溶けゆく雪となって   作:黄金馬鹿

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今回も短くてすみませぬ。でも次回の戦闘を長くする予定だから許して……許して……(6/4時点で次話未完成)


十八の斬/9:367

 ドラゴンを殺す。そう告げた彼女の顔は、本気も本気。その表情の一切に冗談も優しさも無かった。

 人間の言葉を解しているドラゴン。一般的にそのドラゴンは、三百年以上前から生きているドラゴンだと言われている。

 その理由は、三百年前。つまり、英雄と邪龍の戦いが起こった頃。人間と協力し、邪龍を打ち果たさんとしたドラゴンの生き残りだと。そう言われているからだ。それ以降に産まれたドラゴンは、人間の言葉を解さない。人間との交流は、それ以降から途切れてしまったからだ。

 つまり、あのドラゴンは邪龍と戦い、生き残った。通常のドラゴンよりも遥かに強く、賢い個体だと。言葉を離した時点で確定しているのだ。

 それに命を狙われている。その恐怖がどれだけの物か。そんなもの、エルリックにしか分からない。だが、その恐怖は、例え人を簡単に数百人以上殺せるオーガ夫妻を一刀両断したユキが味方になってくれると告げられても、払拭できない物だった。

 

「ユ、ユキ。今からでも遅くないから俺を置いて――」

 

 逃げてくれ。そう告げようとした瞬間、ユキは自分の後頭部でエルリックの顔面を強打して無理矢理黙らせた。かなり痛いため、エルリックは涙目になって顔を抑えているが、ユキの表情はそれを見て揶揄うような表情ではなく、不愉快だと言わんばかりの不機嫌な表情だった。

 

「それ以上は怒るよ?」

「い、いや、でも……」

「エルリックがいなくなったら……誰が今日までのオレを覚えていてくれるの?」

 

 その言葉にエルリックは言葉を詰まらせた。

 過去を失い、未来だけを見る事しか出来ない彼女が。今日までの。目が覚めてから今までの事を記録してくれている人を失う事を容認できるわけがない。例えここで逃げたとしても、彼女は死んでしまうのだ。記憶を失い、『ユキ』という人間としての記憶を全て失って。生きてきた証を全て無くして。

 だから、前へ進むための土台として。エルリックはもう切り離せない存在になってしまっているのだ。

 自分を失う恐怖。殺される恐怖。それに背中を押されている二人だが。純粋な力ではユキの方が上。だから、エルリックは彼女を無理矢理にでもどうこうする事が出来ない。

 

「だからさ、生きてよ。オレが助けるから。あんなトカゲ、オレが倒してあげるから」

 

 それを笑顔で告げる。

 その笑顔を見て。エルリックは思ってしまう。

 彼女は、歪だ。

 

「……そうやって、自分から危険に首を突っ込んでいくのか、お前は」

「『助ける』ためだもん。仕方ないよ」

 

 彼女は。

 『助ける』事を、自分の命よりも重く見てしまっている。

 どんな時も。どんな日も。彼女は、自分よりも人を優先する。普通の人間ならエルリックの言葉を聞く前に逃げているのに。彼女は、ただ助けるために。無償の救済を与えるために、命を張ろうとしているのだ。

 彼女は、人を助けるためだけに生きている。自分ですら理解していないのかもしれないが、彼女は人間として歪。いや、生き残りたいという意志が一部、欠如している。

 彼女の言葉は。今までエルリックが、彼女は駄目男を量産すると思っていた言葉たちは、全部この歪な考えから持ってこられた物だった。

 

「……少しは自分のために利己的になれよ」

「充分に利己的だよ。オレは」

 

 嘘を言うんじゃない。

 そんな、人間としておかしいと言える思考回路を持っていて、どこが利己的だ。

 

「さて、戦闘前会話の時間は終わりだよ、エルリック。こっからは、ちょっと本気出すから」

 

 どこか、ユキの言葉に力がこもったような気がした。

 ――その瞬間。エルリックは自分の体がバイクと共に真横へぶっ飛んでいると知覚した。

 何故? どうして? と頭が疑問を浮かべる。そして、目の前にユキが居ない。それに気が付き、目だけを動かせば。ユキはいつの間にかバイクから降り剣を抜き、空から『落ちてきた』ドラゴンをその双剣だけで。双剣と己の力だけで、バイクとは反対側に弾き飛ばしていた。

 

「ゆ、ユキッ……!!?」

 

 吹き飛びながらもユキの名前を口にしたエルリックだったが、しかし彼女の名前を口にした直後、自分の体にとてつもない衝撃を感じて、エルリックはそのまま意識を失った。

 

 

****

 

 

 エルリックが高速でバイクと共に吹っ飛んでいくのを後目で確認しながら、ユキは痺れる両手で双剣を構える。両手の剣を順手で持ち、彼女の体が覚えている中で、最も素早く動く事に適した構えを取る。

 

「逢引の邪魔はしないでほしかったかな」

 

 苦笑しながららしくない軽口を叩き、頭の中で『こいつを相手にするなら、この構えじゃない』と考えを改め、そっと構えを変える。

 速さよりも、受け流す事に重点を置いた構え。右手の双剣を順手、左手の剣を逆手に構え、そっと左側を前に出す。ドラゴン相手に速さは無意味だと。直観的に感じ、攻めるよりも生きる事に重点を置いた構えを取った。

 ――しかし。

 

『逢引だと? お前にもそんな相手ができたか、『メグ』よ』

 

 その構えは若干崩れた。

 『メグ』。その名前を聞いた瞬間、頭の中を電流が走ったような錯覚に陥った。

 メグ。一体ドラゴンは誰と勘違いしているんだ? そう思いながらも、どこかその名前を否定しきれない自分が居て。

 

『貴様は()()()()くらいしか、仲の良い人間はいないと思ってたんだがな』

「そ、ふぃー……?」

 

 その名前を聞いた瞬間。再び頭の中を電流が走る。

 同時に、頭痛。思わず頭を抑えてしまう程の痛みと、『記憶』。それが自分の頭の中を過っていく。

 

 ――ソフィー。あなたは、私の最高の親友――

 ――じゃあね。大好きだよ、ソフィー――

 

 誰だ。

 これは誰なんだ。

 誰の記憶なんだ。

 頭の中を燻る、人の名前と、記憶。自分じゃない誰かの記憶が頭を走っていき、そして困惑しながら痛みに悶え。

 

『どうした、メグよ』

「し、らない……ッ!! オレは、知らない!!」

『なに……?』

「オレは、ソフィーなんて知らない……!! 『ソフィー・ヴァイストヘル』なんて人間、知らないッ!! オレは、私は、もうソフィーとは関係ないんだよ、『レイブンブランド』ッ!!」

『……何を言っているんだ、メグ』

 

 ソフィー・ヴァイストヘル。レイブンブランド。

 その名は、今までで一度も聞いたことが無い。しかし、口にした瞬間、その名前はとても懐かしい物だと。忘れてはいけない物だと、心が訴えてくる。

 しかし、ユキは知らない。ソフィー・ヴァイストヘルという三百年前に生きていた、天才という言葉が一番似合う錬金術師も。レイブンブランドという、三百年前に邪龍と英雄と共に戦い生き延びた、目の前にいる紅の龍も。

 ユキは知らない。何も知らない。

 

「オレはメグじゃない、ユキ!! メグなんて人、知らない!!」

 

 再び、構える。

 それを見て、ドラゴンが、レイブンブランドがたじろぐ。

 レイブンブランドにとって、メグという人間がどれほどの存在感を持っていたかなんて知らない。自分はメグじゃなく、ユキだ。どれだけ容姿が似ていたのだとしても、レイブンブランドの知っている人間ではないのだ。

 

『……そういうことか。つまり、覚えていないのだな。さてはソフィーめ、失敗したな』

「覚えていないんじゃない、知らない! 最初から!!」

『そうか。だが、お前がここにいる事こそが、メグが今も生きているという証明だ。故に――』

 

 ――手加減はしよう――

 そう告げて。

 レイブンブランドはそっと前足を持ち上げ、地面に叩きつける。それが戦闘開始の合図なのだとユキが思い知ったのは、その直後に、自分の周りに百を超える火球が生み出された時だった。

 

「ッ!!?」

『悪いが、あの青年は殺さなくてはならない。殺すことことが、お前にも。そしてソフィーにも一番なのだ。故に、考えは改めぬ。止めると言うのなら、我を殺してみせよ』

 

 レイブンブランドはそう告げる。

 未だに頭に響く頭痛も、電流も収まる事を知らない。

 しかし、それを無視して戦う事だけは可能だ。ならば、選択肢はただ一つ。

 

「上っ、等!!」

 

 エルリックを助けるために戦う。

 それが、ユキの選択だ。




ユキはエルリックを自分の記憶としても見てしまっている模様。なのでこれから記憶が全部消えてしまうかもと思うとエルリックを見捨てるなんてできないという依存。エルリックから突き放されたら大人しく去るけど、そうされなかったら延々と後ろをついて回ってしまうという。

そして一部情報開示。九話と十一話の伏字部分を開示。それと、ずっと伏字だった人の名前を開示。

現状分かっている事は、ソフィー、メグ、レイブンブランドは旧知の仲であり、ストームブリンガーが存在していた時代に知り合っていた模様。そしてレイブンブランド曰くユキ=メグであり、ユキもソフィーとレイブンブランドの名前を無意識で思い出しております。でもユキが川で幻視した姿はどうも今とは変わっているらしく……しかも、ユキって転生者で男じゃなかったっけ……? という感じです

多分、自分の前作を最後まで見ていた人はユキがどんな境遇なのか分かるかも。奴の設定と大分近い設定になっています。
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