溶けゆく雪となって   作:黄金馬鹿

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十二の斬のサブタイの一部が間違っていたので変更しました。正しくは十二の斬/9:359です


十四の斬/9:358

 結局だが。あのオーガ夫妻はユキが無傷で一刀両断した。

 バイクから飛び出したユキはそのまま八メートル以上はあるオーガの身長を余裕で飛び越える程の大ジャンプを見せ、そのまま回転しながらキングオーガへと降っていき、一瞬で頭から股間までをその双剣で両断した。キングオーガはオーガよりも剣が入らない程の筋肉や骨の持ち主であった筈だが、ユキの剣技の前では塵芥も同然だったらしい。エルリックも、助けられた馬車の御者も、その中に乗っていた護衛らしきギルド員も。全員が真っ二つになって倒れるキングオーガを目を見開いて見送った。

 その後に聞いたことだが、ユキ曰く「え? 普通にあれくらいなら両断できるでしょ?」との事。馬鹿。そんな事出来たらキングオーガをそこまで恐れやしない。というかエルリックも、馬車の乗組員も、どうしてエルリックの片手剣よりも刃渡りの短い双剣でキングオーガの体を両断できるのか。それが不思議だった。キングオーガの横幅は大体一メートル以上はあるのに。

 そしてクイーンオーガはユキが消えたと思ったらいつの間にか首を飛ばされていた。本人曰く、認識の隙間へ潜り込んで普通に走ったとか言っていた。そんな芸当出来るかとその場にいた全員が叫びたかった。

 しかし、馬車からしたら助かったのは事実。死体を木の枝でつんつんして遊んでいるユキは置いておき、エルリックは一応ユキの小遣いとして馬車に乗っていた人からかなり多めの謝礼金をもらった。有り難くそれをいただき、お互いに気を付けようと一言だけ言葉を交わしてその場は解散となった。

 

「なんつーか」

 

 エルリックはそんな数十分前の出来事を思い出しながら、かいた胡坐の膝の上に肘を乗せ腕を立て、手の上に顎を乗せた状態で溜め息交じりの独り言を口にした。

 

「キングオーガとクイーンオーガと出会ったって実感が沸かねぇなぁ……」

 

 普通、キングオーガとクイーンオーガなんてエルリックレベルのギルド員が出会ったらその場で遺書を書き始めたり遺言を口にしても可笑しくない相手だ。オーガのように数で押してくる訳ではないが、数を差っ引いても有り余るオーガの完全上位互換である肉体は、大きいから的になるとか攻撃が当てやすいとかの次元ではなく、その大きさの暴力と、生半可な剣や弓矢では傷をつける事すら叶わない皮膚、筋肉の硬さ、骨の強靭さ、その巨体故の筋力から繰り出される人間なぞ簡単にミンチにできる拳等。

 そういった、生物として人間を超越している存在が、あのオーガだ。(オーガ)の名を冠するのは伊達ではない。

 実際に、あの馬車に乗っていた護衛のギルド員はエルリックと腕っぷしは変わらないか、それ以上の人間達だった。それが、こぞって逃げ出している事から、エルリックのような人間があれに立ち向かう事自体が無謀だという事が分かる。

 だと言うのに、だ。ユキはたった二回の攻撃でオーガ夫妻を両断して見せた。頭おかしいんじゃないか。

 

「エルリック! これ、結構気持ちいいよ!」

「はいはい。気に入ったならなによりで」

 

 そんな頭のおかしい疑惑のある少女であるが、現在進行形で綺麗な川の中に裸足で入っていってはしゃいでいる。どうやらその冷たさが丁度よく気持ちいいらしい。

 元からミニスカを履いていたため、特にスカートの裾を自分の手で上げるという事はせず、靴とニーソだけを脱いで川の中に入っているが、よく考えれば、なんで男なのにミニスカとニーソなんて物を恥ずかしがらずに履けるのか。エルリックはそんなどうでもいい事を疑問に思いながらも、ユキから視線をそっと逸らした。

 ミニスカ故か、ああやってはしゃいでいると結構見えてしまうのだ。前に滞在していた街で買い足した、服の下に着るような布が。エルリックのような青少年には目に毒とも言えるが、目の保養とも言えるものが。

 曲がりなりにも美少女のソレだ。意識しないわけがないが、ガン見して軽蔑されたら困る。エルリックの贅沢な生き地獄だ。

 それに、スカートから延びる、細すぎるとは言えないが、かなり細くて白い生足がなんともエルリックの劣情を誘い……

 

「……何考えてんだよ。アイツは男だろうが」

 

 寸での所で体良く男扱いしてそれを霧散させる。ユキが自分は男だと言ってくれていて助かった。それに、今現在、川の中で魚を素手でキャッチしている所を見れば、そんな劣情も抱かなくなった。

 なんというか。ペットが川ではしゃいでいるのを見ている気分になった。なったのだが、その気分もまた、川から飛んできた何かが自分の頬を掠って後ろへ飛んで行ったのを認知して霧散した。

 

「なにか失礼な事考えてなかった~?」

「ははは、マッサカカーニバル」

「そんなお祭り聞いたことないけど~?」

 

 ちなみに、この世界のとある地域ではマジで存在する。マッサカという街で行われる祭りなのでマッサカカーニバル。なお、エルリックも適当に言っただけであり、本当に存在するのを知って驚愕するのは暫く後になる。

 そんな事を知らないユキは、何となく感じた気配は気のせいだったかもしれないと自分の中で結論付けて、手に持っていた魚を川に離して、川に足を浸からせながら陸地に座った。

 なんだか、懐かしい気分になれた。こんな事、子供の頃からずっと無縁だったから。だからついついはしゃいでしまったが、果たして川に足を浸けた程度でここまではしゃぐ程、自分は子供っぽかっただろうか。

 あぁ、そうだった。昔から子供っぽいと言われていた。親友の■■■■からよく子供っぽいって言われていた。色々な所で子供っぽくはしゃいでは子供っぽいと言われたものだ。

 でも。

 その親友の名前、なんだっけ。

 

「おい、どうした? 足でも攣ったか?」

「え? あ、なんでもないよ? ちょっと休憩」

 

 思考が戻ってくる。

 そうだ。親友の名前なんてもう忘れてしまったじゃないか。もう、記憶は燃やされたじゃないか。居たということは覚えているが、それは――

 ――それは、いつだっけ?

 

「ったく……おい、返り血落としておけよ。髪の毛は大丈夫だけど、腕とかベットリだぞ」

「あ、うん……ちゃんと落としとく」

 

 川に足を浸けながら腕の血を落とす。

 あぁ、血って時間が経つとお湯じゃないと落ちにくいんだよなぁ。なんて経験から来る知識を思い浮かべながら。

 でも、そんな経験、いつしたんだっけ。

 腕を洗っていると、水面に自分の顔が映る。白い髪と、肌と、そして赤い瞳。作り物のようだと自分ですら思ってしまう顔を、腕を洗いながら見つめる。こうやって川で自分の顔を見つめる経験なんてあまりなかったような。なんて思い腕を洗い終えて、手を振って水を払う。

 そして、再び水面を見て。

 ――そこに映っていたのは、黒色の髪に白色の髪が混じった、鳶色の瞳の。顔を真っ赤な血で染めた一人の少女()で。それを違和感なく見つめている自分を思って――

 

「ッ!!?」

 

 反射的に川から飛び出て、距離をとる。

 今のは。

 今のは。一体、誰だ。

 

「お、おい?」

 

 エルリックの声すら無視して自分の顔をもう一度水面で見直す。

 その顔は、いつも通りの白色の髪と肌。そして赤い瞳の自分。どこもおかしい様子なんてない。そこに、黒色と白色の髪が混ざった、鳶色の瞳の少女の姿はない。

 幻覚、だったのだろう。深く息をつき、安堵する。

 どこも自分は可笑しくないと。

 

「ユキ? 本当にどうした?」

「え? あ、ううん。何でもないの。ちょっと、魚が足にぶつかってきて驚いただけ」

「魚が? まぁ、そりゃビックリするわな。そんな間抜けな魚が突っ込んで来たら」

「あはは……」

 

 だが、果たして今のは本当に幻覚だったのか。 

 確かめる術はないが、あまり心地いいものではなかった。川を何度か見てから、ユキはエルリックからタオルを受け取るためにバイクの方へと歩き始めた。

 ――いったい、自分(ユキ)は、誰なんだろう――

 

 

****

 

 

 結局バイクが街に着いたのはその日の夕方近くだった。

 陽が落ちるまでは残り一時間といったところか。一応時間通りといえば時間通りではあるが、もうちょっと陽は上っている物だと思っていたので少し焦ってしまったのは言うまでも無いだろう。

 若干気落ちしているユキに対してエルリックは若干首を傾げながらも、きっとその内いつも通りに戻ってくれるだろうと少しの期待を持っていたが、残念ながら彼女の心は暫し落ち込んだままらしい。もしかして、記憶を失う前になにかしら水難にでもあったのかとは思ったが、水に足を浸けてから暫くは落ち込んだ様子はなかった。だから、そんなことはないのだろうとは思う。思うが、果たして何があったのか。

 しかしそんな事を聞いても答えてくれるはずがなく、エルリックは困ったような、呆れたような。どっちか分からないような溜め息を口から吐いた。

 

「ユキ、先に宿の中で受付だけしてきてくれないか? 俺はバイクをどっかに入れてくるから」

「あ、うん……わかった」

 

 さっきからこんな感じだ。

 どれだけ聞いても生返事ばかりでどうにもパッとしない。折角川に連れて行ったのに無駄足だった。そうとすら思えてしまいそうだったが、それは違うと自分に言い聞かせながらバイクを馬車を置くためのスペースに置く。

 彼女が川を見てから暫くはかなり興奮していた。というか、楽しんでいた。だから、彼女が川に足を浸けて気落ちした、という訳ではない。気落ちし始めたのは彼女が足に魚が当たったとか言ったときからだった。

 

「魚、嫌いだったのかね」

 

 呟いてみる。勿論冗談だ。そんな事で彼女が気落ちするような事はない。

 ではどうして。

 分からない。さっぱり分からない。

 

「あーダメだ。考えても分かんねぇや」

 

 髪の毛を掻きむしりながら溜め息を零す。前から彼女には少し分からないような部分が少なからずあったが、それでも今の彼女は今まで以上に分からない。だからこそ溜め息を漏らす。というか、彼女の地雷がよくわからない。

 笑ったと思ったら溜め息をつき、ワクワクしたと思ったらいきなり変な表情をする。女心はよく分からないとは自負しているものの、ここまでとなると本気でよくわからない。彼女が自分の中を吐露してくれればありがたいのだが、しかしそうともいかないのが現状だ。

 もしかしたら、彼女自身よく分かっていないという可能性もある。

 

「なんつーか……よく分かんねぇよなぁ」

 

 エルリックは小さく呟きながら、バイクを停めて宿の方へと向かった。




返り血系少女ユキ。こいついっつも(返り)血塗れになってんな。

しかし……クソ雑魚主人公とは違ってかなり強い系主人公だから戦闘のカットがはかどるはかどる。
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