東方鉄拳翔~Iron Shrine Maiden~ 作:水石Q
☆今回の登場人物☆
・パチュリー・ノーレッジ
今回魔理沙の前に立ちはだかる魔法使い。喘息持ち。埃っぽい場所に引きこもっているのだから、当然である。日記帳を紅魔館メンバーに回し読みされている。
・?????
図書館の下層、紅魔館最深部の地下室に幽閉されていた、謎の少女。
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「ひ、広い……」
魔理沙は思わずそう独りごちた。
何しろいざ踏み込んだ館の中は外から見るより広大で、廊下でさえ四列で縦隊を組んで歩けるほどだ。その上突き当たりの扉までの距離はゆうに百メートルは下らないだろう。如何なる妖術か、それとも魔術か。空間に何らかの細工を施して、外観よりも広くしているに違いない。
「増築費をケチったな。豪勢な割にやる事はセコい貴族だな」
ぐちぐち言いながら、薄暗い廊下を進んでいく。暫くでたらめに歩き回っていると、地下へ続く階段を見つけた。
廊下の突き当たりに、洞窟めいた通路がまるで悪魔の口のようにぽっかり口を開けている。明かりは最小限の蝋燭しかなく、どこまで続いているのか見当もつかない。
「行ってみるか……」
地下へ進んでいく。じめじめした通路を抜けると、魔理沙の身長を軽々越える巨大な鉄扉があった。ここに今回の異変の黒幕がいるのだろうか。
押し開けようと力を込めると、案外軽い。そのまま隙間から滑り込む。
顔を上げて、魔理沙は思わず感嘆した。
高い天井に届かんばかりの書架が、見渡す限り続いている。その全てに隙間なく本が整頓されており、カラフルな壁を作っている。遠方に見えるドーナツ型の円卓は書見台だろうか。円の中央には巨大な天球儀があり、無数の光点を控え目に明滅させている。そこは広大な図書館であった。
「すっげ……これ、全部本か……?」
「そうよ」
背後から声がして弾かれたように振り返ると、そこにいたのは魔理沙より少し小柄な少女だった。
背中まで伸びた紫色のストレートヘア、寝間着のような服を身に纏い、眠そうに細められた目は魔理沙をじっと見つめている。小脇に抱えられている本は魔術書の類いだろうか、
「貴女の吹けば飛ぶような短い人生では到底読みきれない数の本がここにはある。儚い人間さん、ここに来た目的はなぁに?」
「外の霧を消す為だ」
「あら、そうなの。だったら、私は貴女を倒さなきゃならないわね」
ははーん、そういう事か。魔理沙は帽子から火炎瓶を取り出すと、後ろ手に隠す。
「霧雨魔理沙。普通の魔法使いさ」
「『普通の』魔法使い? なら、ここで自分の命は諦める事ね。その身にしかと刻みつけなさい。貴女を滅する者の名を。我が名はパチュリィ゛ッエ゛ェ゛ェ゛ェ゛ッ゛フェッフェッフェ!」
唐突に咳き込みだすパチュリー。肩を揺らす魔理沙。
「お、おい、大丈夫か?」
「ふふふ……貴女に心配されるほど、ヤワな体ではッフゥッ、エ゛フッ、オ゛ォオェ゛ッ、バアァッファッファ!」
うら若き少女のものとは思えない咳を乱発しつつその場にくず折れる。そのままビクリビクリと痙攣しながらむせるパチュリーに、魔理沙はどうする事もできず火炎瓶片手に固まっていた。
「ハァッ、ハァッ、ン……ン゛……。……ふぅ、さぁ、
「戦りましょうかじゃねぇよ! ホント大丈夫かあんた!?」
先程までの張り詰めた雰囲気はどこへやら、心配でならなくなる魔理沙。あんな様を見せられていざ戦おうなどととてめ言い出せない。
「どうしたの? もしかして、戦う前から怖じ気づいたのかしら?」
「怖じ気づいたよ! 主にお前のむせ方に!」
もしかして喘息持ちなのかこのパチュリーとかいうのは。だとしたら尚のこと気が引ける。こんなカビ臭い所でやりあったら死ぬかもしれない。パチュリーが。
「ぜぇぜぇ……これでもかなり調子がいい方なの……。貴女に遅れはとらないわ」
パチュリーが魔術書を手放す。本は地面に落ちる寸前にふわりと浮き上がって複雑な魔法陣を描き出す。五つのエレメントを同時に扱える、五元素連結魔方陣だ。
どうする……相手はやる気だぞ。
「どうなっても知らねぇからな!?」
火炎瓶に指先で灯した火を引火させ、
「な……!」
驚愕する魔理沙に、パチュリーの第二射が襲いかかる。緑色の光弾は三方向から魔理沙に迫り来る。マズい。咄嗟に避けると、弾幕は魔理沙がいた場所を掠め、書架に激突。木材が破砕、間髪入れず焼け焦げる音。
「おいおい、本がダメになるぜ!」
「大丈夫よ、魔法で保護してるから」
見ると、床に散らばった本は傷どころか埃一つ被っていなかった。防御魔法か。まさか、
今更ながらに魔理沙は、この魔女の実力の片鱗を垣間見ていた。
「……どうやら、体の心配をする必要はないみたいだな」
「そうね、するにしても、自分の心配をするべきだわ」
パチュリーがまた仕掛ける。しかし放った弾幕は針のように細く、照準も魔理沙ではなく魔理沙の足許を狙っていた。
何かが妙だ。そう思った瞬間には、箒に飛び乗っていた。ふわりと浮き上がり、上空へと逃れる。
しかし、
「
魔理沙に向けられた指が、くい、と上に振られる。次の瞬間、その動作の意味を理解して、総身が粟立つ。
地面にヒットするはずだった弾が、
「しまっ……!」
「『ベリーインレイク』」
水の針は、魔理沙の靴の底に触れた刹那、網のように広がり水の球となって魔理沙を包み込んだ。
酸素が奪われる。口から泡を吐き出してもがくが、水の檻はそれを許さない。表面は高圧の水流が循環しているらしく、切り裂かれた指が薄く血を滲ませた。
──ヤバい、このままじゃ……!
──窒息する。その間にも着実に、魔理沙の限界は近づいていた。視界が暗くなり、頭がぼんやりしてくる。
だが、考えるより先に、手は動いていた。帽子の中から取り出したのは、小さな八卦炉である。とある道具屋に特注で作らせた、魔理沙の秘密兵器。
──使わせてもらうぜ、
意識が手放される直前、ベリーインレイクを切り裂く光。魔理沙のミニ八卦炉から放たれた光刃が、高圧水流をこじ開けた。
「えっ……!?」
パチュリーが驚く番だった。床に降り立った魔法使いは、ぐしょ濡れになりながらも、二本の足でしっかり足を踏み締めた。
「その身に、刻みつけな。お前を倒す者の名を」
恋符。
「『マスタースパーク』」
光芒一閃。薄暗い図書館を真昼の如く照らし、極太のレーザービームがパチュリーを通路のカーペットごと焼き尽くした。パチュリーはこんがりと褐色に焼け、口から煙を吐きながらその場に倒れた。
反面、魔理沙も無事ではない。反動で数メートル吹き飛び、受け身も取れず投げ出される。
「なんか、えらくギャグ漫画みたいな死に方だな」
「生きてるわよ失礼な」
起き上がりながら言うと、パチュリーが掠れ声で返す。
「教えろ、この異変の首謀者は誰だ? 誰があの霧を撒いたんだ?」
「……我等が、主……レミリア・スカーレット……。この館の、最上階に、いるわ」
レミリア・スカーレット。その名を反芻する。そいつが元凶。倒せば、全て終わる。
「……ふふ、あの子に、挑もうと言うの?」
図書館を出ようとした魔理沙に、パチュリーが寝そべったまま言う。
「当たり前だろ。その為に来たんだから」
「やめておきなさい。あの子は規格外よ。人間が挑む事自体が間違い」
「間違ってるかどうかは、私が決める事だぜ」
そう言って、白黒の魔法使いは図書館を出ていった。
取り残されたパチュリーは服の煤を払い、独りごちた。
「馬鹿な人間……。でも、魔理沙なら、或いはレミィを止めてくれるかもね。少しだけ期待しておいてあげるわ」
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紅魔館、地下深く。
昼も夜もない広大な地下室に、彼女は、いた。
ぬいぐるみを弄ぶ手が、不意に止まった。顔を上げて、天井を見上げる。
彼女は感じていた。
身を焦がす情熱を。肌を刺す闘気を。自身に眠る、どうしようもなく膨れ上がる破壊衝動的狂気を。
自然、口許が吊り上がっていた。
「にんぎょう、ふたり……おもしろそ」
言いつつ、右手を広げた。その掌に赤いビー玉大の球が浮かび上がり、彼女はそれを一息に握り潰した。
刹那。
「わ・た・し・も~……ま~ぜて~♪」
彼女はてててと駆け、部屋を出て地上を目指す。
それはもう楽しそうに。それはもう嬉しそうに。赤い瞳を爛々と輝かせ、その背にあしらわれた歪な翼をはばたかせ。
退屈と憎悪と、寂しさに凝った殺意を振り撒きながら。
お読みくださりありがとうございました。
次回は霊夢VS美鈴、決着です。
では、また次回。