東方鉄拳翔~Iron Shrine Maiden~   作:水石Q

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☆開幕お詫び☆
前回のあとがきで「次回は魔理沙視点だぜ!」等と宣っておりましたが、ごめん、あれうそ。
土壇場でプロットを変えて、そのまま霊夢VSレミリア突入です。
重ねてお詫び申し上げます。

☆登場人物☆
妖精メイドs…紅魔郷編においての戦闘員ポジ。死んでも一回休みで済むからと霊夢に惨殺され続ける。ひどい。中には交通費を貰いながら毎日自転車で通っている不届き者もいるので、自業自得と言えば自業自得。

レミリア・スカーレット…紅魔館の主にしてラスボス。人智の及ばぬ強大な力で霊夢を追い詰める。作中では専ら「フゥーハハハ!」とか言ってそうなキャラだが、紅魔館メンバーでは一番の常識人。ノイタミナ枠のアニメが好き。


第八話 斯くて悪魔は紅月と踊る

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 妖精メイド。紅魔館におよそ数百人ほど仕えている妖精たちの総称。数が多い故に、常に人手を欲する紅魔館には丁度良いかと思いきや、その手際の悪さたるや自身の身の回りの家事だけで一日を終えてしまうほどであるため、その実言ってしまえばあまり役に立っているとは言えない。唯一の使()()()と言えば今現在のように、武装させて館の中を警備させる、哨戒任務であった。

 東側廊下の空気は、重く張り詰めていた。

 哨戒担当の妖精メイド三人は、雑談をするでもなく、その背丈に不釣り合いな巨大な斧槍(ハルバード)を手に、辺りを警戒している。その額には脂汗がうっすらと浮かび、不馴れな任務での疲労を感じさせる。

 ふと、窓の外から見える景色が、紅に染まっているのが見えた。“紅霧の儀”は、着実に進行しているらしい。このまま霧が空を覆えば、幻想郷は彼女等の天下となる。

 長い黒髪をポニーテールに纏めたメイドの一人は、赤い空に安堵の溜め息を吐いた。

 一瞬にせよ気が緩んでいた。だから気づかなかった。

 刹那。

 曲がり角から飛び出してきた赤い影が彼女の口を塞ぐや、そのこめかみに太い針を突き込んだ。針は容易に頭蓋を貫通し、妖精メイドを一瞬の内に絶命せしめる。

 脱力した矮躯(わいく)を床に放る。亡骸が重力に従い、どさりと音を立てて倒れ伏す頃には、影は二人目を仕留めていた。

 

「し、侵入者ッ!」

 

 斧槍を掲げ、赤い髪を肩口で切り揃えたメイドが打ちかかってくる。大上段から振り下ろされる一撃を回避し、柄を踏みつける。刃が床に深くめり込み、赤毛のメイドは必死に武器を引き抜こうとするが、斧槍はびくともしない。

 その時、こめかみにひやりとしたモノが当てられ、耳許で侵入者の人間が囁いた。ダメだ。間に合わない。懐に潜り込まれたら、得物を振り回しても意味がない。

 

「……一つの武器に頼らない事。長物を持っている状態で敵に張りつかれたら、徒手かナイフで応戦しな。じゃないと、こうなるよ」

 

 脳を突き抜ける激痛。意識が急激に遠退いていく。赤毛のメイドは必死にそれを掴み取ろうとするが、あえなく絶命。

 霊夢は亡骸を下ろし、更に進む。

 上を目指し歩き続ける事数分。くまなく探し回っているが、お嬢様という雰囲気の奴には、まだ出会っていない。

 

屋上(うえ)かな……?」

 

 確か外から見たときには屋上らしきものが見えた。霧で不鮮明だったが、恐らくそこにいるのだろう。霊夢は勘が鋭かった。

 屋上に行ってみよう。霊夢は道を探る。すると、廊下の突き当たりに梯子を見つける。

 昇っていき、天窓を開けて、屋上に這い出る。夜気が肌を撫で、相変わらず血のような空には、紅い月をバックに時計塔が(そび)える。

 その頂点に、彼女はいた。

 薄桃色のドレスに、特徴的な形の帽子。所々が跳ねた青い髪に、先端の尖った耳。何より目を引いたのは、背中に広がる一対の蝙蝠めいた羽根だった。

 

「あんたが“お嬢様”?」

 

 霊夢が訊ねると、少女は不敵な笑みを浮かべ、鷹揚に両手を広げた。口許から覗く鋭い歯が、彼女が吸血鬼であると悟らせる。

 

「如何にも、私が紅魔館当主、レミリア・スカーレット。ご機嫌よう人間。諸君等の訪問を歓迎しよう」

「そりゃどーも。あのさ、この霧消してくんない? 迷惑なのよ。日は照らないし、人体には有害だし」

「それは出来ない。この紅霧は、一度発動させれば私が命を落とすまで消える事はない」

 

 霊夢の眉がピクリと動いた。

 

「あ、そ。じゃあ、あんたを消すわ」

 

 霊夢は拳を構えた。レミリアは少し目を見開くが、すぐに妖艶な笑みを浮かべる。

 

「お相手したいのは山々だが、生憎と私は戦いが不得手でね。助っ人を呼ばせてもらうとしよう」

 

 そう言って指を鳴らす。すると、上空から無数の羽音が聞こえてきて顔を上げると、背筋が粟立った。

 空を埋め尽くさんばかりの妖精メイドが、続々とこちらに向かってくる。半数は空に留まり、半数は屋上に降り立つ。その数、総勢()()()

 

「私の意のままに動く兵士だ。家事はからきしだが腕っぷしは強いぞ?」

 

 その言葉に賛同するかのように、各々が凶悪な笑みを浮かべ、手にした得物を構える。斧槍、細剣(レイピア)長槍(ロングスピア)と、多種多様な武器の切っ先が霊夢に据えられる。

 

「精々四肢が残れば良い方だ。善戦しろよ? 人間」

「ははッ、四肢か? ()()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

 言うや霊夢、地を蹴った。軍勢に真正面から飛び掛かっていき、最前にいた妖精の顔面に飛び膝蹴りを叩き込んだ。横合いから斬りかかってきた妖精の体を、大幣で袈裟懸けに斬り下ろす。霊力の込められた一撃は妖精メイドの体を、身につけたブレストプレートごとバターのように寸断した。

 振り下ろした勢いもそのままに、大幣を背中に添える。丁度振り下ろされてきた大剣が交錯。霊夢は得物を逆手に持ち替えつつ回転。回し蹴りを背後の敵に見舞う。首の骨を粉砕され吹き飛んだ妖精は、二、三人を巻き添えにして時計塔に激突、クレーターを作る。

 蹂躙は止まらない。続けざま襲い掛かる三人の妖精に正面から相対する。

 一人目、胸目掛けて突き込まれてきたナイフをいなし、大幣の先端で妖精の鼻面を叩く。怯んだ隙に背後へ回り込むと、目をくれる事もなく頭部を貫く。

 二人目、空高く跳躍して、鋲のついたブーツで飛び蹴りを見舞おうとしている。霊夢はブーツの爪先を踏みつけ、ぐんと力を込める。落下の勢いを上回るそれに妖精の体は空中で反転し、地面に顔面から激突する。あまりの勢いに浮き上がった妖精。霊夢跳躍。瞬きの内に、妖精は首を落とされ、血飛沫を上げながら墜落。

 三人目、マスケット銃を構え、霊夢に照準。

 だが、遅い。

 既にして妖精の足許に潜り込んでいた巫女はその場で竜巻の如く旋回し、妖精の体を足首から輪切りにしていく。

 その間、僅かに五秒。

 間髪入れず、第二波が襲い来る。全方位から飛び掛かり、霊夢を押さえつけようとしてくる。

 霊夢は真上へ跳び、そのまま上空へと逃れる。視線でそれを追いかける妖精たちの真下で、予めセットされていた弾幕が発動した。

 

「神技『八方龍殺陣』!」

 

 チルノを仕留めた時とは対照的に、標的を圧殺せしめる霊撃は、その余りあるエネルギーを発散するかのように散開。屋上全体を巻き込み、妖精メイドを余さず焼却する。

 地上の妖精が全滅した直後は、空中での攻防が繰り広げられる。

 だが、それは最早攻防とも呼べなかったかもしれない。

 数瞬後、紅霧の如き血煙が空を彩った。かつて妖精だったモノがボトボト音を立てて屋上に墜落する。その只中に霊夢も降り立ちながら、静観を続けるレミリアに向き直った。

 幼い容貌の吸血鬼は手にした懐中時計を仕舞うと、帽子を脱ぎ捨てた。

 

「三十二秒。──ククッ、素晴らしい。こうでなくては。今宵の余興の相手は、やはりこうでなくては、な」

 

 ──どうやら、やる気になったらしい。霊夢は人差し指をくいくいと曲げて挑発する。

 

「来なさいマセガキ。社会の厳しさってやつを体に叩き込んであげる」

「ほう──では」

 

 刹那、時計塔の頂点に佇んでいたレミリアの姿が、ふっと掻き消えた。

 

(来る──!)

 

 霊夢は、()()()()()()()()()()()()()()()()()、初撃に備えた。

 

「──は?」

「授業料は、こいつで如何かな?」

 

 口の端から、血の筋がひとつ、流れた。何が起こったのか分からなかった。臨戦態勢に入った次の瞬間には、霊夢は既に攻撃を受けていた。速い。速すぎる。

 指先が腹に食い込む。腹筋の力を使って、辛うじて内臓への到達は防いだが、それでも視界が歪むほどの激痛だ。

 

(まだだ、反撃を──。この、手を、掴んで、逃げられ、ない、ように、して、そこか、ら、連撃、を……)

 

 しかし、霊夢が動くより早く、レミリアが動いた。

 素早く手刀を引き抜くと、その傷口に拳を叩き込む。くの字になり、低くなった顔面に再びストレートパンチ。仰け反った霊夢はレミリアの蹴りで吹き飛ばされる。

 何とか飛びかけた意識を捕まえ、霊夢は地面を擦って制動をかける。顔を上げた瞬間、星が飛んだ。レミリアの膝が、霊夢の額を捉えていた。

 続けざま、全身を噛み裂く連打。霊夢の体は為す術なくそれを受け、やがて死という淵へ徐々に追いやられていく。最早立っているので精一杯だった。

 

「どうした? 私を消すのではなかったのか? テングの如き早さと、オニの如き強さを兼ね備える、この私を!」

 

 声がどんどん遠くなっていく。

 霊夢の意識は、束の間夢を見ていた。

 神社での日々。時折相手取る妖怪は全て霊夢の敵ではなく、どこか満たされない毎日を送っていた。

 そうだ、そう言えば、いつから私は幻想郷(ここ)にいたのだろうか。産まれた時から? 違う。どこか遠い所から、連れて来られたのだ。

 

 ──一体、誰に?

 

 その問いに答えるが如く、ホワイトアウトした視界の中に、一人のシルエットが浮かび上がる。

 ウェーブを描く金髪。紫色のドレス。妖艶な美貌は、しかし全てを包み込む優しさを兼ね備えている。

 影は微笑み、白手袋に包まれた華奢な手を、こちらに差し伸べてくる。

 

 ──霊夢……。

 

「ゆか、り」

 

 ──その名を口にした瞬間、霊夢の意識は急速に引き揚げられる。()()を思い出す事をトリガーとして、幻想郷最強の巫女はレミリアの拳を掴み取った。

 

「何ッ」

「目が覚めたわ……あいつのおかげで」

 

 レミリアが拳を押し込む。しかし、霊夢の受け止める手はびくともしない。生気が滾り爛々と輝く瞳で、ただ真っ直ぐに前を見つめている。

 

「まだ立ち向かうと言うのか……。脆弱な人間風情がッ、私に抗おうと言うのかッ!」

「……確かに、人間は脆い。寿命や体の頑健さではあんたらには到底及ばないし、心が折れ、座り込んでしまうときもある」

 

 呟くや否や、霊夢は空いた右手でレミリアの胸倉を掴み、その額に頭突きを見舞った。レミリアが仰け反り、両者の距離は、一瞬開き、すぐに縮まった。肉薄、レミリアの顎に掌打を見舞う。

 

「だが、それは弱さではないッ!」

 

 雄叫びを上げて突き上げられる手刀を受け止め、腕の関節を肘鉄で叩き壊す。続けて鞭のようにしなった右腕は裏拳を顔面に叩き込んでいた。

 

「私たちは確かに持っている。挫けても前に進み続ける勇気を! 逆境に立ち向かい、打ち克つ力を! 人間の、人間だけの強さをッ!」

「ほざけェェェェェェェェェェェェェェェェッ!」

 

 頭部目掛けて繰り出された握撃を体を屈めてかわし、霊夢は右拳を握り込んだ。

 

 ──恐れよ。崇めよ。諦めよ。此より放つは、汝を永劫の辛苦へと導く磔刑なり。

 

「ぜぇらぁッ!」

 

 レミリアの腹に、霊夢の拳がクリーンヒット。空中へと吹き飛ばされたレミリアを四つの光弾が取り囲み、その四肢を、七色に輝く雷で捕まえる。

 霊夢の頭上に霊気が渦巻き、巨大な光弾と化す。ふっと空に浮き上がり、それを全力で蹴りつける。

 

「『夢想封印』!」

 

 五方向から、七色のエネルギー弾がレミリアを襲った。凄まじい爆発が巻き起こり、霊夢でさえも後退した。もうもうと湧き上がる煙の中で、レミリアの小さな体が傾ぎ、ゆらりと倒れた。

 

「……見事だ」

 

 満身創痍となった吸血鬼は、それだけ言うと目を閉じた。

 

「好きにしろ」

 

 霊夢は無言で手刀を形作る。その手に霊力が込められ、必殺の威力を秘める。

 そして、振り下ろされた手刀が、レミリアの首を分かつ瞬間──。

 

 背後が、爆裂した。

 轟音が響き、霊夢は思わず後ろを振り返る。レミリアも咄嗟の事に目を見開き、辛そうに上体を起こす。

 どうやら下の階から()()()()()()()()()らしい。ぽっかり開いたそこから、何かが二つ飛び出した。

 

「魔理沙!?」

 

 先に飛び出してきたのは見覚えのある白黒魔法使い、霧雨魔理沙。そして、それを追って飛び出してきたのは、レミリアと同じ体格の少女だった。金髪を靡かせ、赤を基調としたドレスに身を包んでいる。レミリアの蝙蝠羽根より明らかに異質な、枯れ枝に宝石をぶら下げたような羽根を伸ばしている。

 

「──フラン!?」

 

 レミリアが声を上げた。その呼び掛けに、少女──フランが、フランドール・スカーレットが空中で制止し、こちらを見つめる。

 

「久し振りね、お姉様。四九五年ぶり。そしてさようならお姉様。貴女今から死ぬのよ。私と一緒にね」

 

 レミリアが息を呑む。空に輝く紅月が、フランドールの羽根を妖しく照らしていた。

 

 

 

 

 




お読みくださりありがとうございました。
次回、遂にクライマックス。始まるVSフランドール戦、姉妹間の謎の軋轢、そして忍び寄る『奴等』の魔の手。全部、全ぇ~ん部、お見せしましま。

では、また次回。
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