蛮勇カイン・ザ・バーバリアンヒーロー   作:キンメリア人

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蛮勇カインと拳者の石

悪鬼の如き形相を浮かべた二十人ほどの村人達が、ひとりの旅人を取り囲んでいた。

村人達の手には、鎌や収穫フォーク、棍棒などが握られている。

 

旅人は両手を合わせ、見逃してくれと村人達に向かって必死に頼み込んだ。

 

「駄目だっ、ここから逃がすわけにゃいかねえっ」

 

先頭に立っていた四十絡みの男が、怒鳴りながら旅人の顎目掛けて、棍棒を下から掬い上げるように叩きつけた。

男に顎を砕かれ、もんどり打つ旅人──そこから一気に飛び込んできた村人達が旅人を縛り上げた。

 

「お前には、わしらの為に死んでもらうぞ」

 

人垣から現れた五十半ば程の男が、粗縄で縛り付けられた旅人に声をかける。

他の村人たちとは違い、野良着や粗末な服を着けていない。

 

先ほど旅人を棍棒で殴りつけた男が言う。

「それじゃあ、名主様、こいつはいつも通り土蔵に閉じ込めておきますんで」

 

「うむ、では頼んだぞ、ゴンザレス」

 

顎を砕かれた痛みで呻き声を上げる旅人、ゴンザレスと呼ばれた男が、他の村人と共に旅人を担ぎ上げる。

そして旅人は村にある土蔵へと押し込められた。

 

 

 

 

閑散とした街道を進んでいく。人の往来はほどんど見られなかった。

街道の両側沿いから延々と広がるのは、青々とした牧草だけだ。

 

「次の村まであとどれくらいかしら……」と栗毛の馬に揺られていたマリアンがこぼす。

いつもの事だ。

 

「そんなに野宿が嫌なら付いてこなけりゃいいのによ、なあ、カインの兄貴」とアルム。

この少年は、今ではカインの従者の真似事をしていた。

 

「何よっ、口の減らない奴ねっ、平民が貴族にそんな口を聞いていいと思ってるのっ」

 

「は、口が減ったらどうやって飯を食うんだよ、あんた、馬鹿か?

それとも貴族ってのは揃いも揃ってこんなのばっかなのかねえ」

 

癪しゃくに触ったとばかりに眉根を釣り上げ、マリアンがアルムを睨みつける。

 

だが、アルムはどこ吹く風と言いたげに口笛を吹いた。これに益々腹を立てるマリアン。

どこかひねくれているアルムは口が悪く、貴族娘のマリアンは気が短い。

 

だからすぐに喧嘩になる。そんなふたりをカインが諌めた。

「お前達、もう少し仲良くしたらどうだ」

 

「嫌よっ、誰がこんな奴と仲良くできるっていうのよっ」

「俺もこんないけ好かない女は嫌いだあな」

 

一事が万事、こんな調子だ。それでも見ている分には退屈しない。カインは口端を微かに歪めて笑った。

あるいは案外、このふたり、相性が良いのかもしれない。

 

それから三刻(約六時間)ほど馬に揺られていた一同は、ようやく見えてきた村を仰いだ。

空は既に薄暗い。

 

「これで野宿せずに済むわねっ」

 

元気を取り戻したマリアンが村まで馬を走らせる。その姿にカインとアルムは苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 

カノダ奪還後に大学に戻ったカインは、再びグリニーの研究室で時間を潰すようになった。

その時、蔵書庫でグリニーは古い文献を漁っていた。何か面白い道具は作れないかと。

 

そこでグリニーの目に、とある文献が止まった。

文献に記されていた内容──それは「拳者の石」についてであった。

 

世には二つの秘石あり。一つ目は「賢者の石」そして二つ目がこの「拳者の石」だ。

賢者の石が知恵の象徴であれば、拳者の石は力の象徴である。

 

グリニーから拳者の石に関する文献を見せられ、カインは俄然興味を抱いた。

まずはその名前の響きだ。

 

拳者の石──男であればこの名前に何かしらのロマンや力強さを感じるだろう。

 

荒野の野生児であるカインも又、この名前が持つアバンギャルドでキャッチュな響きに魅せられた。

 

こうしてカインは拳者の石を見つけるべく、旅に出たのだった。

勝手に押しかけてきたマリアンを連れて。

 

 

 

村にあった清水で顔を洗うと首筋を洗うマリアン──清潔そうな手拭いで水気を取っていく。

 

「それにしても誰もいねえな。ここは無人の村なのかな」

と、キョロキョロしていたアルムがこぼす。

 

アルムの言うとおり、確かに村には誰もいなかった。首を捻るカイン。

農作業でもしているのかと畑の方も見たが、やはり村人の姿はなかった。

 

これは不自然だ。この村で何かがあったのかもしれない。

 

村人総出の山狩りでも女子供は村に残していく。

となると、村に盗賊の一団でも出没し、それで村人全員がどこかに逃げたのか。

 

しかし、そうなると村に残された荷物が気に掛かる。

 

その時、カインは野性の本能で何かしらの違和感を覚えた。

 

「気をつけろ、二人共、何か来るぞ……」

 

カインの言葉にアルムがガンベルトから拳銃を引き抜く。

魔法の杖を胸元に構えて警戒するマリアン──視界の端で何かが揺れている。

 

よく見定めるとその正体は鬼火だった。

 

「カイン、魔物が現れたわっ」

「わかっている」

 

飛びかかってきた鬼火を両断すると、一行は安全な場所を探すべく村の中を走った。

 

「カインの兄貴、一旦あの土蔵に入って立て直そうやっ」

と、アルムが土蔵を指差す。

 

「うむっ」

カインは土蔵の戸を蹴破り、勢い良く中へと入った。


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