東方鉄拳翔~Iron Shrine Maiden~ 作:水石Q
☆今回の登場人物☆
チルノ…氷精。冬になってパワーアップ。最近自身のやられ役化が著しいと懸念するようになり、児相への談判を検討している。
レティ・ホワイトロック…雪女。とある理由からチルノに力の一端を渡し、霊夢たちへけしかける。ふとましいだの何だの言われているがそんな事はない。ないのだが、正月に三キロ太った。
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散開した瞬間、石畳をかち割って、無数の氷柱が幾重にも突き上げてきた。辛うじて回避した霊夢は、背中に差した大幣を引き抜くと、チルノの足を目掛けて振り上げた。先端が足首に絡まり、霊夢はそれを力を込めて引き下げる。
「ぬわ!?」
チルノが体勢を崩し、地面に落ちてきた。これで拳が届く。
起き上がったところを素早く懐に潜り込み、顎を狙ったアッパーを繰り出す。ヒット。仰け反ったチルノの胸に膝蹴りを叩き込む。チルノは数メートル吹き飛び、石段を転がり落ちていった。
「どうする!?」
「追う!」
霊夢は魔理沙と咲夜を伴って石段を一息に飛び降りた。氷精の姿は見当たらない。どこかへ逃げたのか? いや、気配はある。まさか。
「霊夢ッ!」
魔理沙が叫んだ。素早く視線を巡らせる。参道を挟む深い森が広がっている。その木々の間で、何かが光った。
刹那。空気を切り裂く氷柱の弾幕が、鋭い先端を光らせて飛翔してきた。
「くっ……」
「ずぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「……」
大幣で、箒で、ナイフで、氷柱を弾いていく。次から次へと息つく間もなく、敵を貫かんとする様は正に弾幕。正に悪辣。一分の隙間もない、全方位からの射撃。やはり強い。妖精と言うには、あまりに規格外だ。
しかし、
霊夢は目と鼻の先に飛んできた氷柱を掴むと、首を動かさずに後ろへ投擲。投げられた氷柱は咲夜の後頭部を今にも貫かんとしていた氷柱を粉砕する。
「咲夜」
「分かってる」
咲夜は懐中時計を取り出すと、能力を発動。濃青の瞳が紅く赤熱し、深紅に染め上げられる。それと同時に、世界は、その活動の一切を停止した。
静止した時間の中で、動けるのは咲夜だけ。咲夜はどこからか夥しい数のナイフを取り出すと、宙に飛び上がった。
能力、解除。
世界、鳴動。
天から降り注いだ白銀の雨が、氷柱を余さず撃墜した。
のみならず、森の奥から悲鳴。肩から血を流しながら、チルノが転がり出てきた。やはり、木の陰に隠れて弾幕を撃ってきていたのだ。
「やーっと出てきた。さ、
霊夢が地面を踏み鳴らして歩み寄る。チルノは歯を剥き出して立ち上がると、右手を宙にかざした。その細腕がパキパキと氷を帯び、研ぎ澄まされた刃の形を成す。氷の造形術。紅霧異変の際にも目にした、チルノの得意技だ。
霊夢の横に、魔理沙と咲夜め並び立つ。
「ぐぬぬ、三対一なんて卑怯だぞ!」
「なぁに言ってんだ、戦いってのは卑怯な方が勝ちで、勝った方が正しいんだよ」
「そこを通してくだされば、乱暴な真似は致しませんよ」
「さぁ、どうする?」
その時。
食い縛られたチルノの口が、ニィッと歪んだ。
「なーんてね! 本当はあたい一人じゃあないんだッ! レティ!」
吹き曝していた雪が、チルノの頭上に渦巻く。局所的吹雪は一瞬球形にすぼまり、そして弾けた。
弾けた球の中からは、一人の少女が出てきた。ゆったりとした服装の、チルノより少し背の高い少女。
何度か霊夢も目にした事があった。レティ・ホワイトロック。毎年冬になると幻想郷に雪を振り撒く、所謂『雪女』である。
「まさか、こうも早く人間が嗅ぎつけてくるとはね。悪いけど、ここを通すわけにはいかないわ。全員氷漬けにして、人里に飾ってあげムング」
言い終わるより先に、跳躍した霊夢の拳がレティの顔面にめり込んでいた。そのままレティを道連れに自由落下を始めながら、魔理沙と咲夜を振り向く。
「咲夜! あんたはそこの氷精を何とかして! 私と魔理沙はこいつを倒す!」
「え……!?」
「季節が冬の以上、冷気に関連する
霊夢の意図を汲んで、魔理沙が箒に飛び乗った。
「大丈夫だ咲夜。あいつは敵の力量を測る事に関しては天性のもんがある。お前がチルノに後れを取るなんて有り得ないぜ」
「……分かった」
咲夜はナイフを取り出し、逆手に構えた。
「ふーん、あんた一人が相手なの? 無謀だね」
チルノは両手を広げると、自分の周囲に空気さえも凍りつかせる冷気を漂わせる。
「冬が来て最強の妖精となったあたいが負ける要素など無い! かかってこい、先に攻撃させてやるわ!」
「──あら、いいの?
「は?」
刹那、目の前から咲夜の姿が掻き消えた。ハッとして周囲に目をやるが、あのメイドの姿はどこにも見当たらない。
「クソッ、どこだ!」
「ここよ」
背中に凄まじいまでの寒気が走る。体の感覚が消えかかるほど肌が粟立ち、脳が逃走を訴える。戦意の炎が突風に煽られて大きく揺らぐ。咲夜が後ろに立っている。チルノの首に、ナイフの切っ先を突きつけて。
どうする? 振り向く暇はない。敵の姿を収める事なく首を落とされて死ぬ。
ならば、振り向かずに仕掛けるまで。
チルノの背中に浮かぶ、氷でできた三対の羽根がビキビキと肥大化し、咲夜を包み込むように殺到した。だが、氷の握撃は、何も掴まなかった。チルノは振り向き、咲夜と対峙する。
「防ぐのね、二人の言っていた通りだわ」
咲夜はナイフのような光を湛えた目でチルノを見据えていた。口調は穏やかだが、全身からは黒ずんだ殺意が滲み出している。
チルノは束の間そんな咲夜に臆したが、すぐさま切り替えると駆け出した。死角である頭上から氷柱の雨を降らせる。咲夜は目敏くそれに気づくと、後ろに跳んで回避する。咲夜の体が宙に浮いた瞬間を見計らって、彼我の間に氷の壁をいくつも現出させる。続いて氷のつぶてを連射。つぶては壁にぶつかり、進行方向を変え、複雑な軌道を描いて咲夜に迫る。
咲夜は能力を発動。全弾が静止し、空中で
「……ッ!」
垂れてくる鼻血を、親指で拭う。能力の発動時は、止めている時間の長さと程度の値が大きいほど、多大な集中力を要する。完全停止を二度も使用した今、咲夜と言えど限界は近かった。
能力解除。同時に、チルノの懐に素早く潜り込む。氷のつぶてが、背後の虚空を貫いた。
チルノは突然眼前に現れた咲夜に一瞬驚いた表情をしたが、すぐさま氷の剣を創り出し、突き込まれてきたナイフをいなす。リーチの差はあれど、相手の得物は細剣。速さならば咲夜より勝る。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
裂帛の気合と共に、チルノが剣を振るう。流派もへったくれもない、滅茶苦茶な剣術。だがそれ故に、軌道は千変万化であり、剣の道に熟達した者を相手取るのとはまた違う難しさがある。
対する咲夜はナイフを逆手に持ち、格闘を織り交ぜた戦法でチルノと渡り合っていた。突きを払い、横薙ぎをかわし、斬り下ろしを弾く。そして生まれた僅かな隙を縫って反撃する。素人は、たとえ刹那の間でも、動きを封じれば御しやすくなるものだ。危機回避における頭の回転、咲夜はそこを突いた。
「シッ……!」
遂に咲夜の切っ先が、浅いながらチルノにヒットした。ブラウスの襟元に結びつけられた赤いリボンが裂け、雪の中を舞った。怯んだチルノが、剣を取り落とし後ずさる。今だ。咲夜は駆け出し、そして――
「は……」
氷の張った水溜まりに気づかず、盛大に足を滑らせた。
受け身も取れず、背中から地面に叩きつけられる。
何故だ。さっきまでここの地面には何も無かったはず!
その時、視界の端で取り落とした剣を拾い上げた氷精が、こちらに走ってくるのが見えた。
(そうか……私が踏み込むタイミングに合わせて、私の足許を凍らせたのか!)
咲夜は目を見開く。細剣の切っ先は、最早目と鼻の先だった。
(……でもね)
咲夜は上を見上げる。その手には懐中時計が握られていた。
「私が何の策もなく、本気で妖精ごときの仕掛けた罠に掛かるとでも?」
チルノが弾かれたように顔を上げ、
「何ィッ!?」
と声を上げた。
チルノの頭上からは、無数のナイフが降ってきていたのだ。転んだ瞬間、能力で時間を止め、上空にバラ撒いておいたのだ。咲夜に隙が出来た瞬間に、チルノは打ちかかってくるだろうと予想して。
「なるほど、あたいの行動を読んで――考えたな人間……だがッ!」
チルノは人差し指を頭上に掲げた。たちまち冷気を伴う突風が巻き起こり、勢い良くぶつかってくる氷の粒に、咲夜が投げたナイフは一瞬にして粉々にされてしまう。あれではチルノを刺し貫く事などできはしない。
「なーっはっはっはっはっ! これでお終いだ、十五夜ザクローッ!」
チルノの剣が、再び咲夜を貫かんと迫る。
「……なぁんだ」
しかし、咲夜、ここにきてなお冷静。拍子抜けした調子で呟くと、新しいナイフを構えた。
「こんなに強いのに、こういう所は変わらないのね。
チルノの目が、驚いたように見開かれる。
「ナイフを真上に投げたのも計算ずく、氷の罠に引っ掛かったフリも、束の間のお喋りも、全部あなたの気を引くための策。お陰で、たっぷり溜まったわよ」
そう言った咲夜の手の中で、ナイフが白銀のエネルギーを帯び始める。魔力が込められているのだ。それも、純銀を器にしてもまだ足りぬ、膨大な魔力が。
「時符『パーフェクトスクエア』」
咲夜、ナイフを投擲。チルノ、反射的に首を逸らして避ける。明後日の方向へ飛んでいったナイフは、しかし空中でとあるモノに衝突し、跳ね返ってこちらへ返ってくる。
「いぃっ!?」
チルノ、また避ける。だが、またもや投擲されたナイフは跳ね返り、チルノに迫る。
どういう事だろうか。今しがた咲夜が投げたナイフが、まるで意思を持つ生き物のように、チルノを狙って縦横無尽に辺りを飛び回っている。
そこでようやく、チルノはそのからくりに気づいた。ナイフだ。チルノが先程砕いたナイフの破片が、咲夜の投擲したナイフを跳ね返し、軌道を変えているのだ。
「こいつっ、真似しやがった!」
キラキラと光る欠片を睨み、チルノは背後から迫ってきていたナイフを上空へ跳ね上げた。あそこなら破片はない。跳ね返せるものなどどこにも――
「チェックメイト」
いつの間にか跳躍していた咲夜が、空中でそれを手に取る。――まさか、さっきのもブラフッ?
「……っそ、そんなバカなぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
絶叫に広げられたチルノの口腔に、必殺の刺突が容赦無く捩じ込まれた。
喉から噴水の如く鮮血を噴き出しながら、最強の妖精・チルノは、憎き人間に二度目の敗北を喫したのだった。
咲夜が地面に降り立つと同時に、チルノの身体が細かい氷になって風に攫われていった。
「妖精メイドよりは骨があると思ったのだけれど、まぁこんなものよね。明日の来世では私に会わないように祈りなさいな」
お読みくださりありがとうございました。
チルノ、書き始めた頃はかなりの強キャラになる予定だったのに、口調も相まって小物感がやばい。妖精大戦争編とかやるようになった時には改善しますかね。
取るに足らぬよもやまは置いておいて、では、また次回。