東方鉄拳翔~Iron Shrine Maiden~ 作:水石Q
☆今回の登場人物☆
フランドール・スカーレット…レミリアの妹。その戦闘力は姉に勝るとも劣らない。とある理由により、幼少の頃から幽閉されていた。能力が能力なので非常に使い勝手が悪い。一人だけ出る作品間違えてる感。
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「フラン……!? 一体どういう事だ! お前も、私も死ぬ!? 奴等が現れるという事か!?」
レミリアが叫ぶ。また『奴等』……。
「言ったでしょ。わたしたち死ぬのよ。奴等に殺されるの。わたし怖いの。奴等の目が届かないようにと、ずうっと暗い地下室に閉じ込められていた。一緒に閉じ込められたお姉様も、やる事があるっていなくなった。怖かったのよ。とてもとても」
「フラン、悪かった。お前を少しの間とは言え、独りにした事は謝るよ。でも……」
レミリアの言葉は、途中で断ち切られた。彼女の足許に、どこからともなく飛んできた深紅の長剣が突き刺さったからだ。細い首筋を、汗が流れ落ちた。
「黙ってよ。わたしのお姉様は、そんな男みたいな喋り方はしない。わたしを悲しませるような事は絶対しない。お前はお姉様じゃない」
霊夢は、宙に浮いたままのフランドールを見つめて歯噛みした。
何だか抜き差しならない状況になってきた。攻撃を仕掛けようにも、どちらに打ちかかったところで返り討ちにされる運命しか見えない。レミリアの傷が再生し始めているのに対し、霊夢は全身に激痛が走りっぱなしだった。というか、さっきから蚊帳の外にされている気がする。身内喧嘩なら後にしてほしいところだ。
その時、すぐ側に何かが落下してきた。魔理沙だ。
「いてぇ!」
「魔理沙、あいつは」
霊夢がフランドールに顎をしゃくりつつ言うと、白黒魔法使いは目を剥いた。
「げぇ! あいつ、ここまで来たのかよ!」
「あの子、そんなにヤバい奴なの?」
「ヤバいなんてもんじゃねぇ! 今すぐ抑えつけろ! 私ら死ぬぞッ!」
魔理沙がそう言った瞬間、レミリアが立っていた場所が、突如爆ぜた。辛うじてレミリアは避けたらしいが、額に脂汗を浮かべて、歯を剥き出しにしている。怯えているのか?
フランドールが手をかざし、行け、とでも言うように振り下ろす。次の瞬間、累々と横たわる妖精メイドの死体、そこから流れ出た血が、まるで意思を持つ生き物のように蠢き始めた。血液は剣のような形状に姿を変えると、真っ直ぐにレミリアに向かって飛翔する。フランドールが有しているのは、血を操る能力なのだろうか。
レミリアはそれを回避するが、次いで飛んできたもう一振りに腹部を貫かれ、時計塔の文字盤に文字通り釘付けにされた。
「ぐは……ッ!」
フランドールが指を弾く。レミリアの腹に刺さった剣が、ウニのように四方八方へ棘を伸ばし、彼女の体を引き裂いた。
「がはぁぁぁぁぁぁぁッ!」
紅い時計塔が更にどす黒く上塗りされる。フランドールはすいっと姉の眼前へ移動すると、その血から新たに剣を作り出すと、鼻先へ突きつけた。
「終わりよ」
「フラン……何故、こんな事を……」
「もう嫌なのよ。これ以上あんな所に独りぼっちは嫌。いっその事、奴等に最期まで抵抗してやる。逃げ隠れするのは性分じゃないの。それで死ぬのなら、悔いはないわ」
「……」
「さよなら」
ゆっくりと、だが力強く、フランドールが剣を引き絞る。レミリアは動かない。俯いたまま、己が腹を貫く剣を握り締めている。
光芒一閃。
月光を纏った切っ先が迫る。その刹那、レミリアはようやく顔を上げた。フランドールはその瞳に、悲痛なまでの後悔を見た。
歯を食い縛り、腹に突き刺さったままの剣を引き抜き、フランドールの刺突を弾く。
「しまった!」
フランドールは飛び退こうとするが、その時には既にレミリアの手が、彼女を掴んでいた。
殺られる──そう思っていたからこそ、フランドールは、レミリアが自分を抱き寄せた事に驚愕し、目を見開いた。
「お馬鹿さん、ね、フラン……。そんな事、ないわよ」
そっと、頭が撫でられる。
「死んだら、本当に、独りぼっちよ……。きっと、とても寂しいし、私もフランがいなくなったら、寂しいわ……」
「お、ねえ、さま……」
「これからは、ずっと、一緒よ、フラン。霧なんて使わなくたって、二人で地下室へ籠らなくたって、私がフランを守ってあげる。命に代えても、ね。ごめんなさいね……最初から、そうすれば、良かった、のに……」
フランドールの手が、恐る恐るレミリアの腰に回された。
「お姉様……わたし……わたし……ごめんなさい、ごめんなさい……!」
フランドールはそれだけ言うと、レミリアの胸に顔を埋めて、肩を震わせ始めた。レミリアの目にも、月の光に輝くものがあった。
しばらくしてから、二人は霊夢たちの目の前に降りてきた。ばつが悪そうにレミリアが切り出す。
「まぁ、白状すると、今回の異変は空を霧で覆って、奴等の追跡を攪乱する為と、日光の制約がない状態で、この子を外へ出してやりたかったからなの。霧はもうじき晴れるわ」
「あんたが死ぬまで晴れる事はないんじゃなかったっけ?」
霊夢が訊ねると、紅魔館当主にして“紅霧異変”の首謀者は、悪戯っぽく笑った。
「それ以外の方法が無いとは言ってないわよ」
「その通り」
ムゥッキュッキュッキュッという奇妙な笑い声と共に、魔理沙とフランドールが飛び出してきた穴から、更にもう一人、偉大なる大魔法使い、パチュリー・ノーレッジが浮かび上がってくる。
「パチェ、我々の目的は果たされた。あの霧の解除を頼む」
「元々この紅霧は、私がレミィの依頼を請けて作り出したもの。私にかかれば、展開も解除も容易い容易い」
「……ねぇ、あの人、何で焦げてんの?」
「悪い、ちょっと火力が強すぎたらしい」
「おいそこ、話聞け」
パチュリーが、では早速、と両手を掲げる。空を覆っていた紅い霧は晴れ、裂け目から夜闇が顔を出す。
紅い月は毒を抜かれたかのようにすっと色を変え、平生の黄金色を取り戻した。
異変は終わった。後には、静かな夜が待っている。
一件落着、そう思っていたからこそ、その場にいた全員が油断していた。
トンッ、という、小さな音。注意していなければ聞き逃していたその音をいち早く捉えたのは、レミリアだった。
自分の胸から、
「お姉様!?」
フランドールの叫びで、皆が異常に気づく。血溜まりの中、レミリアの体は、驚くほど小さかった。
「お姉様! そんな……一体誰が……!」
フランドールは辺りを見回す。どこにも人影はない。投擲された刀は、刀身が純銀でできていた。即ち、最初からレミリアを狙う目的だったという事だ。
ヴァンパイアハンター? 考えにくい。この場の誰かか。しかし、誰も不審な動きは見せなかった。
考えている内にも、抱き留めた体からは急速に体温が失われていく。
「お姉様! そんな、嫌だッ、折角また会えたのに! 行かないで! わたしを独りにしないでよ!」
「フ、ラ、ン……」
「……!? お姉様ッ!」
「いい、のよ……これは、罰ね……。フラン、を、悲しま、せた、罰……」
「何言ってるのよ! お姉様わたしの事を守ってくれるって約束したじゃない! それだけで……それだけで良いのに……。一緒にいてくれるだけで、他には何も要らないのに……」
フランドールは、ぼろぼろと涙を零し、レミリアにすがりつく。レミリアはその頭を、慈しむように撫でた。
「あぁ、あぁ……それなら、良い……最期の、最期で……ようやく、姉らしい、事が……」
その目から、光が失われていく。
「フラン……ずっと、いっ、しょ、よ……」
ごぷり、と血を吐いて、レミリアは動かなくなった。
フランドールは声もなく泣き崩れ、パチュリーはあまりの事態に立ち竦んでいた。
「ど、どうすんだよ、これ……。流石に、寝覚め悪いぞ……」
「分からない……。どうすれば良いの……」
「手は、あるわ」
唐突に背後から飛んできた声に霊夢が飛び退くと、何もない空間がぱくりと裂け、そこから一人の女性が歩み出てきた。
「
「久し振り、霊夢」
波打つ金髪に、霊夢のものと同じ道士服。夜だというのに日傘を回すこの女性は、
「そこなお嬢ちゃん、フランドールって言ったわよね?」
紫に名を呼ばれ、フランドールが顔を上げる。
「貴女は……?」
「御機嫌よう、
その問いは愚問とさえ言えるほどであったが、フランドールは真剣に頷いた。
「わたし、もっとお姉様と一緒にいたい。失った時間は、沢山あるけど……それをこれから、塗り替えていきたい」
「よろしい。あー、昔の霊夢を思い出すわね。やっぱり女はこうでなくっちゃぁ」
紫が指を弾いた。
「あなたの能力──『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』、その境界の全てを取り払ったわ。最早あなたの能力の影響下にあるものは物体だけではない──為しなさい。その力を使って、あなたの望む未来を作り出しなさい。私は、幻想郷は、それを赦し、受け入れましょう」
フランドールが手を広げる。その掌に深紅の球体が浮かび上がり、フランドールはそれを握り潰した。
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博麗神社。
霊夢の自宅にして幻想郷と外の世界を隔てる境界、博麗大結界を繋ぎ止める楔の役割を持つこの神社は、ひっそりと月見会を開催していた。
「おぃーっす」
「あら、あんたが一番乗り? 珍しい」
縁側に座り込んだ魔理沙に、社務所から出てきた霊夢が茶を出す。
「月見は楽しみでね」
「あら、じゃあ去年の花見は? 結局途中で帰ったじゃない」
「酒が少なかったな」
呑兵衛め、うるせー。何気ない会話を交わすうち、あの夏の事に話題が飛んだ。
「しかし、あの時のフランには驚いたわね」
「あぁ、紫の助力が恐ろしいよ。能力を使って、『レミリアが死んだ』っていう
「まぁその後元に戻されたけど──あ、来た」
霊夢が遠くの空に目をやり呟く。魔理沙も視線の先を追って笑った。
「……なぁ、霊夢。結局、あの悪魔姉妹は倒さなくて良かったのかよ?」
「別に、大して悪さしないなら私も倒すつもりはないわよ。それに、あんな二人を悪魔だなんだって追い立てる気にはならないわ」
「はは、まぁ確かにありゃ、悪魔って言うよりは」
天使だよな。
その呟きが夜闇に溶け、魔理沙は早めの酒を呷り、月を見上げた。
金色の月を背景に、二つの影が近づいてくる。
レミリアとフランドールは、月夜の空を、まるで踊るようにじゃれあいながら飛んでいた。
お読みくださりありがとうございました。
『東方紅魔郷』編、これにて完結です。たとえ一章としても完結は完結です。ここは素直に、自分を誉めたいと思います。慣れない大仕事に駆け足気味になってしまったり、拙い感じになってしまった部分も多々ありますが、ひとまずこの失敗を、次回以降の教訓にしていきたいです。
あんまり長くなるのもあれなんでここらで、では、また次回。