無敵な姉さんが実は変態的なブラコンでした   作:ガスキン

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第十八話 策士策に溺れる

男達を撃退した俺達は、公園にやって来た。

 

「さて、話を聞かせてもらおうか」

 

引き摺っていた男を放置し、今日子先輩はベンチに座った。

 

「ついこの間なんですけど、俺、ある女性と知り合いになったんです。で、その女性が、命さんって名前で」

 

「命? もしや・・・」

 

「はい。亮介さんの妹さんです」

 

「やはりな。しかし、隣町の聖クロイスの生徒である命が、キミと知り合う場などあったか?」

 

「命さんが絡まれていた所に偶然出くわしたんです。その次の日にまた偶然出会ったんです。命さん、俺を絡んでいた連中の仲間と勘違いしてたみたいで。まあ、誤解だとわかってもらえたんですが」

 

「待ってくれ。命が絡まれていた?」

 

今日子先輩が目を細めた。

 

「命さん、不良グループに狙われているらしいんです。後輩の子に手を出そうとしていた男を殴ったらしいんですが、それがその不良グループのリーダーだったみたいなんです。俺と命さんが話をしていた時もやって来て、乱闘になりました。そこで伸びてる男も、その時襲って来た一人です」

 

絶賛気絶中の男に視線を向ける。今日子先輩は腕を組みながら納得したように頷いた。

 

「なるほど。そういう事だったのか。それで、命のヤツはどうすると?」

 

「一人でなんとかするって」

 

「何だと」

 

「命さん、両親や亮介さんには相談せずに、全部一人で片付けるつもりなんです。迷惑をかけたくないって。見捨てられたくないからって」

 

「・・・どういう事か、説明してくれないか」

 

「はい」

 

俺は命さんの不安や悩み、その全てを今日子先輩に話した。話を聞くにつれ、先輩の表情が見る見る内に不機嫌になっていった。

 

「・・・これが、俺が聞いた全てです」

 

そして、俺が話を終えると、先輩は小さな声でハッキリと言った。

 

「馬鹿者が・・・」

 

「俺、亮介さんが命さんを見捨てるなんて思えません。学校で亮介さん、命さんの事をとても心配してました。だから、不良グループとの事や、自分の気持ちを正直に話した方がいいと思うんです。でも、出会って間もない俺が言ってもきっと聞いてくれない。だから、子どもの頃からの友達の先輩から言ってもらえれば、聞いてくれる可能性が高いと思うんです」

 

先輩が再び頷いた。

 

「よく話してくれた、広人君。その通りだ。亮介が命を見捨てるなど、私が真人間に戻る事くらいありえない。何せ、ヤツはシスコンだからな」

 

「(真人間?)へえ、亮介さんってシスコンなんですか?」

 

「あの男は命の為ならどんな事でもする。昔、命をいじめていた相手を・・・いや、話す事じゃないな」

 

何やったんですか亮介さん!?

 

「とにかく、事情は理解した。私も協力しよう」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

よかった。今日子先輩ならきっとうまく説得してくれるはずだ。俺は胸のつかえがスッと取れた気がした。

 

「・・・そういうわけだ。そろそろ出て来たらどうだ」

 

「え?」

 

先輩が遊具の方へ顔を向ける。すると、その影から姉さんが姿を現わした。

 

「ね、姉さん!? どうしてここに!?」

 

「え、えっと・・・」

 

「走り去ったと見せかけて身を隠し、私達の後をつけていた・・・だろ?」

 

「う・・・」

 

図星らしい。全然気づかなかった。

 

「お前が大人しく帰るとは思っていなかったがな。・・・話は聞いていただろ?」

 

「う、うん。その・・・ごめんなさい」

 

「まあいいさ。それはそうと、今の話を聞いて疑問なのだが、この男はどうして命じゃなく、広人君を狙ったんだ」

 

「さあ・・・」

 

とその時、気絶していた男が呻いたと思ったら、数秒してゆっくりと目を開いた。そして、俺と今日子先輩の顔を見るなり、慌てて起き上がり、逃げ出そうとした。

 

「待て」

 

今日子先輩が男の腕を掴む。瞬間、男は地面に叩きつけられ、悲鳴をあげた。

 

「お前達の事は聞いた。その上で聞く。何故広人君を狙った?」

 

「そ、それは・・・」

 

「言っておくが、広人君だけでなく、命にまで手を出そうとしている以上、最早私に躊躇いはない。返答次第では五体満足でいられないと思え」

 

「ヒイッ!?」

 

淡々とした口調がかえって恐ろしさを際立たせている。男は涙目で震え始めた。

 

「相変わらず、ドSなんだから」

 

「いやいや! そういう次元の話じゃないから!」

 

「さあ、どうする?」

 

「は、話す! 話しますから!」

 

「ならさっさと話せ」

 

「き、昨日、そいつとあの女が一緒に喫茶店にいる所を仲間の一人が見て。仲良さそうに見えたから、男を拉致ればあの女も大人しく言う事を聞くだろうって事で仙波さんが・・・」

 

「仙波?」

 

「お、俺達のリーダーです。俺達が拉致る役で、拉致ったあと、女を脅して、いっつも俺達が集まってる場所に連れてった所で、みんなでぶっ壊れるまでマワしてやろうって・・・」

 

「お前ら・・・!」

 

思わず男に掴みかかりそうになった俺を、今日子先輩が制する。

 

「なるほど。つまり、お前が広人君を拉致したと連絡すれば、他の連中が命に接触するわけだな?」

 

「は、はい」

 

「ならすぐに連絡しろ」

 

その言葉に、俺と姉さんは目を見張った。

 

「先輩!?」

 

「ちょっと今日子。どういうつもり?」

 

「決まっているだろう。連中の所に乗り込んで、二度と命に手を出さないよう約束させる。・・・私の大切な幼馴染を壊すなど、絶対に許さん」

 

「でも、あなた一人じゃ危険過ぎる・・・」

 

「そういえば広人君。この前、殴られたって聞いたが、もしや、こいつらがやったのではないかな?」

 

姉さんの言葉を遮り、今日子先輩が俺に尋ねて来た。

 

「え? あ、はい。前回絡まれた時に一発もらっちゃって」

 

「・・・私も行くわ」

 

「姉さん?」

 

「いいのか?」

 

「ふふ、広人の素敵な顔を傷つけたんですもの。ちゃんとお返ししないといけないもの。ふふ、ふふふ、うふふふふふふふふ」

 

不気味に笑う姉さん。その目はいつぞやと同じように、光を失っていた。てか怖い!

 

「『スペルクイーン』に協力してもらえるとは助かるな。・・・さあ、すぐに連絡しろ。そのあとは私達を仙波とやらの所まで案内してもらう」

 

「拒否権は無いわよ。もし断れば、ふふ、うふふ・・・」

 

「す、すぐに連絡させて頂きますーーー!」

 

・・・なんでだろう。命さんを傷つけようとする最低な連中の仲間のはずなのに、泣きながら携帯を取り出す男を見て、同情の念がわいてきた。

 

「・・・俺もついていった方がいいかも」

 

もちろん、姉さん達が心配なのもあるが、それ以上に、姉さんがやり過ぎないよう見張っておかないといけない。本気になった姉さんは、文字通り誰にも“止められない”のだから。

 

「ふふ、ふふふ・・・」

 

「姉さん。その笑い声マジで怖いんで止めてください」

 

 

SIDE OUT

 

 

命SIDE

 

 

「ごきげんよう、命さん」

 

「ああ、気をつけて帰れよ」

 

授業が終わり、いつもの様に家路をたどる。

 

「よお」

 

その道中、またしても連中が姿を現わした。数は五人。いつも通りの数だった。

 

「ふん、また殴られに来たのか」

 

拳を鳴らしながら睨みつける。いつもならたじろぐ連中が、今日はニヤニヤと笑っていた。

 

「何が可笑しい」

 

「お前も中々すみにおけねえな」

 

「は?」

 

「昨日、男と仲良く喫茶店にいたそうじゃねえか。どんな話をしてたんだ?」

 

ッ! み、見られてたのか!? けど、どうやら話は聞かれてないみたいだ。

 

「・・・お前らには関係ないだろ」

 

「気になるんだよなぁ。・・・けどまあ、話してくれねえなら仕方ねえ。もう一人に聞くだけさ」

 

もう一人? まさか・・・!

 

「お前ら! 広人に何しやがった!」

 

「へえ、広人クンっていうのか」

 

「答えろ!」

 

「別に何もしちゃいないさ。ただ、仙波さんが話したいって言ってたから、俺達の溜まり場に案内しようと思ってな。ついさっき、広人クン見つけて今一緒に向かってるってさ」

 

「なっ!? ふざけるな! あいつは関係ないだろ!」

 

「だから、別に何もするつもりはないって。ただまあ、あんまり惚気けられたりしたら、仙波さんもつい手が出るかもしれないけどなぁ」

 

笑い出す男達。こいつら、アタシじゃなく、広人に手を出したのか!

 

「(広人・・・)」

 

最初は連中の仲間かと思った。けど、違った。呆れるほどお節介で、人の事をいきなり可愛いとか綺麗とか言ってくる変な男。

 

アイツに聞かれた時、自分でも驚くほどあっけなく、抱えていた物を吐き出してしまった。広人になら話してもいいって。

 

・・・いや、違う。多分、アタシは聞いて欲しかったんだと思う。当事者である“家族”でも、学校の“友達”でもなく、たった数日前に出会った“知り合い”のあの男に。

 

なんでだろう。自分でもよくわからない。今確かなのは一つだけ、アタシの事にアイツを巻き込んじゃいけないって事だけだ。

 

「・・・何が望みだ」

 

「へへ、俺らについて来てくれればいいだけさ。そうすれば、大切な広人クンにも会わせてやるよ」

 

「わかった。・・・けど言っておく。もし広人に何かしやがったら、その時はお前ら全員ぶっ殺してやる!」

 

「おお怖っ」

 

ありったけの憎悪を込めて睨みつける。男達がアタシを取り囲むようにして歩き始めた。

 

「(広人、お前は絶対助けるからな!)」

 

アタシは拳を強く握り締めた。

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