無敵な姉さんが実は変態的なブラコンでした   作:ガスキン

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第八話 帰宅

「いらっしゃいませ!」

 

レストランへ入ると、ウェイトレスが元気良く声を上げた。

 

「お客様、お二人でよろしいですか?」

 

「ええ」

 

「では、お席へご案内しますね」

 

昼時という事で店内はそれなりに混んでいた。俺達はすみの方の席に案内され、そこに座った。

 

「ご注文がお決まりになりましたらそちらのボタンを押してください」

 

そう言って、ウェイトレスは別の席へ向かって行った。

 

「広人、今日は付き合ってくれたお礼に私がおごってあげるわ」

 

「いいの?」

 

「ええ。何でも食べたい物を選んでね」

 

「じゃあ・・・」

 

数分間メニュー表を睨み続け、俺はハンバーグセット。姉さんはオムライスセットに決めた。ボタンを押すと、わずかに間を空けてウェイトレスがやって来た。

 

「お待たせしました。何でしょう?」

 

「注文いいですか?」

 

「はい」

 

「ハンバーグセットとオムライスセットをそれぞれ一つずつ。それと、ドリンクバーを二つで」

 

「セットになりますと、サラダかスープが付きますが」

 

「俺はスープで。姉さんは?」

 

「私はサラダでお願いします」

 

「ではご注文を繰り返させて頂きます。ハンバーグセットのスープ付きが一つ。オムライスセットのサラダ付きが一つ。ドリンクバーが二つ。・・・以上でよろしいでしょうか?」

 

「はい」

 

「かしこまりました。ドリンクバーはあちらにございますのでご自由にどうぞ」

 

俺達は早速ドリンクバーのコーナーに向かった。種類が豊富で、コーヒーだけで五種類もある。

 

「ドリンクバーってさ、滅茶苦茶に混ぜて激マズドリンク作るヤツいるよな」

 

「ああ、バツゲームで飲ませるアレね」

 

「色とか臭いがカオス過ぎて何入ってるかが全然わかんないんだよな。しかも、たまにドリンクバーがあるの知ってるからって家からヤバイ物わざわざ持ってくるヤツもいるし」

 

「・・・・私も媚薬でも持ってくればよかったかしら(ボソ)」

 

「何か言った?」

 

「ううん、何でも無い。とりあえず、私はアイスコーヒーにするわ」

 

「俺はコーラにするかな」

 

「お子ちゃまね」

 

「う・・・。い、いいだろ別に」

 

「ふふ」

 

ドリンクを持って席に戻ると、姉さんが話を振ってきた。

 

「広人。入学してしばらく経つけど、もう学校には慣れた?」

 

「ああ、お陰様でな。友達も出来たし」

 

「直也君ね」

 

「席が隣だからな。話しているうちに自然と仲が良くなったんだ」

 

「可愛いわよね直也君。・・・男の子なのが不思議なくらい」

 

「俺はたまにアイツの性別を本気で疑う時がある・・・」

 

可愛らしく微笑む直也のイメージが頭に浮かんだ。

 

「やっぱり広人は直也君が好きなの?」

 

「俺は至ってノーマルです」

 

「じゃあ付けなくてもいいのね」

 

「付けるって何を?」

 

「こっちの話よ。なら、広人はどんな女の子がタイプなの?」

 

「い、いきなり何だよ」

 

「姉として、弟の好みは知っておかないとね。クラスとかに気になる子とかいないの? ウチの学校って結構レベルが高いと思うけど」

 

姉さんの言う通り、星神高校の生徒は何故かイケメンや美女、美少女が多い。まあ、中には例外もいるが。

 

・・・そうだよ。俺だよ。広人だよ。くそ、急に学校の連中にニンニクを投げつけてやりたくなってきた。

 

「どうしたの広人。顔が某有名配管工のライバルみたいになってるわよ」

 

「ちょっと自己嫌悪を・・・」

 

「? よくわからないけど、そんな顔しないで。せっかくのイケメンが台無しよ」

 

どうやら姉さんの中では俺はイケメンになっているらしい。まあ身内贔屓だろうが。

 

「・・・で、どうなの広人。あなたの好みは?」

 

「やけに食いつくな」

 

「ええ、大事な事ですもの」

 

そう言い放つ姉さんの目は本気だった。というか本気すぎてちょっと怖い。

 

「そんな事言われても・・・」

 

確かにクラスにも可愛い子や綺麗な子はいる。・・・けど、それが好みかと言われれば違う。それに、美女なら今現在俺の目の前でアイスコーヒーを飲んでいるこの人がいる。

 

「レベルで言うなら姉さんがトップだと思うけど・・・」

 

「え・・・?」

 

「だから、俺が知ってる中で一番綺麗なのは姉さん・・・・」

 

・・・って待て。これって「姉さんがタイプです」って言ってるようなものじゃないか?

 

「ひ、広人。それって・・・!」

 

ヤバイ、姉さんが気づいた。「弟の癖に、姉が好みとかキモいわよ」とか思われてたりするかもしれない。いや、間違い無く思われてる!

 

「ち、違う! 今のはあくまで綺麗だって言う話で・・・!」

 

姉さんはフルフルと震えている。そして次の瞬間・・・姉さんの鼻から盛大な鼻血が吹き出した。

 

「うおお!? ね、姉さん!?」

 

「(広人の好みは私! つまり、私と広人は両想いで結ばれる運命! これで私と広人を阻むものは存在しない! ふふ、ふふふ、うふふふふふふふふふ! ヤってやる! ヤってやるわぁぁぁぁぁぁぁ!!)(どこぞのエリート兵のごとく)」

 

姉さんは何故か恍惚な顔でブツブツつぶやいている。これは本気でまずい!

 

「姉さん! 正気に戻ってくれ!」

 

その後、ウェイトレスも巻き込んでちょっとした騒ぎになった。魔制装置を店内だけ解除してもらい、ウォーターヒールで鼻血を止めた姉さんは、今はすっかり落ち着いていた。

 

「だから、俺が言ったのは姉さんが綺麗って言う意味だから。別に姉さんの事を変な目で見てるってわけじゃないんだ」

 

「そ、そうなんだ・・・」

 

誤解は解けたみたいだが、何故か悲しそうな顔をする姉さん。

 

「お待たせしました。ハンバーグセットとオムライスセットです」

 

美味しそうなハンバーグとスープ、それとライスが俺の前に並べられた。

 

「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」

 

「はい」

 

「では、ごゆっくりどうぞ」

 

「ほら姉さん。気を取り直して食べようよ」

 

「そうね」

 

ここのレストランには初めて来たが、ハンバーグは予想していたよりずっと美味かった。無言で口に運んでいると、姉さんがジッとハンバーグに視線を向けた。

 

「どうしたんだ姉さん」

 

「夢中で食べてるみたいだけど、そんなに美味しいの?」

 

「うん。よかったら一口食べる?」

 

「本当に? じゃあ・・・アーン」

 

姉さんが口を開ける。こ、これはまさか・・・恋人同士とかであるアレなのか。

 

「ね、姉さん?」

 

「早く食べさせてよ広人ぉ」

 

雛鳥か! というツッコミを我慢し、俺は言われた通りにフォークに肉を刺して姉さんの口に入れた。

 

「うん、美味しい」

 

姉さんは美味そうに肉を飲み込んだ。やれやれ、変な所で甘えてくるな姉さんは。

 

「(にゅふふ。広人と間接キスしちゃった♪ 本人は気付いてないみたいだけど)」

 

それから食事を終えた俺達は、しばらくデパート内でウィンドウショッピングを楽しんだ後、足りなくなった食材を買い足して帰宅する事にした。

 

「ただいま~」

 

家に着いた頃にはすでに四時を回っていた。まずは食材を入れるために冷蔵庫に向かう。

 

「これでよし・・・」

 

さてと、少し休みたいけど、今から夕食の準備をしなければならない。俺はそのままキッチンに立った。

 

「ねえ広人。今日は楽しかった?」

 

そばにいた姉さんがそんな事を聞いて来た。

 

・・・そうだな。からかわれまくったり、変な連中に絡まれたりしたけど。それでもハッキリこう言える。

 

「うん、楽しかったよ」

 

疲れたけど、それでも姉さんと一緒に過ごせたから俺は満足だった。そう言うと、姉さんはとても嬉しそうに微笑んだ。

 

「よかった。なら、また今度デートしましょうね」

 

それは、見る者を惹きつけるとても綺麗で優しい微笑みだった。

 

ドキッ!

 

「(って、ドキッてなんだよドキッて!!)」

 

「? 広人、顔が赤いけどどうかしたの?」

 

「な、何でも無い! 俺は今から夕食作るから姉さんは自由にしててくれ!」

 

ごまかすようにまな板と包丁を取り出す。そのまま姉さんに目を向ける事無く、俺は準備を始めた。

 

「そう? じゃあ、私は部屋に戻ってるわね(写真の編集しなくちゃいけないから)」

 

そう言って姉さんは部屋に戻った。気配が無くなった所で、俺は大きく息を吐いた。

 

「はあ・・・どうかしてるな俺」


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