バルバトスは、ルプスへと強化された。
武装も性能も、改修前より大幅に増えている。
機体の差ではバエルよりも優勢になった。
「てか、損傷も無くなって無ぇか?」
「大規模改修を行うと燃料・損傷共に回復する。私の時がそうだったか…覚えておくといい」
「どこで使うんだよそんな知識」
因みにオルガ達は今だ提督室で観戦中。
正直流れ弾とか怖いけど誰も表に出さない。
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しばしの静寂を破りルプスが動く。
左腕を前に突き出し搭載された200㎜砲をバエルに向け連射。
バエルは圧倒的な機動力でこれを避ける。
張られた弾幕を数秒避けた頃、バエルの移動先に高速で棒状の物が迫る。
ソードメイスだ。
「くっ!?」
砲撃を絶え間なく撃ち続け注意を逸らし、視界が弾丸を注視したと見計らったタイミングで回避先に投げつけたのだ。
流石のマクギリスの反応速度でも対応が遅れ、バエルの右肩を掠め翼の片方が折れる。
「当たった。これでもう高くは飛べない」
「成程…少し遊びが過ぎたか」
事実バエルは高度を維持できなくなり、低空で何とか浮いている程度に飛行能力が低下した。
しかしそれがどうした、と言わんばかりに双剣を構え突撃する。
対するルプスも背部から小型ツインメイスを取り出し応戦の構えをとる。
高速で移動するバエル。
ルプスと刃を交える直前の距離でスラスターを強く吹き、初手同様背後に回って右手の剣を振る。
しかしこれを、
三日月は、
振り向くことなく、
武装保持用のサブアームで白羽取りした。
最小限の動作で繰り出される真後ろへの蹴り。
一緒にアームの一本が千切れるが構わない。
バエルは大きく体勢を崩し、海上から陸地へ跳ばされる。
姿勢制御に放ったジェット噴射で真下の施設が幾らか吹き飛ぶ。
「あぁ!私の北上さんコレクション部屋が!」
「夏の原稿が!」「取材資料が!」
ここでようやくルプスが振り向き追撃の砲連射。
バエルが右に左に避けることにより流れ弾が鎮守府に降り注ぐ。
「クマ!あっちの方って確か…」「おいおい鳳翔さんの店じゃねーか!この間新装開店したばっかりの!」
「さっき見たけど誰かいた筈にゃ!早く行くにゃ!」
そのままジグザグ軌道でルプスに接近。
バエルの双剣とルプスのツインメイスがぶつかり合う。
両者押し、押され、幾つも場所を転々とし、打ち合いを続ける。
ジワジワとバエルが押され始めた頃、
密着して戦う二機と全く別の方向から新たに機関砲が掃射される。
即座に離れこれを回避する両者。
「大人しく投降すれば、然るべき手段でお前を処罰してやるぞ」
水平線の彼方から現れたのは紫色の騎士であった。
掲げた馬上槍、重厚な装甲、漆黒の両脚。
「投降はしない。するつもりもない」
三日月が答える。その返答を聞いた騎士の操縦者の表情が変わる。
「その声……あの時のガキか!」
「そういうあんたは…チョコの隣の人?」
「ガエリオ・ボードウィン!!ガルス・ボードウィンの息子、ガエリオ・ボードウィンだ!」
「…ガリガリ?」
「ワザトか貴様!」
ガエリオ その名が出たということは必然的に、彼の駆るこの重騎士の名は…
ガンダム・キマリスヴィダール
と言う事になる。 66番目のガンダム・フレーム。その最新最終強化形態。
全距離に対応したマルチな能力、全てが必殺級の武装を備えた機体。
「…まあ何でもいいや。どうせここで消える名前だ……!」
「そのエイハブ・ウェーブ……本来のキマリスか。」
ルプスとバエルが睨む中、キマリスは周囲一帯に届くよう音声を外部に放つよう切り替え、
「ガエリオ・ボードウィンはここに宣言する!逆賊、マクギリス・ファリドを…討つと」
と高らかに宣布し、真っ先にバエルに槍を向け突撃。
しかしガエリオのこの宣告を全く意に介さず、マクギリスは二本の剣でこれを受け止め、
重い物が跳ね返る金属音を響かせたのち
「邪魔だ、ガエリオ」
と言うのみ。まるで興味がない。
「やはり俺を見てはいないのだな。マクギリス」
「フン…」
「おい。俺の相手だ。横取りするなよ」
バエルに槍を押し付けているキマリスの真横にルプスが迫る。
「艦娘達が哀れでならない。まるで昔の俺を見ているようだ」
ガエリオは一瞬だけ目を横に逸らし、ルプスが接近しているのを確認すると、
キマリスに搭載されている禁忌の力を使用する。
「……行くぞアイン!!」
ガエリオの背後の装置がせり出し、けたたましく駆動音を唸らせる。
それと同時にキマリスは空いている片手で腰の刀を抜き、
ルプスの方向を一切見ることなくツインメイスの連撃を片腕のみでいなす。
バエルはその隙をついて後退。ルプスは前進しキマリスはこれに向かい合う。
メイスは何度も振るわれた。何度も何度も、その度に刀で、槍で、それらを縫えても
キマリスの背部に搭載されたシールドアームで、幾度も攻撃は防がれる。
二機が打ち合いをしている隙を突き、剣を構えたバエルがキマリスの背後を狙う。
だがキマリスはこの真後ろからの急襲をバルバトスの肩を掴み跳んで回避。
バエルはそのままルプスと衝突しかけ急ブレーキ。
逆にルプスの背後に回ったキマリスが二機とも蹴り飛ばす。
バエルとルプスはそれぞれ別方向へ転がり、
キマリスはバエルの方向へ移動しながら槍に搭載された機関砲で追撃を行う。
いくらか被弾しながらバエルも翼に搭載された電磁砲で応戦するが、
やはりシールドアームで防がれる。
一方、バルバトスルプスは、
鎮守府敷地内の小高い丘、弓道場の側面へもたれかかるようにして沈黙していた。
「赤城さん。大丈夫ですか?」
「ええ。加賀さんも大丈夫みたいね…でも…」
「道場…無くなりましたね…あと数m近かったらどうなってたか…」
「……おいバルバトス。お前の力はそんなもんか?余計な鎖は全部外してやるからさ、
よこせ……もっとよこせ!バルバトス!!」
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荒れ果てた鎮守府。既にその面積の六割程が戦禍により破壊されている。
オルガ達のいる提督室もまた戦闘の余波でいつ崩れてもおかしくない状況であった。
※但し吹雪達のいる扉一枚向こう一帯だけは奇跡的に未だ形を保っている。
「バルバトスがまた輝きだした…?この短時間でもう改二だと?!」
長門が驚愕の表情を隠せないでいる。
「カイニ?…改とはまた違うのかよ」
「あっそうだ吹雪ちゃん!第三水雷戦隊には他にもいろんな人がいるんだよ!」
「本当?早く会いたいなぁ~…」
「私のほかの駆逐艦に、夕立ちゃんっていう子がいるんだけどすごいいい子だから、 吹雪ちゃんもすぐに仲良くなれると思うよ!」
(薄っすら聞こえてるけどよ…そろそろ外に気づけよ!逃げろよ!窓見たらすぐに分かるぞ!
その夕立って奴もこの状況で無事だといいんだが大丈夫か…?)
「改二とは本来選ばれた艦娘だけが、長期間の修練と特殊な条件を満たすことによってのみ
変化することのできる特別な物だ。
艦娘としてはここまで連続で行われる事は常軌を逸しているのだろう」
「ミカは艦娘じゃねえぞ…そんで、アイツは何だ?どっから来た?」
「あれは…キマリスのようだが…どこから来たかまでは私にもわからん」
「何だよ…」
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「ガンダム・バルバトスルプスレクス。…これなら、殺しきれる」
バルバトス、二度目の、そして最強の進化。
ルプスから大きく姿は変わり、獣の如き四肢は鋭く、手に持つ武器はより凶悪性を増す。
最大の特徴として背に生えた大きな刃は尾として機能し、三日月の思うままに敵を殲滅できる。
「ルプスレクス…狼の王か」
「やはりそう来たか…アイン!一度距離を取るぞ」
回転する槍の先端をバエルまであと少しの位置まで届かせたキマリスが海上へ後退。
その間にバエルは体勢を立て直し、レクスとキマリスをどう潰し合わせるか考えようとしたのか、
頭部をレクスの方向へ向けたとたん、
真っ先にレクスはバエルの方向へ突撃した。
「……!」
「目ぇ合ったし、近いから先チョコね」
一瞬のうちにバエルの目前まで迫り右手の超大型メイスを掲げる。
バエルは素早く剣をレクスの右腕に突き刺し振るわれぬよう動きを封じる。
負けじとレクスは動かせる手首をスナップさせメイスを左手にパス。
同様に左腕に剣を刺すバエル。
両者の動きが止まる。
距離を取っていたキマリスがここで槍を構え突進。
しかしレクスの背後から伸びたブレードテイルに接近を阻まれる。
二度、三度と刀でレクスの尾を払うも防御は崩せない。
「流石だな、三日月・オーガス!それでこそ私の!俺の見込んだ男だよ!!」
「………」
「私と共に来ないか?君の望みは全て叶う!君の力を存分に振るえる!」
「いらない。俺は、オルガと一緒だから俺なんだ。それで全部でいい」
「そうか…ならば……む?」
マクギリスは見た。三日月には見えていない。
ブレードテイルの突破を断念したキマリスが、
キマリスとレクス・バエルとの距離はかなり離れている。
接近はレクスの尾に阻まれた。であれば残る攻撃手段は射撃のみ。
しかしモビルスーツに生半可な遠距離射撃は有効とは言えない。
つまり、遠方から二機に決定打を与えうる、ガンダム・キマリスヴィダールの武装は―――
「アイン!この機は二度とない、俺は禁忌に更に禁忌を重ね!奴らを滅ぼす!」
「―――穿て、アイン!」
キマリスのカメラアイが深紅に輝き、
射線上にあった鎮守府は完全に吹き飛んだ。