東方鉄拳翔~Iron Shrine Maiden~ 作:水石Q
☆今回の登場人物☆
射命丸文…天狗。『文々。新聞』という新聞を手掛ける記者。霊夢たちに異変発生を報せる。笑顔が眩しい魅力的な女性だがゴルフ中継でスーパーヒーロタイムが潰れた時の顔は凄く怖い。
チルノ…氷精。ある存在からの力を借り、強大な敵となって再度立ちはだかる。冬になってパワーアップ。ついでに知能もパワーアップ。林先生に「奴はヤバイ」と言わしめるほどの天才。
第一話 春を探しに
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~*『東方妖々夢』編 櫻の樹の下には*~
「櫻の樹の下には、屍体が埋まっている」
明朗な調子で読み上げられた文章は、けれども少女の高い声には似合わない、どこか物騒なものだった。
「じゃあ、ここは墓地か何かだろうな」
彼女と対面に座る少女──
「あのねぇ、私が人殺してそこいらに埋めとくような猟奇的な女に見える?」
「いやうん、見えないな。消し炭にしてそうだ」
「ぐ……てか、なんであんた等もいるわけ?」
霊夢は左右に視線を巡らせる。
「ふふ、友人の家に遊びに行くのは普通の事ではないかしら? それに、一度日本のコタツとやらを体験してみたかったのよ。しかし良いわねこれ……ぬくぬく……にゅふふ……」
「ね、魔理沙、雪合戦しよ雪合戦!」
並んで炬燵に足を突っ込んでいるのは、レミリアとフランドール、スカーレット姉妹であった。夏に起こった紅霧異変の首謀者とその妹であり、今は何故かなつかれてしまっている。
フランドールがはしゃぎながら指差す境内は、しんしんと降り積もる雪で覆われていた。こんもり積もった雪は、確かに雪合戦にはうってつけだろう。
「雪合戦か……雪合戦ね……。神社に風穴を空けないよう加減が出来るようになってからなら一緒に遊ぼうな」
フランドールがぶーとむくれ、霊夢が肩を小刻みに震わせる。社務所の壁に空いた穴は、弾幕用の御札で塞がれていた。応急処置と言うには、あまりに心許ない。
「フラン様は、帰って
姉妹の対角から口を挟むのは、メイド服姿の少女、
「あ、そうだった。ごめんね魔理沙、雪合戦はまた今度ね」
「何で私が断られたみたいになってんだよッ。逆だろ普通」
文句を垂れつつも、魔理沙は蜜柑をひょいひょい口に放り込んでいく。いつの間にかその場の全員が蜜柑を頬張り始め、沈黙が降りる。
その沈黙が破られたのは、そう間は置かれなかった。
「ごうがい、ごうがーい!」
怒鳴り声を上げつつ境内に降り立つ影があった。艶やかな黒髪を肩の辺りで切り揃え、その背中からは鴉の羽根が生えている。身につけた兜巾と高下駄から、どことなく天狗を思わせる少女だった。
「
「皆さん、異変ですよ異変ッ! 終わらない冬! 降り止まぬ雪! 地脈の著しい霊力欠乏! 百パーセント限りなく完全に異変ですよこれは!」
早口でまくし立てる文を尻目に、霊夢は新聞を手に取った。【天を裂く大穴 新たなる異変か!?】と大々的に書き出された見出しの横に載っている写真を見て、微かに眉を動かした。
それは高所から魔法の森の景色を写した写真だった。吹雪の中撮影したのか、かなり不鮮明だ。
霊夢の視線はその写真の中央に吸い寄せられた。
雪雲を切り裂いて、ぽっかりと穴が空いている。そこから竜巻を逆さまにしたようなものが、その穴へ吸い込まれている。地脈の著しい霊力欠乏。文の言葉が甦った。
「霊力が、吸い上げられている……?」
「流石霊夢さん」と、文が人差し指を立てた。
「四月の上旬から同様の現象が相次いでいます。この異常気象は、恐らく地脈から急速に霊力が失われた事で、気温が冬季のまま上がらない事によるものと思われます」
「異常気象?」
レミリアが外を見やる。相変わらず、はらはらと雪が降り続けている。
「今、何月だっけ?」
「えと……」
壁に掛かった日めくりカレンダー。その日付は。
「五月、三日」
雪はとっくに解け、桜の花さえ散ろうとする頃合いになっても、幻想郷は白銀に染まっている。確かに異常事態だった。
「これは、異変ね……」
「そうなんですよ。つきましては、私から皆さんに依頼したいのです。明けぬ冬、覚めぬ春を引き起こすこの“春雪異変”を、お二方に止めていただきたいのです。
霊夢は立ち上がった。既にして、その瞳には決意の炎が宿る。
「行くわよ、魔理沙。花見が出来ない博麗神社なんて、存在意義の八割を失ってるわ」
「それ神社としてどうなんだ?」
言いつつ魔理沙も炬燵から這い出る。
レミリアとフランドールは二人の様子を眺めた後、顔を見合わせてにまーっと笑った。
「さーくーやー♪」
一オクターブ高い猫撫で声。咲夜の体が動物的本能でもって危険を感知し、ブルルッと震えた。
「お、お言葉ですがお嬢様。私は紅魔館の家事の全権を任されている身。責務を放り出して異変解決にうつつを抜かすわけには──」
そう言い募る咲夜の目の前に、一枚のメモ書きが滑り込んでくる。
『紅魔館特別有給許可証』という手書きの文字列を見て、思わず頭を抱えた。
「逃げ場がない……ッ!」
「家事は美鈴に任せておけばいいわ。貴女が来る前は、あの子がメイド長をやっていたのよ? 大体、何をそんなに嫌がっているの? 咲夜の実力なら、危険はないはずよ」
「だってこんな寒い中外に出て犯人捜しですよ? きっと空を飛んでいる途中で氷漬けになって終わりですよ」
咲夜の言う通り、現在の気温は五月のそれては思えないほど低かった。身を刺すような寒気も、異変の影響なのだろうか。
「あら、じゃあ」
レミリアは床に置いてあった
「それ貸してあげる。マフラーの防寒効果って、結構馬鹿に出来ないのよ? ……貴女も幻想郷に生きる人間である以上、霊夢たちに協力するのもアリだと思うの」
咲夜は暫くマフラーとレミリアとを見比べていたが、やがて溜め息を吐いた。今までレミリアの思いつきや我が儘に振り回される事は多々あったが、よもや異変解決へ向かわされるとは。
「……承りました。十六夜咲夜、我が主とこの地の平穏の為、この異変を解決しましょう」
マフラーを首に手早く巻き、咲夜は二人の後を追う。
──こういうのも、悪くはないかも。心のどこかで、そう思い始めていた。
幻想郷の地に、三人の英雄が立つ。
紅の拳、
疾風迅雷、我が意のままに、霧雨魔理沙。
白銀の執行者、その刃は時を越える、十六夜咲夜。
三人は北風に髪を靡かせて、境内から見下ろせる大地を見据えていた。
「……行こう」
霊夢が踏み出し、空へ浮かび上がろうと霊力を放出した瞬間──
「ンなぁーッはっはっはっはっ!」
唐突な高笑いに一同が上を見上げると、氷の翼を持つ少女──“
「あいつは……?」
咲夜が二人へ視線を巡らせると、二人は一様に「うわぁ、出た」と言わんばかりの表情をしていた。
「うわぁ、出た……」
言った。
「紅白と白黒! 夏のあの日はよくもやってくれたわね! ここで会ったが百年目、今こそセツジョクを晴らすとき!」
咲夜は懐から取り出したナイフを構えた。襖からこちらを見つめるスカーレット姉妹に、目線で隠れておくよう伝える。
「見たとこ妖精みたいだけど……どうする? 私一人でも十分だと思うのだけど」
「いや、咲夜。あいつはバカだが無能じゃない。ただの妖精だと舐めてかかったら、死ぬぜ」
「よくもやってくれたと言っても、本当にギリギリだったのよ。私と魔理沙が力を合わせて、
霊夢は腰を落とし、構えを取った。魔理沙も魔法陣を展開し、八卦炉をチルノに向ける。
「総力戦よ、二人とも。一時も気を抜いては駄目」
お読みくださりありがとうございました。
『東方妖々夢』編、これからお付き合い願います。うちのちるのちゃんはつよいのだ(小並感)。
では、また次回。