東方鉄拳翔~Iron Shrine Maiden~ 作:水石Q
☆今回の登場人物☆
十六夜咲夜……紅魔館に務めるメイド。何でもそつなくこなすが番組の録画のしかたが分からないので、いつも早朝まで起きてはめざましテレビをリアタイしている。主の生活サイクルがサイクルなので割ときつい。
「十六夜咲夜。貴女の時を奪う者です」
そう言って丁寧にお辞儀をしてきた咲夜に、霊夢は怪訝な顔をしながら大幣を振った。
「時? 命とかでなくて?」
「私の能力は時を独占するものでして……故に貴女の時を奪うという事は、貴女の命を奪う事と同義」
「あ、そ。で? どうすんの? あんたも私の邪魔するわけ? その綺麗な顔、グシャボロにされない内に決めといた方がいいわよ」
「生憎ですが……貴女は私に触れる事は出来ません。何故なら、ここで何も理解しないまま死ぬのですから」
霊夢が眉を動かした、その瞬間。霊夢の体は、ほぼ脊髄反射で、目の前に飛翔してきた物体を掴み取った。同時に、掌に鋭い痛みが走る。
ナイフだ。目の前に、ナイフが飛んできたのだ。
どうして。奴が投げたなら動作で気づくはず。まるで、
「……」
「驚いておられるようですわね」
「これが、あんたの能力?」
咲夜は目を細めると、淑やかに頷いた。
「ご明察」
「勘は鋭い方で……ねッ!」
言いつつ突き込んだ霊夢の蹴りを、咲夜は必要最小限の動きで回避した。次いで大幣を振り下ろす。しかし咲夜は、いつの間にか取り出していたナイフでそれを受ける。
──
霊夢はなおも仕掛ける。幣を手首に巻きつけて固定すると、棒の部分に霊力を込める。薄く研ぎ上げられた霊力の刃は、ほんの少し撫でただけで容易く皮膚を裂く。
凄まじい剣戟が展開される。霊夢の流れるような剣閃を咲夜が逆手に持ったナイフで確実に受けていき、隙を縫って機動力を活かした懐からの刺突を見舞ってくる。武器のリーチの関係から、こうした
故に霊夢は、このナイフ使いに対して、どうしても得物を捨てる事は出来なかった。しかし対処できている。追随が叶っている。両者の実力は拮抗、掠り傷さえ与えられど、決定打には至っていない。
いける。そう思った矢先だった。
「~ッ!」
無理矢理に咲夜の手を弾き、後方宙返りでその場から逃れる。転瞬、先程まで霊夢が立っていた場所に無慮数十本ものナイフが突き立った。
まだ、まだ追撃は終わらない。霊夢、続いて階段に手をつき宙返り。それを繰り返す霊夢の後を追って、ナイフの束が次々と階段を穿っていく。霊夢は歯噛みした。投げナイフだとしても、飛び道具を使ってくる相手に距離を離されるのは厄介だった。
エントランスホールまで逆戻りした霊夢に、咲夜は拍手を送る。
「バク転で階段を降りるなんて……曲芸だわ。軽業師にでも転職したらどうですか?」
「
霊夢は大幣を捨て、大きく両手を広げた。正眼の構えを取る。
「……バカな子」
刹那、霊夢は今までにない、凄まじい悪寒に苛まれた。数多の妖怪と対峙して、それすらも上回り、記憶の隅へ追いやる殺意。
しかし、その寒気の正体を勘繰ろうとした瞬間。
世界が、静止した。
霊夢の動きが、ピタリと止まった。それどころか、中空を舞う埃も、館の上空を羽ばたく鳥の群れも、全てが映像の一時停止の如く固まった。
そしてその中で、咲夜だけが動いていた。
『時間を操る程度の能力』。今のように世界の時間を止めたり、時間と密接に関連する空間を自由に操れる能力である。
時間停止と言っても、本当に世界中の時間が止まるわけではない。そんな事をしたら光線も静止して、世界は暗黒に包まれた空間と化してしまう。厳密には、自分以外のあらゆる存在の時間の流れを、
予め魔力でドーム状の結界を張り、その範囲内の万物の時間の流れを自由にコントロールできるのだ。ただ、完全静止に近ければ近いほど、咲夜は集中力を消費する。故に乱用は禁物である。
咲夜は階段をナイフを回収しつつ降りていき、霊夢の前に立った。
そして、ナイフを両手の五指全てに挟み込むと、一気に投擲。ナイフは咲夜の手から放たれた瞬間能力の影響を受け、霊夢の眼前で停止する。
横合いに回り、同じように投擲。真後ろ、頭上と、全方位にナイフを配置していく。
「……準備完了」
能力、解除。
「ずぁぁあぁあぁあぁあぁあっ!」
血飛沫が噴き上がり、絶叫が響き渡る。体の至る所にナイフが突き刺さった霊夢は、思わずその場にくず折れた。
霊夢は半ば本能的に全身の筋肉を引き締め、ナイフが抜けないように固定する。引き抜きでもしたら、あっという間に失血死だ。
「あっ……あぐ……うぁ」
震える手で大幣を拾い上げると、めちゃくちゃに暴れる霊夢。咲夜は連続して飛び退き、階段の踊り場に舞い戻った。
「……最期に、言い残す事は?」
「……ざまぁみろ」
微笑むと、咲夜は再び時間停止。止めのナイフを投擲し、能力を解除した。
その刹那、咲夜の体が
「な……!」
何だ。何が起こったッ!? その場に倒れ伏す咲夜。
「な……ぜ……」
「あんたの、能力……」
話し出したのは霊夢だった。大幣を杖代わりに立ち上がり、咲夜に歩み寄る。
「恐らくは、時間を止めたり、或いは……時間が止まって見えるほどに高速で移動する能力。違う?」
見抜かれていたのか。
「その、通り、だけど……! 気づいていたのか? 一体いつからッ!」
「
慄然。こいつ今なんて言った?
「厳密に言えば、この館に入って、あんたの奇襲を受けた瞬間。だから、こっちも仕掛けさせて貰ったの。上見てみ」
言われるがまま顔を上げた咲夜は、再度愕然とした。
天井から降り注ぐ、無数の御札。全てが淡く光を放ち、弾幕であると分かる。
「さっきあんたの言う曲芸をやった時に投げといたのよ。追尾式だから、回れ右してあんたの方にやって来るわ。あんたをさっき吹っ飛ばしたのは、
気づかなかった。何という早業。大幣を振り回して咲夜を退かせたのは、着弾地点に誘導するため……。弾幕はゆっくりと、しかし着実にこの踊り場に殺到し、まんまと誘い込まれた咲夜は、それを一身に。
計算していたのだ。時間を遅らされて着弾のタイミングがズレる事も織り込み済みで。
「うっ……わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「『夢想天生』」
先程に倍する爆発。咲夜は吹き飛ばされ、ステンドグラスを割り砕きながらめり込んだ。
そこで、意識は途絶えた。
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「うぐはぁ……キツッ……マジ体動かないわやべーわ」
咲夜が目を開けると、目の前には包帯だらけの巫女がいた。
「あ、起きた」
霊夢は咲夜の覚醒に気づくと、そそくさとその場を立ち去ろうとした。
「待って」
それを咲夜は呼び止めた。霊夢が恐る恐る振り返る。
「貴女……本当に、お嬢様を止めるつもり?」
「決まってんじゃない。ぶちのめすわよ」
「ならば……」
咲夜は一旦そこで言葉を切り、続けた。
「貴女がどうしても……お嬢様を止めたいと言うのなら……
「奴等……奴等って誰の事ッ?」
霊夢が詰め寄った時には、咲夜は再び意識を失っていた。
『奴等』。異変の元凶である彼女等でさえ、得体の知れない何かを恐れて、あの赤い霧を撒いたと言うのか?
とにもかくにも、『お嬢様』とやらに会ってみれば全て分かる。
「……痛ぁ」
包帯の上から腕を押さえる。救護キットは使いきってしまった。無駄な戦闘は避けたい。こんなに派手にぶちかましたから、もう遅いかもしれないけど。
ステンドグラスの真下にある扉を開くと、エントランスより一回り広いホールの壁に、円形に扉が配置されている。
真向かいにあった一際大きな扉に向かって、霊夢は一歩を踏み出した。
お読みくださりありがとうございました。次回、2話ぶりの魔理沙視点。お楽しみに。
では、また次回。