無敵な姉さんが実は変態的なブラコンでした   作:ガスキン

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第九話 もう一人の無敵

星神高校に入学してはや一ヶ月。今日から魔法の授業は座学だけではなく実技も入ってくる。二時間目終了後の休憩時間、俺と直也は一緒に実技専用の講堂へ移動していた。

 

「ん?」

 

その途中、少し離れた所から女子の黄色い歓声が聞こえて来た。何だろうと思いそっちを向くと、曲がり角から一人の男子生徒が姿を現わした。

 

「きゃ~! 神代センパ~イ!」

 

一人の女子が名前を呼ぶと、男子生徒はニコリと微笑んだ。笑みを向けられた女子が顔を真っ赤にしながらその場にへたり込む。

 

この微笑みだけで女子をノックアウトさせたのは、星神高校六十三代目生徒会長の神代 亮介先輩だ。この生徒会長、恐ろしいまでの高スペック所持者なのだ。

 

まず初めにイケメンである。しかも超イケメンである。どれくらいかというと、以前雑誌の『街で見かけた美男美女』というコーナーに写真が乗った際、うっかり学校名を口にしたせいで、学校の前に物凄い数の女性が先輩の姿を見る為に殺到し、ちょっとした騒ぎになったほどである。ついでに銀髪で、その声はグリーンなリバーを彷彿とさせる。

 

加えて、成績も常に上位。運動神経も抜群。男性版姉さんって感じだが、姉さんと違って料理の腕も抜群らしい。

 

また、俺と同じ光属性であり、その潜在魔力は相当な物らしく、ライトニングウォールを同時に十三枚、五分以上展開させる事が出来るらしい。一枚で数秒だけの俺涙目である。

 

しかも、日本でその名を知らぬ者はいないとまで言われている神代財閥の御曹司だ。さらにダメ押しで、この手の人間にありがちなワガママとか他人を見下すとかそんな事も一切無く、むしろ聖人レベルの優しさを持っている。

 

以上、全て新聞部が書いた『生徒会長の全て』とかいう学校新聞に載っていた内容だ。そして、そんな漫画の主人公みたいな完璧超人が人気にならない訳がなかった。

 

「星神一のイケメンと美女といったら?」という質問をすれば、全ての生徒がこう答えるだろう。「神代 亮介と黒川 志乃だ」と。

 

「やあ、こんにちは」

 

会長が俺達に気づいて挨拶してきた。

 

「こんにちは」

 

「こ、こんにちは!」

 

直也が直立不動で挨拶を返す。こいつ・・・緊張してるのか?

 

「キミ達は一年生だね。そういえば、今日から魔法の実技が始まるんだったね」

 

「はい。それで今から講堂に移動しようかと」

 

「そうか。頑張ってね。魔法はキミ達の可能性。それを広めるのはとても大切な事だからね」

 

「は、はい! 頑張ります!」

 

「はは、いい返事だ。では僕は失礼するね」

 

そう言って会長は優雅に去って行った。

 

「はあ・・・カッコいいなぁ会長」

 

直也が熱の篭った声を漏らす。

 

「お前、まさか会長の事・・・」

 

「ち、違うよ! 会長は僕の憧れなんだ。いつか、僕も会長みたいな男になりたいなって思って」

 

「ふうん」

 

やっぱり女の子みたいな見た目にコンプレックスでも持ってんのかな。けど、身長の時点でほぼ絶望的だと思うけど・・・。

 

「・・・今何か失礼な事考えなかった?」

 

「はは、まさか」

 

「本当に?」

 

「本当だって。それより急がないと遅行しちまうぞ」

 

「あ、そうだった。急ごう!」

 

俺達は講堂に向かって駆け出した。

 

 

講堂は体育館に連なるように建てられている。広さも体育館と同じくらいだ。中に入ると四方に広がる茶色い壁以外何も存在していない。まあ、魔法を使う場所だから何も無いのは当たり前だが。

 

到着と同時にチャイムが鳴った。クラスメイト達に混ざって立っていると、少しして担当の先生がやって来た。

 

「先週伝えた通り、今日から皆さんには実際に魔法を使った授業を行なってもらいます。この講堂を使用するのは初めてですが・・・どうやら皆さん迷う事なく来れたみたいですね」

 

先生は俺達を床に座らせ、簡単に説明を始めた。

 

「この実技の時間というのは、座学の様に特に毎時間何をするかは決まっていません。新しい魔法に挑戦するもよし。覚えている魔法をさらに伸ばすのもよし。皆さんがやりたい事を自主的に実践してください」

 

軽いざわめきが起こる。まさか自由にやってよいと言われるとは予想もしていなかった。

 

「魔法には一人一人の成長速度・・・ペースというものがあります。それを無視して同じ事をやらせるのは皆さんのためにはなりません。これは校長先生のお言葉です。もちろん、私達教員も同じ気持ちです。さあ、始めましょうか」

 

先生が手を叩く。クラスメイト達がそれぞれ講堂内に散って行くが、どうやら同じ系統同士で集まっているようだ。

 

「お前、ブレイズアロー撃てるか?」

 

「ああ。お前は?」

 

「ゲイルムーヴの練習しよっと」

 

「あ、私も一緒にやる!」

 

「誰かガイアエンチャント使えるヤツいるか?」

 

「おう、呼んだか?」

 

思い思いに魔法を発動させるクラスメイト達を尻目に、俺は一人悩んでいた。光魔法を使えるのはこのクラスで俺一人だけ。だから色々試す相手がいない。

 

「じゃあ広人君。僕達も始めようか」

 

「何言ってんだ。お前は水属性だから向こうでみんなと一緒にやれって」

 

「そうだけど・・・。僕は広人君と一緒にやりたいな」

 

俺の手を取って微笑む直也。一瞬、一人になった俺に対する同情かと思ったが、すぐに否定した。こいつがそんなつまらない事をするヤツじゃない事は俺だって知ってるからだ。

 

「サンキュ、直也。ならつき合ってくれ」

 

「うん!」

 

俺達は二人で魔法の練習をする事にした。

 

「広人君。僕、光魔法ってよく見た事がないんだ。だから先に見せてくれない?」

 

「いいぞ」

 

俺は数秒目を閉じて、頭に小さな光の玉をイメージした。

 

「光よ。その輝きを我が前に現せ。シャイン!」

 

呪文を唱えた瞬間、目の前にソフトボール大の光の玉が出現し、俺達の周りを数秒だけ照らした。

 

「こんな感じだけど」

 

「今のがシャインかぁ・・・。思った以上に眩しくってビックリしちゃったよ」

 

「暗い夜道もこれなら安心ってな」

 

「あはは、そうだね」

 

「それじゃあ次はライトニングウォールだけど。・・・これマジで一瞬だからよく見ててくれよ」

 

「う、うん」

 

俺はさっきよりずっと深く集中し、詠唱を開始した。

 

「光よ。何物をも寄せ付けぬ聖なる壁となり我を守れ。・・・ライトニングウォール!」

 

唱えると同時に、俺の身長の三倍はあろうかという輝く長方形の壁が顕現した。その中心には交差した槍と剣が刻まれている。

 

「す、凄い・・・」

 

直也が壁を見て言葉を失っている。直也だけじゃない。他のクラスメイト達、さらには先生までもが壁に目を奪われている。

 

「くっ・・・限界だ」

 

時間にしてたった十秒。それがライトニングウォールを展開させる限界だった。全身を襲う疲労感に思わず床にへたり込む。

 

「だ、大丈夫、広人君!?」

 

心配する直也に大丈夫だと伝えてそのまま大の字になって寝転ぶ。やれやれ、たった一回でこのザマとは、我ながら情けない。

 

「で、どうだった直也? 光魔法は」

 

「う~ん・・・とにかく凄いとしか言えないよ」

 

「何だそれ」

 

「だ、だって、本当にそうとしか言えないんだもん」

 

「そっか。まあ、そう言ってもらえて悪い気はしないけどな」

 

言いながら俺は反動をつけて起き上がった。

 

「それじゃ、次は直也の番だな。お前の魔法、しっかり見せてもらうぞ」

 

それから、俺は直也の魔法を見学した。一応、水にも相手を攻撃する魔法があるのだが、直也はそれを使わなかった。

 

「相手を傷つける力なんて僕はいらないから」

 

なんとも直也らしい理由だった。こうして、初めての実技の時間はほぼ見学だけで終わった。

 

 

「はあ・・・」

 

「どうしたの広人? 溜息なんて吐いちゃって」

 

昼休み、実技の事を思い出して軽く溜息を吐くと、姉さんがそれに反応した。

 

「何か悩みでもあるの? それなら遠慮なく私に話してちょうだい」

 

「志乃の言う通りだ。広人君、私も聞くぞ」

 

「ありがとう二人とも。実は・・・」

 

授業での事を話すと、姉さんは思いついたように手を叩いた。

 

「それなら特訓をしましょう!」

 

「特訓?」

 

「魔法の扱いが上手くなりたいなら、とにかく練習するしかないの。それが一番の近道だから」

 

「けど、練習って言ってもどこで・・・」

 

まさか、姉さんや男子生徒達みたいにグラウンドでやるわけにはいかない。そもそもあれは特別だし。

 

「知らないの広人? 放課後は講堂が解放されるのよ」

 

「え、そうなの?」

 

「ええ。だから好きなだけ練習出来るの。早速今日から始めましょう」

 

「今日から?」

 

「思い立ったが吉日ってね」

 

姉さんが人差し指を立ててウインクした。・・・確かに、やるんだったら早めにした方がいいよな。

 

「わかった。俺、やってみるよ」

 

「それでこそ広人よ♪ 私も協力するからね」

 

「当然私もな」

 

「ありがとう姉さん、今日子先輩」

 

「よかったね広人君。僕は部活があるから手伝うのは難しいけど、応援してるから」

 

「おう、近い内にビックリさせてやるから期待してろよ」

 

二人の協力の下、俺は魔法の特訓を始める事になった。

 

 

放課後、俺と姉さんは講堂へやって来た。

 

「遅いわね今日子」

 

今日子先輩はまだ来てない。何でも「役に立つヤツを連れて来る」らしい。

 

「待たせたな二人とも」

 

「遅いわよ今日子―――」

 

振り向いた姉さんがわずかに目を見開く。同じく俺も今日子先輩の隣に立つ人物を見て驚いた。

 

「すまない、こいつを探すのに手間取ってしまってな」

 

今日子先輩が隣の人物の肩を叩く。そこで、ようやくその人物が口を開いた。

 

「ええっと・・・いきなり連れて来られたんだけど、僕に何か用かい?」

 

戸惑いの表情浮かべているのは・・・間違い無く生徒会長の神代先輩だった。


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