お久しぶりすぎて、忘れられていないか心配です……。
センターが終わったので、気持ちの切り替えに執筆したのですがかなり長くなってしまったこと先に謝ります。
まだ試験が残っているので更新速度が早くなる訳ではありませんが、あと少しで終わるのでご了承ください。
「…………私の考えが甘かったのよ」
暗部の当主としての自分、そして星導館の序列1位としての自分の力を過信した結果がこれだ。
クローディア以外の人間に手を出してこないだろうという、自分の考えの甘さを呪いたかった。暗部の世界がそんなに甘いところじゃないことぐらい知っていたはずなのに。
(自分1人じゃ、従者一人守ることも出来ないのに…)
私は傷ついた琴音を抱きかかえて、爆発したクローディアの部屋をただ見ていた。
数時間前
影星も、夜吹の一族も襲ってくる気配もなく、星武祭自体も残り4組となり、明日準決勝と順調に進んでいる。
そんな中、私と琴音も張り詰めていた緊張の糸を少し緩めつつあった。
「琴音、哀歌ちゃんの方の2人は?」
「あちらも今のところ、何も問題はないようです。哀歌ちゃんも星武祭の間は彼らの元で生活するようなので当分は大丈夫かと」
「そう。それじゃあ、この後はいつも通りクローディアの周辺の警戒をお願い」
「はっ」
琴音は直ぐにその場から立ち去り、クローディアの元へと向かっていった。
(……哀歌ちゃんの方は彼らに任せておけば大丈夫かな。特に彼は実力だけなら総ちゃんと大差無いし……)
私は俯きながら考えに浸ろうとしたが、それは途中で遮られてしまった……それも最悪な形で。
「……琴音〜!!」
考えに没頭するため下を向いていた私の頭をクリーンヒットしたその人物に若干の殺意を感じただろう、もしクリーンヒットした相手の部位に柔らかさがなかったらの話だが。
「……刀奈、どうやって入ってきたの?」
「あら、そんなの合鍵を持っているからに決まってるじゃない」
玄関の鍵は閉まっていたはずなのだが、いつの間にか合鍵を作っていた刀奈にはそんなものは何の意味もなさなかったらしい。
「まぁそんなことはどうでもいいのよ。貴女に急いで伝えておかなければいけないことがわかったのよ……」
刀奈はいつものように、お茶目な顔からすぐさま真剣な表情へと切り替えると私の目を見ながら続きを話した。
「…彼ら…いえ、桐ヶ谷くんと結城さんに護衛を任せている彼女………あの子は危険過ぎるわ。いくら桐ヶ谷くん達の腕が立つとは言っても彼女は手に余る。協力を仰いだ私が言うのもおかしな話ではあるのはわかっているのだけど、もしあの子が暴走でもしたら、幾らあの二人でも……死ぬわ」
刀奈の話は私自身、心当たりがあった。初めて琴音たちと会ったとき、哀歌ちゃんは自分の力を制御出来ていなかった。だが、それは…。
私が少し考えをめぐらせていると、私の考えていることが分かっているかのように刀奈は話を再開した。
「………琴音はあの子が暴走したのを見たことがあるわよね?でも…本当の暴走はあんなものじゃないわ、それこそ琴音や私、琴音のお母さんですらまともにぶつかったらどうなるかわからない。あの子がいつ暴走するかわからないこの状況で桐ヶ谷くんたちにあの子の護衛を任せるのは危険すぎるの」
刀奈の言葉に私は反論出来なかった。
刀奈の情報はほぼ確実に事実だろうし、私は否定出来るほど彼女のことをよく知らなかったから。
何より、暗部でも無い桐ヶ谷くん達にそんな危険を負わせるわけにはいかなかった。
「…………わかった……ありがとね、刀奈。哀歌ちゃんの方はもう一度検討するよ。とは言っても、使える駒は私しかいないんだけどね」
「ごめんなさい………私がもっとしっかり調べておけば」
刀奈は私に頭を下げて謝った。
巻き込んだのも私なら、調べてなかったのは私も同じであるのに。
「……それじゃあ、私は桐ヶ谷くんたちの所に哀歌ちゃんを預かりに行ってくるよ。ありがとう、刀奈」
頭を下げたままの刀奈に対して私はそれ以上言葉をかけることなく家を出た。
慰めは暗部の当主として、私に頭を下げた刀奈に失礼だと思ったから。
◇◇◇◇
桐ヶ谷くんたちに星武祭期間の潜伏先として、提供しているアパートに着いた私を待っていたのは、最悪な光景だった。
「………明日奈!!桐ヶ谷くん!!」
2人共地面に座り込んでおり、その容態は確認出来ない。
だが、その周辺の様子からして何かあったことには間違いなかった。
「琴音ちゃん………ごめんなさい」
「そんなことより、2人共大丈夫なの!?」
「あぁ……まぁな」
桐ヶ谷くんはそう言いながら立ち上がり、明日奈も桐ヶ谷くんに手を貸してもらい立ち上がる。
「……2人が無事でよかったよ」
立ち上がった2人を見て、致命傷になり得る傷がないことを確認して私は安心した。
「でも、哀歌ちゃんが……」
明日奈は少し言い淀んだ後、何があったか私に話し始めた。
明日奈の話によると、獅鷲星武祭の会場からこのアパートへと戻ってくる間に影星による襲撃を受けたとのことだった。それ自体は桐ヶ谷くんが退けたのだが、その際に明日奈が哀歌ちゃんを庇って負傷してしまったらしい。その光景を見た哀歌ちゃんはその人物に対して攻撃を試み、接触。哀歌ちゃんはその場へと座り込み、影星は退散したらしい。影星が退散した後、哀歌ちゃんは駆け寄ったきた明日奈をはじき飛ばしてそのまま影星を追うようにしていなくなってしまったとのこと。
(………暴走……ではない。影星と接触したことが何かの原因だろうけど、だとしてもなんの理由で…)
近くにいた明日奈や桐ヶ谷くんが殆ど無傷な点と刀奈の情報を照らし合わせても暴走では無いことは理解出来る。だが、それならば何故逆に哀歌ちゃんは明日奈たちの元を去ったのだろうという疑問が私の頭に浮かんだ。
「……そっか、とにかく2人が無事で本当に良かった。でも、後は私に任せて2人はもう手を引いて。依頼した私が言うのもあれだけど、これ以上は明日奈たちの手は借りられない」
「でも……」
「………あぁ、分かった」
私に反論しようとした明日奈を抑えて、桐ヶ谷くんが顔を下げたまま納得してくれたように、呟いた。
(………それにしても、影星が動いたにしてはあからさま過ぎる。桐ヶ谷くんが実力者だとはいえ、いくら何でも手応えが無さすぎる…)
影星の暗部としての動きはもちろん、今まで動いてこなかったにも関わらず初動がお粗末過ぎるのだ。
(…………もしかして…狙いは)
そう思い私が琴音に連絡を入れようとした時だった。
私の元に総ちゃんから連絡が来た。
『マスター!!早く寮に来てください!!』
それだけ言うと総ちゃんからの連絡は切れた。
(………無事でいて、クローディア)
私は何か言おうとしている2人を無視して、急いで星導館の寮へと向かった。
◇◇◇◇
「…マスター!!」
私が寮に到着すると総ちゃんが私のことを迎えてくれた。その腕の中に琴音を抱きかかえながら。
「……琴音!?」
私は総ちゃんの腕に抱きかかえられている琴音を受け取った。琴音の身体にはいたる所に火傷や切り傷の後があった。
「………申し訳……ありません。護衛の任を遂行出来ませんでした……」
琴音は私の顔を見るなり琴音は開くのも億劫な口を懸命に動かしながら、私に謝罪した。
「琴音が生きているだけでも十分。悪いのは………私の考え。私の考えが………………私の考えが甘かったのよ」
自分の力を過信したがあまり、自分の従者にすら傷を負わせてしまった。
完全に私の失態だ。
「……総司、琴音を病院に」
私は総司に琴音を渡し、歩きだそうとした。
「……どこ………行くんですか?」
立ち去ろうとした私を引き留めたのは、総司に肩を借りて何とか立っている琴音だった。
「……どこって決まってるでしょ?クローディアを助けに行くの。私はクローディアと約束したの、どんなことがあってもクローディアを死なせないって。死にたがってた、クローディアが私に初めて助けてって頼んだんだよ?私が助けなくて、誰が助けるの?」
「………居場所も分からないのに……どうやって助けるんですか?冷……静な…琴音らしく……ありません………よ?」
琴音は立っているのでさえ辛いのに、無理して喋っているからかその息遣いは荒さをましている。
「…………主、これを…持って行って下さい」
そう言うと琴音はポケットから取り出したそれを私へと差出した。
「……これは?」
琴音から受け取ったそれには赤い点が常時表示されている。よく見るとその点は移動しているようにも見える。
「……それが…クローディアの……居場所です。念の為……渡しておいたん………です。結局……私は影星の当主相手では爆発から逃がすことしか……出来かった……」
琴音はそこまで言うと総ちゃんに全体重を預けて、気を失ってしまった。
「……従者にそこまで言わせて、まさかまだ自分のせいとでもいうつもりかしら?」
その声は私にはとても聞き覚えがあり、まさか来るとは思いもしていなかった人物の声だった。
「………なんで?みんなが…」
私の疑問に答えたのは、歩いてきた人たちではなく目の前で琴音を介抱していた総ちゃんだった。
「えっへん、琴音に連絡を入れた後に沖田さんが連絡をいれておいたんです!」
介抱中の琴音に影響がない程度に、誇らしげに胸を張る総ちゃん。
そして、それに呼応するようにして私の目の前まで来ていた刀奈が続ける。
「それで私が桐ヶ谷くんたちにも声をかけたのよ。まさか、総司ちゃんがシルヴィアさんまで巻き込んでいるとは思わなかったけど。それに琴音ちゃんのことなら、簪ちゃんに任せなさい!」
「事情を聞いた時は驚いたけど、クローディアも私の大事な友達だからね!相手がなんだろうと、困ってるなら助けるのが友達でしょ」
2人の言葉に桐ヶ谷くんと明日奈も頷いており、刀奈に無理やり連れてこられたであろう簪ちゃんも頷いてくれていた。
「………でも、大丈夫なの?相手は…」
私がそこまで言ったところで、刀奈は遮った。
「いいの。これは更識楯無としてじゃない、クローディア1人の友人として譲れないのよ。それにそれを言うなら琴音だって、大して変わらないでしょ?」
「そうだよ、私も結城さんも桐ヶ谷くんも友人としてここに居るんだから」
刀奈とシルヴィの有無を言わさぬ表情に私は納得せざるを得なかった。
「…………わかったよ。シルヴィたちの事後の身の安全は東雲家が責任を持つ。これは反論受け付けないからね」
「えぇ」
「それなら安心ね」
私の提案にシルヴィたちは反論するどころか、喜んで頷いていた。
「それじゃあ、まずは優先順位を決めよう。まず、この人数で2つを同時に追うのは危険だし、それに哀歌ちゃんについては居場所が特定出来てない。だから、まずは居場所がわかっているクローディアの保護を最優先で。哀歌ちゃん居場所については、シルヴィにお願い出来るかな?残りの私達は、クローディアを保護し次第シルヴィと合流する。なにか異論ある人はいる?」
みんなの顔を見ると、みんな横に首を振る。
「それでいいんじゃないかしら?」
「うん、居場所なら私に任せて!」
「ありがとう、シルヴィ。だけど、無理だけはしないで」
私はシルヴィが頷いたのを確認して、簪ちゃんに介抱されている琴音の方に目をやった。
「琴音、お疲れ様。あとは、私たちに任せて」
眠っていて聞こえてないのは分かっているが、それでもわたしは労いの言葉を伝えたかった。
「それじゃあ、簪ちゃん琴音のことをよろしくね」
「は、はい」
私は簪ちゃんの頭を少し撫でてから、もう一度みんなの顔をしっかり見た。
「………みんな、クローディアを救いに行くよ」
「「「「えぇ(おう)」」」」
掛け声と共に、私達はまだ浅い夜の闇へと消えていった。
もし、俺の社畜物語は間違っているをお読みの方がいましたら、活動報告にてお知らせがあるのでどうかお読み下さい。
感想などお待ちしております!!
それではまた次回〜。