人類は壁の向こうに衰退しましたが、人魚はよく釣れます。(完結)   作:ダブルパン

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未知の技術とむろみさん

 

 人類が壁の外を海に囲まれてしまう少し前から、壁内では不思議なことが起こり始めていた。

 曰く、首も羽も毟り取られた鶏肉が歩いているのを見かけた。

 曰く、台所に置いていたカブを切ると中から砂糖があふれ出した。

 曰く、戸棚の中に出所不明の缶詰がいつの間にか置いてあった。

 曰く、夜中にトイレに行く途中、家の隅で鼠のような生き物が数匹で集まって流暢な言葉で談笑していた。

 曰く、戸棚にいれて置いたなけなしの砂糖菓子が無くなっていた。

 しかし、幸か不幸かその出来事はどれも噂の域を出ず、物証も無く、そしてあまりにも荒唐無稽な出来事だったせいか人々の話題に上ることがあったとしてもすぐに誰かの見間違いだろうと忘れ去られてしまう、そんな出来事。

「何だろう? これ」

 ある日、訓練兵団104期生クリスタ・レンズは兵舎の廊下にカラフルな球が一つ落ちているのに気が付いた。

「何やってんだよ。早くいかねぇとサシャに飯全部食われちまうぜ」

「ねぇユミル、これなんだと思う?」

 隣を歩いていたユミルに拾ったパステルカラーの球を見せると彼女は怪訝そうに眉根を寄せた。

「何だそりゃ。飴玉でもねぇし、誰かがオモチャでも持ってきて落としたんじゃねぇの? それより早く行こうぜ」

 すぐに興味をなくしたのかユミルは球から視線を外すと足早に歩きだした。

「あ、まってよユミル!」

 クリスタは落とし主を見つけたら返してあげようと、とりあえずポケットに球を入れるとユミルの後を追いかけた。

 

 

 ☆  ☆  ☆

 

 

「この壁の外が海になった原因が解ったと」

 いつも通りに釣り上げられたむろみさんの唐突な発言に、エレン・イェーガーを初めとする壁上の常連三人組は目が点になった。

「私らの知り合いにワイズマンっちゅー異星人がおるんやけどね、人魚仲間に聞いてみたら多分そいつの仕業っぽい? らしいんね」

「ちょっと待ってくれよ。誰それ?」

 当たり前のように話を勧めようとするむろみさんをアルミンが遮るように尋ねる、が。

「ワイズマンはワイズマンたい。アタシらにケータイとか色々機械ば作ってくれる変な奴っちゃね。まぁ、まだ問い詰めてないけん詳しいことは解らんけど、奴の超科学が原因の可能性は無限大やね」

「それって、どんな奴なんだ?」

「見る?」

 聞きたいことはいっぱいあるが、とりあえずエレンが真っ先に聞く。と、むろみさんは髪留めにしていたホタテ貝を一つ外して中からアルバムを取り出した。

「あ、でもアイツ人間さんと関わるの禁止されとるんやったっけ。まー、でももう既に関わっとるから別にええか」

「早く見せてくれよー」

「まぁそうがっつかんと。ほい」

 アイツの自己責任たい等と独り言を言いながら写真を向けると、そこには触角の生えた三つ目の異星人と親しげにしているむろみさんが写っていた。

「化け物じゃねぇか!!」

「ちゃうちゃう! 地球人じゃないけどちゃんとした異星の人間なんよ!」

「つまりやっぱり化け物じゃねぇか!」

「ともあれ、そいつが壁外を海にした張本人ってこと?」

 突っ込むエレンを尻目にミカサが冷静に尋ねるとむろみさんは頷いた。

「まぁ、そういうこっちゃね。こうなったらいっぺん皆で押しかけてぼてくりこかして問い詰めんとこっちの気ぃも済まんとね」

「でも、そのワイズマンってどこにいるの?」

 ぼっきぼっきと指を鳴らすむろみさんに、不安そうなアルミンが問いかける。と、むろみさんはウムゥと唸った。

「そいやぁ、あいつが不時着したのは別大陸やったとね。皆で行くにも巨人面魚が邪魔やし、そんならこっちから呼び出すしか無かねー」

「呼び出す……どうやって?」

「それは考えがあるたい」

 アルミンを横目で見ながら、むろみさんはにやぁと笑った。

 

 

 

 ☆   ☆   ☆

 

 

 

「アルミン、よく似合ってる。凄くかわいい(棒)」

「なんちゅーあざとい男の娘ったい! こんなところで腐らせておくにはもったいなかね!!」

「お、俺たちだけで見るのは勿体ねーよな。誰か、上手くプロデュースして壁内で流行らせてくんねーかな(棒)」

 以前倉庫で見つけた余興用のウサギ衣装。それを着こんだアルミンことうさミンを囲んだ三人は、代わる代わるに可愛い可愛い勿体ないを連発する。死んだ目のアルミンは既にどうでも良いらしく遠い目をしていたが、その心の内では『帰りたい』と切実に願っていた。

「アルミンは、私の数万倍はかわいらしい。寝るときに抱き枕にしたい。沢山、グッズが欲しい。そのためには流行らないといけない(棒)」

「ついでに歌とか歌って世界に羽ばたかせたいっちゃね!! 絶対売れるったい!」

「そうだ。あぁマジで流行らせてくれる奴いねぇかな!(棒)」

「わっしょいわっしょい!!」

「わっしょいわっしょい(棒)」

「わっしょいわっしょい(棒)」

「(早く帰りたい早く帰りたい早く帰りたい……)」

「お呼びれすか?」

「捕まえたぁぁぁぁ!!!!」

 地中からボコッと現れたつるつるのメタルボディがむろみさんにわし掴まれる。

「うほっ、良い男の娘。こいつぁ確かにスーパーエクセレントだぜ」

「コイツがワイズマン? 写真と比べて随分小さいけど……」

「そうたい。ただ、今は自己改造してすっかりメカニカルになっとるけん。頭はええけどちょっとアレな奴なんよ」

「失礼な。私は変態では無く、変態と言う名の紳士なのだよ。さ、プロデュースされたいあざと可愛い男の娘というのはキミかな? 私に任せておけばアイドルデビューからスケジュール管理にプライベート監視まで何でもこなしまっせ」

 むろみさんの手の中でもそもそと動くカニのような金属が覗き込む四人に向かってハサミのような手をぷらぷらと振れば、怖気を感じたアルミンがエレンの後ろにそっと隠れた。見慣れない機械に興味はあれども、歪み無い変態紳士には言い表せない身の危険を感じるのだ。

「壁の外を海にしたのは貴方なの?」

 ずい、と前に出たミカサがワイズマンに問いかける。返答次第によっては削ぐ。そんな尋問官じみた覇気を滲ませているにも関わらず、ワイズマンは飄々とした態度を崩さない。

「はー? 何の話かね?」

「ごまかすっちゃなかと。アンタの超科学でこの辺の海に土地ごと人間さんば持ってきたのはわかっとると。下手に言い訳すっとぼてくりこかすけん」

「おーうそのことでっか。いやいや、私も流石にこれだけ広大な土地を空間転移させるなんて技術をゼロから生み出すことは出来ませんな。というかそんな発明が出来たらとっくの昔に自分の星に帰ってますがな」

 のたくるワイズマンはメタルボディに付属するハサミをカチカチと鳴らして弁明する。

「んんん? つまりこの超科学的事件はアンタのせいじゃなかと?」

 両手でワイズマンを握りながらむろみさんが首をかしげると、ワイズマンは両手を上げてシャキーンと肯定のような音を出した。

「私の昨今の観測から察しまするに、ここいら一体に起こったという不思議現象というのは世界的イレギュラーによる時空干渉がそのそもの原因と思われますな」

「どういうこと?」

「何かよくわかんねーよ。もっと解りやすく」

 話についていけないエレンとミカサが首をかしげるとワイズマンは考え込むように鋏を顎のような部分にあてる。

「つまり、早い話が未知の世界から来たよく解らんもんのせいという奴でんな。物理法則なんて無視するスゲー奴。異星人でも異生物でもましてやUMAでもない、正真正銘異世界からの来訪者がもたらした超科学を超えた未知の技術としか言えまへん」

「何かわかんねーけど変な奴が来たせいってことだな?」

「然り」

「その来訪者はどこにいるの?」

「不思議なことにこのメタルなボディじゃ感知できんのですわ。しかぁし私の観測結果とゴーストが来訪者はきっと居るとさ・さ・や・い・て・い・る!!」

 ズビシっと天を指さすワイズマン。

 何だかよく解らないが、とにかくこの事象はこのメタリックガニの仕業ではないらしいことは解った。

「つまりアンタのせいではないとね。疑って悪かと」

「あぁ、俺たちも疑って悪かったよ」

 口々に謝るエレン達にワイズマンは首を振る。

「いやいやいや、気にしてないよ。こういうことは誰にでもあるからね」

「ワイズマン……」

「僕、ワイズマンさんのこと誤解してたのかも……」

 寛容なワイズマンの口調にちょっぴり感動しかけた四人組。

 

 

「まぁ、その来訪者の作り出した時空転移システムをちょーっと応用して異星間ワープ装置を作ろうとしてたらうっかり暴走してここら一帯の土地がこんなところに飛んだけど、それはただの事故だからね」

 

 

「やっぱりアンタのせいやないかい!!」

「ノンノンノン。私の技術では無いからセーフセーフあれは解析に骨が折れそうだ。だがぁ、それより今、私は後ろに居る男の娘に興味があるなぁ」

 ギリギリと締め付けていた手からぬるんと逃れたワイズマンはスチャっと着地すると、ハァハァしながら八本の足でアルミンににじり寄る。

「はぁ、はぁ、お兄さんに任せておけば手取り足取り耳取りで歴史上最高のナンバァワンアイドルにしてあげるよぉ。グラビアもすっごい美人に撮ってあげるよぉ。悪いようにはなんにもしないからねぇ~」

「こ、怖い!! 何か巨人と違う意味でこの人怖い!!」

 アルミンが後ずさりした瞬間、ワイズマンが真っ二つに裂けた。

 超硬質ブレードを軽い音を立てて仕舞ったミカサはエレンとアルミンを振り返る。

 

 

「とりあえず、今日はもう帰りましょう」

 

 

 

 ☆   ☆   ☆

 

 

 

「来訪者ってどんな奴なんだろうな」

「とりあえず、巨人より小さいのは確か」

「来訪者は気になるけど、もう僕はあの人とは関わりたくないよ……」

「大丈夫。もう破壊しておいたから」

「いんや、あれはコピーやけん。後で本体ボテクリこかしちゃあ」

 そんなことを言い会いながら四人はそれぞれの帰るべき場所に戻って行った。

 しかしその時には誰も知らなかった。

 破壊されたワイズマンの眼球には超光学カメラが搭載されていた。それで盗撮された百数十枚にも及ぶうさミンのデータは瞬時に本体ワイズマンのスペシャルサーバーに転送され、そこから更に何百と居るワイズマンコピーへと再転送されたことを。

 

 

 

 

 壁内で流行らせるべく、紙媒体へ複写された大量のうさミン写真が地下街に出回るまであと数日。

 

 

 

 

 

 




うさミンは公式四コマでひっそり出ていたりします。
変態紳士とアルミンのツーショットは結構良いと思うのです。
歪み無い変態紳士のワイズマンなら公式では男らしくも可愛いアルミンに食いつくと思うのです。
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