東方鉄拳翔~Iron Shrine Maiden~   作:水石Q

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どうも、水石です。


第三話 最強

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 散開する二人と、その間を突き抜ける氷柱によって、激闘の火蓋は落とされた。

 チルノが生成した氷の弾丸が辺りを薙ぎ払う。魔理沙を狙って連射されたそれは拳大の氷塊という事もあって恐ろしい威力を誇る。霊夢は上空高く飛び上がって霧の中に消え、一方魔理沙は箒に跨がったままポケットから何かを取り出し、チルノの方へ投げた。火炎瓶のようなそれは空中で爆ぜると、緑色の煙を撒き散らした。煙幕だ。チルノは慌てて横に逸れ視界を確保するが、そこには先程までそこにいた魔法使いの姿が見当たらない。

 刹那、殺気を感じて顔を上げると、消えた筈の魔理沙が高空からチルノを狙い撃たんとしていた。しかし、霧のせいで狙いが定まらないのか、発射されたレーザーは、あえなくチルノの真横を掠めるだけだった。

 

「ふん、バーカ!」

 

 チルノが魔理沙目掛けて両手を突き出す。瞬間、魔理沙の両脇から巨大な腕が伸び上がる。大木ほどもあるその腕は、煌めく氷で形成されていた。

 ガシャンと音を立てて、氷腕が打ち合わされる。魔理沙が叩き潰される。

 いや、魔理沙は寸前でその掌から逃れていたのだ。既に周囲の気温は真冬並だというのに冷や汗をかきながら、今更ながらに目の前の氷精が、決してその種族故に侮ってはならない相手だと判断した。

 

「こいつ、造形術まで体得してやがるのかッ!」

「ゾーケイ・ジツとやらが何だか知らないけど、あたいに出来んことはないッ!」

 

 魔理沙は続けざま、魔法陣を展開してレーザーを連射する。だがチルノは氷の盾を複数自身の周りに作り出し、レーザーを反射させてしまった。次々と明後日の方向へ飛んでいく光条。

 

「それっ!」

 

 チルノが盾の向きを変えた。反射させられた残りのレーザーはキンキンと盾と盾の間を跳ね返り、魔理沙に向かって飛んできた。

 

「やべぇっ!」

 

 慌てて避ける。辛うじて、直撃は免れた。光の反射まで理解してやがる。妖精(ヴァカ)だからって油断しすぎたな。

 

「だったらこっちも手加減なしだッ!」

 

 チルノの周囲に光弾が出現。甲高い音を放ちながら全方位に光線を撒き散らす。だがチルノはその小柄な体を利用して上手く光線の間をすり抜けた。だが、魔理沙の狙いは別にある。

 チルノが抜け出た隙を狙って一気に肉薄。至近距離からの弾幕で決着をつける作戦だ。

 だが。

 

「甘いわ!」

 

 今にも攻撃を放たんとしていた魔理沙を、巨大な氷柱が突き上げた。すんでのところで箒を差し入れ、直撃は免れたが、魔理沙は天高く突き上げられ、湖の霧と、赤い霧の境目に飛び出した。霧中にいた時とは真逆の、夏特有のムッとした熱気が肌を苛む。

 魔理沙は先程から空中に静止したまま様子を窺っている。いわば棒立ち状態、チルノが追い討ちを掛けてきてもおかしくない。だが奴はそれをしない。

 

「……やはりそうか、霊夢!」

()()()()()

 

 魔理沙が声を上げると、いつの間にか彼女のすぐ横にいた霊夢がそう呟いた。

 

「あいつは氷の妖精。この夏の熱気の中では充分に力を発揮できない。だから能力でこの湖を霧で包んで、自分のフィールドにしている。能力もフルパワーで振るえるから、並大抵の妖怪より、力も強くなる。でもそれは裏を返せば」

()()()()()()()()()()()、ってこったな!」

 

 魔理沙が霊夢の発言を引き取る。

 そう、自身の能力を最大限に発揮できる霧の中だからこそ、チルノは魔理沙と渡り合えたのだ。

 遠距離では弾幕に苦しめられ、近づけば視界不良の中迫る氷柱の餌食となる。不定形のリングの中で、為す術なく打ちのめされる。ならばどうすればいいか。

 相手の攻撃が届かない場外からの、狙いを定める必要などない()()()()()

 霊夢は戦線を離脱して湖全体を範囲とする弾幕を用意し、魔理沙はそれまでチルノの注意を自分に引きつけていたのだ。

 

「魔理沙、衝撃に備えて」

Go ahead(やっちまえ)!」

 

 霊夢は構えていた大幣を振り抜いた。

 湖畔にぴったり沿うように、無数の札が輝きながら回転する。札は壁となって円錐を描き、その中央──チルノに向けて集束する。

 

「神技『八方龍殺陣』」

 

 周りの霧ごと呑み込んで、札の壁はチルノを押し潰し、途徹もない爆風を巻き起こした。

 

 

 

 

「そんな……バカな……あたいは、さい、きょう……」

 

 湖面にプカリプカリと浮かびながら、うわ言のように呟くチルノ。

 

「私の技を受けてまだ一回休みになってないとはね。体だけは頑丈だわ」

 

 既に湖を覆っていた霧は晴れ、周囲の景色が見渡せるようになっていた。

 そしてこちらからは対岸の湖畔に、()()はあった。

 塀から外壁、時計塔に至るまで、全てが毒々しい赤に彩られた、巨大な館。極端に窓の少ないその館から、赤い霧はもうもうと立ち上り空へ伸びていっている。

 

「あれか」

 

 魔理沙の言葉に、霊夢も頷く。

 

「行きましょう、魔理沙。一刻も早く、この異変を止めるわよ」

「おう。……じゃあな妖精。今度は喧嘩を売る相手ぐらい、選ぶこったな」

「そう言えばあんた、この霧について知ってるって言ってたわよね? 約束は果たしたし、教えてくれる?」

 

 霊夢がそう言うと、チルノはしばらくふてくされていたが、「いいよ」と呟いた。

 

「こないだ遊んでたら偶然あの建物の側を通り掛かったんだ。そんで、屋上にいたあたいくらいの女の子が言ってた。『この霧が空を覆い尽くせば、あの子はまた笑って暮らせる』」

 

 そこで、唾を飲む。続ける。

 

「『奴等からも、もう狙われなくて済む』って」

 

「奴等ァ?」魔理沙が怪訝そうに繰り返した。

 

「異変の首謀者が、何かに狙われているって事?」

「それは分からない。ただ何だか、嫌な予感がする。あそこには寄りつかない方がいい」

 

 フンと鼻で笑ったのは魔理沙だった。

 

「私達を誰だと思ってるんだ」

「あっそ……もういいだろ。あたいは勝負の余韻に浸っていたいんだ」

「そういうのは勝って味わうもんだ」

 

 浮いたままのチルノを残し、二人は深紅の館を目指した。

 霧は未だ、空を侵していた。




お読みくださりありがとうございました。次回もなる早でゆきます。

では、また次回。
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