溶けゆく雪となって   作:黄金馬鹿

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短いですが、決着。

もう致命傷負ってるユキですから、短期決戦しないと勝てませんしね


二十一の斬/7:8

「あー、全く。好き勝手やってくれちゃったよね。これ全治一か月はかかるよ」

『殺す気でそれだ。呆れる耐久力だ』

「オレを殺すならもっと勢い付けたらどう? 生憎、即死を致命傷にする程度の経験は体が覚えているんだよ」

『化け物め』

「それはお互い様」

 

 鱗が少し砕けただけのレイブンブランドと、半分死に体のユキが再び対峙する。

 状況を見れば、ユキがこの十秒後に死んでいても全く可笑しくない。しかし、それでもレイブンブランドは気を抜かない。

 彼女は。いや、逆境武人は追い込まれれば追い込まれるほどその力を際限なく引き上げ、強めていく一種の反則技。文字通りのチートだ。それのもたらす力は、最早神殺しすら成し遂げてしまうほど。英雄が持つに相応しい力。故に、一切気を抜けない。一瞬。たった一瞬、彼女を自由にしただけで自分は細切れにされると分かっているからこそ、一切の気を抜けない。

 しかし、それはユキも一緒だ。

 相手は龍種の中でもトップクラスの力を持っていると『覚えて』いる。故に、逆境武人にかまけて一瞬でも力を抜こうものなら自分の体はそこで折れる。そして、少しでも油断をしたらレイブンブランドに焼き尽くされる。絶体絶命にして逆境も逆境。故に逆境武人も力を与えてくれているが、しかしそれでも一切の気を抜けない。

 故に。

 二人が浮かべた表情は。

 笑顔だった。

 

オレ()のために死ねえええぇぇぇぇぇぇ!!』

 

 レイブンブランドは世界を救うため。

 ユキは大切な人を助けるため。

 お互いがぶつかり合う。

 レイブンブランドが無尽蔵に生み出す炎をユキが一瞬の内に戦場を移動し切り刻み、ユキが最早レイブンブランドの認知できる速度を超えた、音速に近い速度で移動していることを理解した彼は一瞬で炎を目くらましにつかい飛び立つ。

 しかし、それをユキは追う。空中で『空気』を蹴り、空を駆けるのだ。

 文字通り化け物の所業としか言えないそれを、レイブンブランドは予想の藩中だと切り捨てそれを火球と火炎放射を以ってして迎撃する。しかし、今のユキはそれすらも完全に完璧に対応して見せる。

 ならばと。レイブンブランドは自分の周りの酸素そのものを全て焼き尽くして見せる。これなら、むやみやたらとここまで踏み込めやしないだろうと。

 だが、それすらもユキは押し通る。焼き尽くされた酸素と、それに伴う高温の空気の中を一瞬で突き抜け、レイブンブランドの翼を切り裂く。出血と、レイブンブランドの肉が焼ける音がするが、しかしそれでもレイブンブランドを殺すには至らない。

 

『龍は翼なぞ無くとも飛べる事を忘れたか!!』

 

 レイブンブランドは落ちない。

 十トンは余裕であるであろうその体を空へ飛ばしているのは、翼だけではなく魔素を使った、疑似的な魔法だ。炎を作り出すという超常現象を起こせるのだから、それを使って自分の体を浮かせないわけがなかった。

 故に、レイブンブランドは酸素の焼き尽くされた空間の中で滞空を続け、自らの認知可能な速度を超え空中を駆けるユキを焼き尽くすため、自身を中心に真っ青な炎を生み出し、それを一気に全方位へ向けて放出する。赤を超えた青の炎。人間が触ろうものなら一瞬で焼き尽くされるであろう温度を保ったそれを、レイブンブランドは意のままに自身を中心に放出し続ける。

 避けてもいい。自分を中心に安全な空間を確保してもいい。

 だが、そうしていけばいずれこの炎はエルリックに当たり、彼は焼き尽くされ骨も残らず蒸発するだろう。それでもいいのなら、凌いでみせよ。レイブンブランドの、今まで決してすることのなかった、エルリックを巻き込むことを視野内に入れた攻撃。

 しかし、それすらもユキは超越する。

 

「さっきから炎ばっかり使って来て……!!」

 

 ユキは一瞬でエルリックの前に踊り立ち、そのまま両手の双剣を構える。

 

「うざったいんだよッ!!」

 

 そして、全力の鎌鼬を叩き込む。

 だが、その鎌鼬は炎を全て切り裂くことができない。力不足だ。

 

「ちっ……!!」

 

 なら。

 

「もっと寄越せ……!! もっと力を寄越せよ、逆境武人ッ!! 勝つだけの力を!! 全部ッ!!」

 

 もっと力を持ってくるだけだ。

 ユキの言葉に応え、逆境武人は更に力をユキに与えていく。そして、ユキの一撃は、レイブンブランドの炎すらも切り裂き、彼の体に大きな傷を刻み込む。

 

『ぬぅ!?』

「そこでそのまま突っ立ってんならそのまま殺す!! 斬り殺す!!」

 

 ユキはそのまま次々と双剣を振るっては斬撃を飛ばしていく。レイブンブランドもこのままでは炎が届く前に自分が殺されると悟り、炎を操ることを止め、空を高速で飛翔し斬撃を避けていく。

 目には見えない。だが、大気中の魔素を斬り進んでいくのだけは分かる。故に、その斬撃がどこへ飛んでいくのかは手に取るようにわかる。が、この飛翔も長くは続かないとレイブンブランドは悟っている。ユキの学習速度と、そして自分の傷の深さ。

 鱗がある故に人間なら火傷では済まない温度の大気の中を平気な顔で浮遊していることができたが、鱗を剥がされ肉が見えればそれは別だ。彼の翼の断面と、胸に大きくついた十字の傷の内側は酷い火傷となっており、空気に触れるだけで激痛が走っている。それを表情と声に出さないのは彼の経験と力故だが、このやせ我慢も長くは続かない。

 だが。

 

「くっ、ちょこまか、と……っ……?」

 

 ユキの足が唐突に崩れた。

 それと同時に彼女の視界がブラックアウトしかける。

 

「しまっ……血を、流しすぎた……!」

 

 それが血を流しすぎたことによる貧血から来るものだと、ユキは知らないはずの経験から察する。

 逆境武人を使えば無理矢理にでも立てるが、先に肉体の方の限界が来てしまうのは、明白だった。

 最早致命傷としか言えないその傷で生物を超越した速度を叩き出し、空中を駆ければ肉体の方が先に限界を迎えるのは自明の理であった。膝をつき、定まらない視界で、未だ血を流しながらも立ち上がろうとする。

 しかし、それは決定的な隙。レイブンブランドがユキを完全に再起不能にするには十分すぎる隙だった。

 

『脆弱な肉体を呪うがいい、ユキよ!!』

 

 レイブンブランドの口の中に生み出される青色の火球。それが、ユキとエルリックを巻き込んだ周囲一帯を更地にできる程度の威力が秘められていると理解するのは簡単だった。

 立ち上がろうとするユキ。しかし、その足は震え、いう事を聞かない。両手で一本の剣を杖にして立とうとしても、だ。

 

「クソっ!! このまま殺させてたまるかよ!!」

 

 ――だが、そんな彼女の後ろからエルリックが、ユキが地面に置いたもう一本の剣を片手に彼女の前に出てくる。

 

「この子が死ぬ道理なんて無い……! だから!!」

 

 双剣の一振りを両手に、エルリックは構える。彼の普段使う剣よりも短く小さなそれは、意外にも彼に手にしっくりときた。いや、きすぎた。

 まるで自分の中から何かが湧き上がってくるような感覚。それを振るえという声が聞こえてきそうな気がして。エルリックはそれを両手で上段に構える。

 

「一回くらい守らせろ、『ストームブリンガー』ッ!!」

 

 剣の名を叫ぶ。

 その瞬間、心臓が一度だけ、大きく跳ねた。

 そして彼の周りを『暴風』が包み込む。

 

『なんだと!? まさか、その剣の力を使って自力で『ストームブリンガー』の力を呼び起こしたのか!!?』

「なんだか知らねぇが……こいつを持っていけッ!!」

 

 そしてエルリックが剣を振るうと同時に、彼の周りの暴風は竜巻となり、同時に放たれたレイブンブランドの蒼炎の火球と真正面からぶつかり合い、大気が、魔素が暴れ狂い、エルリックの生み出した暴風が火球を完全に相殺して見せる。

 その相殺により、完全なる空白が生まれる。

 誰も動かない、動けない空白が。

 その中を、白が駆ける。

 

「ありがとう、助かったよ」

「……あぁ、俺も。助かった」

 

 竜巻の軌跡をなぞる様に白が、ユキが駆ける。

 

「これで、終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 彼女は、両手で握った剣をレイブンブランドの胸の十字の真ん中に突き刺し、そのまま最後の力を振り絞り、思いっきりレイブンブランドの額の鱗を蹴り砕き、その巨体を地へと失墜させ、更に追撃と言わんばかりに墜落したレイブンブランドの額へ膝蹴りを叩き込み、レイブンブランドの意識を刈り取った。

 土煙が舞う中、ユキは静かにレイブンブランドの胸から剣を、ストームブリンガーを抜き取り、掲げた。

 それこそが、勝利の証だった。




まぁ、この時点で伏線盛沢山。全部回収しきれるか不安です

次回は後始末、というかその後のお話
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