無敵な姉さんが実は変態的なブラコンでした   作:ガスキン

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第十四話 先輩の秘密

「昨日、聖クロイスの女の子見たんだけどさ」

 

二時限目終了後の休憩時間。クラスメイトの青木と山田の会話が、机に突っ伏していた俺の耳に届く。

 

「マジで? あのお嬢様学校の?」

 

「夕方、コンビニに行く道歩いてたら、すっげえ可愛い女の子が向こうからやって来てさ。で、その子が着てたのが聖クロイスの制服だったんだ」

 

「そんなに可愛かったのか?」

 

「ああ。髪は綺麗な銀髪でさ、それをポニーテイルに纏めてた。顔もよかったけど、スタイルも中々だったぜ。・・・ただ」

 

「ただ?」

 

「目つきがすげえキツかった。ジロジロ見てた所為か睨まれちまったんだけど・・・マジで心臓止まるかと思ったもん」

 

「あはは、そりゃお前が悪いわ」

 

間違いない、俺が見た女の子だ。二人の会話に、俺はすっかり聞き耳を立てていた。

 

「ただな。なーんか見覚えのあるというか、似た人間をどこかで見た事あるような気がするんだよな」

 

「芸能人とか?」

 

「いや、そういうんじゃなくて。もっとこう身近な感じの・・・」

 

「なんだそりゃ。お前の知り合いには可愛いけど目つきが怖い女の子がいるのか?」

 

「それがいないからわからないんだよ」

 

「ふーん・・・。ま、気にしてもしかたないだろ。それよりそろそろ授業始まるぞ」

 

「やべ、準備しないと!」

 

会話はそこで終了し、青木は慌てて教科書を取り出していた。しかし、青木も俺と同じような既視感を抱いてたとは。けど、俺と青木に共通する知り合いなんていないし・・・。一体どういう事なんだ。

 

「・・・・わからん」

 

始業のチャイムが鳴り響く。先生が教室に入って来た。とりあえず女の子の事は置いといて、授業に集中しないと。

 

・・・・・

 

「やあ、広人君」

 

四時限前の休憩時間。トイレから教室への帰り道で亮介さんに会った。何だかいつもより上機嫌な顔をしている。

 

「亮介さん。何かいい事でもあったんですか? 嬉しそうな顔してますけど」

 

「ん? はは、参ったね。自分では普通にしてたつもりなんだけど。そんなに嬉しそうな顔してるかい、僕?」

 

「それはもう、今まで見た事ないくらい」

 

亮介さんは恥ずかしそうに頭を掻いた。それから、機嫌のいい理由を教えてくれた。

 

「昨日さ、妹の話をしたよね」

 

「はい。命さんでしたよね?」

 

「その命がさ、昨日帰って来たんだ。いきなりで僕も両親も驚いたんだけど、それ以上に帰って来てくれたのが嬉しくて・・・!」

 

俺に話したその日に帰って来るなんて・・・。偶然って凄いもんだな。けど、帰って来たとはどういう事だろう?

 

「あの、込み入った事情かもしれませんが。どうして妹さんと離れ離れに暮らしてるんですか?」

 

「ああ、それはね。妹は聖クロイス女学院に通っているんだが・・・」

 

「聖クロイス!?」

 

「? どうかしたのかい?」

 

「い、いえ。何でもありません。続けてください」

 

「聖クロイスは隣町にあるだろ? 実家からじゃ通学に時間がかかるから。それならいっそ向こうにマンションでも借りて一人暮らししながら通う方がいいかなって。それで、命は今、隣町に一人で住んでるんだ。辛くなったらいつでも帰って来てくれていいって言ってるんだが、命は中々帰って来てくれなくて」

 

まだ未成年の娘にマンションを与えるとは・・・。亮介さんの家って色々凄いな。

 

つまり話をまとめると。隣町に住んでいた妹さんが昨日ひょっこり帰って来たという事らしい。これで数年前から離れ離れになっていた理由もわかった。

 

「けど、女の子の一人暮らしって危ないんじゃないですか?」

 

「もちろん、僕もそう思ったよ。けど、聖クロイスに行きたいって言ったのは命本人だからね。てっきり同じ高校に通うものだと思ってたからちょっとショックだったけど、妹の意志を尊重してあげたいから、結局僕も両親も納得したんだ」

 

「そうだったんですか。でも、どうして急に帰って来たんですか?」

 

「連絡も無しに帰ってくるのは初めてだったからね。僕も聞いてみたんだ。でも、「大丈夫だ」っていうだけでね。僕がそれ以上聞こうとしても首を振るだけで。一体どうしたっていうのか・・・」

 

「心配ですね」

 

「あの子は昔から一人で抱え込もうとする癖があるからね。もっと周りを、僕を頼ってくれてもいいのに。・・・そんなに頼りないのかな、僕」

 

先ほどまでの笑顔から一変、悲しさと寂しさが同居した表情を浮かべながら、先輩は大きくため息を吐いた。

 

「そ、そんな事ないですよ! 亮介さんは俺からみたらとても頼りになりますから! 妹さんだって、きっと純粋に亮介さんに心配かけたくないだけだと思います!」

 

励ますように言うと、亮介さんは僅かに笑みを取り戻した。

 

「ありがとう、広人君。そう言ってもらえると嬉しいよ」

 

けど、その笑みもすぐにため息に変わる。・・・これは重症だ。亮介さんって本当に妹さんの事を大切に思ってるんだな。

 

でも、同じ兄弟を持つ俺としては、その気持ちはよくわかった。俺だって、姉さんにそんな風に言われたら落ち込むと思う。何も話してくれないより、迷惑をかけられる方がよっぽどましだ。

 

「・・・っと。いつまでも話してたら次の授業に遅れてしまうな。すまない、広人君」

 

「いえ、亮介さんと話が出来たからよかったです」

 

「はは。嬉しいな。それじゃ、またね」

 

「はい」

 

亮介さんの背を見送り、俺も教室へと戻った。しかし・・・、妹さんも聖クロイスの生徒だったとは。しかも、帰って来たのは昨日。

 

俺の頭に昨日の女の子の姿が浮かび上がる。

 

「・・・まさか、な」

 

・・・・・

 

「命? ああ、知ってるよ」

 

昼休み、今日子先輩に聞いてみると、先輩は懐かしそうに頷いた。

 

「そうか。帰って来たのか。なら久しぶりに顔でも見に行ってみようか」

 

「どんな子なんですか?」

 

「ひ、広人。まさか、その命って子の事・・・!」

 

「話に出て来たから気になっただけだよ。他意は無いから」

 

「ほっ・・・」

 

・・・なんで姉さんがほっとするんだろう? まあいい。とにかく話を聞いてみよう。

 

「命は小さい頃から活発な女の子でな。歳が一つしか違わないせいか、兄である亮介の事も呼び捨てにしていたな」

 

「え? それじゃあ、俺より年上?」

 

「ああ。私や志乃と同い年だよ。だから、私ともすぐ打ち解けてくれてな。よく二人で正義のヒロインゴッコと称して亮介をいじめ・・・相手していた」

 

「ふうん・・・」

 

「何だ、志乃。その可愛らしい物を見るような目は」

 

「別に。・・・ただ、今日子にも日曜アニメに憧れる時があったのが意外だと思っただけよ」

 

先輩の顔が真っ赤になる。・・・うん、新鮮だ。カメラが無いのが惜しい。

 

・・・撮ったら撮ったで恐ろしい事になりそうだが。

 

「こ、子どもの時の話だ!」

 

「そんなにムキにならなくてもわかってるわよ」

 

「ムキになどなっていない!」

 

「ひょっとして、今も見てたりして・・・」

 

「ッ! な、何故それを・・・!」

 

「え?」

 

「・・・はうっ!?」

 

おおっと、先輩の意外な趣味を発見してしまった。てか、今の「・・・はうっ!?」は反則でしょ。普段クールな先輩だから余計可愛く見える。

 

「図星ね」

 

「うう・・・」

 

「そんなに落ち込まなくていいじゃない。あれでしょ? 最近のアニメって大人が見ても楽しめるような感じなんでしょ? ストーリーとか色々」

 

姉さんがそう言った途端、先輩が目の色を変えて語り始めた。

 

「そ、そうなんだ! 今のアニメは昔のように勧善懲悪だけじゃない! 悪の視点から描く事によって、正義側からでは決してわからない部分を見せて、正義と悪の本当の意味について、視聴者に訴えかけたりするんだ! 他にはそうだな、所謂深夜アニメというやつが今は熱いぞ! つい先週、最終回を迎えたアニメがあったが、不覚にも泣いてしまった。最近は“泣き”を主体にした物が多いが、その中でもかなりクオリティが高かったな。あれはきっと映画化するぞ。映画といえば、私達が小学生の頃に放送していたアニメが映画三部作としてリメイクされるらしくて・・・」

 

先輩の口が止まらない。てか、ここまで長いセリフを聞くのは初めてだった。姉さんも目を丸くしている。

 

「・・・はっ! わ、私は長々と何を・・・!」

 

満足するまで語ったのか、先輩が急にハッとなる。そして、先ほどよりもさらに顔を赤らめた。

 

「あ、あなたとは中学からの付き合いだけど、そんなにアニメが好きだとは気づかなかったわ」

 

「気づかれないようにしてたんだ! うう・・・いっそ殺せ」

 

先輩はマジ泣きしていた。けど、アニメ好きってそこまで隠したくなるものなのか? 俺だって深夜アニメは見た事あるし、面白いものは面白いから好きだけど。

 

「キミの言う好きと我々の言う好きは似て非なるものなのだよ、広人君」

 

・・・我々って何?

 

そんなこんなで、昼休みは過ぎていった。

 

・・・・・

 

そんでもって放課後。何となく気分が乗らなかったので、いつもの練習は止めて帰宅する事にした。姉さんは今日子先輩と“女の子の買い物”に行ったので、今日も俺一人だ。

 

「べ、別に寂しいわけじゃないんだからね!」

 

などとツンデレってみたりしながら通学路をのんびり歩く。このまま真っ直ぐ家に帰ってもいいが、何だか勿体無いな。

 

「どっか寄り道でもするか。そういや、今日は漫画の発売日だったよな」

 

思い立って財布を確認する。・・・オーライ。五百円玉一枚だぜ相棒。これじゃ漫画なんて買えやしない。

 

指で五百円玉をコイントスの要領で弾く。

 

回転しながら宙を舞う五百円玉は、そのまま俺の手をすり抜けて地面を転がり始めた。

 

「ちょっ!? 俺の全財産!」

 

俺は慌てて追いかけた。五百円玉は器用に転がり続け、前を歩いていた人の靴に当たってようやく止まった。

 

「ん?」

 

「あ、すみませ・・・ん・・・」

 

・・・偶然ってホント恐ろしいな。

 

「お前は・・・」

 

脱走者を止めた靴の主。それは、昨日出会った銀髪の女の子だった・・・。


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