化物語 こよみサムライ[第二話]   作:3×41

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 僕とレミリアは結局二人でこのオランダの地方都市、ハーレンホールドのエクソシスト学園、レメンタリー・クアッズを見て回っていた。

 しかし、そりゃあヨーロッパの一都市なんだから、それなりの人間模様はあるだろうということはあっても、いろんな人や組織がいるものだと、そう改めて思うのだった。設定はピーキーじゃないほうが大衆性が出るんだぜって誰か言っていたけど。

 まぁそこらへんは、体重のない女の子が出てきたり、猫耳下着姿の女子高生が出てくる時点で、部分的にはそうそうにうっちゃられているという気がしないでもないのだが。

 

 まぁそういう雑感こそ抱きながら、とりあえずのところ僕といると常に不機嫌そうなこのレミリアと、学園の大体の施設を見て回ってはいたわけである。

 教室はえらく広く、やはり煉瓦作りだった。レミリアによると、この煉瓦はひとつひとつ今の校長が開発した恒常術式、まぁこれは長く発動し続ける術式なんだそうだけど、

 それによって夏は涼しく、冬は暖かくなるらしく、校舎の温度はいつも快適なんだそうだ。

 

 それはいまどきなかなかエアコンのひとつもつかないうちの高校からすればずいぶんとうらやましいことだったが、逆に少々の嫉妬心も手伝って、そんな温室育ちでいいもんかねと、そう思いもしたがやはり素直にうらやましかった。

 

 そのほかにもこの学校の地下にはシェルターまであるらしく、有事の際は生徒はそこに避難しているようにもなっているらしい、そのほかにも大食堂やら演説堂やら、なんともまぁいろいろな施設を案内してもらい、そして僕とレミリアはまことに遺憾ながら、今交霊室の一室に閉じ込められてしまっていた。

 

 そとから差し込む明かりこそあるものの窓は3mほど上部にあるのみで、しかもはめ込みであるようだった、扉は鉄製でビクともせず、どうやら外から鍵までかかっているようである。

 そしてこの交霊室に閉じ込められた僕とレミリアだが、そのレミリアはというと青ざめた様子でこういった。

 

「どうしよう。前門の監禁に、後門のコヨミなんて……」

 

「おい待て、なんで僕が監禁と同じレベルの脅威みたいになってるんだよ。違うだろ、この状況に共に立ち向かう共闘者だろ僕たちは」

 

「私のこと襲ったら、殺すからね。あと私も舌噛み切って死ぬから」

 

「じゃぁ二人とも死ぬじゃねぇか。大体お前自意識過剰なんじゃねぇの? まぁ確かにお前はかわいいし、僕だって異性としての魅力はあると思うよ? それにこの状況、どうせ餓死するならその前にという気持ちにもならないでもないかもしれない」

 

 あれ、考えてみると意外にこいつの認識は正しかった。

 

「ほら見ろ! やっぱりキモい!」

 

 しまった、共闘者であるはずのレミリアに余計な警戒心を抱かせてしまった。

 レミリアは、今や両手で自分の体を抱きしめて、監禁されているという事実よりも、むしろ僕に襲われる可能性のほうを心配しているようだった。

 

「ほら、あれだよレミリア、僕には彼女がいるし、お前にも手は出さない。約束するよ」

 

 僕が穏やかな声でそういうと、レミリアは涙目で、小動物のような感で僕を見ていった。

 

「じゃぁ私に手を出したら切腹する?」

 

「なんで微妙に日本文化のことに詳しいんだよ。誰がするか。そんなほいほい腹切ってたら日本人男性の平均寿命が半減するわ」

 

「やっぱりダメだこいつ! 今すぐ切腹しろ!」

 

「切腹させたいだけになってるよ!」

 

 その後なんとかレミリアをなだめて、少し落ち着きを取り戻したレミリアと、ていうか少ししか落ち着かなかったのだが、とりあえず二人で部屋を見回した。

 

「とりあえず、ここから出ることを考えなきゃな」

 

 そもそも、なぜ交霊室に二人で監禁される事態になってしまったのかというと、それは少し話がさかのぼることになる。

 

 

 

 #

 

 

 

 

「あんまり近づいて歩かないでよね」

 

「お前ほんとに案内する気あるのか?」

 

「ちょっと離れすぎないで! はぐれるでしょ!」

 

 サリバンたちと別れたあと、僕とレミリアは二人で学園内を案内という形で散策していた。

 レミリアは相も変わらずつんけんした様子で、僕を突き放しつつつなぎとめつつと、変な距離感で案内を続けている。

 学園のキャンパスは人がかなり多く、ところどころレミリアと一緒に歩いている僕を学園の男子生徒たちの殺気が混じった目線が突き刺した。

 

 ふつーにこえーよ。エクソシストの学生の殺気とか。

 

「そうだ、レミリア。ちょっと山犬部隊のことで気になることがあるんだけどさ」

 

「しゃべりかけないで、もう声がきもい」

 

「ああそうかよ。逆にレミリアの声はそれだけで僕のリビドーをかきたてるぜ」

 

「うわぁぁ! ほんとに気持ち悪い!」

 

「ほんとに気持ち悪いって、ほんとじゃない気持ち悪いとか素で言ってるんじゃねぇよ」

 

 しかし彼女は彼女で一応客人を案内しているという自覚はあるらしく、ぞぞぞっとした様子から立ち直ると、小さい声で何と質問を促した。

 

「あの山犬部隊ってさ、この学園の一番優秀な、ダイアスだっけ? ってクラスの首席でも難しいって言われてるんだろ?」

 

「そうよ。山犬部隊っていうのは、えりすぐりの中のえりすぐりじゃないとなれない、英雄の集団みたいなもんだって兄さんは言ってたけど」

 

「え、兄さん?」

 

 こいつサリバンのこと兄貴って言ってなかったっけ。

 

「うっさい!」

 

 歩きながら、レミリアは短く言い捨てて顔をそむけた。

 

「読めたぜレミリア、お前普段はサリバンのことを兄さんって呼んでるけど、周りには恥ずかしいから兄貴って言ってるんだろ?」

 

「うっ……」

 

 どうやら図星のようだった。

 それくらい僕にもわかることだ、なぜなら僕だって僕の妹たちにそうしているからだ。

 レミリアはつまった言葉を唇をとんがらせて

 

「うるさいわね! さっさと続けなさいよ! 答えないわよ!」

 

 と言った。

 答えてもらえないのは僕としても困る。

 

「ああ、ごめんごめん。それで、この学園のトップの成績でも入れないって、おかしくないか? そりゃもう、だってそうだろ? ここはエクソシストの学園だってことは知ってるけど、そのトップでもなれないなら、いったい誰が山犬部隊に入れるっていうんだよ。それじゃぁそもそも、部隊の維持ができないだろ」

 

「ああ、そのこと」

 

 レミリアは僕の質問を理解して答えて言った。

 

「エクソシストの育成っていうのは、そもそもこういう学園だけの形式じゃないのよ。エクソシストの上位層は、だいたい上位のエクソシストが、自分で素質のある人間を見つけて、その人間をスカウトして独自に鍛えて作り上げるの」

 

「へー、それでか、じゃぁあの”山犬”のアルザス・クレイゲンも?」

 

「そういうこと」

 

 なるほど、それなら納得もいくというものだ。

 つまり上位のエクソシストが、自分で才能のあるものを探し出してスカウトするということは、普通の生活をしている人間が、あるときそのエクソシストに突然来訪され、

 交渉を持ちかけられ、その人の弟子になり、鍛え上げられるわけだ。

 

「ちなみに、唯一の例外は山犬部隊の第三席。サー・ジェイム・ラニスターだけはこの学園の卒業者らしいわよ。なんでも、この学園の試験をすべてパーフェクト、ほかの生徒にトリプルスコア以上離してダントツで卒業したって話よ。特に剣術では、入学当初から教師でさえかなわなかったらしいわ」

 

 レミリアが補足していった。

 

「なるほど、それで”天剣”なのか」

 

「そ、まぁあとは山犬部隊がハーレンホールドの自警団からそれぞれ自分の小隊メンバーを選んで、それぞれ山犬小隊を作って動いてるってくらいかな。山犬部隊の首席と、第七席だけは単独で動くって聞いたけど」

 

「ふーん、レミリア。お前けっこう詳しいんだな」

 

 僕が何気なくそういうと、レミリアは、はっとした様子になって。

 

「ち、違うわよ! にいさ、兄貴がいちいち私に何度も聞かせるから覚えちゃっただけよ! 変な勘違いしないで!」

 

「いやもう兄貴とか言いなおさなくても、兄さんでいいだろ」

 

「うっさい!」

 

「いってぇ!」

 

 蹴られた。しかもレミリアの靴のヒールが太ももにクリティカルヒットして筋肉が軽く悲鳴を上げるレベルだった。

 僕はその傷害度合を伝えようとしたが、レミリアはぷりぷりした様子でさきさき歩いていってしまったので、僕もしぶしぶそれについていった。 

 

「でもさ、シェルターとか大げさなんじゃないか? 日本ならとても考えられないけどな」

 

 レミリアが学園の地下にあるシェルターを案内しているときに、僕がそういうと

 

「まぁそう思うのは当然かもしれないけど、校長の提案でね、っていうのも、70年前くらいにハーレンホールドをものすごい怪異が襲ったらしくって、そのときかなりの被害がでたらしいのよね。なんか、蛇の怪異だったって話だけど」 

 

「シェルターが必要になるくらいのか?」

 

「うちのおじいちゃんも、ハーレンホールドの自警団にいたんだけど、その時に戦死したらしいわ。それで兄貴は兄貴で自分も自警団に入るって決めちゃってるらしくって」

 

「そりゃ、それで立派なことだと思うけどな」

 

「兄貴は頭はいいんだから、医者か何かになるべきだわ。まぁハーレンホールドはもともと世界有数の霊脈の集合地だから、そういうレベルで怪異を呼び寄せることはあるから、それなりにこういう設備も必要になってくるのよね」

 

「ふーん」

 

 怪異側の世界にも、いろいろと事情があるようだ。

 僕の町は僕の町で、結構な霊脈が貫いていると忍野がいっていたが、しかしそれはどうなのだろう。

 特に設備とかないような気がする。それでいいんだろうか。もうちょっとなんかこうあったほうがいいのではないだろうか?

 いやまぁそこはそこで、それこそが忍野があの町を訪れ、その他もろもろの怪異側の人間が目を光らせているということなのかもしれないけれど。

 

 そのときである、シェルターの分厚い扉の前で僕とレミリアが二人で話していると、後ろのほうから僕たち二人を、いや僕ではなく、レミリアを呼ぶ声と、あわただしくこちらに走ってくる音が聞こえてきた。

 

「ワゾウスキさぁん。大変ですわよ!」

 

 妙にゆったりとした、しかし急いだ風なその声は、あのダイアスの女王、アイリー・レオニードのものだった。

 先ほど周りにはべらせていた大勢の学生や、護衛の”山犬”の姿もなく、今はただ一人でこちらにかけてきたのだった。

 

「レオニードさん。いったいどうしたんですか?」

 

 レミリアが、僕には決して見せない丁寧な口調で尋ねると、アイリー・レオニードは息を整えて口早に言った。

 

「大変ですわよ。あなたのお兄様が、事故で、大変なことに。交霊室にいますわ!」

 

「兄さんが!?」

 

 彼女の話を聞いて、レミリアは顔色を変え、レミリアと僕はアイリー・レオニードについて交霊室へと走った。

 

「兄さんはどこなんですか!?」 

 

 学園の交霊室の一棟に入ったレミリアは、広い交霊室を見回してアイリー・レオニードに聞いた。

 僕も交霊室に入って見回してみたが、おかしかった。

 

 どうみても、そこは無人だったからだ。

 サリバンの姿どころか、僕とレミリア以外誰もいない。

 

 困惑気味に僕が振り返ると、そこにはすでに閉じられた分厚い鉄扉があるばかりだった。

 

「兄さん!? サリバン兄さんは……」

 

 レミリアもまた、違和感に気付いたようだった。

 

「レミリア、ここにサリバンはいないみたいだぜ。それにたぶん、サリバンは怪我もしてないと思う」

 

 僕の言葉に、レミリアがおそるおそるといった様子で僕の顔を見返した。

 

「どうも僕たち、釣られちゃったかな」

 

 

 

 #

 

 

 

「どうやってここから出よう」

 

 僕は改めて広い交霊室を見回した。

 

「どうやって出るって、出れないわよ。出口のカギが閉まってるんだから」

 

 レミリアが横から言ってくる。

 

「いやでもさ、だからってずっとここにいるってわけにもいかないだろ。お前の念動力でなんとかならないのか?」

 

「ちょっと無理、念動力っていっても、私のはスプーンを浮かせるくらいだし、鉄の鍵なんてビクともしない」

 

 メアリーの話では、以前に交霊室に閉じ込められた人がいたって言ってたけど、その時は丸二日、誰も気づかなかったということらしい。

 おそらく、閉じ込められたその人間は脱出方法をさまざまに試みたには違いない。

 そして一方で、その人は交霊室に閉じ込められたのは自分の責任だといっていた、メアリーはそう言っていたが、それは本当なのだろうかと頭の片隅で疑問がよぎってもいた。

 もしかして、こんな風に……

 

「まぁ、でも何か方法があるかもしれない。僕だって丸二日とかここに閉じ込められるのはごめんだ」

 

「私だってそうよ! しかもあんたとなんて!」

 

 レミリアはいやそうな感じで、にくにくしげにそういった。

 

「あのさぁレミリア、ここは二人で協力しなきゃいけないんじゃないのか? もうそういうつんけんした態度はやめようぜ。丸二日だぞ? 考えてもみろよ。お前二日もトイレとか我慢できんの? 俺たちそういう仲になるかもしれないんだぜ?」

 

「言う!? 気になっててもそれ言うの!?」

 

 どうやらそっちのことはレミリアも気づいていたが、口には出さなかったらしい。

 しかし、トイレがどうとかいう問題だけじゃない。いやそれだって大問題なんだけど。

 僕はこの街で僕の存在を奪った存在移しを見つけなければ、どうしても見つけなければならないのだ。

 なら丸二日もこんなところに美少女と一緒に閉じ込められているわけにはいかないのである。

 もしかしたら、その間に存在移しはその目的を果たし、この街から離れるかもしれないのだ。

 そうなったら、おそらく僕の存在は永遠に失われるだろう。

 羽川暦として生きるしかなくなってしまうだろう。

 

「とりあえずここから出ないと」

 

「ただでさえ今は霊脈が励起してるから交霊室は立ち入り禁止なのよ。マットが、ダウジング能力があるから、それで見つけてくれるかもしれないけど、でもマットの能力はトパンズだし、そこまで強くないし」

 

「それは因果関係が逆なんじゃないか? トパンズだから異能が弱いんじゃなくて、異能が弱いからトパンズなんだろ」

 

「同じことよ」

 

 僕とレミリアは改めて部屋を見回した。

 暗い部屋は、しかし薄明りがさしている、それは交霊室の3mほど上の小さな窓から差し込むものだった。

 

「あの窓から外に合図を送れないかな」

 

「あの窓って、3mあるけど」

 

 確かに、僕の身長も、またレミリアの身長も、当然のことながら2mもない。

 以前交霊室に閉じ込められた生徒もあの窓ではどうしようもなかったに違いない。

 しかしその生徒と僕たちの大きな違いは、その生徒は一人で閉じ込められ、僕とレミリアは二人で閉じ込められているということだ。

 

「コヨミ、あんたひざまづきなさいよ」

 

 レミリアが冷静に、冷酷にそう言い放った。

 

「なんでもう決まっちゃってるんだよ」

 

「だって私あんたに乗られたくないもん。ぜったいにいや」

 

「それを言ったら僕だってそうだろ。いや僕はやぶさかでもないけど」

 

「やっぱりキモい! 乗るだけでもキモい!」

 

 心外である。

 なぜひざまづいて、上にのられるというのに、そのうえ罵倒までされなければならないのだろうか。

 

「わかったから、さっさと僕に乗れよレミリア。僕の背中を強く踏みつけろよ、それで外に助けを呼んでくれ」

 

「踏みつけ方とかいちいち注文つけるな!」

 

 いいながら、すでに僕は四つん這いになって窓のあるところの床にひざまづき、レミリアがおどおどと僕の背中に足を乗せた。

 

 靴を履いたままで。

 ヒールのある靴のままでである。

 

「イタイイタイイタイイタイ!!」

 

「えっ、なに!?」

 

 レミリアが驚いて僕の背中から降りた。

 

「いってぇよ! その靴を脱げよ! ていうかなんでヒールなんだよ! ヒールが骨にうまっちゃうだろ!」 

 

「仕方ないでしょ! モデルの仕事でもらったんだから!」

 

「いいから靴を脱げ! 僕が病院送りになるわ!」

 

 実際はたぶんすぐに治るとは思うけど。

 レミリアは靴を脱ぐと少し高さが減ると、こぼしていたが、しかし僕の必死の抗議でしぶしぶ靴を脱いで、四つん這いになった僕の背中に足を乗せた。

 

「どう?」

 

 僕が床を見つめてレミリアの体重を支えながら尋ねると、少ししてレミリアが答えた。

 

「うーん、ちょっとダメね、高さが足りない」

 

「よしわかった。じゃぁいったん降りてくれ」

 

 レミリアが僕の背中から降りて、僕も立ち上がって改めて考えた。

 

「よし、四つん這いでダメなら肩車にしよう。レミリアお前、僕の頭にまたがれよ」

 

「はぁ!? やだ!! ぜったいいや!!」

 

 レミリアは両手で自分の体を抱きしめてサササっと三歩後退した。

 

「いや、なんか僕が下心があるみたいなジェスチャーしてるけどさ、僕も仕方なしだからな、ここから出るためなんだから仕方ないと思っていってるんだぜ?」

 

「いや! 無理! キモい!!」

 

 レミリアは頑なに肩車を拒むつもりらしかった。

 だからといってこのままここにいるのも正直厳しい、僕の尿意だってすでに6合目くらいにきているのだ。

 

「もう仕方ねぇな。じゃぁ僕が頭入れるからそのまま足ひらけてろよ」

 

「いやだ! ちょっと来るな! いや! レイパー!!」

 

「誰がレイパーだよ。ちょっと後ろから入れるだけだろ。すぐすむから入れさせろよ」

 

「来るなー!」

 

 いや、僕は肩車をしようとしているだけなのだが、どうしてここまで嫌がられるのかはなはだ心外である。

 レミリアはしばらく逃げ回ったあと、荒れた息で僕に提案した。

 

「わかった! わかったから! じゃぁ私があんたを持ち上げるから!」

 

「お前が?」

 

 というか、どう見てもレミリアの体はかなり華奢なんだけど、こいつ意外と力があるように、も見えない。

 

「まぁそれで窓までいけるならそれでいいぜ」

 

「はぁ、はぁ。もう、じゃぁそこに立って」

 

 レミリアに言われるままに、窓のあるほうを向いて立っていると、後ろからレミリアが僕の足の太ももあたりを両手でつかんで、そのまま上の方向に力を入れ始めた。

 僕の足が少し浮き、そのまま前方に僕の体が倒れ始める。

 

「あぶないあぶないあぶない!」

 

 僕は全力で暴れてレミリアの腕を逃れて振り返っていった。

 

「なにようまくいきそうだったじゃない」

 

「どこがだよ! 今の諸手刈りだろ! 脳震盪おこすわ!」

 

「ならいいじゃない。気絶すればいいのに」

 

「よくねぇよ! 目的がすりかわってんだよ。僕をノックダウンしようとしてんじゃねぇよ」

 

 その後二人して考えたが、結局

 

「レミリア、ここはやっぱり肩車しかない。命には代えられないよ」

 

「んー……」

 

 レミリアはなおもしぶっていたが、観念した様子で、

 

「じゃぁ、しゃがみなさいよ。あと揺さぶったりしないでよ」

 

「ああ、もちろんだよ。僕はそういうことは幼女にしかしないからな」

 

「そこのきもい話も気になるけど、今はいいわ」

 

 僕が3m上の窓の前でしゃがんでいると、レミリアがおずおずと、ふとももの下の部分を僕の肩に乗せて、両手で僕の髪をがっしりわしづかみにした。

 思わず言葉がもれてしまう。

 

「おも……」

 

「重いっていうな!」

 

 レミリアに髪を引っ張られた。

 しかたないだろ。たとえ20キロとかでも普通に重いんだから。

 

「いやわるかった。ていうか人間の標準からいえば軽いほうだと思うぜ」

 

「いいから早く立ち上がって!」

 

「いやもうちょっとふとももの感触とか口述しといたほうが……」

 

「立てって言ってるでしょ!」

 

 レミリアが言いながら頭をばしばしやってくるので、僕もおとなしく、ふらつきながら立ち上がった。

 

「どうだ?」

 

 これならば、窓に届くはずである。

 しばらくして、レミリアから返事が返ってきた。

 

「届いたけど、でもここらは人通りがないみたい。誰もいない……」

 

 

 

 #

 

 

 

 まずい事態である。人通りの少ない交霊室に、男女が二人、しかも少なくとも男のほうは尿意が7合目くらいときた。

 絶対絶命、いや、絶対失禁である。

 なんだか急に緊張感が薄れた感もあるけど、もろもろよくないわけだ。

 

「ちょっとこれは気が進まないけど……」

 

 僕が黙って考え込んでいると、レミリアがそう切り出した。

 

「交霊術を試してみたほうがいいかも……」

 

「交霊術ってなんだい?」

 

 おうむ返しである。

 そういえば、そもそもここは交霊室という名前がついている。交霊室ということは、交霊を行うことができるということなのか。

 

「大体そんな感じ」

 

 とレミリアは肯定した。

 

「今はハーレンホールドの大霊脈が励起してるから、ほんとは禁止されてるんだけど、それしかないかも」

 

「それで誰かに僕たちがここにいることを伝えられるってわけかい?」

 

「うん、霊脈を媒介して意思疎通を行うこともできるから、成功すればたぶん……」

 

「でも大丈夫なのか?」

 

「一応禁止にされてるけど、それで事故が起きたって記録もないし、たぶん大丈夫」

 

 ちょっと離れてて、そういって、レミリアは広い交霊室の中央に行き、膝立ちになって床に手をつき、目を閉じた。

 

「……」

 

 レミリアがしばらくそのままでいると、しだいに部屋に変化があらわれはじめた。

 

「大丈夫かこれ?」

 

 広い交霊室に、床から青い燐光が発生し、大小の光球が浮かび上がりはじめた。

 

 それだけではなく、レミリアを中心として青い光が集中し始め……

 

 突然、部屋が青い光で満たされ、僕の意識はそこで途絶えた。

 僕の意識が途絶える瞬間、レミリアが気を失ったように崩れ落ちるのが見え、そのまま僕の視界は暗転したのだった。

 

 

 

 #

 

 

 

「大丈夫かレミリア?」

 

 僕が気を失っていたのは一瞬のことだったようで、すぐに目を覚ました。

 

 起き上がって部屋を見回すと、部屋の中心でレミリアが気を失ったまま横に倒れていた。

 

 僕は急いでレミリアのそばにかけよって、レミリアを抱きかかえて呼びかけた。

 

「レミリア? 大丈夫かレミリア?」

 

 レミリアは、しかし何も言わずぐったりとしていたが、しばらく呼びかけていると、うっすらと目を開いた。

 彼女の泳ぐ目が僕に焦点を合わせ、ゆっくりと口を開いた。

 

「なによ、コヨミ。気持ち悪い……」

 

「はぁ、大事なさそうでよかったよ……」

 

 結局、交霊術も失敗したようだった。

 

「ていうか、さっきのなんだったんだ?」

 

 僕がレミリアに尋ねても、レミリアも困惑顔で

 

「わかんない。私は目を閉じてたからわかんないけど、普通は交霊術で青い光が出るなんてことないし……」

 

 先ほどレミリアが目を閉じてしばらくすると、確かに部屋に青い燐光が満たされ始めて、それで僕とレミリアは気を失ったのだった。

 

「一応体の異常とか、あとで調べてもらったほうがいいだろうな」

 

「なんだろう。やっぱり霊脈が励起してるときにやったのがまずかったのかな」

 

「そこらへんは僕にはなんともいえないところだけどさ。でもまずはここから出ないと」

 

 依然として、僕たちはこの交霊室に閉じ込められたままなのである。

 そろそろ晩餐会も始まる時間なのではないだろうか、そもそも、夜まで、もしかしたら明日の朝までこのままかもしれない。

 

「どうしようコヨミ?」

 

 レミリアが思案気に僕に聞いてくる。

 しかし僕とて、妙案があるわけではなかった。

 

「そうだレミリア、お前のサイコキネシス、サイコレズにお似合いのサイコキネシス、それで鉄扉はどうにかできないにしても、鍵の内部を回転させることはできないか?」

 

「変な語呂合わせするな。私はレズじゃない」

 

 きっちりと否定したあとで、レミリアは首を振った。

 

「それも無理、鍵には簡単なサイコキネシスでどうにかできないように防壁術式が組んであるから……」

 

 レミリアはそういいながら、交霊室の鉄扉のところまでいって、一応手をかざして見せた。

 鉄扉は、しかし音ひとつしない。

 

「ほらね?」

 

 バァン!!

 

 轟音だった。レミリアが手をかざした鉄扉がひしゃげて、まるで大型トラックにでも突っ込まれたように形を無残に変えてチョウツガイから根こそぎ吹っ飛んだ。

 

「きゃぁっ!?」

 

 レミリアが驚いてビクっと体を震わせた。

 

「あ、あれ?」 

 

 僕とレミリアが見ると、

 交霊室の鉄扉は、今やくしゃくしゃにされた紙のように出口から吹き飛んで外に転がっていた。

 外の空気が交霊室に入り込んできて、新鮮な空気が鼻腔をみたした。

 

「なんか、開いたな、扉」

 

「う、うん。チョウツガイが壊れてたのかな。あはは」

 

 レミリアも、僕もいったい何事か見当もつかなかったが、

 しかし、とりあえず交霊室から脱出することができて、半ばそうせざるをえないといったこともあり、ひとまずはよしとしたのだった。

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