ザワザワと騒がしい教室。批判的な顔七割、理解が追いつかない顔三割って感じだな。そりゃそうだ。この転校生、最初の自己紹介で勝手にハーレム作るって宣言したんだから。
だが当の本人は気にした様子はなく、冷ややかな多数の視線を受けて満足げに頷く。……ある種いいメンタルしてるな。
「えーでは神鳴君は、妹さんの隣の席に座って下さい」
……爆弾発言に一切触れない先生もどうなんだろう。教育者として見逃していいのか? 不純異性交遊に似た感じだと思うんだけど。
てか先生、今“妹さん”って言ったよな? やっぱりそうなのか。
鳳凰と名乗ったソイツは全く臆する事なく席の間を歩き、……横を抜けるタイミングで女子達が身を引いてる気がするな。
「──よっ、見美々! 元気か!」
「おかげさまで。少し元気が無くなった」
「なーんだよせっかく愛しのお兄様がやって来たっていうのに」
「…………」
「相変わらずツンデレだなぁお前は」
ポジティブすぎる故に会話が噛み合ってないな。正反対な兄妹だ。
昼休み。
「──ヘイ、転校生!」
あれだけの爆弾発言をかましたヤツに躊躇いなく話せるカナさんは、本当に凄いと思う。
「おっ、なんだポニテ美少女がオレに何の用事だ?」
「アタシが美少女? いやーみかどっち見る目あるじゃん!」
「だろ? それにもうあだ名を付ける辺り、オレに惚れたと見たね! オレの彼女第一号にしてやるよ!」
「タイプじゃないからそれはムリ」
あの流れで恐ろしいほどバッサリ切り捨てた!
「じゃあ友達以上恋人未満の関係ってヤツだな!」
コイツはコイツでポジティブだな……。
「これからよろしく頼むぜ、ポニテちゃん」
「アタシの事はカナって呼べ!」
命令じゃねーか。
「じゃあカナさんにするか。すぐにオレの魅力に気付かせてや「──んでみみっちー、しつもーん」
……カナさん、ちょっと面倒になったんじゃないか?
「何でしょうか?」
「このうるさいムダにちょっとだけイケメンは、みみっちーのお兄さんでいいの?」
「はは、辛辣だなぁ。それでこそ攻略し甲斐があるってモンだ「話進まないからちょっと黙ってくれる?」……スマン」
急にガチトーンになると、カナさん怖いよな……。
「みみっちー、アンサーよろ」
カナさんが振ると、
「そうです」
神鳴さんは淡々と肯定。
「なるほどなるほど。みみっちーが変わってるって言うのも分かるかな〜。アタシは退屈しなくて面白そうだけどね。いざとなったら、グーパン飛ばせばいいし!」
暴力的だなぁ……。
「さってと、じゃあご飯だ! 食堂行こう! ホラ、ひよ行くよ!」
「えっ、あ、うん」
やれやれだ……。カナさんだから上手い感じにあしらえてたけど、日和さんは言い寄られたらどうしていいか分からずオロオロしそうだよなぁ。そうなった時、俺がフォローできるといいんだけど。……雲は、多分言葉の意味がよく分からず適当に盛り上がって終わるんじゃないか?
「──みかどと言うておったな? わしは雲じゃ」
「おおっ⁉︎ 何だこのロリっ子は! いいキャラしてるじゃん! オレ、ロリは大好物だぜ!」
言ったそばから……。鳳凰もだいぶヤバい発言してるぞ?
「ほう、“ろり”とはどんな味がするのじゃ?」
「え、味か……? そうだなぁ、やっぱり甘々しいんじゃないか? 雲ちゃんの声みたいにな!」
「ほう、甘味なのか。ならば、きらに馳走してもらうかの」
「はい?」
……ああ、食べ物と勘違いしてるなアレは……。今夜辺り、『ロリを作れ』とか言ってきそうだな……。なんて説明しようか……。
「えっとね、雲さん、ロリって食べ物じゃないんだよ」
「ほう、そうなのかえ? ならばみかどは何故ろりが好物などと言うたのじゃ?」
「それは……」
日和さん、無理しなくていいぞ。あとで俺が何とかしておくから。
「キミ、名前は?」
「へ? 私、ですか?」
雲への回答に日和さんが悩んでいると、鳳凰が視線を投げた。……助ける準備しておくか。
「えっと……東風日和です」
「東風ちゃん! いやぁ可愛らしい名前だ! これはもう運命だよな!」
あーあー、やっぱりコイツはそうするよな。ただでさえ人見知りな日和さんだ。いきなりそんな言い寄られたら、恐怖心すら芽生えかねない。
だが、
「是非オレと付き合っ──」
「ごめんなさいっ!」
鳳凰が言い切る前に、日和さんは頭を下げた。おや?
「その気持ちは凄く嬉しいけど……。私は……神鳴君とは付き合えません」
「──へえ。やるじゃん、ひよ」
カナさんが意味深にニヤリと笑った気がしたが、俺もちょっと驚いた。何事も流されがちの日和さんが、こうもキッパリ断るとは。
「むう、ハーレム完成の道のりは厳しそうだな……」
クラス全敗して、まだ諦めてないのかよ。
「特にそこのイケメン!」
鳳凰がビシッと疾風を指差す。
「僕は小鳥遊疾風だよ。よろしくね」
この流れで笑顔で名乗れるお前の精神凄いと思うわ。
「そうか疾風っていうのか。お前には絶対に負けないからな!」
「うーん、そう言われても、僕別に恋人いないしなぁ。この学校も近いから選んだだけで」
「その余裕がムカつくぜ……」
うん、そこには同意する。
最後に鳳凰は俺を見ると、
「……まあ、お前には負けないと思うな」
「おいコラ」
「てか、お前誰だ?」
「明星だ。九十八明星!」
「ふーん、まあよろしくな」
コイツムカつく!
食堂に到着した俺たちは、まず席を確保する。それから、お弁当組以外は食券を買いに行く。今日は疾風と神鳴兄妹だな。
俺たちは、
「はい、明星君と雲さん」
「いつもありがとな、日和さん」
「うむ、いただくぞい」
日和さんがお弁当を作ってきてくれている。
元々お弁当を自作していた日和さんだが、俺たちの分も作ると申し出てきたのだ。
ただでさえ迎えに来てもらうという遠回りを強いているのに、お昼まで用意してもらうなんて申し訳ないと勿論最初は断った。だが、「一人作るのも三人作るのもそんなに変わらないし、美味しそうに食べてくれるから嬉しくって。お願いします」と逆にお願いされてしまったのだ。頭まで下げられては断りづらいし、何より日和さんの料理は美味しい。結局、申し訳なく思いつつもお言葉に甘えさせてもらった。代わりに、材料費を払うという条件で。
「はい、今日の分」
お金は、毎日五百円。
「いいって言ってるのに……。私のお小遣いから出してる訳じゃないし……」
「尽くされっぱなしじゃ、流石に申し訳なさが強いからさ。せめてこのくらいのお返しはさせてくれって」
「うん……分かった」
日和さんはこんな優しすぎる性格だし、ここまで交渉するのも大変だったんだぞ?
「──うむ、今日も美味いのう」
だからお前ももう少し感謝の意を示せよ。聞いてんのかこの座敷童は。