今日子先輩を連れて帰宅した俺達は、リビングでくつろいでいた。
「とりあえず準備するから二人とも座っててくれ」
今日子先輩はコーヒーより紅茶の方がいいかもな。そう思い、湯を沸かして紅茶を淹れた。それから、ラッピングを解いて三つのカップケーキを机に置く。
「へえ、マロンケーキかぁ。よくこんなの作れるわね」
「慣れればこれくらい簡単だ」
「・・・嫌味かしら?」
「ふ、さあな」
ジト目の姉さんを軽く受け流す今日子先輩。
「ほらほら、紅茶が冷めるから早く食べようぜ」
「では広人君、最初の一口はキミが食べるといい。渡す時にも言ったが、このケーキはキミのために焼いたのだからな」
「じゃあ、いただきます」
手元の一つにフォークを刺して、口に運ぶ。栗の風味と適度な甘味が口の中に広がった。
「どうだい?」
「美味しいです。栗の味もしっかりしてるし、甘さもちょうどいいですよ」
「どれどれ・・・。あ、ホントだ。美味しい」
「それはよかった」
俺と姉さんの感想に、今日子先輩は満足そうに微笑んだ。
素敵な人だよなぁ、今日子先輩。美人だし、友達の弟の俺にも優しくしてくれるし、料理の腕だって抜群だし。・・・今日子先輩と結婚出来たら幸せだろうな。
「広人君。そんなに見つめられると濡れ・・・恥ずかしいんだが」
「あ、すみません」
・・・ん? 空耳だよな? 一瞬変な単語が聞こえたような・・・。
「ダメよ広人。今日子を見つめたら襲われちゃうわよ」
「猛獣かよ! 今日子先輩、今のはただの冗談ですから、気を悪くしないでくださいね」
「・・・・」
「先輩?」
「・・・はっ! あ、ああ。もちろんわかってるよ。私が広人君を襲うなんてあるわけないじゃないか」
「ですよね」
「そうだとも。襲うんならこんな場所じゃなくて、ちゃんとベッドで―――」
「え?」
「おっと、何でも無い。私とした事が口を滑らせてしまった。忘れてくれると助かるな」
「は、はあ・・・?」
追求するのも何だかヤバそうなので、言われるままに忘れる事にした。
「(危ない危ない。思わず広人君の前で欲望をぶちまけてしまいそうになってしまった。気をつけないと)」
「(ふっ、まだまだ自制の心が足りないわね今日子)」
それからしばらく三人で色々な話をしていると、いつの間にか五時半を過ぎていた。
「あ、そろそろ夕飯の準備を始めないと」
「良ければ私も手伝おうか?」
「いいんですか? 助かりますよ」
今日子先輩と一緒にキッチンへ移動しようとすると、姉さんが先輩を引き止めた。
「今日子。あなた、“あれ”を見に来たんじゃないの?」
瞬間、先輩の目の色が変わった。
「ッ・・・! そうだった。すまない広人君。自分から手伝うと言っておいて申し訳ないのだが、私は今から志乃の部屋に用があるのだ」
「そうですか・・・。わかりました。じゃあ、後で何か飲み物でも持っていきますね」
「ありがとう。キミは本当に優しいな」
「ゴメンね広人」
二人が二階に上がっていくのを見送り、俺は冷蔵庫に手を伸ばした・・・。
広人SIDE OUT
志乃SIDE
「はい、どうぞ」
「お邪魔する」
今日子をお部屋に通す。私はベッドに腰掛け、今日子には勉強机の椅子に座ってもらった。
「また増えてるな。広人君人形・・・」
ベッドの近くに並べられている人形を指す今日子。私が自作した広人人形だ。現在六体が並んでいて、七体目ももうじき完成予定だ。
「よければ一体譲って「ダメよ」・・・そうか」
本気で残念そうな今日子・・・。まあ、無理もないけど。
そう・・・。何を隠そう、今日子も広人の事が大好きなのだ。さらに言えば、私とは変態仲間である(私は自分で自分を変態だと認めてますが何か?)。何せ、いつも広人の写真でシテいるとわざわざ私にカミングアウトするほどだもの。
『ああ、私は広人君が大好きだ。許されるのなら今すぐにでも押し倒したい』
最初、聞いた時は愕然としたけど。今日子は大切な親友だし、何より同じ悩みを持つ仲間だから、特別に許している。まあ、最終的には私が広人と結ばれるんだけどね。
「まあいいさ。それより、本当に撮っているのか?」
「ええ。今から見せてあげる」
机のノートパソコンを起動させ、ファイルを開く。ちなみにファイル名は『広人観察日記』にしている。
「お・・おお・・・!」
動画に釘付けになる今日子。画面にはTシャツに短パン姿の広人がベッドで横になっている姿が移っていた。
「他にもあるわよ」
筋トレしている広人。勉強している広人。ゲームをしている広人。それらを流すたびに、今日子は「はう」とか「はあ・・・」なんて声を出している。
「やっぱり何度見てもいいわぁ・・・。ただ、自家発電のシーンだけが未だに取れてないのよね。あの子、どうやって処理してるのかしら・・・」
「・・・・」
「今日子?」
「・・・・限界だ。志乃。すまないがお手洗いを借りるぞ」
今日子の瞳が潤んでる。それに頬も赤くして息も荒い。これは・・・間違いないわね。
「いいけど・・・。広人にバレないようにシなさいよ」
「ああ。ではイッてくる」
部屋を出て行く今日子。私は次の動画をクリックした。
・・・・・
それから十五分後。今日子はスッキリした表情で戻って来た。心なしか肌がツヤツヤしている。
「四回だ・・・。ふっ、新記録達成だな」
「甘いわね。私なら六回は固いわよ」
「それと、部屋に戻る時に広人君に呼び止められてな。そろそろ夕食の時間だが、私にもご馳走してくれるらしい」
言われて時計を見ると、もう七時を過ぎていた。
「そっか。それじゃあそろそろ降りましょうか」
一階に降りると、広人が机に三人分の夕飯を並べていた。
「あ、ちょうどよかった。今から呼ぼうと思ってたんだよ」
「今日も美味しそうね」
白米とお味噌汁に焼き魚。中央には肉じゃがの入った大きい器が置かれている。
「先輩はここに座ってください」
「わかった」
広人の前に今日子。隣に私が座る。
「それじゃあ、いただきます」
「「いただきます」」
こうして、三人での楽しい夕食の時間が始まったのだった・・・。
志乃SIDE OUT
広人SIDE
夕食は姉さん、今日子先輩ともに大好評だった。特に料理上手の先輩に褒められたのは嬉しかった。
三人で食器を洗い、二十分ほどゆっくりした所で、今日子先輩の帰宅時間になった。玄関先で先輩を見送る。
「本当に家まで送らなくてもいいんですか?」
「ああ。夕食をご馳走になった上にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないからね」
「でも、こんな時間に女性の一人歩きは・・・」
「大丈夫よ広人。そこらの痴漢が今日子に敵うはずないもの」
「志乃の言う通りだ。安心してくれ広人君。・・・だが、心配してくれるのは嬉しいよ。ありがとう」
「い、いえ」
「では、お休み二人とも。また明日会おう」
「ええ、お休み今日子」
「お休みなさい先輩」
最後に微笑んで、先輩は扉の外へ消えた。
「さてと、お風呂でも入れようかしら。広人、私がやるからあなたはテレビでも見てなさい」
「うん。頼むよ姉さん」
姉さんは風呂場へ向い、俺はリビングに戻った。