番 見崎鳴
● 女子19番 ルーシー・モード・モンゴメリ
● 女子20番 山田葵
● 女子21番 山村貞子
● 女子22番 両儀式

【生存者 残り1人】
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