光雲ライフ!〜転校生って凸凹〜   作:『シュウヤ』

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第一話

我が家で座敷童との共同生活が始まってから、一ヶ月が経過した。

少し前の座敷童失踪事件(カナさん命名)からは約一週間。俺は今までと何も変わらない日常を送っていた。つまり、

「今日も美味そうな匂いがするのう」

「朝一番の挨拶がそれってどうなんだよ」

座敷童である雲も当然のように暮らしている。

あの時は色々と恥ずかしい事をした俺だが、当の本人はあれ以来あまり気にした様子を見せない。変に意識しないで済むので、こちらとしてもありがたくはあるのだが。

朝食を食べて、雲に制服を着せて俺も着替えて、忘れ物をチェックしたら、しばらく待つ。

ピンポーン、と。五分もしない内にインターホンが鳴った。

「来たぞい」

「だな。行くぞ」

かつてはこのインターホンを鳴らす相手に随分と緊張したものだ。臨時のお泊まり会だったが、すでに懐かしい。

玄関のドアを開け、そこに立っていた人物に挨拶。

「よ、日和さん。おはよう」

「おはようじゃ」

「おはよう、明星君、雲さん」

 

 

日和さんと家の前で待ち合わせし、近くの十字路へ向かう。実は日和さんの家は我が家と学校の間にあり、日和さんは遠回りを強いられているのだが、申し訳なく思いその事を彼女に話しても「気にしないで」と変わらず迎えに来てくれるので、行為に甘える事にした。時間に真面目だし、俺達の遅刻防止にもなるのだ。

十字路の角に、疾風が立っていた。相変わらずのイケメンだし、女子生徒の待ち伏せも多かったのだが、本人にその気が無いと広まったのか最近は平和だ。

「ってあれ、カナさんは?」

いつも隣にいる騒がしポニーテールの姿が見えない。もしや遅刻か?

「カナさんなら、日直だから先に行ってるよ。昨日言ってただろう?」

「……あー、そうだったな」

「今のを秘密にしておいて欲しかったら、お昼にジュース一本」

「しれっと交渉してんじゃねーよ」

「きら、わしもじゃ」

「お前はそもそも交渉材料持ってねーだろ」

そんな俺達を見ながら、日和さんはクスクス笑う。

 

 

 

 

徳巡学園に到着すると、教室にいたカナさんが突撃して来た。

「みんなみんな! 超スーパーウルトラハイパービッグニュース!」

何だその仰々しいネーミングは……。

「カナ、ニュースって?」

付き合いが長い日和さん、流石のスルースキル。

「なんとなんと、今日転校生が来るらしいんだよ!」

「転校生? このクラスに?」

というか、どうしてカナさんがそれを知ってるんだ?

「さっきプリント受け取りに職員室行ったら、見た事ない女の子が福田先生と話してたの。“これからよろしく”って」

担任の福田先生。武雄、という名前に似合わず、非常にのんびりした性格の先生だ。

「でもまだ五月入ったばかりだろ? 何かの間違いじゃないか?」

「む……じゃあミラクルエイジのケーキを賭けて勝負だきらっち! 本当に転校生が来たらアタシの勝ち、もし来なかったらきらっちの勝ち」

「逃げるのかい、明星」

「まだ何も言ってねーよ。っていうか外野がガヤ飛ばすなよ」

疾風は煽る事に関しては突出している。……主に俺を、だが。

「で、どうなのよきらっち?」

「……よし分かった。その勝負乗った」

「じゃあ決まりね! ここにいる三人が証人だから!」

「ふむ、ではわしも乗るとしよう。きらが負ける方にな」

突然、雲が口を開いた。

「何でお前まで乗ってくるんだよ。ていうかお前の場合、勝っても負けても払うの俺じゃん」

「そんな事はないぞい。わしが勝ったらーーけーき二つじゃ」

「ぶふっ! モクっち天才!」

「これは一本取られたねぇ、明星」

何故か賭けが成立した流れになってるんだが……。

「ひよも何か賭けたら?」

「え、私は別に……」

「きらっちに、頭ナデナデしてもらうとか〜?」

「カナ!」

「にゃはは〜」

慌てたように身を乗り出す日和さんから、逃げるようにカナさんは自分の席へ戻る。

チャイムが鳴り、疾風と雲も自分の席へ戻っていく。

「もう……カナったら……」

呆れと憤慨が混じったようなため息をついた日和さん。

「別に賭けなんかしなくても、それくらいお安い御用なんだけどな」

「そうなの⁉︎」

うお、凄い食いつき。

「うんまあ、だけどカナさんの悪ふざけの冗談だろ? あんまり深くは考えてないよ」

「そう、だよね……」

テンションの落差が凄まじい……。そんなに嬉しいのかね……ナデナデ。

「ーーはい皆さんおはようございます」

それを追求する前に、担任の福田先生が教室に入ってきた。そして、もう一人。徳巡の制服に身を包んだ、女子生徒。え、おいおいマジか……?

ふと、視線を感じカナさんの席を見た。案の定こちらを向いていて、いい笑顔で口を動かした。『ご、ち、そ、う、さ、ま』くっ……。

「えーHRを始める前に、皆さんに紹介する人がいます。今日からこのクラスに転校してきたーー」

福田先生が視線を送り、女子生徒は頷いて黒板に向かいチョークを手に取った。

「初めまして。神鳴(かみなり)見美々(みみみ)といいます。よろしくお願いします」

そう名乗った女子生徒は、軽く会釈。

背丈は標準くらいで、髪は背中までのストレートヘア。視力は良くないのか、黒縁の眼鏡をかけている。そして何よりも特徴的なのは、その表情だ。

無表情。感情が何一つ読み取れない。口調は滑らかだから、緊張している訳ではないのだろう。まるで“透明”だ。

「えー神鳴さんの席はあそこになります」

福田先生は教室の後方、二つある空席の一つを示した。

「分かりました」

最後まで一切表情を崩さず、神鳴さんは席へ座った。

 

 

 

 

HR終了後、

「転校生とお近づきになる!」

こういう時話しかけるのは、カナさんの役目だ。一切人見知りしないそのスキルは、正直羨ましい。

「ヤッホーみみっちー」

だからといって、いきなりあだ名を付けるのはどうなんだ?

「あなたは?」

「アタシは千倉歌鳴! カナって呼んでね!」

「そうでしたか。これからよろしくお願いします」

「おおぅ……」

カナさんが会話に困った。とんでもないスルースキルの持ち主だな……。

「みみっちーは、何で徳巡に転校してきたの?」

「色々と事情があったので」

「きらっちパス」

「押し付け雑すぎないか⁉︎」

「だって自己紹介はしないとでしょ?」

それはそうだけどさ……。会話広げるの面倒になったんだろ。

「あなたは?」

無表情でこちらを見る神鳴さん。レンズ越しの瞳からは、やはり何も読み取れない。

「あー、俺は九十八明星。で、こっちは雲」

「みみみ、と言うておったな。よろしく頼むぞい」

「よろしくお願いします」

雲の口調すらスルーしただと……。

「ああ、僕は小鳥遊疾風。これからよろしくね」

疾風のイケメンっぷりにもやはり無反応だった神鳴さん。最後に、端の方で小さくなっていた日和さんの方を向いた。

「あなたは?」

「あ、わ、私は……東風日和っていいます……」

「これからよろしくお願いします」

「う、うん、よろしく」

人見知りモードの日和さんに懐かしさを覚えたが、それと同時に、この神鳴さんが少し分かった気がした。確かに近くにはいたが、一言も喋らなかった日和さんを仲良しグループの一人だと見抜いた訳だ。どうやら、ただ無愛想という訳ではないらしい。ちょっとだけ安心した。

「ーーそうだ! 今日の放課後、みみっちーの歓迎会やろうよ!」

突然、カナさんが声を上げた。カナさんの突然は、いつもだけどな。

「歓迎会? 私の?」

「そそ! いいでしょ?」

一応初対面、なんだよな? やっぱりカナさんって凄いな……。尊敬するわ。

「今なら、きらっちがケーキ奢ってくれるよ!」

「言ってませんけど⁉︎」

ちょっと褒めようとしたらこれだ。掴み所が無さすぎる。

「九十八君」

「ん?」

もう名前覚えたのか。ポーカーフェイスなだけで、人見知りとかではないのかもな。

「ご馳走様です」

「言ってないから!」

意外とお茶目な性格なのかもな! うん!

 

 

 

 

放課後、半ば強引に神鳴さんを引き連れて、ミラクルエイジへ。本人は無表情だから分かりにくいけど、嫌がってはなさそうだったし。

「まあ、転校生? カナちゃん達は、とってもいい人よ。これから仲良くしてあげてね」

今日もニコニコなララさん。まるで自分も同じクラスにいるかのように嬉しそうだ。注文を取ると、厨房へと引っ込んでいった。

「あの方は?」

「店長のララさん! いい人だよ〜。優しいし、料理美味しいし!」

「なるほど」

ちなみに今日の支払いは、神鳴さん以外の割り勘になった。本当に俺が奢らされそうな流れになりかけたが、日和さんがカナさんを叱ってくれたおかげで助かった。そのおかげで賭けの件もうやむやになったが、絶対覚えてるだろうな……。

 

 

その後運ばれてきた料理を一口食べた神鳴さんは、

「これは、美味しいですね」

一瞬、驚いたように手を止めた。

「でしょでしょ? ララさんの料理は世界一なんだから!」

ララさんの料理が褒められると、カナさんはいつも得意げになる。だがその気持ちも分かる。本当に美味しいものって、共有したくなるからな。それを広められた事が嬉しいのだ。うん、このサンドイッチも美味い。

「ららやひよりの腕前を、きらは少しでも見習って欲しいものじゃな」

「何でいつも偉そうなんだよお前は。あとそれができたら苦労しねーよ」

ペロリとオムライスを完食した雲。俺のサンドイッチを狙っている事も分かってる。絶対に渡すか。

「ーー九十八さん、その口調の事ですが」

唐突に、神鳴さんが口を開いた。

え、まさかのこのタイミングで訊いてくるのか。スルーしたまま終わるのかと思ったぞ。

俺達四人は座敷童云々の事情を知っているが、相変わらず学校では時代劇好きの影響だという事にしている。ただでさえ珍獣扱いの雲が、どうなってしまうか分からない。

一応疾風や日和さんに目配せをして、口実を説明しようとしたタイミングで、神鳴さんから予想外の質問が飛んできた。

「キャラ作り、ですか?」

「むう?」

「え、は? キャラ作り?」

雲は知識の無い言葉に首を傾げたが、俺もあまりの変化球に思考が混乱。しかもそれで終わらなかった。

「小柄すぎる体躯に伸ばしに伸ばした黒髪。日本人形のような容姿に口調も合わせているという事ですか? それでしたら、その心構えを是非とも参考にさせて欲しいのですが」

参考? 何の……?

「みみみ、先ほどから何を言うておるのじゃ?」

恐らく話の一割も理解できなかった雲は、怪訝な顔でもう一度首を傾げる。理解できてないのは俺達も同じだけどな。

すると、神鳴さんは一瞬動きを止めると、

「すみません、取り乱しました」

ペコリと頭を下げた。

「え、あ、うん……。そっか」

流石のカナさんも、ついていけないようだ。

「歓迎会、ありがとうございました。新しい環境に少なからず不安はあったのですが、皆さんのおかげで問題なく過ごせそうです」

神鳴さんは立ち上がると、もう一度頭を下げた。そして、

「ではまた明日」

お店を出ていってしまった。

「ーーあら? 見美々ちゃん帰っちゃったの?」

ちょうど食器を下げに来たララさんが、主賓の姿が見えない事に気付いた。

「みたいです……ね」

「アタシ達もよく分かんなくて」

機嫌を損ねた……とは考えにくいんだけどな。

「何か、嫌な事言っちゃったのかな……」

日和さんは不安そうだが、もしそうだとしてもあの感じは自爆だと思う。

「まあいいじゃないか。どうせまた明日会うんだし、明確に避けられてるならその時考えよう」

「疾風の言う通りだな。それに神鳴さん、『また明日』って言ってたんだし大丈夫だろ。多分」

 

 

神鳴さん、不思議な人だったなぁ。雲に言ってた“キャラ作りを参考”ってのが引っかかるんだよな……。それとなく分かるといいんだけど。

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