溶けゆく雪となって   作:黄金馬鹿

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あー、もう(エルリックを頼りにしきってるからユキ単体でのメンタルが)滅茶苦茶だよ。

まぁ、自分の正体でも分かれば幾分かは変わるんじゃないかな()


十三の斬/9:358

 自分の何もかもが燃えていく。

 あれは何だっけ。あれはどこだっけ。あれは、誰だっけ。そうして消えていく自分の記憶を見て、ふと思った。

 自分は、このままでいいんだろうか。

 このまま燃えていく記憶を見続けるだけでいいんだろうか。それは、自分を壊すことへ繋がってしまうんではないだろうか。

 なら、見なければ。

 過去の一切を見なければ、もう二度とこんな苦しみを経験しなくてもいいんじゃないか。

 

「大丈夫」

 

 囁きが聞こえた。

 

「あなたはユキ。『私』じゃない」

 

 そう。

 オレはオレで、『私』は『私』。

 じゃあ何で過去に縋りつく? どこにそんな必要がある?

 過去というのは、自己を構成するための骨子の一つだ。ならば、それが無くなったのなら、自己の全ては消失するのか。『オレ』は『私』になるのだろうか。

 違う。

 もう消えない記憶はもう持っている。

 消えない過去は、もう持っている。

 なら、『オレ』に拘る必要はない。消えていく物を、忘れてしまうものをずっと見続ける必要はない。

 

「それでいいの?」

 

 いい。

 ユキという少女は、エルリックという青年に拾われたあの日から始まったのだと。そう思えば怖くはない。

 過去の大半が消えてしまったから、そう思える。残りの僅かな過去を切り捨てる事は、造作もない。

 ユキは、ユキ。それを確立するための過去を、既にエルリックから貰っているから。

 

「それは正解なの? 後悔はしない? 『私』はいっぱい後悔したよ?」

 

 後悔するかもしれない。

 でも、いずれはこうなる。いつかこうなってしまうのだから、先に自らそれを迎えるだけだ。

 過去が消えるのは、怖くない。

 エルリックと過ごした記憶を、過去にするから。

 

「じゃあ、あなたは誰?」

 

 ユキ。

 エルリックに拾われて、なんでか自分の事を男だと思っている、自分でも素性がよく分からない少女。

 でも、元男だという事も、知識としては迎え入れるが、記憶としてはもういらない。

 きっと色々と苦労はするだろうけど。今の自分は元男で現女。

 そんなちぐはぐな存在。それが、ユキ。

 ■■■■■■じゃない。■■■■■■は、■■■から。

 

「……うん。わかった」

 

 後ろを向く。

 そこには、もう燃えることはない記憶達が。

 後ろを見る。そこには、燃える記憶達が。その後ろには。

 後ろには。

 うしろには――

 

「見ちゃだめ」

 

 無理矢理体を動かされ、振り返る。

 

「あれは、ユキには必要ないもの。ユキには邪魔になっちゃう記憶。だから、見ちゃだめ」

 

 そして、そっと背中を押される。

 なんだ、この声。なんで声だけなのにこんな事できるんだ。

 

「あとは……そうだね。エルリックって子が好きなら、もうちょっと色々としてもいいんじゃないかな? 見ててモヤモヤするんだけど……」

 

 振り向いて拳を振りぬいた。

 きっと何かを殴った感触は幻想じゃないだろう。自分の声色で気色悪いことを言ってくるこの存在をぶん殴る事はできただろう。

 

「まさか自分に殴られるなんて……」

 

 やっぱり殴れてた。

 

「……うん、わかった。でも、注意してね」

 

 何を。

 

「あなたがユキであり続けるなら、彼の味方であること。彼の敵にならないこと。それだけを、忘れないで」

 

 ――きっと、『私』なら敵になるから。

 その声を聞き、夢は覚めていく。

 目が覚めると、どうやらエルリックの腕の中だったようで心底ビックリする。だけど、同時に安らぐ。

 人の温もりという物がここまで心地いいものだとは思わなかった。

 

「……夢の中のオレは一体なんなの」

 

 と呟き、ふと思い出した。

 そう言えば、目が覚めてからすぐに一人称が合っていないと言われた。

 

「……ちょっと変えてみるのもいいかな?」

 

 イメチェン代わりに一人称の変更でもしてみよう。

 そんな気軽な感じで彼女は自分の一人称を変えてみる事を決めて、ベッドから降りた。その振動か音かで目を覚ましたのか、エルリックが大きな欠伸をしながらベッドから上体を起こした。

 

「あ、起きた?」

「……一応」

「昨日はごめんね。『わたし』、ちょっと怖がりすぎちゃって」

 

 そう言ってドヤ顔をすると、エルリックは吃驚仰天をそのまま表したかのような顔をした。

 直後。

 

「なんの魂胆だ。キモいからやめろ」

 

 バッサリ一刀両断された。

 なんともまぁ、容赦のない。

 

「い、いやさ、その……最初に言ったじゃん? 口調と一人称合ってないって」

「でも違和感あるから変えないつったのお前だろ。なのに、いきなり変えられたら俺の方が違和感あるわボケ」

 

 どうやら寝起きの彼はかなりの毒舌のようで。涙目になりかけるくらいにはユキを言葉だけでボコボコにしてきた。

 

「ってかお前、なんで切り替えるんだよ。とうとう心まで女になったか? だとしてもいきなり一人称変えたら普通にキモいから変えるとか言うなりしてだな」

「将来お嫁さんにその毒舌のせいで見捨てられろばーか!」

「ちょおまっ!?」

 

 ユキは剣を持って走り出した。

 

「別にオレだって変えたくて変えたわけじゃないし……!!」

 

 でも、切欠は誰だったか。誰のために変えたんだっけか。なんだか自分に言い訳しているような。

 そんな記憶には、今は蓋をして都合のいい事だけを思い出す事にした。

 ちなみに、この後の毎朝の手合わせはエルリックがいつも以上にボコボコにされ、ボロ雑巾と化したエルリックは暫くユキの尻に物理的に敷かれていた。

 

 

****

 

 

 結局ユキの機嫌は開いたばっかりの店で果物を幾つか献上するまで収まらなかった。

 別にそのままユキを放っておいても良かったのだが、それだと、また手合わせと称してボコボコにされて尻に敷かれたり、バイクに乗っている時に変な仕返しをされかねなかったので機嫌を戻しておく必要があった。

 そんな打算の元、献上された果物はどうやらユキの舌に合ったらしく、彼女はバイクで出発する前まで笑顔でそれを小さな口で精いっぱい美味しそうに食べていた。

 そんな事があってから大体数時間後。バイクで出発した二人は休憩兼食事として整備された道の片隅にバイクを停め、予め買っておいた食事を口にしながら水分補給をしていた。

 

「ここから後三十分くらいの場所に川があるんだ。寄ってくか?」

「え? 川?」

 

 唐突にエルリックが口にしたのは、ここからしばらく先にあるという川で一休みしていかないかという提案だった。

 元々はそこで休憩を取るつもりだったのだが、思わぬアクシデントという名のご機嫌取りで間に合わなくなってしまった。だが、ここから移動の時間と休憩の時間を差っ引いても十分に次の街へは余裕を持って辿り着くことが出来る。

 

「まぁ、特に変わったところはないんだが、気晴らし程度にはなるかなと」

 

 別に行きたくないなら行かなくていい、とエルリックは取ってつけたような言葉をその後に口にする。

 だが、もしかしたらユキが喜ぶかもしれない。そんな不器用なエルリックの優しさを何となくだが感じ取り、思わず笑ってしまう。

 変なこと言ったか? と焦りだしたエルリックではあったが、すぐに違う違う。とユキ自身で否定する。

 何だか、不器用な人だなぁ。そんな事を思ったから、笑ってしまったのだ。不器用ながらも人を喜ばせようと必死で。だからついつい笑ってしまった。くすくすと、十数秒続いた笑いはユキ自身が深呼吸を混ぜながら呼吸を落ち着かせる事で止まった。

 

「うん、じゃあ寄らせてもらっていいかな?」

 

 その言葉にエルリックは目に見えてホッとしたようだった。どうやら、そんなの興味ないと突っぱねられるのが怖かったようだ。

 それに、ユキ自身、この世界の自然というのに興味があった――■が■■■世界が■■■■■■――

 本当に、不器用。そう思いながらユキは手に持っていた食べかけのパンを口の中に精一杯押し込んで水で流し込んだ。既にエルリックは食べ終わっており、あとはユキが食べ終わるのを待つだけだったので、二人はそのままバイクに乗った。エルリックも、もう自分の背中に当たる柔らかい二つの感触にも慣れたものだ。ドギマギするかしないかと言われればするのだが。役得だと考えている。

 

「じゃあ、とっとと――」

「待って」

 

 そうしてバイクを走らせようとエルリックがハンドルに手をかけた途端だった。ユキがエルリックの袖を掴んでそれを止めたのは。

 何かあったか。それを聞く前に、それはエルリックの耳にも聞こえてきた。

 

「馬車の音、か? あぁ、事故ったら大変だもんな」

「違う。なんか、様子が変。明らかに馬の負担を考えずに急いでいる」

 

 は? と疑問の声を返してから馬車の音を聞いてみると、確かに普通の馬車にしては車輪が回転する音が速く聞こえる。

 これでは馬がすぐに体力をなくしてしまってどこかでかなり長い休憩を強いられることとなる。そんな事になったら真夜中でしなくてもいい野宿をする羽目になる。

 だと言うのに、ここまで速く移動しているということは。

 

「魔物か魔獣に追われてる……?」

「かもな」

 

 だが、エルリックはそれを聞いても先程と変わらない表情でバイクのハンドルを捻ろうとする。そして、バイクの先を向けた方向が、馬車が通るであろうこの道を大きく迂回するルートを指しているのも、同時に分かった。

 ユキはそれを見て、すぐに止めた。

 

「なんで見殺しにしようとするの!? 助けないと!!」

 

 ありえない。そんな表情をユキはした。

 しかし、エルリックは冷静にそんなユキの声を跳ね除けた。

 

「こういうのは運が悪かった。ご愁傷さまで済ませるモンなんだよ。それに、助けに行ったとして俺等が死んだら死体が二つ増えるだけだ。だったら、何もせずに見逃すのが一番だ」

 

 自分の腕を過信して突っ込んでいき、死んでいくギルド員というのは決して少なくない。エルリックも、そういう同業者を何人も見てきた。そして、自分が弱いという事も、理解していた。そんな自分が向かったところで、とエルリックは何時も、そういうのを無視してきた。

 胸糞が悪い? 後悔しないのか? 恥ずかしくないのか?

 そんな事を考えられるのも命あっての物種だ。

 

「もし、あれを追っている魔物がお前より強かったらどうする。それで死んじまったら元も子もないだろうが」

「でも!」

「自分の力を過信してんじゃねぇぞ。人間なんてちっぽけな生き物は魔物や魔獣相手だったら簡単に死ぬんだよ。少し攻撃を受けただけで死んじまうんだよ」

 

 確かにユキは強い。

 だがもしも。ユキがオーガのような筋力の持ち主の拳を全身で受けたら? ホワイトウルフに噛み付かれたら? ゴブリンに頭を棍棒で叩かれたら?

 即死する事もある。そのまま苗床にもされるかもしれない。どちらにしろ、一撃でも攻撃を受けようものならそれだけで即死しかねない。それが、戦いだ。

 だから、しなくてもいい戦いはする必要はない。放っておけばいい。しなければならない戦いは、自分達が巻き込まれた時と、食うための金を稼ぐ時だけだ。

 

「俺達は勇者でも英雄でもない。無理に助ける必要なんてねぇんだよ」

 

 それに、馬車なんてものは普通、護衛が乗っている物だ。ギルド員の主な移動方法は馬車の護衛だからだ。

 それが戦っている音が聞こえないという事は、少なくとも護衛の人間は既に殺されている。何よりもユキを引き止めた点はそれだ。

 もし護衛の人間がユキ並に強い人間だったら? そう考えると、エルリックはユキを行かせる気にはならなかった。

 

「……だとしても」

 

 だと言うのに。ユキはエルリックの心を全部無視してバイクから降りた。

 

オレ()は……今にも死にそうな人を見過ごせない……ッ!!」

「あ、おい!?」

 

 ユキはそう叫ぶと、そのまま走り出した。その速さは、バイク程とは言えないが、明らかに人間の出せる全速力を上回っている。そんな速さだった。

 英雄的思考回路を持った馬鹿。それがあの子だった。

 あぁ畜生、とエルリックは顔を抑える。ユキが行かなければこれは見逃していた案件だ。しかし、ユキが行ってしまったのなら仕方がない。

 襲われている奴等はどうでもいい。ただ、ユキだけはどうしても見捨てられない。バイクを走らせ、ユキと並走する。

 

「おい! 行くんなら乗れ! 足代わりにはなってやる!」

「エルリック……!?」

「とっとと乗らねぇと逃げちまうぞ!」

 

 さっきまで全否定してきたくせに、とユキは思ったが、すぐに彼女はバイクに飛び乗った。これなら、間に合う可能性はグンと上がる。

 

「……エルリックのそういうお節介なとこ、オレは好きだよ」

「女の子が好きなんて言葉、容易く口にすんな」

 

 そして走るバイクの目の前に、馬車は現れる。

 その後ろを走っていたのは、オーガ……ではなく、その上位種とも言える、クイーンオーガとキングオーガ。オーガ夫妻とも呼ばれるそれは、単純計算で一体につきオーガ五体分の戦闘力を持っている。身長も八メートル近くと、なんで馬車が逃げれてるんだと不思議に思う位には大きなオーガだ。

 それを見たエルリックは。

 

「ちょっと急用が……」

「行け」

「はい」

 

 逃げようとしたが、後ろからユキに笑顔で首を絞められてハンドルを傾ける事は叶わなかった。男に二言は何とやら、だ。




Q:魔物、魔獣の強さがよく理解できない

A:オーガがRPG中盤の雑魚、今回のキングオーガとクイーンオーガがRPG終盤の雑魚レベル。つまり単体でも結構ヤバいレベル。自分の過去作の主人公二人を知ってるなら、そいつが仲間と一緒に全力で臨んでもオーガ夫妻相手は普通に死にかける。そこら辺歩いてちゃバランス崩壊レベル。


あー、もう(ユキの正体隠蔽が雑すぎて)滅茶苦茶だよ。

絶対に何人かはユキの正体に気づいてる。っていうかここまで人外級の強さ誇ってんだから分かると思う。

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