人類は壁の向こうに衰退しましたが、人魚はよく釣れます。(完結)   作:ダブルパン

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とある幕間とむろみさん

 深海から巨大な魚影が浮かび上がる。

 人の顔をした巨大な魚は獲物を飲み込もうと大口を開けて犠牲者の背後から迫るその時。

「トビウオジャァァァァンプ!!」

 巨人面魚の攻撃を海上への華麗なジャンプで躱したむろみさんは着水と同時に猛スピードで海面を泳ぎまくる。

 後からは沢山の巨人面魚が追いかけてくるが、どれもむろみさんを飲み込むほど速く泳げるものは居なかった。

「アタシに追いつこうなんて六億年早かとよ!!」

 高らかに笑いながら沖へ泳いでいくむろみさんを、ハンジはペンと手帳を片手に壁の上からじっと観察していた。

「おいハンジ、何してんだ?」

「リヴァイかい。むろみさんにアルバイトをお願いして巨人面魚の行動調査をしてるんだ。凄いね。協力者が居るだけで採れる情報量が全然違うや」

 横に立ったリヴァイが尋ねると、ハンジは手帳から目を離さずに答えた。

「何か解ったのか?」

 普段は巨人の事などまるで聞こうとしないはずのリヴァイが会話に踏み込むと、ハンジは波間で巨人面魚に追われるむろみさんを見ながら答えた。

「うん。色々とね。まず、むろみさんの言うとおり奴らは視力が極端に悪い。むろみさんに私の服を着て海に入ってもらったんだけど、普段はむろみさんを襲わない巨人面魚が一斉に襲ってきた。初手の攻撃は一匹だけだったけど、時間が経つにつれて少しずつ増えて最大数は十匹くらいかな。あと、力尽きると動きが鈍るんだ。ちなみに大きさは三メートル級から十五メートル級までが確認できたよ」

「俺たちの知る巨人の情報とあんまり変わらねぇな」

「そうだね。あとは体温が人型巨人よりかなり低い以外は回復能力も同じだね。巨人面魚の個性的な顔立ちも私たちの知る物とそこまで変わらない。もしかしたら弱点も同じだと思う。でも、変わらないということが解っただけでも収穫だと思わないかい?」

 何せ、奴らは普段は暗い水の中に潜んでるんだから。

 そう続けると、リヴァイは忌々しげに舌打ちした。

「それよりリヴァイ。君こそこんな時間に珍しいね。今はイルカの騎乗訓練をしてるんじゃなかったっけ?」

「あぁ。今はペトラ達がやってる。それよか、よくあんなクソでけぇ貯水池を作れたもんだ。イルカどものエサ代もバカにならねぇだろ。上の連中はガタガタ言わなかったのか?」

「うん。もちろん色々あったみたいだよ」

 現時点、壁内の世論は保守派が優勢だった。

 壁外が海に囲まれたことにより壁内にかかる脅威が減少したこと。加えて土地が無くなった事による壁外探索のメリット低下と巨人面魚による危険度の上昇。これだけで調査兵団には大打撃だった。壁内からでも塩や魚の海産物が取れるようになった今、誰が好き好んで危険な大海原に乗り出すと言うのだろう。

 そんな中で、調査兵団長エルヴィン・スミスは壁の傍に巨大な海水用貯水池を建設し、そこに兵団用のイルカを十頭も導入するという荒業に及んだ。建設費には当然税金も当てられているが、それだけで建設資金が足りたとは誰も思っていない。

「調査兵団解体派がうるせぇ中で予算もねぇ人もいねぇ海へ出る技術もねぇ。エルヴィンはどんな魔法を使って上を黙らせたんだ?」

「なんだい? 本人に聞けばいいじゃないか」

「聞いても何も言わねぇからテメェに聞いてる」

「えー。エルヴィンが言わないなら私からも言い辛いなぁ……」

「うるせぇ。あいつの決定は信用している。ただ、納得がいかねぇだけだ」

 リヴァイが舌打ちするとハンジは「仕方ないなぁ」とぼやきながら上着のポケットから一枚の写真をリヴァイに差し出した。

「何だこりゃ。写真か? ……にしちゃ随分綺麗に取れてるな」

 ハンジから渡された写真は白黒では無い、どうやって撮ったのかも分からないような、ぼやけも滲みも無い総天然色の色鮮やかな写真だ。

「それは現在地下街で絶賛大流行中の謎のアイドル。うさミン」

 その写真の中にはバニーの服に身を包んだ可愛らしい少年が恥ずかしげに写っていた。

「長らく不明だったその正体は、訓練兵団104期生アルミン・アルレルト。ちなみに調査兵団希望」

 ハンジの説明に、リヴァイの顔が物凄い勢いで曇った。普段の三割増しに悪い目つきで写真に写る可愛らしい少年を凝視する。

「……おい」

「ついでに言うとその子の幼馴染二人もいれて、調査兵団アイドル部隊『シガン☆しな』結成予定中だったり」

 聞いた途端、リヴァイは頭が痛くなってきた。そして段々、謎だった今回の資金の出所が掴めてきた。

「最悪だな……」

「だから君には秘密にしときたかったんじゃない? まぁ歌はまだまだだけど、ブロマイドの売り上げが物凄いよ。今までの資金不足が解消な上に中央の豪商やら貴族やらに熱狂的なファンがついてるから間接的に調査兵団の発言力増しまくりなのが大きいね。俺たちのうさミンたんの為ならなんとやら的な。それからもう一つあるんだけど……」

「もういい。これ以上俺の頭痛の種を増やすんじゃねぇ」

「まぁ聞きなよ。確かに資金不足は解消したよ? でもぶっちゃけアイドル業だけじゃ今の所、貯水池の設置費とイルカの維持費ぐらいにしかならないんだ。魚はまだまだ高級食だよ?」

 確かにそうだった。イルカを飼育するにあたって釣りだけでは魚の数が足りないのだ。必然的に購入するしかないが、流通量の少ない魚を大量にエサとして与える場合、草食の馬と違って食費は目の玉が飛び出そうな値段になる。

 リヴァイもそれは知っていたが、イルカに与える魚代がどこから来ているかはあまり考えたことが無かった。

「資金不足はまだまだ続行中。そこでだ。私たちは近いうちにまた壁外調査をする予定だって。知ってた?」

「それは知ってる。だが、巨人面魚に対抗する策も武器もねぇのに本当にやるのかってのは疑問だった」

 リヴァイのもっともな話に、ハンジは一つ大きく頷いた。

「まぁ、壁外調査って言ってもあくまで周辺調査だけどね。それでその時、人魚さん達に外へ出る私たちの護衛をお願いしたんだ」

 人魚「達」ということは、むろみさん以外にも人魚が居るということだろう。

「……正気か?」

 信用できるのか? という疑問を含んだ視線に、ハンジは問題無いと答えるように笑う。

「現状、彼女たちより心強い味方はいないと思うよ。で、私たちから人魚さん達に与えられる報酬なんだけどね」

 そこでハンジは一端言葉を切る。

「今回護衛を頼んだのはハンターを職業にする人魚さん達なんだ。魚や海の資源を狩猟採集し、それを売って生計を立てている皆さんだね。それで、彼女たちには報酬としてトロスト区に限り自由な交易権が渡されたって訳さ」

「つまり……?」

 怪訝そうな顔をするリヴァイに、ハンジはニヤリと笑う。

「まだピンと来ない? ヒント。海にはお宝がたっぷり。兵士は人魚さんと仲良し。海に出る調査兵団は多分もっと仲良し。商会は最初に誰と仲良しになりたい?」

 ようやく合点がいく。

「商人と結託して中央のケツの毛まで毟ろうって魂胆か……どうりで最近トロスト区が活気づいてる訳だ」

「大正解! 海の資源は中央も欲しがってるから、良い口実として許可は割と早かったよ。外からの食糧流入は民間の人々にも大歓迎。商会、及び輸入品の一部利益が約束された調査兵団は潤いまくりで大笑いって訳さ」

「……エルヴィンの奴、兵士じゃなけりゃ相当な詐欺師だな」

「まぁ、いずれ規制が出来ちゃう可能性も高いけどね。今のうちが稼ぎ時って訳さ」

 リヴァイが息をつきハンジが笑うと、海からむろみさんがぴょーんと飛び上がって壁の上に着地した。

「ハンちゃーん。良いデータ取れた? あれ、リヴァイもおるん? 何なに? 何か面白い話してたの?」

「あ、むろみさーん。色々ありがとう! おかげで調査がはかどったよ!! これ約束のバイト代」

「おおう! こんなにええの? 約束より多かと?」

 ハンジが鋼貨の入った袋を渡すと、むろみさんが大仰に喜ぶ。

「良いの良いの。むろみさんのおかげで色々助かってるし、奮発しちゃうよ」

「よっしゃー!! そんならハンちゃん後で飲みに行こ! アタシこの前えぇとこ見つけたっちゃん!」

「良いね!! 海中での生活とか、巨人面魚の話とかもっと聞きたいなー!」

「ハンちゃんその話好きとね~! オーケーオーケー!! 朝まで付き合うとよ!!」

 ハイタッチをしながら楽しげに喋る二人をよそに、リヴァイは眼下に広がる海を見た。

 両手いっぱいに広げても足りないほどの、そのあまりの広さに目がくらみそうになった時、自分を呼ぶ声が聞こえた。

「おーい。リヴァイも一緒に飲みにいかない?」

 振り返ると、むろみさんとハンジがこちらに向かって手を振っている。

 まるで『自由』を体現するかのような二人に、海から視線を外したリヴァイはゆっくりと歩き始めた。

「あ、今リヴァイ笑った?」

「笑ってねぇ」

「嘘やん。笑っとたよー!」

「笑ってねぇ」

 

 

 

 人類は未だ壁の中。

 

 

 

 

 

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