とある絵師さんにうつつ抜かしてたら危なくなった・・・
衝撃、激突、猛攻。激しくぶつかり合う鉄と鉄。
ぎこちない動きから一転、突如として眼から赤い稲光を放ち始めたルプスレクスの動きは、
最早凄まじいという言葉すら生ぬるいものだった。
まず豹変したのは、私達なんかじゃとても目で追えないような速度に変わった事。
唯一分かるのはレクスの眼から流れ出る赤い光の流れ。
それだけでしかおおよその位置が掴めない。
それでもうっすらと分かるのは、動き方がまるで獣のそれのようにもなっていた事。
さも当然のように追従できるモビルアーマーと提督のバエルも恐ろしいけど、
巨大なメイスをいつにもまして軽々と握り、空いた片手も3つめの足として駆使しながら海面を駆け巡っては尾を伸ばして常に攻撃をしつづける姿は、まさしく魔獣と呼ぶに足るそれだった。
「…すごいなあ、三日月さん……」
けれどもやはりその大獲物は念入りに警戒されているのか、
振るうたびに大型メイスは大きな爪で掴まれ、防がれる。
かといってバエルの剣やレクスの手刀などでは何とか細かい傷は与えられど、
やはり大したダメージにはなりえない。もっと大きくて、振りの速いものでなくちゃ、届かない。
「でも…このままじゃ…」
私達がプルーマを抑えているのも効いてはいるけれど、真下から際限なく湧いて出る以上、
やはりどうしても多少は三日月さん達の所へと行くようになってきた。
その度に三日月さんはレクスの武装で軽々と薙ぎ払ってるものの、
この一瞬だけでもかなりの負担だと思う。
もっと私たちが頑張って…少しでも…お手伝いしなくっちゃ…!
ああでも……みんなここまで苦戦してるし…大丈夫なのかな…?
「吹雪!ボサっとすんな!!前!!」
「えっ…!?」
オルガさんの声で思案から現実に戻る。
そして気づいたとき、目の前に待っていたのは、
あの大きくて黒いシャコみたいなの。 プルーマ。
「ぁ…あ……!」
後ろにもいっぱい引き連れているから、足そのものは止めてない。
でも、そういえば挟まれる可能性がある事は頭から抜けていた。
やがて目の前のプルーマが爪のような腕を振り上げる。
ああ、砲撃でもかなり痛いのに。ドリルじゃないだけ、まだ、いいのかな…。
私の頭上に爪が振り下ろされた、その時だった。
キュロロロ
と、鳥かあるいは獣の唸り声のような音が聞こえ、
目の前にいたプルーマはその直後に黄色い刃に貫かれ、砕け散った。
これ……レクスの……。
≪………生きてる?≫
少し距離があるのに。あんなに大きくて恐ろしい相手と戦っているのに。
三日月さんはそれでも尾を伸ばし、わざわざ私を助けてくれた。
「ありがとうございます!三日月さ……!」
―――多分、それを狙ってたんだと思う。
私がお礼を言い終わる前に、テイルブレードはレクスの背に戻ることなく、
黄色い刃を水底へと沈ませていった。
「なん、で…?」
≪チッ…!≫
刃より先に沈んだと思しき尾のケーブルに目をやる。
ここまで長く伸ばした瞬間を狙い、数体のプルーマがドリルを押し当て千切ったんだと思う。
「なんでぇっ!!こんな事を!するんですかぁっ!!」
これでレクスは最大の武装を失った。三日月さんは舌打ち一つで済ませたけれど、
数を生かして周到に武器を削る狡猾さも、それに私を使った事も許せない。
すぐさま尾を切ったと思しきプルーマに砲撃。
1体は直撃で壊せたけど、後は私を追う集団に加わる。
そしてようやく加賀さんの爆撃機が到着。
私のすぐ後ろで、かなりの量のプルーマが焼き払われた。
「…しゃんとしなさい。まだ終わりは遠いのよ。少なくとも、貴女のおかげで少し伸びたわ」
「…………はいっ!」
横目に眺めるレクスとバエルは、尋常ではない速度で動き、それでもなお苦戦していた。
やはり状況は大して進まない。むしろ悪い。ミカの尻尾が吹雪を守ろうとして千切られた。
マクギリスの奴もよくやってはいるが、これでモビルアーマーは自身の尾を
これからミカの方ではなく空を飛び回るバエルに回してより防備を固めるだろう。
ってか、切ったあたりからすでにそうしている。あの野郎どんどん距離が離されてやがるな。
3機の戦いを間近で見て思うが、本当に悪魔と天使の戦い、って呼ぶに相応しい
とんでもねえ力と力のぶつかりあいだ。
地に足つける必要のねえモビルアーマーは両爪を自由に振り回し、
ついでに掴むにちょうどいいサイズのミカの大獲物を徹底マークして防ぐ。
さっきまでとはメイスを振るう速度も比べ物にならねえほど上がってる、っつーのに。
それに完璧に対応してやがる。やっぱ化け物だなこいつ。
四方八方、いや、真下か。そっから際限なく湧いてくるプルーマもどんどんと、
『一度に出てくる量』が増えてやがる。本当に厭らしい。
最初に出してきた頃に比べても相当な数だ。
北上と大井も動き回って引き付けて、っつーやり方に切り替えてようやく対処できて…ねえな。
今はまだ数体ほどのおこぼれで済んでるが、このままじゃ本当にジリ貧だ。
それこそ、今あのバケモンにモビルスーツでなく、艦娘を狙ってビームなんざ撃たれたら……。
≪▓▓▓▓▓▓▓――!!!!≫
「ッチィッ!なんでこういう勘だけはすぐに当たるんだよ!!」
そう思った途端に奴さんビームを溜め始めやがった!
バエルはやっぱ縦横無尽に迫る尾の対処で動けねえ。ミカの奴は……っ!こっちもか。
片腕でメイスを、もう片方でバルバトス本体がそれぞれ掴まれて動きを封じられてやがる。
あの感じなら脱出は可能だろうが、奴のビーム兵器を防ぐまでには間に合わねえ!
狙いは?多分、方角的に後方の金剛・加賀・瑞鶴の辺りか。
…よし。一番近いのは俺。さっき小せえのは爆撃で吹っ飛ばしてるし自由に動ける。
全力で向かえば庇うくれえはできるだろ。
だが、それでどうなる?相手は一薙ぎで艦娘なんざゴミみてえに掃除できる。
そんな状況で、俺に何ができる?考えろ。
『
まず、ちょっとしたことで死んでは生き返る。
相当無茶苦茶な時もあったが、すぐに再生した。いや、違う。
そもそも俺の命は気軽に失ったり戻ったりしてるが、この時、体がどっか欠けた事がねえ。
なんでこんな魔法みてえなモンが備わったのかは面倒だし考えたこともねえが、
これに関しては使えそうだ。
後は大したことのねえトロい浮遊や木偶人形みてえな分身。
どっちも戦いで使えるかどうか、一度だけ演習で試したが、
浮遊は速度出ねえし空にマトができるだけ。
分身は楽器演奏以外は踊りしかできねえ。つか、言う事聞かねえ。他に動かせねえ。ゴミだ。
いくら超能力、っつてもこんなポンコツみてえなモン備わっちゃ使いようがねえ。
どっちも使うとき、脳裏に真っ青な背景に映る俺みてえな姿がボンヤリ浮かぶが、
そいつも今は関係ないな。…さて、どうすっか…。
≪▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓――!!!!!≫
っ!やべえ!発射された!
こっちも3人の前には来れた。が、ああもう!こうなりゃヤケだ!
「オルーガー?!なんか、やばくナーイ?!あのビリビリこっち来てるデース!」
「その為に来たのでしょう?なら、頼みます」
「え、やっぱりこっち狙ってるじゃない…!?嘘、嘘。また、あの時みたいに…!!」
「死なねえ!死なせてたまるか!こんな…こんなところじゃ!!終わらせねえ!!
ヴヴヴヴウヴゥゥウゥウアアアアアアア!!!!!」
≪はああっ!≫
モビルアーマーの腕から何とか脱したレクスが間に入り、ビームを拡散させる。
だがもう発射された以上、どのみちこのまま弾けた光線がこっちに降り注ぐのは確実だ。
けど、ナイスだミカ。
まず空中へ泳ぐように上がり、次に加賀たちの頭上辺りに分身を展開。
相変わらず楽器握ってたりふざけた踊りをしてやがるが、それでいい。
そして…!
少し遅れてビームがご到着。
山勘だったが、うまくいったらしい。
拡散したビームは、俺を含めた空中に浮かぶオルガ・イツカ達に受け止められる。
爆発だろうが何だろうがでも体は消し飛ばねえ!なら、分散してるほそっこいビーム程度なら、
俺の体を盾にすりゃあ、防げる!
「だからよ………!止まるんじゃねえぞ………!!」
♪いつもの曲♪
「オルーガーの宴会芸に…こんな使い方があったんデスネー…!」
金剛の言葉がちと癪に障ったが、とりあえず何とかビームは防ぎ切れた。
流石に分身は減衰しきる頃には消滅したが、耐えきってはいたので問題ねえ。
「嫌…!あ…ぁ…え…?生きて…なんで…また…私のせいで……?」
「っ…しっかりしなさい!五航戦!…はぁ。すみません、団長さん。この子はちょっと」
……?瑞鶴の様子がおかしい。が、構ってる暇はねえ。加賀の傍で休ませておこう。
「…よくわかんねえが、とりあえず俺は吹雪と一緒に行く。一括にしといたほうがいいだろ」
「ええ。その方が助かるわ。なら行って頂戴。…どの道、いつまでも持たない」
「そう、だな…」
「この子、『庇われる』のは、少し、ね」
「?」
本当によくわからねえが、俺はとにかく吹雪の援護に向かった。
やはり状況は芳しくならない。
以前のハシュマルではほんの少し対処が遅れていた、リミッター解除状態のバルバトスに対し、
今回は完璧に追従しきれているのが何よりもの脅威だろう。
バエルに向けたテイルブレードも、ついに動きのパターンを読み切って見せたのか、
常に死角へ死角へと回り込み、突き、裂こうと攻め、その対応に追われるバエルとも膠着状態。
バルバトスルプスレクスも爪や足などである程度の手傷は与えるも、やはりどれも浅く。
逆に自身の傷は増えるばかりであった。
≪速いし…でかい…面倒臭い……!≫
≪バエル………!どうした、お前の真に討つべき天使だ…もっと力を…!こんなものでは…≫
周辺を走り回る吹雪達の顔にも疲労が見え始める。
この状況があともう少し長引けば、いよいよか。
そう、ここにいるうちの誰かが思った時だった。
「准将おおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!!!」
「その声は…!」
≪……石動?≫
戦えぬはずの石動・カミーチェの叫ぶ声。
そして、
「わたしたちも、いるんだから!」
「そうよ!」
「なのです!」
「ハラショー…なんだい?これは。とても力を感じる」
「六駆の子たちまで?!」
「でも、パワーならこっちもあるわ!だって!ほら!」
本来、今回の任には呼ばれていないはずの第六駆逐隊も、水平線の向こうから姿を現した。
よく見れば、何か大きなものを4人で重たそうに担ぎ、石動がその上に正座して乗っている。
「あぁ?……おい、アレ…なんでアイツらが運んで…!」
その、大きな何か。それはオルガ達には見覚えがあるもの。
―――ヴァルキュリア・バスターソード。
石動の駆っていたモビルスーツ、『ヘルムヴィーケ・リンカー』の剣だけが、
第六駆逐隊の手によって運ばれていた。
「准将!!お届けに参りました!やはり、モビルアーマーにはこれを!
今回こそは、准将の手で!!」
≪…石動……!ついに、いや、武装のみを喚び出したのか?だが、確かにこれであれば…≫
≪ふーん……借りるよ≫
「は?何をする!三日月・オーガス!これは私が准将に…!」
それを見つけるや否やレクスはバスターソードに接近。
上に座る石動に構うことなくそれを掴み、
「貴様などではなく!准将に!!おぼぼぼぼぼ!!!」
石動は海に落ち、溺れ。
レクスの右手には超大型メイス。左手にはヴァルキュリアバスターソードがそれぞれ握られた。
≪こんだけありゃ…いけるだろ≫
両手にそれぞれ巨大な武器を難なく携え、レクスは突撃。
まず最初にメイスをハシュマルへと叩きつけるも、受け止められる。
だが、続いてバスターソードをそのメイスを掴んだ腕へ振り降ろし、
≪▓▓▓▓▓▓▓▓▓――!≫
まず片腕を斬り潰した。
反撃にと、モビルアーマーはもう片方の腕で運動エネルギー弾射出装置をレクスに発射。
距離が近い事もあり腰の左側に命中。
だが、もうレクスは止まらない。
次に両の武器を振り上げ、勢いをつけてハシュマルの両肩へと突き刺す。
負けじと間近にあるレクスの胴めがけビームを吐くように放ち、密着ゆえにその光線は、
弾ききれない一部がじわじわと装甲を削る。
天使と悪魔が互いに体から炎をあげ絡み合う。そのような好機を勿論彼は逃さない。
延々と続いていたテイルブレードの迎撃を切り上げ、バエルがハシュマルの背へ迫る。
だがそれは何とか出来ていた防御を捨てての賭け。ハシュマルの尾もまた、バエルの背を追う。
一方のレクスはというと、大剣は抜けたもののメイスが突き刺さったまま抜けず、
そのまま離れるタイミングを逃し、
ハシュマルの残る1本の腕で抑え込まれ、動きを封じられていた。
腕は自由な為、右手の黄色い爪を突き立て突き刺し抵抗するが、絶対に放すつもりはないようだ。
そして、ハシュマルの頭部は上下に開き、再びビームの発射準備を始める。
≪▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓―――――!!!≫
≪さ…せ…るか…!≫
≪…そうだ。それでいい。今ならば…!≫
ハシュマルの首が飛ぶ。
先にたどり着いたのはバエル。2本の剣で左右に斬り開き、その首を切断した。
だがチャージは終わらない。ハシュマルの本体は頭部に搭載されている。
切り離されたとはいえ、このままでも最後の一発で艦娘達を焼き払う事は可能。
そして、そうなる前にレクスは握りしめた大剣を上へと突き立て―――
――――貫かれたハシュマルは、ようやくその機能を停止させた。
よく見れば、ハシュマルは最後の一瞬までアームに力を籠め続け、
それに握られていたルプスレクスの右半身はほぼ圧壊。
あと少しでコクピットも潰れていたというほどに損傷していた。
「…やっ…た? …ねえ、オルガさん…これ…」
「ああ。…よくやったな。ミカ」
≪…うん。みんな、無事みたいだね。良かった≫
オルガ達を追い回していた大量のプルーマも動きを止め、海の底へと沈んでいく。
疲れ果てたのか、北上と大井はその場にへたりこみ、二人揃ってぽかんと空を眺める。
「あ”ぁーーー……終わったねー…」
「…そう、ですね…北上さん…」
「うっ…うっうう…。嫌…駄目…」
「…大丈夫よ。もう、終わったわ」
「へ…みんな…は…?」
「…無事。全員、沈んでなんかいないわ」
「そ…う…なん…だ………あー…良かった…」
「…そうね」
あの時とは違うから、そう言おうとして加賀は堪えた。
いつもの調子は、今は良くない事くらいは配慮しよう。そう、今は、と。
「…終わったな。マクギリスの奴も…あー、見える範囲じゃあ無事だな。
んじゃ、これでもう作戦は成功って訳だな。本当は回収とかしてえところだが、
この消耗具合で深海なんざとかち会いたかぁねえ。とっとと帰るぞ!」
「はいっ!!」
≪うん。そうだね。…行こっか≫
(しかし…ミカの奴、バルバトスのリミッターを解除して…ま、帰ってから調べりゃいいか。
ひょっとすると、俺が止まらねえ時漏れ出るっつー回復で何とかなるかも知れねえ)
激闘を制し、疲れ切った身体と機体を引きずりながら『次がないといいな』と呟き、
彼女たちは天使の潜んでいたこの乱れ荒む海を後にした。
…残骸の上で静止する、白き御旗を残して。
「ちょっ!石動さん!あー!駄目!起きないわ!」
「正座してたから足がしびれて泳げなかったのね!?」
「すごい水飲んじゃってるみたいなのです!」
「適当なところで応急処置しなきゃ…」
「…ふ、ふふふ……」
先に帰投したオルガ達を眺め、マクギリスは一人笑う。
あの時、最初に『届いた』のは、三日月・オーガスでなく。バルバトスルプスレクスでなく。
厄祭戦を終わらせた、伝説の機体。ガンダム・バエルの刃だった。
そのバエルが、モビルアーマーの首を落とし、勝利へと導いた。
その結果、真後ろに迫っていたテイルブレードに追いつかれ、
バエルの背には深々と刃が突き刺さり、ほんの少しずれていれば操縦席を貫いていた。
だが、マクギリスにとっては、
なぜならば。
「――――やはり、俺が……最も、アグニカではないか……!フフフフ…ハハハハハ!!!」
気付いたのだ。自分こそが、一番英雄たる資格を持っていると。
そういう条件が整ったのだ、と…。
その思い上がりは、彼女たちの歯車を、ゆっくりと歪め始めていく。
オルガの命日だってのに!オルガがあんまり活躍してねえ!あ、十分やった
あとこれでオリ回は多分ないです
つまりまた・・・アニメ見ないといけないのか・・・