無敵な姉さんが実は変態的なブラコンでした   作:ガスキン

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第十五話 少女の名は・・・

俺の家の近くには、『星神公園』と呼ばれる児童公園があった。児童公園の割には、結構広さがあり、子ども達が遊ぶ遊具も、ブランコやジャングルジムといった定番の物から、最近はめっきり見る事も無くなった廃タイヤを使った物も、未だに残っている。俺も子どもの頃、姉さんと一緒によくこの公園で遊んでいた。

 

その星神公園のベンチに、俺は缶ジュースを片手に座っていた。一人でじゃない。隣では、先ほど五百円玉のおかげで再会する事になった女の子が、美味そうにコーラを飲んでいる。

 

「ぷはぁっ。やっぱりコーラは美味いな」

 

「(どうしてこうなった・・・)」

 

何故、俺がこんな所で、しかも、彼女と一緒にジュースなど飲んでいるのか。それはつい数分前の出来事がきっかけだった。彼女は五百円玉を拾うと、俺の顔を確かめるように見つめた後、「ちょっと付き合えよ」などと言って、半ば強引に俺をこの公園に連れて来たのだ。

 

「え、ええっと・・・」

 

何を話そうか考えあぐねていると、女の子の方から話しかけて来た。

 

「あのさ」

 

「は、はい?」

 

乱暴な口調と、妙なプレッシャーの所為で、自然と敬語を使っていた。

 

「勘違いだったら悪いけどよ。お前さ、昨日、アタシと街で会わなかった? ちょうどアホ共をボコってやった後、お前に似た男とすれ違った気がしたんだが」

 

確かに、あの時、数秒だけ顔を見合わせたけど・・・。てか、やっぱりこの子があいつらやっつけたんだな。

 

「え、ええ。その、あなたが数人の男と一緒に裏道に入って行ったのを見て、もしかしたらヤバイかもって思ったから、助けに行こうと思ったらすぐにあなたが戻って来て・・・」

 

「何だそりゃ。見ず知らずのアタシを助けようとしたのか? お節介にも程があるぜ」

 

呆れた表情を見せる女の子。それは自分でもよくわかっていた。それでも・・・

 

「見てしまった以上、無視して後味の悪い思いはしたくなかったんですよ」

 

「ふうん・・・。ま、そういうヤツは嫌いじゃないけど。てっきり、あの連中の仲間かと思ったけど、アタシの勘違いだったみたいだな」

 

「もしかして、それを確かめるためにここに連れて来たんですか?」

 

「ああ。もし仲間だったら遠慮無くボコってた」

 

当然だと言わんばかりに頷く女の子に、嫌な汗が浮かぶ。俺も彼女に聞いてみた。

 

「あの男達は何なんですか? なんか、ただのナンパ目的な感じじゃなかったように見えましたけど」

 

「ナンッ・・!? ば、馬鹿言え! アタシみたいな女をナ、ナンパするような物好きな男がいるわけないだろ!」

 

そうだろうか? 青木が言ってたように、目つきはちょっとキツイけど、それも含めて綺麗な顔だ。それにスタイルだって俺から見れば充分整ってると思う。

 

「テ、テメエ・・・」

 

ふと気づくと、女の子が顔を真っ赤にしてプルプル震えていた。握り締めたコーラの缶も見事に潰れている。

 

「も、もしかして・・・今の口に出てました?」

 

「(コクン)」

 

「(やっちまったぁぁぁぁぁぁぁ!!)」

 

よりによって何で今の部分を!! おのれ! 数秒前の自分をぶっ飛ばしてやりたい! てか今すぐこの場から消えたい! 誰か、俺にインビジブルエアを・・・ってここもサイレント・フィールドだった!!

 

「あ、あの・・・」

 

「な、なんだよ」

 

「い、今のは本当にそう思ったからで。だから、その、決してお世辞とかじゃなくてですね・・・」

 

「べ、別にそんな事聞いてないし! そ、それに! お父様とお兄様以外の男に綺麗って言われたの初めてだけど、別に嬉しいとか思ってないからな! いいか? 思ってないんだからな!?」

 

「は、はい・・・!」

 

あまりの剣幕に何度も頷く。けど、お父様とお兄様って・・・、この口調でそんな上品な呼び方って違和感ありまくりだった。やっぱり聖クロイスに通ってる以上、この子もどこかのお嬢様なんだろうな。

 

「くそ、お前が変な事言った所為で話が逸れちまった。仕切り直すぞ」

 

女の子は気分を落ち着かせるように深呼吸してから、改めて口を開いた。

 

「この格好見ればわかるだろうけど、アタシは隣町の聖クロイス女学院に通ってる。そのほとんどが、どこぞの金持ちや良家の娘・・・所謂お嬢様ってヤツだ」

 

「知ってます。それに、聖クロイスは可愛い子がたくさんいるって俺の周りのヤツも言ってます」

 

「その通り。同性のアタシから見ても、可愛い子や綺麗な子がたくさんいる。で、そんな子達に目をつける下衆な連中も少なくない」

 

確かに、金持ちで容姿も抜群な女の子がいれば、それを狙う男だって大勢いるはずだ。

 

「二週間前だった。帰り道で、一年生の子に絡んでいた男がいてな。目障りだったからボコってやったら、そいつが小さい不良グループのリーダーだったんだ。その日からずっと追いかけられてんだよ」

 

「じゃあ、昨日のヤツらも、そのグループのメンバー?」

 

「正解。もう三回くらい返り討ちにしてやってるんだけど、しつこいったらありゃしねえ。・・・ほら、噂をすればお出ましだ」

 

「え?」

 

公園の入口から、俺達の座るベンチに向かって、四人の男が近づいて来た。肩のタトゥーや、趣味の悪いアクセサリー等、いかにも“俺、不良です!”的なオーラを発している。

 

「テメエ! ようやく見つけたぞ!」

 

男の一人が女の子に向かって怒鳴る。タバコでも吸ってるのか、歯が真っ黄色だ。

 

「こんな場所までよく探しに来たな。そんなにアタシに会いたかったのか?」

 

「たりめえだ! 今日こそテメエをリーダーの所まで連れてって、全員でマワしてやるぜ!」

 

別の男が、下品な笑みを浮かべながら女の子の全身を舐めるように見つめる。隣にいた俺ですら嫌悪感を抱くものだった。

 

「はっ! お前らみたいな見た目も心も腐ってる連中に、アタシの“初めて”を奪われてたまるかっての!」

 

「んだとゴラァ!」

 

女の子の挑発は効果てきめんだった。四人はゆでダコのように顔を真っ赤にし、今にも襲いかかって来そうだった。

 

「おい、お前は逃げろ」

 

女の子が小声で逃げるように言って来た。

 

「こいつらの狙いはアタシだ。そもそも、お前は全く関係がない。アタシが逃げ道作るから、お前は全力で入口まで走れ」

 

その通り。俺は部外者だ。これから何が起ころうと、俺とは関わり合いの無い事だ。だから、俺の答えは決まっていた。

 

「・・・いえ、そういうわけにはいきません」

 

「え?」

 

「言ったでしょ? 俺は後味の悪い思いをするのが嫌いなんです。馬鹿だとしても、お節介だとしても、あなたを残して一人で逃げるわけにはいきません」

 

それが俺の・・・黒川 広人の意地だ。それに、よってたかって女の子を傷つけようとする連中を見ると、昔、姉さんをいじめていたヤツらを思い出して、どうにも我慢ならない。

 

「何ごちゃごちゃ話してんだ!」

 

痺れを切らしたのか、男達が襲いかかって来た。

 

「チッ! おい、アタシから離れるなよ!」

 

「大丈夫! この手の連中の相手は慣れてる!」

 

三人が女の子に、一人が俺に向かって来る。どうやらよっぽど女の子を警戒してるみたいだな。

 

「おらぁっ!」

 

男のパンチを避け、こっちからも一発腹に決めてやる。それで決まりと思ったら、男は上体を崩しながらも、再び殴りかかって来た。今度は避けられず、左の頬に拳を受けてしまった。口内に鋭い痛みが走る。多分どこか切ったな。

 

「ぐっ・・・! このっ!」

 

続けて、右足で膝を蹴りつける。さらに、男の腕を掴み、体を潜り込ませつつ、背負投げの要領で思いっきり地面に叩きつけた。背中を強打した男が苦しそうに呻く。

 

「くそっ! 離せ!」

 

女の子が叫ぶ。振り向くと、一人が彼女を後ろから羽交い絞めにしていた。身動きの取れない女の子に、二人の男が手を伸ばす。

 

「(やらせるかっての!)」

 

俺はすぐに動いた。女の子を捕まえている男を、横から全力で蹴り飛ばす。吹っ飛んだ男が、地面に熱烈なキスを繰り返しながら、二メートルほど転がっていった。

 

解放された女の子が、目にも止まらぬ速さで右腕を伸ばす。たったそれだけで、男の一人が鼻血を撒き散らしながら宙を舞った。

 

「後はお前だけだ。どうする・・・まだ続ける気か?」

 

女の子が最後の一人を睨みつける。元々鋭い目つきをさらに凶悪にしたその睨みに、男は短い悲鳴を漏らしながら、倒れた仲間を連れて逃げて行った。

 

「ふん、根性無しが・・・」

 

小さくなっていく背を見つめながら、女の子が吐き捨てるようにそう言った。それから、俺の方を振り向いた。

 

「・・・礼は言わねえぞ。アタシが逃げろって言ったのに、お前が勝手に首突っ込んだんだからな」

 

「ええ。わかってます。俺は、俺の意地であなたを助けただけですから」

 

「ふ、ふん。やっぱ変なヤツだな、お前・・・」

 

腕を組みながら、そっぽを向く女の子。その頬が少しだけ赤くなっているのは・・・うん、ケンカ終わりで興奮が冷めてないからだろうな。

 

「にしても、お前結構強いな」

 

「強くならなければならない理由がありましたから」

 

姉さんのため、そして何より、自衛の為に・・・。

 

「さて、可能性は低いが、さっきの連中が仲間連れて戻ってくるかもしれないから、そろそろお開きにすっか」

 

「そうですね」

 

「じゃあな。えっと・・・、そういえば、一番、大事な事聞くの忘れてた」

 

歩き出そうとした女の子がもう一度振り返る。

 

「何ですか」

 

「お前、名前は・・・?」

 

「・・・あ」

 

そうだ。最初に聞かなければならない事なのに、すっかりタイミングを失ってしまっていた。慌てて自己紹介をする。

 

「広人です。黒川 広人。星神高校の一年生です」

 

「アタシは神代 命。聖クロイスの二年生だ。縁があったらまた会おうな」

 

遅くなった自己紹介を終え、神代さんは今度こそ公園から去って行った。

 

「・・・年上だったのか」

 

神代 命さん・・・。神代さん・・・。命さん・・・。・・・・・・・・・・・・・・・え?

 

『実はね、僕には妹がいるんだ。でも、その妹とは数年前から離れ離れになってしまって・・・』

 

「ま、まさか・・・」

 

『名前は命って言ってね。・・・身内贔屓を差し引いても、可愛い子だと思うぞ。ただ、ちょっとお転婆な所があって、僕もよく振り回されてたなぁ・・・』

 

「亮介さんの妹さんって・・・」

 

『ああ、それはね。妹は聖クロイス女学院に通っているんだが・・・』

 

「あの人なのか・・・!」

 

その瞬間、全てのピースが組み合わさった。つまり、俺が今の今まで一緒にいたあの女の子・・・じゃなくて、女性こそが、亮介さんの妹である、神代 命その人だったのだ!

 

こうして、俺は全く予想外の形で、命さんと顔を合わせてしまった。いや、何というか・・・。

 

「世間って、狭いんだな・・・」

 

独り言のように呟きながら、俺も自宅への道をゆっくりと歩き始めるのだった。

 

数分かけて帰宅すると、玄関で俺を迎えた姉さんが俺を見て叫んだ。

 

「ひ、広人! その頬・・・まさか、殴られたの!?」

 

殴られた事をすっかり忘れてた。姉さんが慌てた様子で俺に回復魔法をかける。家庭という閉鎖空間では、魔法を使用する事が許されているのだ。

 

「・・・広人。お姉ちゃんちょっと出かけてくるわね」

 

「え? こんな時間からどこに・・・」

 

「もちろん。広人を殴った相手に特大のフォースブレイカーをお見舞いしに・・・」

 

「うん、間違い無く相手が木っ端微塵になるから止めようね」

 

虚ろな目で外に出ようとする姉さんを、割かし本気で止める。一緒にリビングへ向いながら、ふと命さんの事を考える。

 

きっとまた、あの男達は彼女を狙うはずだ。ここは亮介さんに相談した方がいいかもしれない。

 

「(けど・・・)」

 

『あの子は昔から一人で抱え込もうとする癖があるからね。もっと周りを、僕を頼ってくれてもいいのに。・・・そんなに頼りないのかな、僕』

 

命さんが亮介さんが言っていたような性格だったら、今回の不良グループとのいざこざもきっと秘密にしているはずだ。その事を踏まえると、亮介さんではなく、もう一度彼女から話を聞いた方がいいかもしれない。それに、勝手に話して、後から命さんにバレた方が怖いしな。

 

「(よし、とりあえず、明日は命さんを探そう)

 

妙な展開になって来たが、これも俺のお節介が招いた事。どうせなら、やれる所までやってやるさ。

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