東方鉄拳翔~Iron Shrine Maiden~ 作:水石Q
☆今回の登場人物☆
アリス・マーガトロイド
人形師であり、魔理沙と同じく魔法使い。自作の人形を使った多彩な連携攻撃が持ち味。
巷では催眠ネタで大人気(?)だが、本作でもその精神干渉への耐性の低さを遺憾無く発揮する。
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「れ・い・む・の・バ・カ・野・郎ォォォォ!」
魔理沙は髪に絡みついた葉っぱを払い落としながら、森の中を憤然と進んでいた。
マヨヒガ前で霊夢に投げ飛ばされ、木々の間を後ろ向きで猛スピードですり抜けるというスリリングすぎる飛行体験ののち大木の枝に襟首を捕まえられてからかれこれ一時間。
がむしゃらに撃ちまくっていた魔法弾がようやく枝をへし折り、魔理沙は地面に降りる事が出来た。それと同時に、マヨヒガの方で巨大な
そして今度は、霊夢に文句を言ってやる為に来た道を戻っているのだが。
「──にしても、大分遠くまで飛ばされたもんだな。クソッ」
周囲は鬱蒼と茂る草木しか見えず、地面に張り出した根っこが歩みを邪魔する。どうやら森の最深部辺りまで飛ばされたらしい。霊夢の馬鹿力に、感心半分呆れ半分でいた魔理沙は、
「うん?」
ふと前方に人影を見た。
短めの金髪、森の中ではあまりにも不自然なロングスカート。彼女を取り囲むように浮かんでいるのは──人形?
話し掛けるか否か迷っていると、不注意から木の枝を踏みつけてしまう。バキッ、という音が、静寂に包まれた森の中ではあまりに大きく響く。
少女が振り返った。人形を連れているだけあって、というほどでもなかろうが、彼女自身も人形のように整った顔立ちだ。
「う……」
「……」
沈黙。
魔理沙も、少女も、視線の他には何を交わす事もなく立ち尽くしている。
「……」
徐に、少女が右手をゆるゆると上げた。挨拶でもするのか? 魔理沙は僅かながら警戒を解き──。
そして、そうした事を激しく後悔した。
少女の指の腹から──正確には、その五指に嵌められた銀の指輪から、透明な糸のような何かが垂れ下がっている。その糸の先は、空中を漂っていた人形に接続されている。
挨拶などではない。そんな
掲げた右手を、少女が振り下ろす。
人形が、魔理沙を、見た。
「う……おッ!?」
咄嗟に横に転がって避ける。次の瞬間、魔理沙の首があった空間を、人形の持っていた剣が薙いだ。反応が遅れていたら、今頃死んでいただろう。戦慄しながらも少女から目を離す事はせず、指を弾く。魔理沙を中心に幾つもの魔法陣が展開され、次々とレーザーを放った。無数の光条が、人形を焼き焦がしながら少女に迫る。当たる。魔理沙は確信しほくそ笑んだ。
しかし。次の瞬間起こった信じ難い事態に、我が目を疑う事となる。
レーザーが少女に迫った瞬間、
何が起こったのか分からなかった。しかし、二股に分かれた弾幕は少女を掠め、その背後の大木に命中した。
(魔法が斬れた!? あの糸には魔力が通っているのか!? という事はあの女は……魔法使い!)
「しゃンHigh」
耳許で、囁きが聞こえた。咄嗟に飛び退くと、地面が轟音と共に抉られる。
身体の各所を糸で吊られた人形が、自分の背丈ほどもある巨大な
「操り人形ッ!」
「蓬Lie」
鼻先には、マスケット銃の銃口。もう一体の操り人形が、魔理沙にそれを突きつけていた。
「ッ!」
首を傾けると、耳を劈く発砲音。
マスケットは発射から再装填に時間が掛かる。敵意しか感じられない存在だ、この隙に潰してやる。
魔理沙が八卦炉を構えるのと、人形が
「な……ッ」
「䨻、らぁ1」
人形が、二ィッと嗤った、気がした。
刹那、肩を撃ち抜かれる。熱を伴った激痛が魔理沙を苛み、数歩よろめく。
大木に寄り掛かろうとした、その時。
背中に伝わってきたのは、冷たい気の感触ではなく。
ずぐり、と。背中に何かが沈み込んだ感触だった。
「ぐ、か……!」
そのまま倒れ込みそうになるが、慌てて飛び退く。背中から鮮血が迸る。
「ぐ……い、糸だ……あそこに糸が張られていたんだ……! 私が人形の攻撃を受けて後退する事を予期して……あの人形師……只者じゃないッ!」
人形師が、少女が、クスクスと笑った。その目には醜悪な光が宿り、魔理沙を粘つくような視線で舐め回している。
「何が、可笑しい」
魔理沙が呟いた。いつもと違う、ゾッとするほど低い声で。
「お前、判るぜ。人間じゃない。魔力によってのみ生きる正真正銘の魔法使いだな。なら問うぜ……人間の真価は何だと思う?」
少女が首を傾げた。魔理沙は笑う。その口の端を吊り上げて、シニカルな笑顔を相手に見せつける。
「自分の力に思い上がってる、イカれた人外を前にした時さ!」
叫ぶと同時、地を蹴った。だが、その目前には不可視の糸。触れたら最後、細切れだ。
「づッ!」
魔理沙の身体中から血の筋が舞い上がる。少女が前方に張り巡らせていた糸に切り裂かれたのだ。
しかし。
「う……おぁぁあ!」
魔理沙は咆哮し、天を仰いだ。傷口が広げられ、血液が噴水の如く四方八方に飛び散った。
自傷同然、敵前においてあるまじき愚行。しかし、
「へへ、これで……見えやすく……なった……ぜ!」
見ると、魔理沙の血によって色づけされた糸が、キラキラと真紅の光を放っている。魔理沙は捨て身の特攻によって、不可視を可視にしたのである。
「しゃぁぁぁぁぁぁぁン牌ッ!」
「砲ライィィィィィィッ!」
その背後から、二体の人形が猛然と迫る。しかし魔理沙は素早く糸を掻い潜る。人形はその勢いを緩める事なくトラップに突入し、次の瞬間、バラバラの木片となって果てた。
「ッ!」
少女が息を呑む気配。その視線の先は人形の骸ではなく──自らの腹に押し当てられた八卦炉に注がれていた。
「いくぜ、『マスタースパーク』」
世界は、閃光に包まれた。
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幻想郷。
妖怪の山、上空。
こちらにぽっかりと口を開ける穴に、向かい立つ三人の少女。
紅の巫女、博麗霊夢。既に満身創痍でありながら、その瞳は未だ燃えている。
魔法使い、霧雨魔理沙。白黒の普段着を己の血潮で染め上げ、闘志を秘めた出で立ちで霊夢に並び立つ。
悪魔のメイド、十六夜咲夜。超然とした佇まいの中に、先の二人に勝るとも劣らぬ力を併せ持つ。
「……行こう」
霊夢が呟く。二人は頷き、歩み始めた。
理想郷の冬、未だ明けず。悪趣味極まるワームホールに、人間たちは今まさに挑もうとしていた。