無敵な姉さんが実は変態的なブラコンでした   作:ガスキン

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第二十一話 メイド道は一日にしてならず

唐突だが、俺は自分が至って健全な男子高校生だと思っている。だから当然、興味があるのは女の子で、男に対してドキドキしたりするわけはない。

 

しかし、だがしかし! 今、俺の前でメイド服を纏い、恥ずかしそうに顔を赤らめる直也を見て、俺は確かにドキドキしている! てか微妙に内股すんな!

 

まさか・・・俺って変態? いやいや、姉さんにだってドキドキするんだから俺は普通・・・って、それも変態じゃねえか!

 

「きゃ〜〜〜! 可愛い〜〜〜!」

 

固まる俺を尻目に、住谷さんを除く部員達が黄色い声を発しながら直也に殺到する。撫でられたり、頬ずりされたり、やられ放題だ。

 

「こ、これがハーレム・・・。直也、恐ろしい子!」

 

「うわあ、今日も可愛いな~。やっぱり部長の見立てに狂いは無いわね」

 

「見立て?」

 

「ほら、直也君って下手な女の子よりよっぽど女の子っぽいじゃない? 何かみんな凄く気に入っちゃってね、毎回色んな衣装を着せてはああやって可愛がってるのよ。ちなみに、あの服は部長の手作りね」

 

それってつまり、半ば無理矢理に着せてるって事か? それじゃいじめと変わらないじゃないか。もしそうなら、俺としては黙っていられない。

 

「誤解しないように言っておくけど、決して強制してるわけじゃないわよ。直也君だって満更じゃないみたいだし」

 

探るように目を細める俺に何か察したのか、住谷さんが宥めるように言って来た。そうか、それならいいんだが・・・。にしても満更じゃないって。まさか直也、女装癖があるのか?

 

「ま、まあ、人の趣味を馬鹿にする気は無いし、直也がいいんなら俺は何も言わないけど」

 

などと結論づけていると、その直也がうつむき加減で俺の前にしずしずと近づいてきた。だからその内股止めれ。

 

「い、いらっしゃい、広人君。お、驚いたよね、僕がこんな格好してて」

 

人差し指を付き合わせながらモジモジする直也。狙ってんのか? 狙ってんだな!

 

「お、おう。でもよく似合ってる・・・って言っていいのか?」

 

「あ、ありがとう・・・」

 

恥ずかしそうに礼を言ってくる直也。あれ、でもこいつ、そもそも女の子扱いされるのが嫌いだったはずじゃ・・・。

 

「ほら直也君。言われた通りに」

 

後ろから沢城先輩が何か促すと、直也は躊躇った素振りを見せた後、満面の笑みを俺に向けて来た。

 

「お、お帰りなさいませ、ご主人様!」

 

「ッ!?」

 

ドキューーーーーーン!

 

「あ、あれ、どうしたの広人君!?」

 

・・・拝啓、天国の父さん母さん、そして、外国にいる父さん母さん、あなた達の息子は健全に成長して来ました。ですが今日、俺は男相手にハートをブチ抜かれてしまいました。こんな変態な俺を、どうかお許しください・・・。

 

「ふふ、直也君。黒川君は今、扉を開いたの。そう・・・“萌え”という名の扉を!」

 

やや厚めの眼鏡を光らせながら叫ぶように言う沢城先輩。だが、茫然自失状態だった俺の耳にはその言葉は届かなかった。

 

 

 

 

俺が正気と取り戻した頃、既に料理部の活動は始まっていた。複数のグループに別れて野菜を切ったり、フライパンを振るったりしている。直也が言うには料理コンテストの為の料理を作っているらしいが、雰囲気としては特に気負った様子ではなく、和気藹々とした感じだった。

 

「もうちょっと塩を・・・」

 

「え~、ちょっと濃すぎじゃない?」

 

「お野菜切れた?」

 

「うん、入れるよ~」

 

・・・いい。家の料理担当は俺だから、女の子がエプロン姿で料理する姿は新鮮だ。けど、一番目立つのはやっぱり直也だ。にしても、改めて見るとあのメイド服、完成度高いな。沢城先輩が作ったらしいけど、あの人家庭科スキル相当高そうだな。

 

(・・・って、また無意識に直也追ってるし。自重しろ俺!)

 

頭を振り、俺は部員達の調理風景を黙って見守り続けた。そして数分後、完成した料理がテーブルに並べられた。

 

「さあ黒川君、どうぞ召し上がれ」

 

「え、お、俺が食べていいんですか?」

 

「ええ。せっかくだし、部員以外の人の意見も聞いてみたいから」

 

「そういう事なら・・・」

 

割り箸を持ち、俺はまず、肉と野菜の炒め物に手を伸ばした。野菜の歯ごたえと肉の柔らかさが絶妙で、それに絡みつく濃厚なタレが舌を刺激する。正にご飯が食べたくなる一品だった。

 

俺の評価に、数人の部員が微笑む。どうやら彼女達がこの炒め物を作ったらしい。それにしても、高校の部活だと思って甘く見ていたが、これって下手な店より美味いんじゃないのか。

 

「それはそうだよ。ウチの高校の料理部は地域のコンクールで何度も優勝してるし、全国大会にも出た事あるんだから」

 

「え、そんなに凄いのか!?」

 

「今日作ったのは、先輩達が残してくれたレシピに自分達でアレンジを入れたものなの。でも、中々アレンジ前を超える物が作れなくて・・・」

 

「そりゃそうですよ。元々がかなり美味しいですからね。それを超えるとなると難しいですよ」

 

俺に続いて箸を伸ばしながら、部員達が口々に漏らす。いや、十分美味いんだけど、これでもまだ満足じゃないなんて・・・。相当意識が高いんだな。

 

「何か・・・みんな凄いですね」

 

「え?」

 

「結果に満足せずに、さらに上を目指す・・・。凄いですよ。ちょっと尊敬します」

 

そう言うと、部員達は照れたような笑みを見せた。かと思うと、他の料理を次々と差し出して来た。

 

「黒川君、これも食べてみてよ!」

 

「こっちも美味しいよ!」

 

「ど、どうぞ!」

 

「あ、ああ」

 

頂けるなら何でも頂く。俺は他の料理にも手を伸ばした。予想通りというか、その全てが美味かった。

 

「なるほど、流石あの黒川さんの弟ね」

 

「住谷さん、何か言ったか?」

 

「んーん。キミって面白いなぁって思っただけ」

 

どういう意味だ? そして直也、どうしてさっきからそんな不機嫌そうなんだ。

 

「何でもないよ。・・・馬鹿」

 

いや、不機嫌じゃん。

 

 

 

 

その後、結局俺は後片付けまで手伝った。今は直也が着替え終わるのを待っている。

 

「黒川君、ちょっと様子を見て来てくれない。あのメイド服、着るのは簡単だけど、脱ぐのちょっとめんどくさいのよね」

 

「あ、はい。わかりました」

 

沢城先輩に言われ、俺は直也のいる家庭科室への扉を開けた。

 

「ひゃうっ!?」

 

「直也、着替え終わ・・・どうしたんだ?」

 

扉の先では、体を隠すように蹲っている直也がいた。その胸元には、何故かサラシが巻かれていた。

 

「な、何、広人君!?」

 

「いや、着替えに手こずってたら手伝おうと思って。・・・それよりお前、そのサラシ、どうしたんだ?」

 

「こ、これは・・・」

 

「これは?」

 

「・・・む、昔、大怪我して、その時の傷が残っちゃってるんだ。見たら絶対引かれちゃうから、こうやって隠してるんだ」

 

こいつの過去にそんな事が・・・。けど、傷跡なら魔法で消せばいいんじゃないのか。

 

「ちょっと事情があって・・・。ゴメン、これ以上は言えない」

 

「そうか、わかった。けどな直也。俺はお前の事を親友だと思ってる。もし俺がその傷を見ても、絶対に引いたりしない。それだけは言っとくからな」

 

「う、うん、ありがとう」

 

微妙な顔を見せる直也。やっぱり傷の事は触れて欲しくないみたいだな。

 

「じゃ、俺は調理室の方に戻ってるよ。手伝う必要も無さそうだしな」

 

そう言って、俺は調理室へと舞い戻った。その後ろで、直也が安堵の表情を浮かべているのにも気づかずに・・・。

 

 

 

 

着替えを済ませた直也が戻って来たところで、沢城先輩が今日の纏めを発表し、解散となった。直也と一緒に帰ろうとしたが、数人の部員に攫われて行ってしまったので、一人で帰る事にした。

 

「・・・てな事があってさ」

 

帰宅後、俺は夕食の席で姉さんに料理部での出来事を話した。もちろん、俺が直也に抱いてしまった思いは除いて。

 

「ふうん・・・。つまり、広人はメイド服を着た直也君にメロメロになっちゃたわけね」

 

「今の話のどこにその要素が!?」

 

そして何故わかった!?

 

「そっか、広人はメイドスキーなのね。覚えとこっと」

 

「覚えなくていいから!」

 

そんなツッコミをしながら、今日という日は過ぎていった。もちろん、この時俺は、姉さんが俺をからかって楽しんでいるのだとばかり思っていたのだが、そうじゃなかった。

 

それを思い知らされたのは翌日、帰宅してからだった。玄関を開けた俺を待っていたのは・・・

 

「お帰りなさいませ、ご主人様♪」

 

メイド服を来て、三つ指ついて俺を出迎える姉さんだった。ご丁寧にカチューシャまでつけている。あまりに予想外の事態に動かない俺に対し、姉さんが立ち上がって俺のかばんを取った。

 

そして気づく。上は普通のメイド服なのに、下はミニスカートだった。しかもかなり際どい。本物のメイドがこんなの履いてたら絶対主人の趣味だといわんばかりに。

 

「さ、ご主人様、お部屋でお着替えを済ませましょう。私がお手伝いいたしますから」

 

「い、いや、いい。いいから、姉さんはリビングで待ってて」

 

割と本気で残念がっている姉さんを残し、困惑しつつも制服を着替えリビングへ向かう。そこにはやはりメイド姿の姉さんがいた。

 

「ね、姉さん、その格好は?」

 

「私はご主人様のメイドですから、メイド服を着るのは当然ではありませんか」

 

不思議そうに首を傾げる姉さん。てかそれはこっちの方だっての!

 

「・・・うん、色々聞きたい事があるな。まずそのメイド服はどうしたの?」

 

「今日の帰りにお店で買って来ました」

 

「何の店!?」

 

「駅前の・・・」

 

「い、いや、やっぱりいい。聞くのが怖い。・・・それじゃ次、何でメイドなの?」

 

「昨日、ご主人様がメイドが好きだ。メイド相手に〇〇や××したいとおっしゃっていたので・・・」

 

「そんな規制かかるような発言した覚えないよ! ええい! なら最後、どうして姉さん自身がメイドなの?」

 

「私がご主人様の姉だからです」

 

「答えになってない!?」

 

「もう、ご主人様。細かい事はいいじゃないですか。大人しく私のご奉仕を受けてくださいよ」

 

「ご奉仕って・・・なんかやらしいな」

 

「あら、ご主人様が望むのならどんないやらしい事でも喜んでやりますわ」

 

「そういうタチの悪い冗談は止めれ!」

 

ええい、何で帰宅して早々ツッコミのオンパレードなんだよ。

 

「さ、ご主人様、いらしてください」

 

ソファーに座り、自分の膝をポンポンと叩く姉さん。ミニスカートなので、太ももまで丸見えだ。

 

「な、何?」

 

「耳掃除して差し上げます。どうぞ私の膝に頭を乗せてください」

 

「そ、そんな事しなくても・・・」

 

「いいからいいから」

 

グイっと手を引かれたと思った次の瞬間には、俺は姉さんに膝枕されていた。何という早業・・・って感心してる場合じゃない!

 

「はい、動かないでくださいね~」

 

脱出する暇もなく、姉さんの耳掃除が始まってしまった。くそ、今動くと危ない。スキを見て逃げてやる。

 

「痛くないですか、ご主人様?」

 

「う、うん」

 

痛いどころか、とても気持ちいい。姉さんって耳掃除がやけに上手いんだよな。チラッと横目で様子を伺うが、姉さんの顔は見えない。何故なら、目の前にせり出す双丘が俺の視界を遮っているからだ。ホント、我が姉ながら、成長し過ぎだろ。

 

・・・と、いかんいかん。ジロジロ見てたら何言われるかわからな・・・

 

「ご主人様、何だかおっぱいに視線を感じるんですけど」

 

「き、気の所為じゃないの」

 

「ふふ、そういう事にしておきますね」

 

ぐっ、バレてる・・・。再びボロを出さないよう、俺は目を瞑って姉さんの手が止まるのを待った。

 

「・・・はい、終わりました」

 

「あ、ありがとう。それじゃもう・・・」

 

「何言ってるんですか。反対の耳が残ってますよ」

 

起き上がろうとした俺を再び押さえる姉さん。無理に動かした首が変な音を出した。痛みに喘ぎつつ、俺はまたしても姉さんの膝に頭を乗せた。

 

(って、ヤバい! これはヤバイって!)

 

さっきとは反対、つまり今度は姉さんの方を向く事になるわけだが、姉さんの今の格好は、際どすぎるミニスカート。つまり、下手に視界を動かすと、見えてしまうわけで・・・。

 

「ご主人様、今日の私の下着はピンクです」

 

「そのカミングアウト必要ないよね!?」

 

「だって、ご主人様とても気になってるみたいですし。それに、最初に言っておけば覗きやすくなるでしょ?」

 

「気になってないし覗かないよ! もういいから早く終わらせてくれ!」

 

「かしこまりました」

 

結局、この天国とも地獄とも言える時間は五分足らずで終了したが、疲れきった俺に対し、姉さんはとても晴れ晴れとした顔をしていた。

 

この後手早く夕食を作ったのだが、ここでも姉さんはメイドの仕事だと言って、俺にピッタリ寄り添いながら、アーンなんてして来た。俺はヤケクソ気味に姉さんの差し出す料理を口に運び続けた。

 

気力がガリガリと削られていくなか、ようやく安息の場である風呂の時間が来た。俺は精神的な疲れで体を引きずりながら、風呂場へと向かった。

 

「はあ・・・やっとゆっくり出来・・・」

 

「ご主人様~~。お背中をお流しします~~」

 

「だが断る!」

 

以前の二の舞になるわけにはいかない! 俺は最後の気力を振り絞って全力で姉さんの侵入を防いだ。姉さんが渋々引き上げるのを確認し、俺は改めて湯船に浸かった。

 

十分に浸かった後、俺は早めの就寝を取ろうと自室へ向かった。そして部屋の電気をつけた瞬間、布団が異様に盛り上がっているのに気づく。

 

「ま、まさか・・・」

 

いや、いくらなんでもそんな事はないだろう・・・。一瞬浮かんだ考えを振り切り、恐る恐る布団をめくった俺の目に飛び込んだのは・・・やはり姉さんだった。

 

「添い寝もメイドの務めです♪」

 

「俺に・・・どうしろと」

 

ワクワクした表情で自分の隣を叩く姉さんに、俺はそう言うしかなかった・・・。


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