やる夫とクラスメイトがバトロワに参加させられたようです   作:MASUDA K-SUKE

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「五条勝が試合に出ないのは勝手だ。けどそうなった場合、誰が代わりに出ると思う?」
「…」
「万丈(一道)だ」


ハーメルン学園3年β組45名 名簿

○→生存、●→死亡

● 男子01番 浅倉威
○ 男子02番 阿部高和
○ 男子03番 天野河リュウセイ
○ 男子04番 泉研
○ 男子05番 オルガ・イツカ
○ 男子06番 井之頭五郎
○ 男子07番 剛田武
● 男子08番 相楽左之助
○ 男子09番 じーさん
● 男子10番 先行者
○ 男子11番 多治見要蔵
● 男子12番 でっていう
○ 男子13番 永沢君男
○ 男子14番 獏良了
○ 男子15番 ヒューマンガス
○ 男子16番 日吉若
○ 男子17番 ベネット
○ 男子18番 ドナルド・マクドナルド
● 男子19番 ケニー・マコーミック
○ 男子20番 ドラコ・マルフォイ
○ 男子21番 やらない夫
○ 男子22番 やる夫
○ 男子23番 ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ
○ 女子01番 うさみちゃん
○ 女子02番 木之本桜
○ 女子03番 桐敷沙子
○ 女子04番 日下部みさお
○ 女子05番 古明地こいし
○ 女子06番 佐天涙子
○ 女子07番 沙耶
○ 女子08番 水銀燈
● 女子09番 枢斬暗屯子
○ 女子10番 フランドール・スカーレット
○ 女子11番 ちゅるやさん
○ 女子12番 デデンネ
○ 女子13番 ベータ
○ 女子14番 北条沙都子
○ 女子15番 ポプ子
○ 女子16番 まっちょしぃ
○ 女子17番 美樹さやか
● 女子18番 見崎鳴
● 女子19番 ルーシー・モード・モンゴメリ
○ 女子20番 山田葵
○ 女子21番 山村貞子
○ 女子22番 両儀式

【生存者 残り37人】


4話

23

 vipルームを後にした利根川はビル内部のプログラムの進行管理部屋にいた。その部屋では多くの黒服がモニターに向かって何らかの作業を行っている。モニターには参加させられたハーメルン学園3年β組の生徒の姿が映し出されている。この部屋でプログラム中の生徒の居場所や動き、戦いの様子を常に監視しているのである。

 利根川は椅子に座り、戦いの様子を眺めていた。

 ククク――今のところは順調だ。vipルームの方々も今回は予想が難しいと言って大いに盛り上がっておったわ。

「既に8人の生徒が死んでいますよ、利根川先生。唯一神様も大層お喜びでした」

 利根川は後ろに振り向く。そこに立っていた男は黒服を着ていない。この部屋で黒服を着ていないのは利根川とこの男のみである。すなわち利根川と同じ立場にこの男はいるという事だ。その男の名は蓮実聖司という。

 蓮実はBR法委員会の会員でありながら、ハーメルン学園の英語教師でもある。蓮実は教師という立場を利用して様々な学校の情報を手に入れた。それらの情報を活用し、唯一神が望んだ内容のプログラムを実施するのに適したクラスを選んできた。

 今回の唯一神の希望は多くの生徒が殺し合いに乗るというものであった。蓮実はすぐさまハーメルン学園3年β組を推薦した。

 決まるのは一瞬だった。

 その後、蓮実は様々な方面に手を回し、ハーメルン学園3年β組の生徒を突然の修学旅行と偽ってプログラムに参加させた。やる夫が転校してきた日の朝、3年β組の担任である糸色望を廊下に呼び出して修学旅行の旨を伝えたのも蓮実であった。

こうした実績から、今では蓮実は利根川と委員会のナンバーツーの座を争うまでになった。

利根川は蓮実を快く思っていない。蓮実も同様である。

「蓮実先生、あなたが推薦したように、このクラスの大半の生徒は殺し合いに乗り気だ。それについては問題ない。だがな、プログラム当日に生徒が一人転校してくるとは聞いてなかったぞ…!参加者は44人として準備をしておいたのに余計な手間を増やしてくれおって…」

「たった一人増えたって問題はありませんよ。武器でしたら驚くことに唯一神様自らが提供してくださいましたしね。水や食料、首輪などはすぐにでも用意できるじゃないですか。確かに突然の事でしたから利根川先生にはご迷惑をかけたと思いますよ」

 蓮実は笑顔で返事をする。その顔を見て利根川は舌打ちをしたくなった。

 この男…委員会に入ってから凄まじい勢いで出世し、今ではプログラム開始後の唯一神様に謁見するのもワシだけの特別な仕事ではなくなった…。蓮実が唯一神様に謁見するのは二回に一回、その時のワシはvipへの挨拶回りだ。――今回もそうだったな」

 利根川は苦虫をかみつぶしたような顔でたばこを取り出して火を付けた。

「ところで、今回は禁止エリアを設けないのか?生徒がこのビルに突入するのは避けたいところだが」

「以前のプログラムで禁止エリアを設けなかったところ、生徒らが団結して本部に乗り込もうとした事があったでしょう。大半が警備中のストームトルーパーに殺され、残った生徒もvipらの目の前で首輪を爆破させられて死んだという結末でしたが。これがvipらには非常に面白かったそうでしてね。生徒らの殺し合いも見たいが、委員会に反抗して夢半ばで散る生徒も見たいとの事です」

「そうか。禁止エリアを設定するのが面倒というわけではないんだな」

 悪趣味な奴らだ。もっともこのワシが言える事ではないがな。

「最後に一つ、蓮見先生は今ではハーメルン学園で別のクラスの担任だったな。かつてのように自分の教え子らをプログラムの対象に選ばなかったのはなぜだ?」

「彼らは私の邪魔になったから仕方なく参加させたんですよ。まだ私は今のクラスを楽しんでますから殺し合わせる必要もないんです。邪魔になったらすぐにでも後のプログラムに参加させますよ」

 この男は危険だ。出来る事なら今すぐに委員会から除籍したい。

 そう思った利根川は苦々しげな顔で、煙草を灰皿でもみ消した。

 

 

 

24

 美しいとか醜いとか、裕福とか貧乏とか、有能とか無能とか、白人とか黒人とか、善人とか悪人とか、老いとか若いとか、男とか女とか――そういうことは関係ない。死は誰にとっても等価なの。個性や特徴といったものは生きている時しか意味がない。死んだら全てが無意味になる。だからこそ死は恐ろしく、誰にとっても酷い事なの。

 女子03番、桐敷沙子は物思いに耽っていた。

 腰まで伸ばした長い黒髪。切りそろえられた前髪。光が無い瞳。そして目を引くのが白い肌だ。雪のように純白な肌と言えば聞こえはいいが、彼女の場合は白すぎる。美しいというよりも不健康という印象が先行しても仕方がないだろう。

 沙子は本部のビルから離れたところでバッグを地面に置いた。

 何が入ってるのかは知らないが、とても重くて大変だった。日焼け止めや帽子が入っていれば何でもいい。

 沙子は肌が弱く、長時間紫外線に当たると肌が痛くなる。そのため、常日頃から日焼け止めを塗り、長袖の服を着て身を守っている。普段愛用している日焼け止めは委員会によって奪われてしまった。今朝も登校前に日焼け止めは塗ったが、長時間この島で日に当たるのは堪らない。

 沙子はすがる思いでバッグを開けたが、中に日焼け止めを初め、紫外線から身を守れる類のものは入っていなかった。入っていたのは三つの緑色のパーツだった。

 これは一体何なのよ。

 沙子は三つのパーツを取り出して地面に並べた。一つ一つのパーツが重く、これらがバッグを重くしていた原因かと分かった。

 沙子は付属の説明書を取り出して読んだ。そこには次のように書かれていた。

 付属の三つのハイドラパーツX、Y、Zを組み立てると伝説のエアライドマシン、ハイドラが完成します。このマシンに乗ってクラスメイトを吹っ飛ばそう!

 乗るよりも中に入れるマシンの方がよかったわ。

 沙子は三つのパーツを組み合わせる。何もしないより何かした方が気を紛らわせていい。この島はまともな場所じゃない。

すぐさま伝説のエアライドマシン、ハイドラは完成した。緑色のコーカサスオオカブトのような姿で、マシンの至る所に棘が生えている。

 沙子は完成したハイドラに乗り、チャージを始めた。

 チャージが完了するまでしばらく時間がかかるのね。

 沙子はハイドラの上で体育座りをしてハイドラが動き出すのを待つことにした。

 いつになったら動くのよ。

 そう思った時である。

 青い閃光が空気中を走る。それが沙子の体に当たるや、沙子の体を数メートル吹き飛ばした。

 この一撃で沙子は事切れた。

 吹っ飛ばされて動かなくなった沙子の姿を見て、一人の女子生徒が物陰から姿を現した。

 沙子とハイドラを見て、ある女子生徒が物陰から姿を現した。

 女子13番、ベータであった。多少緑がかった水色の髪に、赤紫色の瞳。ハーメルン学園のサッカー部に所属しており、ポジションはフォワードである。

「あらやだ、ごめんなさぁい、当たっちゃったぁ」

 ベータは笑顔で舌をちょこっと出し、自分の右手で頭を小突く。

 ベータに支給された武器はEM銃であった。

 EM銃とはアルミニウム弾を電力によって光速に近い速度で撃ち出す事を可能とした銃で、軍事企業サイレックス社によって個人が携帯できるほどにまで縮小化された最新鋭兵器である。早い話がレールガンだ。先ほど沙子を貫いた青い閃光はEM銃から光速で撃ち出されたアルミニウム弾であった。

 ハーメルン学園ではなぜかクラスをα、β、γ、δとギリシャ文字で分けている。ベータはこれまでの3年間、β組になるために金だのコネだのマインドコントロールだの様々な手を使ってきた。

今日までは満足してきた。今日までは。だからと言ってα組やγ組になってたら良かったのかというとそういう訳でもない。

 ベータは操縦者を失い地面に放置されてるハイドラを見た。

「持ち主もいなくなっちゃいましたし、この武器も壊しちゃいますね。」

 ハイドラを狙ってベータはEM銃を向け引き金を引く。EM銃から発射された弾丸はハイドラを貫き、再び三つのパーツに分かれた。

 バラバラになっちゃいましたねぇ、と言ってベータは辺りを見回す。誰もいないことを確認し、次の標的を探して歩き出した。

 ベータは知らない事だが、ハイドラは壊されたのではない。再び三つのパーツに分かれただけだった。

 ベータが去った後、三つに分かれたハイドラパーツが新たな持ち主を求めて三方に飛んで行った。

 

【女子13番 ベータ】

【身体能力】 A 【頭脳】 B

【武器】 EM銃

【スタンス】 優勝を目指す

【思考】 皆さんはどこにいるんでしょうねぇ

【身体状態】 正常 【精神状態】 正常

 

【女子03番 桐敷沙子 死亡】

【生存者 残り36人】

 

 

 

25

 誰かが武器を残して死んでないかしらぁ――。

 女子08番、水銀燈は歩きながらそう思っていた。水銀燈は支給武器であるパラソルをさしている。このパラソルは丸みを帯びたデザインで生地は赤と白が交互に配列したものである。パラソルの先端には黄色い星が付いている。

 星のカービィのパラソルが水銀燈の武器であった。

 銃火器類がよかったのに、こぉんなものが来るなんて最悪よ。そもそも傘が武器だなんてあのバカな妹みたいで気分悪いわぁ。

 水銀燈は七人姉妹の長女である。次女の金糸雀は普段から傘を持ち歩いており、有事の時はその傘がバイオリンに変化する。水銀燈は金糸雀をバカだと見なしているが、金糸雀に色々と自分の秘密を握られているのが難点でもある。

 はぁ――。

 ため息をついた。

 このパラソルの生地は特殊な素材で出来ていて、防弾、防刃の役割を果たす。パラソルをさしていれば多少の銃撃は防げるかと思い、水銀燈はやむなくパラソルをさしているのである。

 ホントこのパラソルのデザインは何とかならないの…目立ってしょうがないわぁ。でも、あった方が安全だから仕方ないわねぇ。防弾チョッキと違って死んだふりは出来ないけど、守備範囲はこっちの方が広いものねぇ。そもそもこのクラスでは死んだふりなんて無意味だもの。さぁて、これからどうしましょう――。このパラソルで敵が死ぬまで殴るなんて面倒だわ…。

 ふと水銀燈は自分のファンクラブ、水銀党の事を思い出した。

 水銀党の党員は全世界におよそ30億人いる。

 公称であるが。

 党員は水銀燈の手足となって動く。ここに党員がいれば間違いなく水銀燈を生かすために動き、最後は水銀燈の為に喜んで自らの命を投げ捨てるだろう。

 だがこのクラスに党員は一人もいなかった。結局は誰の力も借りずに一人で戦わなければならない。

 フン、上等よ。私一人でこのプログラムを制して見せるわ。

「アハハハハハッ!」

 水銀燈の考え事は突然の高笑いによって妨げられる。

 水銀燈は笑い声のした方へパラソルを向ける。

「あらぁ?攻撃前に高笑いだなんて、相当のお馬鹿さぁんがいたものねぇ――。それとも余裕の表れかしらぁ?早く出てらっしゃい。今なら苦しまずに殺してあげるわ」

「ある時は情け無用の男、またある時はジュラル星人キラー。しかしてその実体は、正義と愛の使徒、チャージマン研だ!」

 そう言って男子04番、泉研が姿を現した。

 青い瞳に茶色い髪。後ろの毛は数本が束になってはねている。

 なんで多羅尾伴内の口上を真似してんのよ…それに東映版スパイダーマンも混ざってるじゃないの。

 頭を抱えた水銀燈に研は話しかける。

「やあ、銀ちゃんじゃないか!やっと誰かに会えたよ、嬉しいなあ」

 嬉しくない。

そもそも銀ちゃんって何よ、バカにしてるわけ?

 泉研は地球侵略を目論む悪の宇宙人、ジュラル星人から地球と人々を守るためにチャージマン研に変身して戦っている。ジュラル星人は人間の姿に化けることが出来る。研は相手がジュラル星人と分かればすぐさま変身し、ジュラル星人を愛用の銃、アルファガンで撃ち殺している。もちろんこの島では変身は出来ないし、アルファガンも既に回収されている。

「はぁい、そこまでよ。両手を頭の上で組んでその場に跪きなさい」

「なんでそんな事しなきゃいけないんだよう!」

 水銀燈の命令に研が従う様子は全くない。

 水銀燈は傘を研に向けたまま様子をうかがっている。

 泉研――、このクラスで1,2を争う頭のイカレた子。こういう子によくあるのが無茶苦茶な理屈で殺しを正当化する事よ。そうね―――クラスメイトはジュラル星人だから皆殺しだってとこかしらぁ?

 研への警戒を怠らない水銀燈。研はそれに構う事なくバッグからヤクルトを取り出して飲み干した。

「銀ちゃん、そんな傘を持ってどうしたんだい?まさか、そんな傘で殺し合いに参加するっていうのかい?」

「そのまさかよ。笑っちゃうわよねぇ―」

 アハハハハハと研は笑いながらヤクルトを取り出して飲み干した。

「殺し合いなんて間違ってるよ、銀ちゃん。そんな事はやめるんだ」

「やめてどうすんのよぉ…くぅだらなぁい。おとなしく誰かに殺されるのを待てってわけぇ?そんなのごめんよぉ。私は生きるわ。生きるためにこの殺し合いに乗るのよ。だって――生きることは戦うことでしょう?」

「それって銀ちゃんと特に仲が悪い5番目の妹さん、えーと、真紅さんが言ってたことだよね」

 前言撤回。

「生きるっていうのは他の誰かの命を喰らうって事でしょう?」

おっかないなぁ、と言って研はヤクルトを取り出して飲み干した。

「そもそも銀ちゃんはそんな傘でどうしようっていうんだい?空中散歩してこの島から逃げるのかい?」

「逃げたら首輪が爆発するでしょう。そうね――このパラソルで貴方を死ぬまで殴って武器でも頂こうかしらぁ…。そもそも貴方の武器って何なのよぉ?」

「僕の武器はこれだよ」

 研はイングラムM10マシンガンを持ち上げるようにして水銀燈に見せた。

 絶句する水銀燈。

 冗談じゃないわ!あれって当たりの中の当たりじゃないの!殺して奪う?いいえ、このパラソルがどれくらい丈夫なのかも分からないし、今のわたしじゃこの子には敵わないわ!

「どうしたんだい銀ちゃん。急に青ざめたと思ったら黙っちゃって。熱でもあるのかい?」

「な、ないわよ!」

「それはよかった。ねえ銀ちゃん、僕と手を組んで委員会を滅ぼさないかい?」

 プッ、と水銀燈は笑う。

 あらあら、マシンガンを持っていながらなんで私に撃ってこないのかしらと思ってたけど、そういう事。この子は対運営ってことね。

「僕らを殺し合わせるなんて、間違いなく委員会の奴らはジュラル星人だよ!僕はあいつらを皆殺しにしないといけないんだ!」

「あははははっ!おバカさんだとは思ってたけど、これ程までとはねぇ!いい、私たちには首輪が付けられていて委員会の手でいつでも爆破させられるのよぉ。反抗すればこの首輪が爆発してあの世行きよ。それよりも先にビル周辺のストームトルーパーに蜂の巣にされるわねぇ。貴方もビルから出た時に見たでしょう?」

「あっ忘れてた。いっけね~」

「そんな事も忘れてたの…貴方、頭の中は空っぽ?それとも爆弾でも入ってるんじゃないのぉ?」

「どちらかと言えば空っぽの方かな。でも銀ちゃんだってお腹が空っぽだろう?」

「それは旧アニメオリジナルの設定でしょうがぁ!いっそのこと頭の中に爆弾入れた方が貴方の頭も少しはまともになるんじゃないのぉ!」

 水銀燈は怒りを露わにして怒鳴るが、研はそれに臆することなくヤクルトを取り出して飲み干す。

「でもねえ、僕らで力を合わせればストームトルーパーには勝てると思うんだ。ストームトルーパーを殲滅したら、ビルに突入。首輪を爆破される前にみんなで委員会のジュラル星人を殺してこの島を脱出!完璧な作戦だろう」

「どこが完璧なのよ。誰がそんな作戦に乗るっていうのよ」

「クラスにジュラル星人がいないのは確認済みだから。みんな協力してくれると思うよ」

「ふぅん。――そういうところはしっかりしてるのね。でも私は嫌よ、群れるのは大っ嫌い。それに転校生はどうなのよ。やる夫に山田にイツカだったわね、あの子らがジュラル星人かもしれないじゃない」

「やる夫君は違うよ。ジュラル星人はあんな姿に化けたりしないよ」

 それはやる夫に失礼じゃないの?貴方は人の外見にあれこれ言える顔じゃないでしょう。

「残りの二人はまだ分からないけど、もし会えたら協力してくれないか聞いてみるよ。協力してくれるならジュラル星人じゃないし、協力しないって言ったらジュラル星人だからその場で撃ち殺せばいいんだよ」

 そう言って研はヤクルトを取り出して飲み干した。

「そう言えば――銀ちゃんは協力するのは嫌なんだよね」

 ぎくっ。

 水銀燈は研の様子をうかがう。いつの間にか研の持つイングラムの銃口が水銀燈の方を向いている。さらに指はイングラムの引き金にかかっている。表情に変化はない。

 正体見せたわねぇ――。

「別に協力するのが嫌なわけじゃないわ。馴れ合いが嫌いなだけよぉ…。それにこのクラスにジュラル星人はいないんでしょう?それなのに私を撃つの?」

「銀ちゃんがジュラル星人でないのは確認済みさ。でも今ここにいる銀ちゃんがジュラル星人の化けた姿でないとは言えないんだよ。本物の銀ちゃんは今頃ジュラル星人に拉致されているのかもしれない。だとしたら、ここでジュラル銀ちゃんを殺して本物の銀ちゃんを助け出さないと。で、どうするんだい?」

 私は本物よ!どうするですってぇ…?そんなのyesかはいで答えるしかないじゃないのよ!いっそフランス語でouiって答えようかしら―――駄目ね、おバカな6女の雛苺みたいだわ。

「分かったわよ、闇を纏い、逆十字を標されたクラス最凶の私が力を貸してあげるわぁ。喜びなさいよぉ」

「ありがとう銀ちゃん!ところで逆十字というのは世界各地の人々を救う事が目的である国際組織」

「それは赤十字」

「クリスチャン・ローゼンクロイツによって創始されたと言われる秘密結社」

「それは薔薇十字団」

「うみねこのなく頃にの登場人物で、右代宮家序列第7位」

「それは右代宮譲治でしょうがぁ!」

 水銀燈は怒鳴るが、研は気にすることなく、ザ・ビートルズのメンバー、と笑顔で言った。

 それはジョージ・ハリスンでしょう。

 水銀燈はツッコむ気力も失せた。気づけば肩で息をしていた。

 だんまりかあ――と言って残念そうな研はヤクルトを取り出して飲み干した。

「疲れただけよ。おバカな姉妹におバカなクラスメイトに囲まれてたら疲れるし血圧も上がっちゃうわよぉ…」

「銀ちゃんも苦労してるんだね」

「9割ぐらいは貴方のせいよぉ…。そう思うなら苦労人をもっといたわって欲しいわあ」

「緋村剣心は」

「流浪人」

「月影兵庫は」

「素浪人」

「ドストエフスキーの小説、悪霊の主人公は」

「スタヴローギン。はっきり言って上手くないわよ」

 そ、そんなぁ――と言って研は肩を落とす。だが何事も無かったかのような顔をして研はヤクルトを取り出して飲み干した。

「まあまあ、ストレスをため込むの良くないからね。ちゃんと発散しないと。あとは乳酸菌をしっかり毎日取る事だね」

「その心配ならいらないわよぉ――毎日朝の1本を欠かさず飲んでいるもの。今日だってちゃんと飲んできたわ。――で、そろそろツッコんでもいいかしらぁ?」

「断る!」

「うるさいわねぇ!さっきからずっとツッコみ待ちでしょうよ!何で貴方はさっきからヤクルトを飲んでるわけ?支給品にヤクルトは含まれていないはずよ、それに貴方の支給武器はそのマシンガンでしょう?どこで手に入れたのよ!」

「特別付録として入ってたんだよ。ラッキーだったなあ、もしかして僕にキャンペーンボーイを務めて欲しいのかな?」

「何で貴方のバッグに入ってるのよ、乳酸菌といえばこの私でしょう?貴方がキャンペーンボーイ?笑わせるんじゃないわよぉ!」

 自分では似合ってると思うんだけどなあ――と言って研はヤクルトを取り出して飲み干した。

「話の途中で飲むんじゃないわよ!」

「話してたらのどが渇いちゃって。銀ちゃんも飲むかい?」

 ―――え?

「これまで飲んでたけど毒や工場廃液は入っていない普通のヤクルトさ」

 入っていてくたばればよかったのよ。

「僕らの同盟結成を祝って乾杯といこうじゃないか」

「ま、まあ一杯ぐらいは付き合ってあげるわぁ」

 そうこなくっちゃ――と言って研はバッグからヤクルトを取り出す。それを片手に持ち、もう片手でバッグの中身を漁る。しばらくバッグを漁った後、研は顔を上げた。

「ゴメンね~これが最後の1本みたいなんだ」

 固まる水銀燈。

 そんな水銀燈を横目に研はヤクルトを飲み干した。

「貴方、頭がジャンクなんじゃないの?」

 

【女子08番 水銀燈】

【身体能力】 D 【頭脳】 A

【武器】 パラソル

【スタンス】 優勝を目指す

【思考】 いつか研は殺す

【身体状態】正常 【精神状態】 正常

 

【男子04番 泉研】

【身体能力】 A 【頭脳】 E

【武器】 イングラムM10

【スタンス】 ジュラル星人は皆殺し

【思考】 クラスメイトと殺し合うなんて頭どうかしてるよね

【身体状態】正常 【精神状態】 正常

 

 

 

26

 岩の隙間から顔を出したやらない夫の全身は激しく震えていた。

 見たことも無い人物がこちらへ向かって歩いてくる。頭を動かして周囲を見渡している事から、まだやらない夫に気づいてはいないのだろう。

 誰だ。

 機械のような姿。先行者というロボットみたいなクラスメイトならいる。だが、こちらに向かって来る者は先行者よりもはるかにカッコよくて強そうだとやらない夫は思った。

 体には黄色のラインが走り、やたらと色んなものが付属したベルトを付けている。

 正面に付いているのは――携帯電話か?

 だ――駄目だ。あれには絶対に勝てない。

 やらない夫は身を縮こまらせた。口元を押さえ、息や声が漏れないように努めた。だが体の震えは止まるどころか、ますます激しくなった。

 やらない夫は知る由もないがやって来たのは天野河リュウセイが変身した仮面ライダーカイザであった。

 仮面ライダーカイザ、天野河リュウセイは声を出す。

「あっれー、おかしいな、誰もいないぜ。確かにこっちの方からやらない夫―って聞こえたんだけどなあ。やらない夫の奴、どっかに隠れてんのかなあ」

 やらない夫じゃねえ!俺はやる夫って叫んだんだ!あれ?それってつまり、こいつは俺を殺そうと思ってやって来たって事か!?ゴメンなさい、ゴメンなさい。やる夫を嵌め、クラスメイトを利用しようとした俺が間違ってました。命だけは勘弁してください。――って待て。今の声、聞き覚えがあるぞ。

 やらない夫は必死に声の主を当てようとする。

 ――思い出した。

 天野河リュウセイだ。

 うん、話し合いでどうにかできる相手じゃない。姿を見せたら殺されるな。

「やらない夫―!どこにいるんだおー!やる夫がやって来たおー!」

 突如聞こえてきた声にやらない夫はとっさに噴き出す。

 ブーッと音がした。

 やらない夫は慌てて口元を押さえる。

 気づかれたっ!

 だがやらない夫の予想を裏切り、リュウセイはやらない夫に気づくことはなかった。

 疑問に思ったやらない夫はそっと岩の隙間から顔を出して様子をうかがった。やらない夫の視線の先に変身したリュウセイが立っている。その奥には森が広がっており、リュウセイは森の方向をじっと見ている。

 ああ、声がしたのはこの森の方からだ。

 草をかき分ける音が聞こえる。音は大きくなり、森の中から一人の男が姿を現した。

「はあはあ…やっと広い所に出られたお。んんっ、そのカッコイイ姿、まるで仮面ライダー!もしかしてやらない夫かお?変身したのかお、うらやましいお!」

 現れたのはやる夫だった。やる夫は笑顔でリュウセイに話しかける。人に会えたのが嬉しいのか、テンションも高い。

 違うんだよやる夫!あれは俺じゃない!と、とにかく、すぐにここから逃げてくれ、俺が悪かった!そいつは、天野河は間違いなく殺し合いに乗る奴だ!

 やらない夫は心の中で叫ぶ。そんな事を知らないやる夫はリュウセイに近寄る。リュウセイはベルトに付属した銃剣、カイザブレイガンを手に取る。カイザフォンのミッションメモリーを外してカイザブレイガンに装着する。

 この動きを疑問に思ったのか、やる夫はその場で立ち止まる。

 リュウセイはベルトに装着したカイザフォンを開き、エンターキーを押す。エクシードチャージと音声が流れる。ベルトからエネルギーがカイザブレイガンに伝わる。そしてカイザブレイガンから黄色に輝く光弾がやる夫目がけて発射された。

 やる夫はとっさに両腕で顔をかばう。

「や、やめてくれー!」

 やらない夫は咄嗟に岩の隙間から姿を出して叫ぶ。

 その瞬間、光弾が何かに当たってはじかれた。

 それはやる夫の体ではなかった。

 やる夫の体の前に金色に輝くものが浮かんでいる。やらない夫は目を凝らしてそれを見た。

 何だあれは――小さな剣?

 やる夫の目の前で光を放って剣のキーホルダーが浮かんでいる。突然の出来事でリュウセイの動きも止まる。

「――こ、これはッ!」

 やる夫は目の前に浮かぶキーホルダーを掴む。刹那、キーホルダーは巨大化し、一メートルほどの大きさとなった。

 金色に輝き龍が巻き付いた刀身。龍の翼を模したつば。つばの真ん中には赤く輝く宝石がはめ込まれている。その剣は今、やる夫の手に握られている。

 一体どうなってるんだ――。土産屋で売ってそうな剣のキーホルダーが巨大化して本物の剣になった!?

 やらない夫は開いた口が塞がらない。

「カ、カッコイイー!」

 感極まってやる夫は叫んだ。

「まさか、こんな武器が本当にあるとは思わなかったお。生きていて良かったお!」

「心を打たれてる場合か!前を見ろ、前!」

 石の隙間から飛び出したやらない夫はやる夫に呼びかける。

 やる夫は瞬時に前を向く。リュウセイが銃剣、カイザブレイガンでやる夫に切りかかろうとしていた。リュウセイの攻撃をやる夫は持っている黄金の剣で防ぐ。両者の剣がぶつかり合う。リュウセイは腕に力を込めてやる夫を押す。やる夫も踏ん張るが徐々に後ろに押されていく。

 マ、マズイ。このままだとやる夫が押し負ける。俺がやる夫を助ける方法、何か、何か無いのか。

 やらない夫は辺りを見回して石を見つけた。

 これしかねぇっ!

 やらない夫は石を掴み、リュウセイの頭を狙って投げつけた。

 石は見事にリュウセイの頭に直撃した。カーンと音が響く。

 フッ――完璧だっただろ、今の俺の投石。

「今何かしたか?」

 リュウセイはやらない夫の方を向いてつぶやいた。

 やっぱり全然効いてないわ。そのマスク格好いいんだけど怒ってるように見えて怖いんですよ。

「うおおおおおッ!」

 リュウセイが振り向いたその隙にやる夫が腕に力を込めて叫ぶ。その瞬間、やる夫の持つ剣にはめ込まれた赤い宝石が輝いた。

「え?」

 やる夫の剣から赤い光弾がリュウセイ目がけて発射された。その光弾はリュウセイに直撃して爆発した。リュウセイの体は数メートルほど後ろへ吹き飛ばされた。

「どうりゃああッ!」

 やる夫が叫ぶと再び剣から赤い光弾が発射される。リュウセイは光弾をかわすために立ち上がる。この時、リュウセイの右足に激痛が走る。先のモンゴメリとの戦いで、リュウセイの右足にはひびが入っていた。痛みで動きが止まったリュウセイ。またも光弾はリュウセイに直撃して爆発した。

 リュウセイの体は爆炎に包まれた。

 それを見てやらない夫は内心で喜ぶ。

 よっしゃあッ!これで天野河はくたばったぜ!あとはやる夫のこの剣さえ奪えれば俺にも勝機は見えてくるだろ。

 爆炎を見てやる夫はその場にしゃがみこむ。そのやる夫のもとにやらない夫が駆け寄って来た。

「やる夫―」

「やらない夫―!やっと会えたお!見てくれお、やる夫のこの武器を!金色に輝いてカッコイイだお?全国の男子の夢が今ここに実現したんだお!」

「ああ見てたわ!何なんだよ、お前のそのファンタジー武器は!うらやましいぞ畜生、俺なんて支給されたのは拡声器なんだぞ」

 あれ?俺はこんな話してる場合じゃないんだぞ。隙をついてこいつから剣を奪わないと俺の命が危ない。こいつだって、こんな強力な武器を持ったら考えだって変わるさ。いきなり殺し合いに乗って、俺に襲い掛かってくるかもしれないぞ。油断は禁物だろ。

「でもその拡声器のおかげでこうしてやらない夫と合流出来たお!」

「こんなものはもうお役御免だよ!お前はファンタジーの剣、天野河だってあんなに強そうなパワードスーツみたいな武器貰ってるし、いくら何でも武器の格差がありすぎるだろ、常識的に考えて!俺だってなあ、お前らみたいな強い武器を貰ってたら今頃は――」

「そうだお、さっきの仮面ライダーみたいな人はどうなったお?」

 二人は爆炎の方を見る。

 爆炎の中からエクシードチャージと音声が響く。

 やべっ、まだ生きてやがる!やる夫の剣強奪作戦は失敗だ!

 やる夫は瞬時に剣を体の前に構えて防御態勢に入る。やらない夫はやる夫の後ろに素早く回り込んだ。

「や、やらない夫、やる夫を盾にする気なのかお?」

「ち、違うぞ。これはお前を後ろから支えてやってるんだ。俺がしっかりつかんでいるからお前が吹っ飛ばされることは無いから安心してほしいだろ」

「で、でもこれじゃあ動けないお!」

 爆炎の中から黄色の光弾が発射される。だがそれも前に構えたやる夫の剣によってはじかれた。

 やらない夫はほっと溜息をついた。

 優秀な楯だろ。

 爆炎の中からリュウセイが姿を現す。右足を引きずってはいるものの、その姿は未だ仮面ライダーカイザであり、変身解除には至っていない。

「よし行けやる夫!天野河を倒すんだ。俺は後ろから投石で援護するだろ」

「了解だお!――ってやる夫が戦うのかお!?」

「お前の方が強そうな武器を持ってるんだから当たり前だろ!自慢じゃないが俺の腕っぷしはこのクラスにおいて下から数えた方が早い!」

「本当に自慢になってねえお!やる夫だってもうヘトヘトだお。えーと――あ、天野河さん?戦いなんてもう止めるお。これ以上戦ったら本当にどっちか死んじまうお」

「説得なんかしても無駄だやる夫!あいつは――天野河リュウセイは説得に応じる奴じゃない、喜んでこの殺し合いに乗るタイプだ!天野河はただパワードスーツの力を楽しんでいるんだ!」

 騒ぐやる夫とやらない夫を見てリュウセイはベルトに装着したカイザフォンを取り出して9、8、2、1の順でボタンを押し、最後にエンターキーを押した。

 サイドバッシャー・カムクローサーと音声が流れる。

「やらない夫、あの人携帯電話みたいなものを操作してるお。どこかに電話でもかけたのかお?」

「さあ、仲間でも呼んだんじゃないかな。なーんてな。まさかあいつに仲間がいるわけないか」

「ご名答だやらない夫!俺の新たなる相棒、サイドバッシャーを呼んだんだ。俺がやりたいのは互角の戦いなんかじゃない。一方的な虐殺だーっ!お前らの相手も面倒になってきたから相棒と一緒にさっさとぶっ殺してやる!」

 リュウセイが答える。

 サイドバッシャーとは仮面ライダーカイザの相棒であるサイドカーの名前である。勿論ただのサイドカーではない。人型に変形して戦う事が可能である。変形後は格闘戦に秀でただけでなく、ミサイルを撃つことも可能だ。

 冗談じゃねえぞ、このボーグ馬鹿が。それに――サイドバッシャーとかいう相棒が相当強いのは天野河の発言からして間違いない!

 やらない夫はすぐさま走り出した。ここから少しでも遠くへ逃げるためだ。

「やらない夫―!逃げるの速いお!やる夫を置いてかないで欲しいお!」

「うるせー!現状、天野河一人の相手ですら危険なのに、さらに敵が増えたら本当に殺されちまう!殺される前に逃げるんだよ。逃げるが勝ちだ!三十六計逃げるに如かずだ!」

 やらない夫は森へ逃げ込む。その後をやる夫が追う。

 だが森の奥から何か音が聞こえてくる。

「な、何か来るぞ!」

「ああそっちから来るのか。おーい相棒。適当にやっといて!」

 リュウセイが声を出す。

「やらない夫、どうするんだお」

「ああああああ。進むも地獄、戻るも地獄。俺はここで死ぬんだ――」

 やらない夫はへたり込む。

「やらない夫。な、何か銃撃音が聞こえるお」

 ああ――。本当だ、きっと俺らを撃ち殺すんだろ。

 もう喋る気力も残ってない。

 その時、森の奥で爆発が起こった。

 突然の衝撃でやらない夫、やる夫共々吹き飛ばされる。これにはリュウセイも想定外の様で立ち止まって様子をうかがっている。

 こ、この音――茂みを踏み分ける音だ。誰かが歩いてくるってのか。

 爆発した方角から一人の男が歩いて来た。男は口を開く。

「おいおい、さっきのバイクもどきは何なんだよ。なかなか魅力的だったが、ちょっと掘っただけで動かなくなっちまって突然の爆発ときたもんだ。興ざめもいいところだぜ。このままじゃ、おさまりがつかないんだよな。そういう訳で御三方――」

 男は制服のボタンを外して脱ぎ捨てる。

「やらないか」

 誰もが認めるいい男、阿部高和が現れた。

 

 

 

27

 女子21番、山村貞子。胸元まで垂れ下がった黒い髪。それらは前に降ろされ、貞子の顔を覆い隠してしまっている。うっとうしくないのか、前が見えないのではないのかという推測は野暮である。これが貞子のお気に入りだ。

 貞子はこの3年β組の学級委員長を務めている。

 このクラスは最高のクラスよ。常ににぎやかで明るい空気に満ち溢れている。多少、やかましすぎるという事もあるかもしれない。α組、γ組、δ組の委員長の佐伯伽椰子ちゃん、川上富江ちゃん、水沼美々子ちゃんらからはいつもβ組は問題を起こすと小言を言われる。先生たちからもこのクラスは問題児集団と呼ばれているのも知っている。でもそれはこのクラスの事をちゃんと知らないからそう言うのよ。学級委員長としてこのクラスを見て気づいたわ。みんなとても素晴らしい人たち。

 物事をちゃんと知らないという事は決して悪い事ではない。いちいち全ての事を深く追求していてはキリがない。

 原作小説で貞子はテレビから出てこないし、呪いのビデオにばかり注目が行き過ぎてリングウイルスに触れられる事は少ない。有名な主題歌も、来るきっと来る――とは歌ってない。Ooohきっと来る――が正しい。あの話がコンピューター上の仮想空間が舞台だと言ったらどれだけの人が信じるだろうか。

 でもそんな事は問題じゃない。それらを知っていたとして何になるのだろうか。さほど興味がない事についてにわか知識となるのもいいだろう。ただし、深く知る事で見えてくるものもあると貞子は思う。

 他のクラスの子や先生たちがβ組のみんなに接する機会も少ないのだから、そういった印象を抱くことを批判は出来ない。それにクラスのみんなをより良く知ってもらう事を強制する事も不可能だ。

 でも私はみんなと深く接して多くの素敵なものを見つけた。それを守るために立ち上がるのだ。

 決心をした貞子。

 この時、背後から何か音がした。貞子は後ろを振り向く。

 何かが貞子の目の前に落ちて来た。

 土煙が立つ。それが晴れた後、貞子は落ちて来たものを確認した。

 緑色で至る所に棘が生えている。ずっしりと重たい。

 貞子は知らないがこれはハイドラパーツXであった。伝説のエアライドマシン、ハイドラが三つに分かれたうちの一つである。

 よく分からないけど持っておこう。

 そう思いバッグを開ける貞子。その中に支給武器であるスーパースコープが入っていた。

 付属の説明書には、ボタン連打で光弾を発射できます。長押ししてエネルギーをチャージする事でより威力の高く巨大な光弾が発射できます、と書かれていた。

 ハイドラパーツXをバッグの中にしまった貞子。

 護身用として武器は持っておこう。でもこんなものは使いたくない。私たちの手は誰かと戦うためのものじゃない。誰かの手を握るものなのよ。そう、手を伸ばせばみんなに届く。

 絶対に。

 爪が剥がれて黒くなった自分の手を見て、貞子はそう思った。

 

【女子21番 山村貞子】

【身体能力】 E 【頭脳】 D

【武器】 スーパースコープ、ハイドラパーツX

【スタンス】 戦いを止める

【思考】 みんなを探す

【身体状態】 正常 【精神状態】 正常

 

 

 

28

 突然の爆発。そして現れた謎のいい男。

 この展開にやる夫は慌てていた。

 よく見るとやらない夫も目を白黒させてるお。それに確か天野河――さんもその場で固まってるお。

「やらない夫に――おおっ、やる夫かあ。会いたかったぜ、なかなかいい男じゃないの」

 謎のいい男、阿部はやる夫の目をじっと見つめてくる。

 このいい男がやる夫に会いたかったってどういうことだお。それにこの男の一点の曇りもない目はなんなんだお。こっちまで緊張してきたお。ところで一体何者なんだお。クラスの人か、もしくは…。

「あ、あなたが――サイドバッシャーですかお?」

 それを聞いたやらない夫がずっこけた。いい男は突然笑い出した。

「ははは。そういや自己紹介がまだだったな。俺の名は阿部高和。よろしくな、やる夫。そしてそこにいるもう一人の人物、素顔は見えないが――男だな。俺の目はごまかせないぜ」

「阿部!よく分からんパワードスーツで武装しているがあいつは天野河だ!」

 やらない夫が叫ぶ。

 ほう、格好いいじゃないか天野河。そのパワードスーツの下を見たくなったぜ――と阿部が言ってる途中でリュウセイが銃剣カイザブレイガンから光弾を阿部に向けて撃ち出す。

 阿部さんが危ねえお。

 やる夫が心配するが、阿部は飛んできた光弾を難なくかわす。

 あの光弾をかわした?凄い身体能力だお。

「おいおい天野河。俺はまだ話してる途中だぜ。それにその攻撃、冗談で済ませるものじゃないぜ」

「鬼に会っては鬼を斬り、仏に会っては仏を斬る。クラスメイトに会えばクラスメイトを斬る。信じられるのは自分だけ」

 リュウセイは阿部にこのように答えた。それを聞いて阿部は自分の額をかく。

「つまり天野河はこの殺し合いに乗ったって事か。で、やる夫とやらない夫はこのゲームに乗ったのか?」

「いいや、俺は乗ってない!ここに天野河がやって来て俺を殺そうとしてるんだ。さっきまでの戦いは正当防衛だろ、常識的に考えて」

 阿部の質問にやらない夫が答える。

「やらない夫の言うとおりだお。やる夫はやらない夫に呼ばれてここに来たんだお。そしたら天野河さんもいて、戦いになってしまったんだお」

 やる夫もやらない夫に続く。それを聞いて阿部は満足そうに頷く。

「そうか。つまりは天野河を止めればこの場はおさまるって事だな。よし天野河、お前の精神を俺が叩き直してやる。ケツを出しな」

 そう言って阿部はリュウセイに殴りかかった。リュウセイは阿部の攻撃をかわし、カイザブレイガンで反撃に出る。阿部もリュウセイの攻撃を華麗な動きでかわす。

 阿部との戦いの中で、リュウセイの右足が再び痛み出した。リュウセイの動きが鈍る。

「天野河。お前の右足と左腕、痛みで十分に動かせないだろ?」

その瞬間、阿部の渾身の蹴りがリュウセイの胸に入った。その衝撃で、リュウセイはカイザブレイガンを手放す。この一撃に怯みながらもリュウセイは阿部から距離を取る。

 凄い戦いだお。阿部さんはあの天野河さんを相手に有利に戦いを進めているお。そう言えばやらない夫はどこだお?

 やる夫はやらない夫を見つけようと周囲を見回す。阿部とリュウセイの戦いから少し離れた所で腰を抜かして座り込んでいるやらない夫を見つけた。まるで放心したかのような顔をしている。

 やらない夫と一緒にいた方が安心だお。

 やる夫はやらない夫のもとへ走り寄る。

 その瞬間、リュウセイもやらない夫目がけて走り出した。

 これには阿部も驚きを隠せない。

「くそっ、俺よりも先に他の奴から狙うとはな。そこまでやるかリュウセイさんよ!」

 そう言って阿部もリュウセイを追う。

 逃げてくれお、やらない夫!そうだ、この剣は光弾が出せるお!

 やる夫は剣を構えて先ほどのように光弾を出そうとする。

 だが光弾は出ない。

 なんでだお!

 戸惑うやる夫。その体を急に疲れが襲う。

 な――なんか疲れたお。こ、このままじゃやらない夫が危ないお――。

 重い体を頑張って動かすやる夫。だが、リュウセイの手は今にもやらない夫に届きそうであった。や――やらない夫―!と叫ぶやる夫。

「かかったな、この常識知らずのボーグ馬鹿が!」

 突如立ち上がり、隠し持っていた石をリュウセイに向かって投げつけるやらない夫。放心した顔はやらない夫の特技である。

 やらない夫の悪口に胸の痛みを覚え、リュウセイの動きが止まる。

 ボーガーに対して常識知らずのボーグ馬鹿という悪口は絶大な攻撃となる。

 そのリュウセイの顔面にやらない夫が投げた石が直撃する。その衝撃で後ろによろけるリュウセイ。

「うおおおおおおッ!」

力を振り絞ってリュウセイに追いついたやる夫はリュウセイの背中に黄金の剣で斬りかかった。

「がっ――!」

 うめき声をあげてうつぶせに倒れるリュウセイ。倒れたリュウセイの体を後からやって来た阿部さんが取り押さえた。

「お前の負けだ、天野河。さあ、お楽しみはこれからだぜ。これから俺がお前の曲がった根性を叩き直してやるからな」

 阿部さん――一体何をするんだお?なんだか――とても嬉しそうだお。

 疲れで朦朧としているやる夫は杖の代わりとして剣を用いている。

「ところでこのパワードスーツはどうすりゃ脱がせられるんだ?つなぎ目やファスナーが見当たらねえぞ」

「そのベルトを外せないか?試してみろよ」

 阿部の質問に答えるやらない夫。それを受けて阿部はリュウセイのベルトを取り外す。変身が解除されてリュウセイは仮面ライダーカイザから元の人間の姿に戻った。

「やっと顔が見れたぜリュウセイ。さあ、とことん楽しませてやるからな」

「やめろ阿部!やるならそこの森の奥でやれ!」

 その瞬間、変化はすぐに訪れた。

 リュウセイの体が灰となって崩れ始める。瞬く間に天野河リュウセイの体は全て灰となり、後には彼が来ていた制服のみが残った。

「あ、あ、天野河が灰に――」

 後ずさるやらない夫。

 天野河さんが――灰に――一体、何が――どうなって――。

 意識を失いその場に倒れこむやる夫。持っていた剣も再びキーホルダーサイズになった。

 

【男子22番 やる夫】

【身体能力】 E 【頭脳】 E

【武器】 剣のキーホルダー

【スタンス】 生き延びる

【思考】 疲れたお…

【身体状態】 疲労困憊 【精神状態】 気絶中

 

【男子21番 やらない夫】

【身体能力】 B 【頭脳】 B

【武器】 高性能拡声器

【スタンス】 生き延びる

【思考】 天野河が灰に――どうなってんだ!?

【身体状態】 正常 【精神状態】 動揺

 

【男子02番 阿部高和】

【身体能力】 S 【頭脳】 A

【武器】 ウホッ!!いい男たち~ヤマジュン・パーフェクト

【スタンス】 いい男を掘りつつ島からの脱出

【思考】 天野河…灰化する程に俺に掘られたくなかったのか…

【身体状態】 小ダメージ 【精神状態】 正常

 

【男子03番 天野河リュウセイ 死亡】

【生存者 残り35人】

 

 

 

 




ハーメルン学園3年β組45名 名簿

○→生存、●→死亡

● 男子01番 浅倉威
○ 男子02番 阿部高和
● 男子03番 天野河リュウセイ
○ 男子04番 泉研
○ 男子05番 オルガ・イツカ
○ 男子06番 井之頭五郎
○ 男子07番 剛田武
● 男子08番 相楽左之助
○ 男子09番 じーさん
● 男子10番 先行者
○ 男子11番 多治見要蔵
● 男子12番 でっていう
○ 男子13番 永沢君男
○ 男子14番 獏良了
○ 男子15番 ヒューマンガス
○ 男子16番 日吉若
○ 男子17番 ベネット
○ 男子18番 ドナルド・マクドナルド
● 男子19番 ケニー・マコーミック
○ 男子20番 ドラコ・マルフォイ
○ 男子21番 やらない夫
○ 男子22番 やる夫
○ 男子23番 ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ
○ 女子01番 うさみちゃん
○ 女子02番 木之本桜
● 女子03番 桐敷沙子
○ 女子04番 日下部みさお
○ 女子05番 古明地こいし
○ 女子06番 佐天涙子
○ 女子07番 沙耶
○ 女子08番 水銀燈
● 女子09番 枢斬暗屯子
○ 女子10番 フランドール・スカーレット
○ 女子11番 ちゅるやさん
○ 女子12番 デデンネ
○ 女子13番 ベータ
○ 女子14番 北条沙都子
○ 女子15番 ポプ子
○ 女子16番 まっちょしぃ
○ 女子17番 美樹さやか
● 女子18番 見崎鳴
● 女子19番 ルーシー・モード・モンゴメリ
○ 女子20番 山田葵
○ 女子21番 山村貞子
○ 女子22番 両儀式

【生存者 残り35人】
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