やる夫とクラスメイトがバトロワに参加させられたようです 作:MASUDA K-SUKE
【男子01番 浅倉威】
【出展:仮面ライダー龍騎】
【支給武器:エクスカリバール】
【殺害数:0】
【ベネットに殺される】
【男子02番 阿部高和】
【出展:くそみそテクニック】
【支給武器:ウホッ!!いい男たち~ヤマジュン・パーフェクト】
【殺害数:1 天野河リュウセイ】
【デデンネに殺される】
【男子03番 天野河リュウセイ】
【出展:人造昆虫カブトボーグVxV】
【支給武器:カイザギア】
【殺害数:1 ルーシー・モード・モンゴメリ】
【阿部高和によって変身を解除され死亡】
【男子04番 泉研】
【出展:チャージマン研!】
【支給武器:イングラムM10】
【殺害数:3 美樹さやか,佐天涙子,オルガ・イツカ】
【殺害数第4位】
【オルガ・イツカに殺される】
【男子05番 オルガ・イツカ】
【出展:機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ】
【支給武器:トカレフTT-33】
【殺害数: 3 先行者,ベネット,泉研】
【殺害数第4位】
【泉研の銃撃によって死亡】
【男子06番 井之頭五郎】
【出展:孤独のグルメ】
【支給武器:煙玉】
【殺害数:0】
【まっちょしぃに殺される】
【男子07番 剛田武】
【出展:ドラえもん】
【支給武器:キック力増強シューズ】
【殺害数:0】
【古明地こいしに殺される】
【男子08番 相楽左之助】
【出展:るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-】
【支給武器:伸縮サスペンダー】
【殺害数:0】
【北条沙都子に首輪を爆破され死亡】
【男子09番 じーさん】
【出展: 絶体絶命でんぢゃらすじーさん】
【支給武器:RPG-7】
【殺害数:1 ちゅるやさん】
【ベータに殺される】
【男子10番 先行者】
【出展:中国のロボット】
【支給武器:S&W M29】
【殺害数:0】
【オルガ・イツカに殺される】
【男子11番 多治見要蔵】
【出展:八つ墓村】
【支給武器:侘助】
【殺害数:0】
【うさみちゃんに殺される】
【男子12番 でっていう】
【出展:スーパーマリオ】
【支給武器:ドーピングコンソメスープ】
【殺害数:0】
【枢斬暗屯子に殺される】
【男子13番 永沢君男】
【出展:ちびまる子ちゃん】
【支給武器:火炎放射器】
【殺害数:0】
【古明地こいしに殺される】
【男子14番 獏良了】
【出展:遊戯王】
【支給武器:
【殺害数:0】
【うさみちゃんに殺される】
【男子15番 ヒューマンガス】
【出展:マッドマックス2】
【支給武器:タケコプター】
【殺害数:1 日下部みさお】
【デデンネに殺される】
【男子16番 日吉若】
【出展:テニスの王子様】
【支給武器:丸太】
【殺害数:0】
【ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタに殺される】
【男子17番 ベネット】
【出展:コマンドー】
【支給武器:コピーロボット】
【殺害数:2 浅倉威,両儀式】
【オルガ・イツカに殺される】
【男子18番 ドナルド・マクドナルド】
【出展:マクドナルド】
【支給武器:全参加者武器シート】
【殺害数:1 ポプ子】
【古明地こいしの銃撃によって死亡】
【男子19番 ケニー・マコーミック】
【出展:サウスパーク】
【支給武器:超人化の薬】
【殺害数:0】
【利根川幸雄によって開始前に殺される】
【男子20番 ドラコ・マルフォイ】
【出展:ハリー・ポッター】
【支給武器:デオドラントスプレー】
【殺害数:0】
【古明地こいしによって切りつけられ死亡】
【男子22番 やる夫】
【出展:2ch】
【支給武器:剣のキーホルダー】
【殺害数:0】
【古明地こいしの銃撃によって死亡】
【男子23番 ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ】
【出展:天空の城ラピュタ】
【支給武器:ゾリンゲン・カード】
【殺害数:3 日吉若,まっちょしぃ,うさみちゃん】
【殺害数第4位】
【デデンネに殺される】
【女子01番 うさみちゃん】
【出展:ギャグマンガ日和】
【支給武器:ひらりマント】
【殺害数:2 多治見要蔵,獏良了】
【ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタに殺される】
【女子02番 木之本桜】
【出展:カードキャプターさくら】
【支給武器:レーダー】
【殺害数:0】
【古明地こいしによって切りつけられ死亡】
【女子03番 桐敷沙子】
【出展:屍鬼】
【支給武器:ハイドラ】
【殺害数:0】
【ベータに殺される】
【女子04番 日下部みさお】
【出展:らき☆すた】
【支給武器:鍋の蓋】
【殺害数:0】
【ヒューマンガスに殺される】
【女子05番 古明地こいし】
【出展:東方project】
【支給武器:透明マント】
【殺害数:8 枢斬暗屯子,剛田武,永沢君男,木之本桜,ドラコ・マルフォイ,フランドール・スカーレット,ドナルド・マクドナルド,やる夫】
【殺害数第1位】
【やらない夫に殺される】
【女子06番 佐天涙子】
【出展:とある科学の超電磁砲】
【支給武器:アメリカンバトルドーム】
【殺害数:1 水銀燈】
【泉研に殺される】
【女子07番 沙耶】
【出展:沙耶の唄】
【支給武器:BMW735i E38】
【殺害数:0】
【ベータに殺される】
【女子08番 水銀燈】
【出展:ローゼンメイデン】
【支給武器:パラソル】
【殺害数:0】
【佐天涙子&美樹さやかに殺される】
【女子09番 枢斬暗屯子】
【出展:激!!極虎一家】
【支給武器:鱧切り包丁】
【殺害数:1 でっていう】
【古明地こいしに殺される】
【女子10番 フランドール・スカーレット】
【出展:東方project】
【支給武器:スマートボム】
【殺害数:1 デデンネ】
【古明地こいしに殺される】
【女子11番 ちゅるやさん】
【出展:にょろーん ちゅるやさん】
【支給武器:リボルケイン】
【殺害数:0】
【じーさんに殺される】
【女子12番 デデンネ】
【出展:ポケットモンスター】
【支給武器:ジェットパック】
【殺害数:5 ヒューマンガス,山村貞子,ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ,ベータ,阿部高和】
【殺害数第2位】
【フランドール・スカーレットに殺される】
【女子13番 ベータ】
【出展:イナズマイレブン】
【支給武器:EM銃】
【殺害数:4 桐敷沙子,沙耶,山田葵,じーさん】
【殺害数第3位】
【デデンネに殺される】
【女子14番 北条沙都子】
【出展:ひぐらしのなく頃に】
【支給武器:ズルい落とし穴のタネ】
【殺害数:1 相楽左之助】
【山村貞子との戦いで死亡】
【女子15番 ポプ子】
【出展:ポプテピピック】
【支給武器:釘バット】
【殺害数:0】
【ドナルド・マクドナルドに殺される】
【女子16番 まっちょしぃ】
【出展:Steins;Gate】
【支給武器:ワルサーP38】
【殺害数:2 見崎鳴,井之頭五郎】
【ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタに殺される】
【女子17番 美樹さやか】
【出展:魔法少女まどか☆マギカ】
【支給武器:新感覚ソース・大草原】
【殺害数:1 水銀燈】
【泉研に殺される】
【女子18番 見崎鳴】
【出展:Another】
【支給武器:ジャスタウェイ】
【殺害数:0】
【まっちょしぃに殺される】
【女子19番 ルーシー・モード・モンゴメリ】
【出展:文豪ストレイドッグス】
【支給武器:ネイルハンマー】
【殺害数:0】
【天野河リュウセイに殺される】
【女子20番 山田葵】
【出展:WORKING!!】
【支給武器:キチガイレコード】
【殺害数:0】
【ベータに殺される】
【女子21番 山村貞子】
【出展:リング】
【支給武器:スーパースコープ】
【殺害数:1 北条沙都子】
【デデンネに殺される】
【女子22番 両儀式】
【出展:空の境界】
【支給武器:にゅーくれらっぷ】
【殺害数:0】
【ベネットに殺される】
【男子21番 やらない夫】
【出展:2ch】
【支給武器:高性能拡声器】
【殺害数:1 古明地こいし】
【生存者】
133
本土にあるBR法委員会第二ビルでは一人の黒服がパソコンと向き合って作業をしていた。
その黒服は名を蟹谷という。蟹谷はたった今、ハーメルン学園3年β組によるプログラムの結果を入力し終えたところだった。
蟹谷はこのプログラムが行われる数日前に仕事で大きなミスをした。それにより、蟹谷はプログラム当日、一人で委員会の支部である第二ビルの留守番を命じられていた。
その事が結果的に蟹谷の命を救う事となった。
プログラム当日、蟹谷が一人で雑務に取り掛かっていると、急きょ唯一神エンテイがこの支部へとやって来た。
エンテイは蟹谷にプログラムの行われている島に向かうよう命じた。それに従い、蟹谷はヘリコプターを操縦してプログラムの行われている離島へと向かった。
蟹谷が離島に着いた時には全てが終わっていた。ツインタワービルは跡形もなく崩れ、島中に大きな被害が生じていた。蟹谷は島中を歩いて生存者を探した。だが、見つかったのは死体ばかりであった。その死体にはプログラムに参加させられた生徒達、蟹谷の同僚でもあった黒服達、委員会が雇ったストームトルーパー達、そしてプログラムを見に来たvip達も含まれていた。
蟹谷は連絡のつかない利根川幸雄、蓮実聖司といった上司らも死んだと考えた。
そんな中、蟹谷はこの島で唯一の生存者を見つけた。プログラムに参加させられたハーメルン学園3年β組の男子21番、やらない夫であった。
やらない夫はやる夫の遺体の側で放心したように座り込んでいた。
蟹谷はやらない夫を見つけると、プログラムが終了した事、やらない夫が優勝した事を伝えた。やらない夫の返事は無かった。ただ蟹谷の言う事に無言で頷くだけだった。
蟹谷はこの事をエンテイに連絡した。驚いたことに、エンテイはやらない夫を連れて帰るように命じた。このプログラムの優勝者にエンテイは会ってみたいのだという。
蟹谷はやらない夫をヘリコプターに乗せ、支部へと帰還した。
それから蟹谷はプログラムの結果をまとめる作業に入った。その間、やらない夫を一人別室で待たせていた。
一仕事を終えた蟹谷は立ち上がって伸びをした後、やらない夫を待機させた部屋へと向かった。
蟹谷は部屋に入った。やらない夫はこの部屋で待つように言われた時からほぼ変わらない様子で座っていた。
うつろな目をしたやらない夫に蟹谷は話しかける。
「まずは優勝おめでとうございます、やらない夫君。Congratulation!」
蟹谷一人の拍手が部屋に虚しく響く。拍手の間、やらない夫は何ら反応を示さなかった。蟹谷は拍手を終えると、プログラム優勝者への応対について説明する。
「本来でしたら、優勝したやらない夫君の健闘を祝うパーティーを毎回執り行っているのですが、今回は中止…!委員会の者ども、及びvipの皆さまが全員亡くなってしまったので…。申し訳ありません。次に…振り込ませていただきました…優勝賞金である末代まで遊んで暮らせる程の大金を…!」
蟹谷がそう言うが、やらない夫は特に反応を示さなかった。蟹谷は咳ばらいをし、話を続ける。
「それともう一つ…この後に控えております…唯一神様との面会が…!」
それを聞いて、やらない夫が瞬時に蟹谷の顔を見た。やらない夫は蟹谷に詰め寄り、口から「あ…ああ…」と声が漏れる。
蟹谷はやらない夫の様子に怯んだ。
「や、止めてください!」
蟹谷がやらない夫を払いのけた。やらない夫のうつろな表情を見て蟹谷はしどろもどろになりながら説明を続ける。
「い、一旦落ち着いてください!唯一神様は逃げたりしませんから!と、とりあえず、今から私が唯一神様の部屋へと案内しますから、決して今の様な真似は起こさないようにお願いします。いいですね!」
蟹谷が念を押した。やらない夫はただ「あー…」とだけ言った。いつの間にか蟹谷の額には汗が浮かんでいた。それをぬぐうと、蟹谷は部屋を出る。その後にやらない夫が続く。やらない夫は言われた通り、黙って蟹谷の後を歩いていた。
蟹谷は安堵のため息をついた。
数分歩いた後、二人の眼前に大きな観音開きの扉が現れた。
蟹谷が振り向いた。
「こちらが、唯一神エンテイ様の御部屋でございます。中で唯一神様がやらない夫君をお待ちです」
そう言うと、蟹谷は扉を叩き、「蟹谷です。やらない夫君をお連れしました」と言った。
部屋の中から「入れ」と声がした。
蟹谷がやらない夫を見る。
「それではやらない夫君、中へどうぞ。私は外で待機しているので、面会が終わり次第、声をかけてください」
やらない夫は蟹谷に目もくれず、ふらふらと扉へと歩く。わずかに扉を開き、その中へやらない夫の姿は消えていった。
*
部屋の中には唯一神エンテイがいた。茶色の毛に覆われた大きな体、見る者を威圧する巨大で鋭い牙を持ち、立派な四つの足で立っていた。その鋭い眼光がやらない夫を捉えた。
やらない夫は覚束ない足取りでエンテイへと近づいていく。
エンテイはそんなやらない夫の姿を見て笑みを浮かべた。
「優勝おめでとう、やらない夫君。君とクラスメイト達の戦いは見させてもらったよ。実に素晴らしかった」
エンテイのねぎらいの言葉を聞いて、やらない夫は「はぁ…」と言うと同時に頷いた。
そんなやらない夫の姿を見て、エンテイは内心訝しんだ。
こんな腑抜けた奴があのイかれたクラスのプログラム優勝者だというのか?確かにプログラムは体力、知力、戦闘力に秀でていれば優勝できるというものでもない。支給武器や運も大きく作用するが…。
考え事を巡らすエンテイとは対照的に、やらない夫はか細い声でエンテイに話しかけた。
「あ、あの――」
「ふむ、なんだね?」
「た、確か――プログラムの優勝者は願いを一つ叶えてもらえると――」
「その通りだ。プログラムを制した健闘を称え、君の願いを一つ叶えてあげよう。だが、その前に色々と話を聞かせて欲しいんだがね。君があの地獄で見聞きした――」
エンテイが話し終える前に、やらない夫がエンテイに向かって土下座をした。そして、やらない夫の口から声が漏れる。
「お――お願いです。ど、どうか、クラスの皆を――い、生き返らせてください!」
それを聞いてエンテイは面食らった。
「いや――確かに私にとって彼らを生き返らせる事は容易いが、それではプログラムをやった意味がないだろう。他の願いにしたまえ、金は与えたのだから、地位や権力、名誉等色々あるだろう?仮に生き返らせるとしても、君の友人達を数人とか――」
それでもやらない夫は土下座をしたまま、再びクラス全員を生き返らせる事をエンテイに頼んだ。
エンテイはやらない夫のこの必死な姿を見て、ふとある考えを持った。
エンテイはやらない夫に顔を上げるように言った。やらない夫はそれに従って顔を上げた。エンテイはその時のやらない夫の表情を細かく観察した。
この男――まるで覇気の感じられない放心した顔だな。まさか、この男――狂っている?プログラムで友人らと殺し合わされた事で精神が壊れたか――?それで、全員を生き返らせる事に執着しているという事か。そう言えば、あの黒服が、生存者の様子が妙だとか言っていた気もするな。――なるほどな。
エンテイはやらない夫に見られないようにほくそ笑んだ。
再びエンテイはやらない夫に向き合うと口を開いた。
「いいだろう。優勝者である君の願いだ。皆を生き返らせるというその願い、叶えてあげようじゃないか」
「ほ――本当ですかっ!?あ、ありがとうございます!」
やらない夫がエンテイに再び頭を下げた。やらない夫の口からはとめどなく「ありがとうございます…ありがとうございます…」と声が漏れる。
「だが一つ条件がある」
エンテイが静かにそう言うと、やらない夫の口から流れ出る感謝の言葉が止まった。
放心した顔のやらない夫はエンテイの顔を見る。
エンテイは鋭い眼光でやらない夫を見据える。
「流石の私でも40人以上も生き返らせるのは大変でね。だから――生贄が必要なんだ」
エンテイがそう言うと、部屋の隅に火柱があがった。
やらない夫はその火柱をじっと見つめている。
エンテイは言葉を続ける。
「その火の中に生贄として誰か一人を放り込む。そうすれば、放り込まれた者の生命力を火柱が取り込み、君のクラスメイトを生き返らせることが出来る」
「生贄――それって――」
「勿論君だよ。やらない夫君」
これはエンテイのついた真っ赤な嘘である。エンテイは唯一神であり、彼にとっては一人生き返らすのも、44人生き返らすのも、100人生き返らすのも何ら変わりはない。
ただ、やらない夫の姿を見てエンテイに一つの考えが浮かんだ。
コイツには何を言っても聞かないだろう。全員を生き返らすことを私が認めない限り、絶対にこの場を動かない。だが一人や二人ならまだしも、全員を生き返らせるなんて馬鹿げた願いを叶えてやる気はない。ならば適当な事言ってコイツに希望を持たせてから絶望に叩き落とす方が愉快じゃないか。
エンテイはやらない夫の顔を見た。やらない夫は震えながら口を開いた。
「お、俺があそこへ入れば、皆生き返らせていただけるんですか?」
エンテイは無言で頷いた。
「ありがとうございます…こ、こんな俺一人なんかの命で皆が――」
やらない夫がすんなりと生贄になる事を選んで、エンテイは少し興ざめた。
もう少し葛藤する姿が見たかったんだが、狂人だからそれも仕方ないか。よし、コイツが火の中に入ってから真実を教えてやるか。
その時、やらない夫の手から黄金の剣が一瞬で伸びた。その刃がエンテイの首元深くに突き刺さる。
エンテイの首を激痛が襲った。あまりに突然の事でエンテイは何が起こったのか分からなかった。
やらない夫が剣をエンテイの首から引っこ抜いた。エンテイの首から血が噴きだし床を血で染めていく。流れ出る血と共に、エンテイの体から急速に力が抜けていき、エンテイは床に倒れた。エンテイの視界が次第に霞んでゆく。
そのエンテイが最期に見たのは、黄金の剣を振り上げたやらない夫の姿だった。黄金の剣が振り下ろされると同時にエンテイの視界は闇に包まれた。
やらない夫が黄金の剣でエンテイの首を切り落としたのだ。その直後、エンテイの力で生じていた火柱が消えた。
やらない夫は既に事切れたエンテイに向かって叫んだ。
「残念だったな、この野郎――。放心した顔は俺の特技なんだよ!お前らにそう簡単に見破られるようなものじゃねえんだよ!」
BR法委員会支部に連れて来られる前からこの時まで、やらない夫はずっと放心した顔をしていた。それは委員会、そして唯一神エンテイを欺く為の演技だった。やらない夫をそこまで動かしたのは、ある目的の為である。
やらない夫は懐から全参加者武器シートを取り出した。プログラム中、死の直前のドナルド・マクドナルドから受け取ったものである。
やらない夫は全参加者武器シートを広げ、やる夫の支給武器、剣のキーホルダーの項目を見た。
剣のキーホルダーに関しては次のように書かれていた。
持ち主の意志でキーホルダーから剣へと自在に変わる。持ち主の体力を消費して光弾を放つことが出来る。このキーホルダーは持ち主に忠実でそれ以外の者には使えない。他の者が使うには元の持ち主から直接キーホルダーを受け取るか、持ち主を殺して奪い取る必要がある。なお、この剣はプログラムの主催であるBR法委員会の頂点、唯一神エンテイ自らが創り出した、唯一神の半身でもある。
そこでやらない夫は一つ賭けに出る事にした。
唯一神が素直にやらない夫の願いを叶えてくれるならいい。叶えてくれないのなら、唯一神の半身でもあるこの剣で唯一神を殺す。一人や二人生き返らせるだけじゃ意味がない。生き返らせるなら、このプログラムで命を落とした全員でなければならない。
やらない夫はやる夫や阿部といった、プログラムを通して親しくなった者の顔を思い浮かべた。
仮にあいつらだけを生き返らせても、あいつらが満足しないだろ、常識的に考えて。
やらない夫は持っていた黄金の剣をキーホルダー状に戻すと、顔の前に持ってきた。
「エンテイの半身なら、エンテイ亡き今、お前だけが神だよな?そしてお前の持ち主は俺だ。で、お前は持ち主に忠実なんだろ?だったら持ち主である俺が命じる――このプログラムで死んだ奴、全員生き返らせろ!」
やらない夫がキーホルダーに向かって叫んだ。
直後、キーホルダーが強力な黄金の光を放った。やらない夫はその輝きのまぶしさに両目を閉じる。キーホルダーがやらない夫の手から強烈な勢いで離れた。
キーホルダーはそのまま唯一神の亡骸へと飛んで行き、唯一神の遺体に突き刺さった。その瞬間、エンテイの体から激しい炎が上がり、エンテイの体とキーホルダーが見る見るうちに炎の中に消えた。その炎の勢いも次第に弱まっていき、ついにやらない夫の眼前で消え去った。
炎が消え去った後には灰すらも残っていなかった。剣のキーホルダーも、エンテイの体も綺麗に消えていた。
やらない夫は炎の消え去った場所に駆け寄った。しゃがんで、先ほどまで激しく燃え上がっていた場所を見たが、何も見つからなかった。
「どうなったんだよ…」
やらない夫の口から悲痛な声が漏れる。
やらない夫は勢いよく立ち上がり、部屋の扉を開けた。静まり返った廊下をやらない夫が走る。
その時、遠く離れた場所で電話の着信音と思しき音が聞こえてきた。それも一つや二つではない。鳴り止む事も無く、その音は次第に大きくなっていく。
やらない夫は着信音のする方へと走った。そして、ある部屋の前に至った。その部屋の扉は開いており、中から数多の着信音が聞こえてくる。
やらない夫は静かにその部屋へ入った。
部屋には数多くの電話が置かれており、その大半が今は音を上げて着信を伝えている。それらの電話に一人で対応しているのが蟹谷であった。
蟹谷は一つ一つの受話器を持ち上げ、着信音にかき消されないよう大声で電話に応対していた。
やらない夫は蟹谷に静かに近づき、聞き耳を立てた。
蟹谷は背後にやらない夫が近づいている事に気づかず、今も鳴りやまない電話に追われていた。蟹谷は大声で通話相手と話していた。
「いいですか、利根川先生も、黒服の皆も亡くなったんです!それなのに、利根川先生の名を騙るなんて、質の悪い悪戯は止めてください!――え?プログラムで死んだ生徒らが生き返って皆を襲っている?すぐに助けに来い?つまらない冗談ですね。私はあなたと違って暇じゃないんです、こんなくだらない事はもう止めてもらえませんか!」
蟹谷はそう言うと、受話器を力強く叩きつけた。だが、まだ多くの電話が鳴り響いている。蟹谷はそれらの電話に出る事無く、電話線を引き抜いた。全ての電話が静まり、部屋には沈黙が訪れた。
蟹谷は肩で息をしていたが、ふと後ろから視線を感じて振り返った。後ろにいたやらない夫と目が合う。
蟹谷はやらない夫に微笑んだ
「おや、終わったんですか、唯一神様との面会は。どうでしたか、唯一神様は願いを叶えてくれましたか?」
「――はい。今でもにわかには信じられませんがね」
「そうでしょう!唯一神様は素晴らしいお方ですからね。なんと言ってもあのお方は――」
蟹谷の言葉は蟹谷の持つ携帯の着信音によって遮られた。
蟹谷は「ちょっと失礼します」とやらない夫に断りを入れて携帯電話を確認した。着信相手を見て蟹谷は驚いた。
「ええっ!?利根川先生に…萩野さん…!?それに黒服の皆…亡くなった筈では…!?」
ざわ…ざわ…。
蟹谷は送られてきたメールを読むと顔色を変えた。蒼白になった顔で蟹谷はやらない夫に振り返った。
「す…すいません、やらない夫君。ちょっと急用で私も今から動かないといけないんです。ですから…」
「分かりました。こちらもこの後予定があるので、この辺で失礼させていただきます」
やらない夫は蟹谷に頭を下げて部屋を出た。
やらない夫が去った後、蟹谷は船でプログラムの行われた島へと向かった。
やらない夫は一人、BR法委員会の支部から出た。やらねばならない事は全てやった。だからひとまず、家に帰る事にした。
家への帰り道、やらない夫の携帯が短く鳴り、メールが届いた事を伝えた。やらない夫は携帯を取り出してメールを見た。
それだけで、やらない夫は心の底から笑うことが出来た。
134
それからやらない夫は家に帰った。家族と色々話した後、やらない夫は布団に入った。
布団の中でやらない夫は先ほどのメールを思い出した。メールには生き返ったクラスメイト達と、彼らに追われている委員会とvipの姿が映っていた写真が添付されていた。彼らはとりあえず委員会やvipをぶちのめした後、委員会の蟹谷が乗って来た船を奪い、それで本土へ帰ったようだ。帰る途中で海を漂う永沢君男を拾ったらしい。
このクラスに割り振られた時にとりあえず交換したメールアドレスが功を奏したのだ。
どうやらやらない夫はクラスメイトだけを生き返らせるつもりが、何らかの手違いで委員会の者たちも生き返らせてしまったらしい。
布団の中でその理由を考えていたやらない夫だが、しばらくして結論にたどり着いた。
やらない夫はあの時、キーホルダーにプログラムで死んだ者全員を生き返らせるように願った。プログラムで命を落としたのはクラスメイトだけでなく委員会の黒服やvipも含まれる。
やらない夫はため息をついた。安心してこれまで溜まっていた疲れが急に出たのか、やらない夫の瞼はすぐさま重くなり、間もなくやらない夫は眠りについた。
翌朝、やらない夫は布団の中で目を覚ました。部屋の時計を見ると、普段の起床時刻よりもはるかに速い時間を示していた。
あれほど疲れが出たのにも関わらず、やらない夫の目は冴えていた。そして、一度目が覚めた以上、やらない夫はもう寝てはいられなかった。布団を上げ、ただちに制服に着替える。簡単に朝食を済ませると、やらない夫は家を出て学校へと向かった。
やらない夫にとってかつては億劫でしかなかった登校が、今はこの上なく待ち遠しかった。
自然とやらない夫の歩くペースも普段より速くなる。次第にハーメルン学園が見えてくると、やらない夫は走り出していた。そして全力疾走でやらない夫は校門を駆け抜けた。
やらない夫は息を切らせながら歩き出す。ゆっくりと辺りを見回した。
まだ朝の早い時間であり、登校する生徒の数は非常に少ない。また、多くの運動部が朝練に励んでおり、校庭の至る所から練習中の掛け声や物音が聞こえてくる。
待ちきれなくて登校したが、速過ぎただろ、常識的に考えて…。まあいいか。
やらない夫は3年β組の教室へ向かった。
「おはよー!」
やらない夫は柄にもなく大声で挨拶をしながら教室に入った。
こんな早い時間だから誰も来てないだろ。
そんなやらない夫の予想を裏切り、教室には既に先客が一人いた。その生徒がやらない夫の顔を見た。
浅倉威だった。浅倉は無言でカップ焼きそばを食べていた。
浅倉と目が合ったやらない夫の顔が引きつった。やらない夫は無理やり笑みを作り、浅倉から離れた自分の席へと向かった。
「お前も食うか?」
は?
突如浅倉に声をかけられ、やらない夫は振り返った。
浅倉の片手には未開封のカップ焼きそばがあった。
やらない夫はしばし悩んだ後、「あ、ああ」と言った。
その途端、浅倉がカップ焼きそばをやらない夫に放り投げてきた。やらない夫は慌ててそれを受け取った。
「あ、ありがとう…」とやらない夫が言ったが、浅倉はそれに応じず、再び焼きそばをすすり始めた。
お、お湯はどこにあるんだ?
やらない夫は疑問に思ったが、浅倉にそれを聞くのは躊躇われた。無言で浅倉の周辺を観察すると、浅倉の座っている椅子の側に電気ポットが置かれている事に気づいた。
家庭科室の備品じゃねーか。勝手に使っていいのかよ、学校に住んでいる訳じゃ――いや、まさか浅倉、住んでいるのか?
さらにやらない夫はポットの側にアルコールランプを発見した。アルコールランプには火がつけられ、その火で串刺しになったトカゲが焙られていた。
やらない夫はトカゲを出来るだけ見ようとせず、電気ポットに近づき、カップ焼きそばにお湯を注いだ。その時、やらない夫の側に浅倉の手が伸び、トカゲを刺した串を掴んだ。浅倉はそれを口元に持ってくると、豪勢に噛み千切った。再びやらない夫を見る。
「食うか?まあ食わんだろうな」
やらない夫は無言で首を左右に振って否定の意思を示した。
その時、やらない夫の背後で別の男子生徒が声を上げた。
「ほーいいじゃないか。腹もペコちゃんだし、一つ貰おうか」
やらない夫は振り返った。
そこにいたのは井之頭五郎だった。五郎の目は焙られたトカゲに向けられている。五郎がトカゲに手を伸ばすが、それより速く浅倉が残りのトカゲ全てを掴んで口に放り込んだ。浅倉がトカゲを噛み砕くのを五郎は無言で見つめていた。
静まりかえった教室に、トカゲが噛み砕かれる音だけが響く。
き、気まずい!
やらない夫はこの空気に耐え切れず、お湯を入れたカップ焼きそばを抱えて教室から出た。湯切りの為、やらない夫は水道に向かった。水道で湯を切ると教室に戻り、自分の机で焼きそばを食べ始めた。
やらない夫は先ほどの浅倉と五郎の一触即発な雰囲気を恐れ、ちらと彼らの方を見た。だが、それは杞憂であった。既に五郎は浅倉の席を離れ、自分の席で早弁をしていた。一方の浅倉も食事に集中していた。
やらない夫が焼きそばをほとんど平らげた頃には、教室にもちらほらと生徒が登校していた。
「やらない夫ー!」
やらない夫は自分の名前を呼ばれ、勢いよく振り返った。
現れたのはやる夫だった。やる夫はやらない夫の元へ駆け寄った。やる夫とやらない夫は互いのこぶしを勢いよく合わせた。
やらない夫は嬉々としてやる夫に話しかける。
「よお、やる夫!お前もちゃんと生き返ってたな!」
「勿論だお!やる夫の学生生活はこれから始まるんだお。いつまでも死んではいられないお!ところでやらない夫、やる夫との約束を覚えているかお?」
「当たり前だ。金もちゃんと用意してある。いつでもいけるぜ」
「よーし、それじゃあ今日の放課後、早速コンビニへ向かうお!」
やる夫とやらない夫が盛り上がっていると、登校してきた阿部高和が二人に声をかけてきた。阿部は多少サイズの小さい制服を着ていた。
「よお、やらない夫にやる夫。なにやら面白そうな話してるじゃないの。俺も仲間に入れてくれないかい?」
「おお阿部さん!あれ、阿部さんその制服はどうしたんだお?」
「これかい?制服が無くなった事を学校側に言ったら、代わりのモノを貸してくれたのさ。ちょっと小さいがな。そうだ、やらない夫にやる夫!」
阿部が制服を脱ぎ捨てた。
「やらないか」
「やらねえよ」
「やらないお」
阿部の誘いをやらない夫とやる夫は瞬時に断った。
阿部は「そうか…」と残念そうに言い、制服を着た。阿部はやる夫とやらない夫の顔を見た。
「なら二人共、連れションにでも行かないか」
「行かねえよ!」
やらない夫が叫んだ。その時、フランドール・スカーレットとドナルド・マクドナルドがやらない夫らの元へと歩いて来た。ドナルドは右手を上げ、やらない夫達に笑顔で挨拶した。
「やあ、おはよう!ドナルドは今日、早起きしたよ。君たちはいつも何時に起きるの?」
「普段のやる夫はもっと遅い時間に起きるお。でも今日はやる夫も早起きしたお。なんだか目が覚めてしまったんだお」
やる夫の言葉にやらない夫と阿部も頷いた。
フランが肩をすくめた。
「貴方達は遠足前の小学生?」
「そう言うフランちゃんも、ドナルドと一緒の時間に登校だなんて今日は登校時間が早いんじゃないかい?」
ドナルドがそう言ったが、フランは「うるさい」と一蹴した。
「そうだ、ドナルド」とやらない夫はドナルドに声をかけると、ランランルーをした。ドナルドは満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう、やらない夫君!あの時、ドナルドの武器シートを受け取ってくれて助かったよ!こうして皆無事だったからね!」
やる夫が首を傾げていった。
「でも委員会の奴らも全員生き返ったんじゃ、振り出しに戻っただけなんじゃないかお?」
「いや、それは違うさ」と阿部が言った。阿部は言葉を続ける。
「確かにプログラムを開始する前に戻ったようなものだが、俺達の関係には色々と変化があったじゃないか。その点に関して、俺は良かったと思ってるぜ」
阿部はそう言うと、やらない夫、そしてやる夫の顔を見た。
フランは背伸びをしてから口を開いた。
「そうよ、あんな愉快な遊び、そうそう出来るもんじゃないわ。それだけで私は満足。本音を言うと、まだまだ遊び足りないけどね。どう、今からここでプログラム第二ラウンドといかない?」
やる夫、やらない夫、ドナルドは激しく首を振ってフランの誘いを断った。
「だったら――ボーグバトルで決着をつけようぜ!」
新たな男子生徒がやる夫達へ声をかけてきた。やる夫達は声のした方を向いた。
そこにいたのは天野河リュウセイだった。リュウセイの手には彼の愛機、トムキャット・レッド・ビートルが握られていた。
やる夫はこの突然の闖入者に面食らった。
「えっと――誰だお?」
「俺は天野河リュウセイ!座右の銘は2.0と1.5!」
首を傾げたやる夫の耳元で、やらない夫が「ベルトで変身して俺達に襲い掛かってきた奴」と言った。
リュウセイはやる夫の顔を指さして言った。
「話は聞かせてもらったぜ。プログラム第二ラウンドはボーグバトルに決まりだ!」
「ボ、ボーグバトル?何だお、それ」
「なんだよ転校生、ボーグバトルを知らないのか?遅れてんなー。まあいいや、俺が教えてやるぜ!」
「フッ、ボーグバトルなんてやめときな!それよりもはるかに刺激的で面白いゲームをオレ様が教えてやるぜ」
突如教室の扉の方から声がした。
リュウセイは「誰だ!?」と言って振り返った。やる夫達の目も扉の方を向く。
そこには獏良了が腕を組み、扉にもたれるようにして立っていた。バクラはニヤリと笑うと、やる夫達の元へと歩いて来た。
「よお、やらない夫にやる夫。お前らは中々筋がいい。ボードゲームでもカードゲームでもお前らとなら楽しいゲームが出来そうだ。どうだ、今からデュエルでもやらねえか?さらなる刺激が欲しいなら闇のゲームという手もあるぜ」
「闇のゲーム!?」
やる夫、フラン、リュウセイがその言葉に興味をひかれたように言った。やらない夫は必死に腕を振って断った。
やる夫達がこのように盛り上がっている中、生徒たちが続々と登校してきた。皆、それぞれ雑談を始めた。
*
まっちょしぃは筋トレに励んでいた。それを見た見崎鳴がまっちょしぃに声をかけた。
「朝から筋トレ?」
「そうなのです☆あのプログラムでまっちょしぃは自分の未熟さを思い知ったのです。まだまだまっちょしぃは鍛錬を積む必要があるのです。まっちょしぃはまだまだ強くなれるのです」
「ふーん、頑張ってね」
鳴はスケッチブックを取り出し、まっちょしぃが筋トレをしている姿をスケッチし始めた。
*
ルーシー・モード・モンゴメリと沙耶は左右からデデンネの頬を指でつまんでいた。柔らかいデデンネの頬が左右に伸ばされる。デデンネの顔は髭も前歯も元通りになり、顔の作画も全く崩壊しておらず、いつも通りの可愛らしい顔になっていた。
モンゴメリはデデンネの頬を弄びながら言った。
「実際、異能も使えず武器も大した物じゃなかったんだから、このクラスを相手に優勝するっていうのも考えたら酷よね」
「それは甘えでちゅよ、モンゴメリちゃん。こんな小さくて可愛い体で私は5人も殺ったんでちゅよ」
デデンネが誇らしげに言った。それを聞いたモンゴメリは驚き、「嘘でしょ!?い、一体どうやったのよ!?」と言ってデデンネの髭を引っ張った。
一方、沙耶は笑顔を浮かべながらデデンネの頬を指でつついている。
「可愛いだけじゃなく強いなんて、デデンネは凄いね!ああもう、食べちゃいたいな…」
「そ、それは性的にという意味でちゅか!?」
「えー、文字通りの意味だよ」
*
じーさん、ケニー・マコーミック、桐敷沙子の三人は輪になって談笑していた。じーさんが口を開く。
「いやー、よく考えたらワシなんて常日頃から殺したり殺されたりの生活じゃから、今更殺し合いとか言われても、正直ピンとこなかったわー。ワシが死んだ回数なんて、ケツ毛の数よりも多いんじゃないか?」
ケニーもじーさんに同意するように頷く。何か言っているようだが、フードが口元を覆っていて聞き取れない。
桐敷沙子はクスリと微笑んで言った。
「あら、私なんてもう死んでるのよ。それなのに、また殺されるなんてね」
じーさん、ケニー、沙子の三人は互いの顔を見て笑った。
*
先行者とうさみちゃんは教室内の騒ぎを見ていた。先行者が静かに話し出した。
「まさか、この様な結末になるとは――天才の私でも予想出来ませんでした。あなたはどうですか、名探偵のうさみちゃん?」
「私もここまで推理出来なかったわ。あなたと同じよ。それに今の私は一度命を落とした身だから、もう名探偵じゃないわ。でも折角生き返ったのだし、もう一度名探偵を目指す事にするわ」
「その意気ですよ、うさみちゃん。我々は生きている限り、考え続けなければならない。思考の停止した時が我々の死となるのです」
「そういう訳で先行者君。ちょっと校庭でスクラップにでもなりなさいよ」
「嫌ですようさみちゃん!私の偉大な頭脳がそんな簡単に失われて堪るものですか!」
*
「水銀燈さん、本当にごめんなさい!」
佐天涙子はそう言って水銀燈に頭を下げた。それを聞いて水銀燈は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「貴方どうしたのよ、突然謝るなんて」
「だって――あたし、プログラムで水銀燈さんを…」
「あらぁ…そんな事気にしてたのぉ…?もう過ぎた事じゃない。それに周りを見てみなさいよ、今回の件で怒ったり謝ったりしている子なんてほとんどいないじゃない。まあいいわぁ…貴方の様な素直な子が一人くらいはいた方がいいですもの。だから顔を上げなさい、別に貴方に怒ってはいないわ…」
「水銀燈さん、ありがとう…」
佐天はそう言って顔を上げ、笑みを浮かべた。
「ね、だから言ったじゃん、水銀燈は怒ってないって!」
美樹さやかが笑顔でそう言うと、佐天の肩を叩いた。
それを見て水銀燈はやや顔を引きつらせた。
「ああ言ったものの、少しは私を殺した事について罪悪感を持って欲しいわねぇ…。そういえば、謝罪どころじゃ済ませないジャンクが約一名、いたわねぇ…」
水銀燈がそう言った途端、泉研が笑顔で現れた。
「やあ、銀ちゃん!生き返ったんだね、良かった良かった!ジュラル星人の計画も阻止できたし、めでたしめでたしだね!」
研の明るい声を聞いた水銀燈は舌打ちして研から顔をそむけた。
さやかは研を指さして叫んだ。
「あっ!ちょっとアンタ、よくもプログラムであたしを殺してくれたわね!」
「え?何を言ってるんだい。殺しただなんて、今君は生きてるじゃないか」
「それは生き返ったからであって――」
「アッ!思い出したぞ、僕はあの島で君たち二人に化けたジュラル星人を殺したんだ!」
「へ?」
研の言葉にさやか、佐天の二人は目をぱちくりさせた。研は一方的に話を続ける。
「あの時僕は君たちの姿をしたジュラル星人を殺したのであって、君たち二人を殺したわけじゃないんだよ。その証拠に、君たちは今も生きてるじゃないか!」
しばしの沈黙の後、さやかが笑顔で言った。
「あー!そっか、そうだよね。あたし、生きてるじゃん!殺されたなんて何言ってんだろう、あたしって、ほんとバカ」
研とさやかは笑い出した。横で話を聞いていた佐天はしばし悩んだ後、とりあえず笑っておくことにした。
三人の笑い声を聞きながら水銀燈はため息をついた。呆れ顔で水銀燈はバッグからヤクルトを取り出して飲み干した。
*
多治見要蔵、でっていう、永沢君男の三人は無言で互いの顔を見ていた。でっていうが机を拳で叩いて喋り出した。
「それじゃあ俺達三人、パッとしない奴らはパッとしない結果しか残せなかったという事についての話し合いを始めるっていう。何か言いたいことがあるなら聞いてやるっていうwww」
そんなでっていうを永沢が蔑む様な眼で見た。
「でっていう君、君は俺達三人って言ったけど、僕は僕なりに活躍したつもりさ。火への恐怖と向き合って成長するという経験もしたからね。そうやって主語を大きくして、僕らまで巻き込み、あたかも僕も全く活躍していないという印象を抱かせるとはなんて卑怯なんだ…。瞬殺された自分を慰めるのは君一人でやってくれないかい?」
そう言われたでっていうは死んだ目で黙り込んだ。
永沢に賛同するかのように要蔵も無言で頷いている。
「――って要蔵、お前は頷ける立場じゃねえだろっていうwwwwww」
*
ちゅるやさんは席に座ってスモークチーズを次から次へと口の中に放り込んでいた。ちゅるやさんの机の上には平らげたスモークチーズの包装紙が積み上げられている。
両儀式はその光景を無言で見ていた。だがそれも見飽きたのか、式はちゅるやさんから目を離した。
「おーっす、両儀―、ちゅるやさーん。元気かー?」
明るく能天気な声がした。式は声のした方に目を向けた。
日下部みさおが笑顔で二人の側にやって来た。
ちゅるやさんは頬張っていたスモークチーズを飲み込むと、みさおに向き合った。
「やあやあ、みさお。わたしは元気にょろ。みさおは元気かい?」
「おーよ!バリバリ元気DAZE!両儀は元気かー?」
「見れば分かるだろ」と式はぶっきらぼうに答えた。
「おー、それなら結構結構」
みさおはそう言った後ちゅるやさんが抱え持つ数多のスモークチーズに目を向けた。みさおはちゅるやさんに尋ねた。
「なあちゅるやさん、そのスモークチーズ、一個くれないか?」
「いいにょろ!今日は特別にプレゼントにょろ!」
ちゅるやさんがみさおにスモークチーズを一個手渡した。みさおはそれを受け取り、包装を剥がし始めた。その時、不幸にもみさおは手を滑らし、スモークチーズを床に落としてしまった。
みさおは慌てて落としたスモークチーズを拾い上げると、口へ入れた。それをちゅるやさんと式がじっと見ていた。
「にょろーん」とちゅるやさんが言った。
みさおは冷や汗を浮かべながらも笑顔で応じた。
「三秒ルール、三秒ルール!」
ちゅるやさんは式に尋ねた。
「今のスモークチーズ、どうだったにょろ?」
「残念だが死んでたよ」
「ご、五秒以内なら菌が付かないんだってヴぁ!」
*
「うぃーっす」
相楽左之助がそう言って教室に入って来た。彼と親しい生徒が左之助に返事をした。左之助は自分の席に向かい、勢いよく腰を下ろした。
その瞬間、左之助の頭に金タライが落ちてきた。
金タライが左之助の頭に直撃し、鈍い音が響き渡る。
左之助は両手で頭を押さえる。そんな左之助の耳に北条沙都子の高笑いが聞こえてきた。
「をーほっほっほっほ!今日も私のトラップは冴えまくりですわー!」
「やはりテメエか沙都子!そういやテメエにはプログラムでの借りがあったな。あの時の借り、今ここで返すぜ!フタエノキワミ、アッー!」
左之助が一歩踏み出すと同時に、沙都子の二つ目のトラップが発動した。左之助の足元に突如ロープが現れ、左之助の足に引っかかった。
「あぁぁぁぁぁぁ…!(´゚д゚`)」
左之助は悲鳴を上げながら前のめりに倒れ、勢いよく顔を床にぶつけた。だが左之助は瞬時に立ち上がった。それを見た沙都子は身をひるがえし、高笑いしながら走り出した。左之助も沙都子の後を追う。二人は教室内で鬼ごっこを始めた。その光景を生徒らは笑いながら見ていた。
*
「おはよー!」
木之本桜が笑顔で教室に入って来た。さくらと親しい女子生徒も挨拶をした。そして女子生徒同士で会話を始めた。
しばらく話していると、ドラコ・マルフォイが教室に入って来た。マルフォイは女子生徒らと談笑しているさくらを見ると、ゆっくりとさくらの元に歩いて来た。
「おはよう」
マルフォイが挨拶をすると、さくらも「おはよう、マルフォイ君!」と返事した。
マルフォイは笑みを浮かべ、さくらに話しかけた。
「なにはともあれ、全員無事だったから良しとしようか」
「そうだよね。色々あったけど、こうしてみんなにまた会えて、本当に良かった…」
「ああ。ところで――オルガはどうなったんだろうね?」
マルフォイとさくらはプログラムで共に過ごしたオルガ・イツカを思い浮かべた。しばしの沈黙の後、さくらが言った。
「絶対、だいじょうぶだよ!オルガ君もわたしたちと同じ様に元気だよ!」
「僕もそれには同意見だ。そうだ、是非皆に聞いてもらいたいことがある」
マルフォイが教室中を見渡した。生徒らがマルフォイを見る。
マルフォイは視線が自分に向けられたのを確認すると、誇らしげに言った。
「今回のプログラムであの島に訪れていたvipの奴らに関しては、僕の父上に全員報告済みだ。父上はその情報を使い、プログラムの廃止に動き出した。父上が本気で動かれた以上、もう二度とあんなプログラムが行われる事はないだろう」
それを聞いた生徒たちは歓声を上げた。教室内に拍手が巻き起こった。マルフォイはドヤ顔でその拍手を一身に受けていた。
*
マルフォイの父親がプログラム廃止に動いたことを褒めたたえる拍手の中、ポプ子は席に座って頭を抱えていた。ポプ子の目は血走り、顔には冷や汗が浮かび、体は小刻みに震えている。
ポプ子の口からかすれた声が漏れた。
「私、プログラムで一人も殺せてなかったのか――クソザコじゃん…。私、弱かったんだ――」
「そんな事無いと思うよ!最後まで生き残れた事は誇っていいと思うよ!」
ポプ子は突然自分に向けられた声を聞き、顔を上げた。
いつの間にかポプ子の机には古明地こいしが座っていた。こいしは足をブラブラと揺らしながらポプ子の顔を見ている。
「こいしちゃん…」
こいしからの励ましの声にポプ子は目に涙を浮かべた。だが、その涙もすぐに引っ込んだ。ポプ子の額に青筋が浮かぶ。
「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お前お前お前――!お前がそんな事言える身分かぁぁぁああああー!自分が何言ったか分かってんのか――分かってんのかああああああああー!?」
ポプ子は1秒間に16回の速度で指を突き出したが、その時には既にこいしの姿は机の上から消えていた。
「どこに行きやがったあの野郎――」
ポプ子は教室内を見回した。ポプ子の顔の動きがマルフォイを見て止まった。
マルフォイの背後でこいしが「おめでとう!」と言ってどこから取り出したのか、クラッカーを鳴らした。
その音にマルフォイは驚き、両目を見開き、口を大きく開けて悲鳴を上げた。
*
ベネットは机に脚を乗せ、ふんぞり返りながら剛田武、日吉若に自慢話をしていた。
「俺は二人も殺したぜ。お前らはどうだ?結果から見て、お前らは俺の強さには遠く及ばないというわけだ」
そう言われたジャイアンは怒鳴った。
「うるせえ!お前だって偉そうな事言ってるけど、殺害数は大した結果じゃねえじゃねえか!お前の上には何人いると思ってやがる。ベネット、お前を今ここでギッタギタのメッタメタにするぞ!」
日吉は冷ややかにベネットを見る。
「ああ。今からプログラムでの下剋上だ」
ベネットは残虐な笑みを浮かべる。
「いいぜ、かかってきな」
三人に一触即発の空気が流れる。その時であった。
「もう戦いは駄目よ!」
山村貞子が教室内に置かれた古いテレビの画面から出て来た。
貞子特有の登校にベネット、ジャイアン、日吉は驚いた。また、貞子を知らないやる夫も同様に腰を抜かした。
テレビから出て来た貞子は静かに床を這い、ベネット、ジャイアン、日吉の側に寄る。ベネット、ジャイアン、日吉の三人は貞子に射すくめられたように、動けなかった。
貞子は三人の前で立ち上がった。貞子は無言だった。だが、長い髪の下から覗いた血走った目は真っすぐに三人を捉えている。
三人の顔が青ざめた。真っ先に動いたのはジャイアンだった。ジャイアンは両手を伸ばし、ベネットと日吉の片を掴んで引き寄せた。
「け、喧嘩なんてしてないぜ!な、心の友よ!」
ジャイアンにそう言われ、日吉は無言で頷いた。
「勿論です。友ですから」
ベネットも済ましたように言ったが、その顔には恐怖心が現れていた。
そんな三人の姿を見た貞子の顔が明るくなった。いや、長い髪に隠れているため、そう見えただけかもしれないが。
「そうだったの!私の勘違いね、ごめんなさい。やっぱり仲良い事は素晴らしいわね!」
*
モンゴメリや沙耶といった女子生徒たちは今もデデンネの体をつまんだり揉んだりして遊んでいた。デデンネもまんざらではない顔だった。
その時、ベータがデデンネの頬を思いっきり引っ張ってつねった。
デデンネは涙目になってベータに訴える。
「い、痛いでちゅ。や、止めてくだちゃい、ベータちゃん!」
「はーあ、こんな子にプログラムでは散々手こずらされた挙句に殺されるなんて思いもしませんでしたよぉ~」
「それはベータちゃんの力不足が原因ではないでちゅか?」
「むー、そういう悪い事を言うデデンネにはお仕置きが必要みたいですねぇ」
ベータが両手でデデンネの頬を左右から引っ張った。デデンネは両手を激しく振って抵抗するが、ベータの手を振り解くことは出来なかった。頬を左右に引っ張られ、デデンネの顔は愛らしさと滑稽さが入り混じったような顔になっていた。それを見た周囲の生徒らも笑みを浮かべた。
時を同じくして、教室の扉が勢いよく開かれた。そして鉄仮面の男子生徒、ヒューマンガスが入って来た。
ヒューマンガスは堂々とした姿勢で教卓に立つと、マイクを取り出して口元に近づけた。
教室内が静まり返る。
生徒の注目が自分に向けられた事を実感したヒューマンガスは演説を始めた。
「お前達には感心したぞ。おかげでまた学生生活を送る事となった。見ろ!お前たちのクラスメイトの姿を。こうなったのも、俺の作戦によるものだ。お前達と一致団結して委員会を叩き潰した」
「一ついいかね?」
ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタが挙手をして言った。ヒューマンガスはムスカに話すよう促した。
「君は先ほど、自分の作戦で委員会を潰したといったが――君が一体何をしたのかね?」
「知らないのか?デデンネを超人にしたのはこの俺だ」
ヒューマンガスの告白に教室が静まりかえった。
その次には喧騒が巻き起こった。
「ふざけやがって、あれはお前の仕業かよ!」
攻撃的な性格になったベータが叫んだ。デデンネの頬をつねる腕に力が込められる。
「そういやヒューマンガス、お前、良い奴の振りしてわたしの事をタケコプターで騙し討ちしやっがて!なんて姑息なんだ!」
みさおがヒューマンガスを指さして言った。
ポプ子は呻きながらヒューマンガスに向けて中指を突き立てた。
「落ち着け!落ち着くんだ!」
ヒューマンガスが訴える。
「実際、超人と化したデデンネが暴れた事で委員会は混乱し、我々は勝てたのだろう?それにデデンネ。お前はあの時、強大な力を手に入れた。その力を意のままに操るのは楽しかっただろう――?」
今度は生徒たちの注目がデデンネに向く。デデンネは未だベータに両の頬を引っ張られている。
ニィィ――とデデンネが笑みを浮かべた。
ベータは元の性格に戻るとデデンネとヒューマンガスを見た。
「どうやら――二人にはもっとお仕置きが必要みたいですねぇ」
「ええっ!?お仕置き!?」とやる夫が血相を変えて反応した。そんなやる夫の頭にやらない夫がチョップをした。
教卓に立つヒューマンガスには生徒たちの怒号に交じって色々な物が投げつけられた。とはいえ、投げつけてくるのは大半がでっていうによるものだったが。
そんなヒューマンガスの後ろにはいつの間にか阿部がいた。
「やらないか」
そう言った阿部にヒューマンガスはチョークスリーパーを試みた。だが阿部はそれをかわし、ヒューマンガスの制服を脱がした。
ヒューマンガスの逞しい肉体、そしてそれを締め付けるボンデージファッションが露わになる。
阿部も同時に制服を脱いだ。教室内に黄色い悲鳴がこだまする。
「ハッハッハッハッハ。素晴らしい!最高のショーだと思わんかね?見ろ、クラスメイトがゴミのようだ!」
騒ぎの治まらない教室内の様子を見てムスカが高笑いをした。
「最低だよ!」とやらない夫が突っ込んだ。
「おうおう、朝から皆元気じゃのう。全員登校、感心感心。先生にも見習って欲しいものじゃ」
教室内に大股で枢斬暗屯子が入って来た。枢斬の右手には3年β組の担任である絶望先生こと糸色望が抱えられている。プログラム開始前に委員会で殺された彼も生き返っていた。
枢斬は真っすぐ教卓に向かい、絶望先生を放した。
枢斬は呆れるように言った。
「皆がこうして学校に来てるのに、先生はあのままプログラムで死んだ事にして失踪しようと考えてたようでな。全く呆れたものじゃ。さあ皆、騒ぐのもいいが、ホームルームの時間じゃ。席に着かんかい」
枢斬がそう言うと、皆自分の席へと戻る。あれほど騒がしかったのかが嘘であるかのように、教室は今、静まり返っている。
絶望先生は教室一帯に聞こえる程の大きなため息をついた。
「結局私もこうして生き返ってしまいました。皆さんが生き返った事はいいのですが、私まで生き返らせるとは全く、余計な事をしてくれたものです。あーあ、折角死ねたのに」
それを聞いてやる夫が驚いた。
「ええっ、せ、先生は何を言ってるんだお!?」
絶望先生がやる夫を見る。
「やる夫君。結局私が君の担任であったのは一日だけの様です。一度死んだ身として潔く、私はもう一度死のうと思います!」
絶望先生は教室の天井から吊り下げられたロープを手に取った。
「だ、駄目だお先生!命は大切にするお!」
やる夫が立ち上がって絶望先生の自殺を止めようとする。だが、他の生徒は誰一人として動こうとしない。
やる夫は疑問に思い、やらない夫の顔を見た。
「やる夫、先生の死ぬ死ぬ詐欺はいつもの事なんだ。それに先生はあんな事言って生き汚いから、生き返った事を惜しむどころか、むしろ内心で喜んでるだろ」
「なーんだ、構ってちゃんかお。心配して損したお」
やる夫は自分の席に戻る。
「絶望した!転校生に構ってちゃん扱われる世の中に絶望した!あ、転校生で思い出しました。今日から二人、転校生がこのクラスにやって来ます。やる夫君が来た直後にまた二人、しかもこのクラスに来るなんて、一体この学園はどうなってるんですかね。さあ、どうぞ」
絶望先生が言うと、教室の扉が開かれる。入って来た二人の生徒を見て、生徒たちは騒めきだす。
中でも一際大きな反応を示したのはさくら、マルフォイ、バクラだった。
さくらとマルフォイは転校生を見て驚きと喜びの入り混じった表情になった。一方でバクラは居心地の悪そうな顔になった。
二人の転校生は男女一名ずつであった。女は前髪を一直線に切りそろえ、紫がかった黒髪を伸ばしている。男は長身で浅黒い肌、前髪を一部垂らした独特の銀髪だった。
最初に女子生徒が前に立ち、元気よく挨拶をした。
「皆さん、おはようございます!山田の名前は山田葵っていいいます!山田だと反応できないので、葵って呼んでください!」
交代するように男子生徒が前に立つ。男子生徒は死にそうな声で自己紹介をした。
「俺は…鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ…」
二人が自己紹介を終えると、絶望先生が教卓の前に立った。
「この二人も今日からこのクラスの一員となります。皆さん、仲よくするように。いや、皆さんとは既に色々と縁があるんでしたね。それより、なぜこの二人が転校してきたのか――」
「その疑問にはわしが答えよう!」
廊下から大声が聞こえたと同時に、禿頭、濃い眉に髭といった外観の大男が教室に入って来た。その男は大股で教卓の前まで歩いて来た。
それを見たやる夫が「誰だお?」と言った。現れた男はやる夫のつぶやきを聞き逃さなかった。
「わしがハーメルン学園学園長、江田島平八であるーっ!!!」
現れた大男、ハーメルン学園学園長である江田島平八が大声で叫んだ。その声が教室中を揺らし、窓ガラスを砕く。
やる夫、山田、オルガといった転校生たちは江田島の大声によってよろめいていた。
江田島は腕を組んで話し出す。
「このクラスによるプログラムの結果は既に発表されてしまった。故にこうして全員生き返った事を世間が知ったら大騒ぎとなる。そうなるのは面倒だ。だから、ほとぼりが冷めるまで、わしの目が行き届くよう、二人にもこのクラスの一員として過ごしてもらう!それと蓮実聖司はクビにした!」
再び教室中が沸き上がる。
江田島はその光景を満足げに見ると、「フッフッフ、わしが江田島平八である」と言って教室を後にした。
絶望先生が山田とオルガの席を指定した。幸か不幸か、オルガの席はさくらとマルフォイのすぐ側で山田の席はバクラの隣となった。
絶望先生がホームルームを終わる旨を告げ、誰か報告のある生徒はいないかと尋ねた。
「はい」と言って一人の生徒が手を上げた。
やらない夫であった。
やらない夫は立ち上がり教室の前へと歩く。全員の視線が向けられる中、やらない夫が口を開いた。
135
「俺からの提案なんだが、皆で修学旅行に行かないか?」
教室は静まり返っている。やらない夫が続ける。
「実はプログラムの優勝賞金を貰ったんだが、あまりにも莫大過ぎて、俺一人じゃ一生かかっても使いきれそうにないんだ。だから、以前のようなプログラムを偽るための修学旅行じゃなく、皆で本当の修学旅行にでも行って使い切ろうと考えたんだが――どうだ?」
しばしの沈黙。そして歓喜の声があがった。
「賛成だお!」とやる夫が右手を上げて言った。
「それは名案だな、やらない夫!」と阿部が言う。
「ふーん、やらない夫も少しは良いとこあんじゃん。見なおしたわ」とフランが言った。
だが絶望先生の反応だけは違っていた。
「修学旅行!?そんな、皆さんには学校がありますし――」
「一向に構わん!!」
再び教室内に江田島平八が入って来て叫んだ。
「修学旅行、大いに結構。世間のプログラムへの関心が薄れるまで、諸君らにはこの学園を離れて修学旅行に行ってもらいたい。糸色先生にも引率を頼みたい」
江田島からの許可が下りた為、絶望先生も修学旅行に賛同した。
「分かりました。学園長のお許しも出たので修学旅行を認めましょう」
生徒らの中から「先生権力に弱―い」と声があがった。
絶望先生はやらない夫に尋ねえる。
「それではやらない夫君、お金は君が出してくれるという事でよろしいのですね。一体、どこへ行く予定なんですか?」
「まだ決まっていません。だからこの場で皆の意見を聞いてまとめようかと」
「どこでもいい。ただし俺をイライラさせるなよ…」と浅倉が言った。
「皆で海に行こうぜっていう。泳いだり、海の幸を楽しんだりと愉快な経験が出来るっていう。そしてなにより、女子の水着が見れるっていうwwww」とでっていうが言った。
でっていうの提案に対し、ケニーもフードの下で喜びの声を上げた。
ポプ子がでっていうとケニーに中指を突き立てた後、「日本のマチュピチュ行こう」と両手の人差し指をやらない夫に向けた。
やらない夫は黒板にヨッシーアイランド、海、日本のマチュピチュと書いた。
それを見たポプ子は「えっ、日本のマチュピチュ行っていいいのかっ!?」と驚いた。
「いいと思うぞ」とやらない夫が返した。
まっちょしぃが鍛え上げられた右腕を上げた。
「トゥットゥルー♪まっちょしぃは秋葉原を始めとしたアニメの聖地巡礼がしたいのです☆それと――星が綺麗な場所にも行きたいな♪あっ、修学旅行で出会った
阿部も頷く。
「旅先での新たな出会いは魅力的だよな。様々な場所でのいい男との出会い――ご当地いい男――ふう、滾ってきたな」
次にみさおが手を上げた。
「遊園地行って皆で遊ぼうぜ!」
それを聞いてさくらが驚いた。
「ほえええっ!修学旅行で遊園地っていいのかな?」
そんなさくらにさやかが言った。
「硬い事言わない言わない。要は思い出作りのイベントでしょ。だったら楽しんだ方がお得じゃん。実際に修学旅行で行く学校もあるって聞くし。で、どこに行くの?」
さやかの質問にモンゴメリが立ち上がって答えた。
「それは勿論、夢の国よ!あそこなら広いし、安全だし、皆で楽しむにはもってこいよ!それに可愛らしいマスコットが至る所にいるんですもの。あんな素敵な場所、他にはないわ!」
だがそのモンゴメリの意見にマルフォイが異を唱えた。
「それは聞き捨てならないな。遊園地ならUSJが一番だ。ウィザーディング・ワールド・オブ―――ポッターもあるんだぞ」
モンゴメリとマルフォイの間で火花が散る。さくらが慌てて止めに入った。
「や、止めてよ二人共。皆で行けばどこに行っても楽しいよ」
この光景を見たやらない夫は黒板に夢の国とUSJの両方を書いた。モンゴメリとマルフォイは互いの顔を無言で見た後、席に着いた。
次に貞子が手を挙げた。
「クラスの皆で楽しむことも大事だけど、修学旅行である以上、学ぶ事も大切よ。遊んでばかりじゃいけないわ。寺社仏閣の見学や、南箱根パシフィックランドから始まる呪いのビデオの歴史探訪ツアーなんてどうかしら?」
左之助が自分の掌を拳で叩いて立ち上がった。
「だったら、ありきたりかもしれねえが、京都だな!あそこなら俺が色々知ってっから、簡単な案内や名所の紹介ならしてやれるぜ!」
沙都子が高笑いした後言った。
「でしたら、雛見沢なんてどうですの?豊かな自然に囲まれた集落は見て回るだけでも楽しいですし、村には古くから伝わる言い伝え等もあって、歴史とか好きな方も満足出来ると思いますわよ」
要蔵が小声で「八つ墓村…」と言った。当作品における要蔵、最初の発言である。
鳴が静かだがはっきりと通る声で「美術館…」と言った。
沙子も両手の平を合わせて明るい声で言った。
「名案ね、美術館。博物館とかもどうかしら?私としては、なるべく日の当たらない場所が良いわ」
「それならご心配なく」と言って先行者が立ち上がり、沙子に日焼け止めを渡した。
「私の偉大な頭脳を駆使して開発した日焼け止めです。これを使えば桐敷さんも自由に外を歩けますよ」
「あら――ありがとう」
「例には及びませんよ。私の頭脳を誰かの為に使わないなんて世界にとっての損失ですから。そうだ、様々な研究機関の見学ツアーというのはどうでしょうか?私の頭脳を求める研究所は多く、故に彼らと私にはコネがあります。私が頼めば、皆でそういった研究所を見学し、最新技術や珍しい機械に触れるというのも出来るでしょう」
それを聞いて佐天が言った。
「だったらさー、学園都市なんてどう?最新技術や研究所のオンパレードだから、見るだけでも楽しいと思うし、勉強にもなるんじゃないかなー?」
「学園都市ですか――良いですね、佐天さん。あそこにも私の研究仲間は大勢いますから」
「むしろお前が研究対象だろっていうwwwwwwwww」とでっていうが笑いながら先行者を煽った。
次に研が手を挙げた。
「そういう事なら、僕は農業コンビナートや伊豆囚人島、海上工業都市を提案するよ」
リュウセイは腕を組んで話を聞いていたが、突如立ち上がるとやらない夫を指さした。
「勉強と聞いて嫌な予感がしたが、そういった見学でいいなら俺にも案がある。野菜ボーグや養殖ボーグが作られている現場を見学するんだ!」
野菜ボーグという単語を聞いた五郎の目つきが変わった。
「野菜ボーグか…美味しそうだな。おっ、そうだ。俺は旅先での食事が楽しみだから行先はどこでもいい。美味しそうな料理屋を見抜くのには自信があるから期待してくれ。でも…モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず 自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ 独りで静かで豊かで…」
それを聞いたドナルドが五郎に話しかけた。
「ドナルドは世界中のマクドナルドの店舗情報を全て知っているよ。驚いた?だから皆もお腹が減った時には、近所のマクドナルドへすぐに案内するよ」
その時、山田が両手で机を叩いた。皆が山田の方を見る。
「さっきから話を聞いていれば――出てくるのは国内ばかりじゃないですか!何で海外へ行こうと誰も言わないんですか!?やらない夫さん、お金は沢山あるんですよね!?だったら海外行きましょうよ!そしてじゃんじゃんお金も使いましょう。なんなら借金させるまで、山田がお金使いますよ!」
山田の提案を聞いた日吉が静かに言った。
「だったら――香港で本物のカンフーを見たい。世界中を回れるのなら、トップレベルのテニスプレイヤー達と試合をして世界を経験するのも悪くない」
次にジャイアンが大声で言った。
「おれ様はウィーン少年合唱団の歌を聞き、歌で勝負がしてえ!おれ様の美声で奴らを感動の渦に叩き込んでやるぜ!あれっ、ウィーンってどこだ?」
「オーストリアだ」とバクラが言った。ジャイアンは「オーストリア?オーストラリアの間違いじゃねえのか?」と言った。そんなジャイアンを無視し、バクラが旅先の提案をした。
「だったらよお、エジプトはどうだ?非常に古くから文明が栄えた場所だ。古代の遺跡や王族の墓、金銀財宝といった見るだけで愉快なうえ、勉強になるものが目白押しで最高だと思うぜ。なんならオレ様がガイドもやってやるよ」
次いでケニーが何かを言った。
やる夫には彼が何て言ったのか全く聞き取れなかった。だが、やらない夫を始めとするクラスメイトらにはケニーの言った事が分かったようだ。やらない夫は黒板にサウスパークと書いた。
やる夫が首を傾げていると、やらない夫と目があった。やらない夫は「すぐに聞き取れるようになるさ」とやる夫に言った。
ちゅるやさんが元気な声でやらない夫に呼びかけた。
「やらない夫君、やらない夫君。わたしは世界各地のスモークチーズが食べたいにょろ。だからスモークチーズの生産地巡りがしたいにょろ!」
「だーめ」とポプ子が言った。ちゅるやさんは「にょろーん」と言った。
だが、やらない夫の反応は違っていた。黒板には世界中のスモークチーズ巡りと書かれていた。
ちゅるやさんの顔が明るくなる。それを見たポプ子がやらない夫に言った。
「マチュピチュ行こう」
「良いぞ」
「えっ、日本のマチュピチュだけじゃなく、本物のマチュピチュまで行っていいいのかっ!?」
「構わねえよ」
「ヤッター!」
ポプ子が万歳をしながらジャンプした。
沙耶が笑顔で手を振りながらやらない夫に呼びかけた。
「ねーねー、それならハワイ行こうよ。でっていうが言った海もあるんだし。それにさー、ハワイなら拳銃を撃てたり、ボートを運転したり、車の運転も出来るんでしょ?私、もう一回車の運転がしたいなー」
阿部が「それは良いな。ハワイなら俺も自慢のドライビングテクニックを何の問題なく披露できるんだな。そしてハワイ、南国のいい男――」と、沙耶に同意する意見を言った。
うさみちゃんも沙耶の意見に聞き入っていた。
「私のライバルでもある名探偵はそういった数多の技術をハワイで親父に教わった、とか言ってたわね…。私も名探偵を目指す以上、それらの技術を身につける必要があるわ」
ハワイという意見に関心を持ったのは永沢も同じであった。
「ハワイと言えば、確かキラウエア火山があったよね。火に慣れる絶好の機会じゃないか」
この永沢の発言に教室中がどよめいた。永沢はそれを不満そうな顔で聞くと口を開いた。
「何だいこの反応は。確かに僕は火が怖いさ。でもプログラムを通して学んだんだ。火は恐ろしいものでもあるけど、世の中には欠かせないものでもあるんだ。だからいつまでも火が怖いなんて泣き言は言っていられないんだ。少しずつ、自分のペースで火に慣れていこうって決めたのさ」
「素晴らしいぞ永沢!お前を見直したぞ!」
そう言って、ヒューマンガスが永沢の肩を叩いた。ヒューマンガスは話を続けた。
「それなら永沢、修学旅行ではオーストラリアの大地を同士達と共に駆け抜けようではないか!飛び交うガソリン、舞い上がる炎、噴き出す血に体を震わす大爆発!これらの刺激で火への恐怖などすぐに消える」
ヒューマンガスの言葉にジャイアンが反応した。
「オーストラリアって事は、ウィーンがあるじゃねえか!」
「ねえよ」とバクラが言ったが、ジャイアンの耳には届かなかった。
ヒューマンガスの意見に感化されたベネットが自分の意見を言った。
「オーストラリアもいいが、ラテンアメリカもいいぜ。爆発や飛び交う銃弾は勿論、本物のラテン農民のラップも聞ける。それにその辺にはバル・ベルデやエルドビア共和国もあって最高だぜ」
ムスカが高笑いしながら立ち上がった。
「さっきから聞いていれば、絶対に欠かせないあの場所が挙がってないではないか。君たちはそんな事も忘れてしまったのかね?ラピュタだよ。我々でラピュタを目指そうではないか!デデンネ、君もそう思うだろう?」
「全く思わないでちゅ。私はアルトマーレにフウラシティ、アーシア島にラルースシティ、アラモスタウンやファウンス――ああ、絞り切れないでちゅ!いっそ、全部行けばいいんでちゅね!」
「フッ、君に話したのが間違いだったようだ。君ではラピュタの素晴らしさが分かるまい」
ムスカがそう言うと、デデンネはムスカの顔目がけてフラッシュを放った。
「あ~目が、目がぁ~!」
ムスカの悲鳴が教室内に響き渡る。
フランがため息をついて言った。
「もう何ならいっそ、幻想入りすれば?幻想郷は何者も拒まないし、貴方達なら行ったとしても何とかなるでしょ。こいしもそう思わない?」
フランはこいしに尋ねたが、こいしの席にこいしの姿は無かった。
「またアイツは勝手にどっか行ったのね…」
枢斬がドスを机に突き立てた。その音が教室内を静めた。枢斬は迫力のある声で言った。
「やらない夫、貴様の願いで委員会の奴らも全員甦ったんだな?」
やらない夫は無言で激しくうなずいた。枢斬は手を挙げて、やらない夫に頷くのを止めるように促した。
「別にその事は責めておらん。だが、奴らが生き返った以上、委員会に命を奪われた他校の生徒達を思うとワシは黙って見ておれん―――BR法委員会、犯したるーっ!!!」
「それはイライラしないで済みそうだな…」と浅倉が言った。
「賛成だ。奴らが生きている以上、俺は落とし前を付けなきゃならねえ」とオルガも言った。
その後やらない夫がクラスメイトらに尋ねた。
「えっと――古明地はどっか行ったみたいだが、他にもまだ意見を言ってない奴いるだろ?行先の要望は無いのか?」
そう言われ、両儀が淡々と返事した。
「オレはどこでも構わねえよ。こいつらといれば、退屈はしなさそうだしな」
うさみちゃんが顎に手を当てて言った。
「さっき私はハワイが良いって言ったけど、結局のところ、名探偵のいる処に事件有りなんだから、行先はどこでも構わないのよね。ただ、温泉旅館に泊まりたいわ。そこでないと湯煙殺人事件に遭遇できないもの」
その時、水銀燈が馬鹿にしたように言った。
「さっきから黙って聞いていればほんっとうにくぅだらない…。旅行と言ったって、結局は学校行事でしょ?それなのに一々大騒ぎして、バッカみたい…」
「やらない夫君!銀ちゃんは行かないみたいだよ!一人分欠席になるから、予算に余裕が出来たね!」と研が笑いながら言った。
「ちょっと待ちなさいよ!くだらないけど、行かないとは言ってないわよ、このキチガイ!そうねぇ…教会なんて綺麗でいいんじゃない?」
やらない夫が黒板に教会と書いた後、やる夫に尋ねた。
「やる夫。お前はどこに行きたい?」
「んー、やる夫もこのクラスの皆と一緒ならどこに行っても楽しいと思うお。あっ、でも旅行先の土産屋で剣のキーホルダーを買ってチャンバラしたいお」
「おー、いいじゃねえか。相手してやるよ。言っておくが、俺は強いぜ?」
「いやいや、やる夫だってプログラムではあの剣のキーホルダーを片手に戦った経験があるお。勝つのはやる夫だお!」
「あの~一ついいですかぁ?」とベータがやらない夫に声をかけた。
「私も行先はどこでも構わないんですけどぉ、一体どこにするんですかぁ?」
ベータは黒板に書かれた大量の候補地を指さした。黒板にはそれぞれの生徒の希望した行先がびっしりと書かれている。教室が静まり返る。
やらない夫が口を開いた。
「全部行けばいいだろ、常識的に考えて」
教室内が沸き立った。その時、窓の外から大きなクラクションが聞こえて来た。生徒らは窓の側により、外を見た。
そこには一台の大型バスが止まっていた。バスの窓が開き、中からこいしが顔を出した。
「バス借りて来たよー。さあ、修学旅行に出発だね、早く来ないと置いてっちゃうよー」
こいしがそう呼びかけると生徒らは皆、教室を出ようと駆け出した。
「修学旅行には危険がいっぱいじゃー!だからワシが旅行中に、危険から身を守る方法を教えてやるぜー!」
じーさんが走りながら叫んだ。
「ああ分かったよ!連れてってやるよ!連れてきゃいいんだろ!」とオルガが言った。
それに対し、「違いますね。連れて行くのは引率である私です!」と絶望先生が言った。
「やらない夫が連れて行くという事じゃねえのかお…?」とやる夫が言った。
「どうでもいいさ」とやらない夫が言った。
「それもそうだお」とやる夫が言う。二人は顔を見合わせて笑った。
ハーメルン学園3年β組45名とクラスの担任一人を乗せ、バスは修学旅行へ出発した。
エピローグ
BR法委員会第二ビルでは利根川幸雄、蓮実聖司、そして唯一神エンテイが顔を見合わせていた。
利根川が恐る恐るエンテイに尋ねた。
「私と蓮実が生き返ったのは唯一神様の御力によるものですが、それと引き換えに唯一神様は――」
「その事か。私は新しい火山が出来るたびに生まれてくるから。不覚にもあの時は一度殺されたが、しばらくして新しい火山の噴火が起こったからこうして甦る事が出来た。そんな事はどうでもいい。蓮実、新たなプログラムの参加者は目星がついているのか?」
「勿論です」と蓮実が答えた。
「教師を首にはなりましたが、前もって多くの学校をリストアップ済みです。スポーツ名門校、進学校、お嬢様学校といったものから、普通の学校も幅広く情報を集めておきました」
「流石だな。だが――分かっているな?」
「はい。イかれた生徒のオンパレードといった学校は既に除外済みです」
「分かっているならいい。利根川、お前はどうだ?」とエンテイの視線が利根川に向けられる。
「はい、前回の様なことが無いよう、強力過ぎる支給武器の取り止めや首輪の管理、そして生徒一人一人の行動を逐一監視して、反乱を防ぐように努めております」
その時、部屋の扉が開き、震える足取りで一人の黒服が入って来た。
利根川はその黒服を見ると立ち上がった。
「今は大事な会議中だ!それなのに、ノックの一つもせんで――」
利根川はその黒服を叱ろうとしたが、黒服の姿を見て途中で止めた。黒服のスーツは至る所が破れ、そこから覗く体にも傷が見られる。サングラスにはひびが入っている。
利根川がその黒服に声をかけようとした時、物凄い音と共に扉が蹴破られた。
そこに立っていた者たちを見て、エンテイ、利根川、蓮実の顔から血の気が引いた。
20XX年、ある国では全国の学校から無作為に選ばれたクラスの生徒らを対象にした『プログラム』と呼ばれるデスゲームを行っていたッ!この『プログラム』とは、一つのクラスに属する生徒全員を一ヶ所に閉じ込め、最後の一人になるまで殺し合わせるというものであった。騙し、騙され、裏切り、裏切られ、利用し、利用され、殺し、殺される。そんな悪魔のゲーム『プログラム』を執り行うことを決めた法案を、人々はBR法と呼ぶッ!これからはBR法によって不幸にも変人だらけのクラスをプログラムに参加させてしまった、ある委員会の物語であるッ!