それは……きっとハロウィンに紛れたおばけのせいです(震え声)
Wardの編集履歴を見ると2020/12/9にはほぼ完成してたんですが、そのまま忘れていました……
三隅夫人とシーザーによる手作りカボチャプリンを堪能した後、四人はそれぞれの身支度を整えて三隅家を出発した。
商店街への道すがら、シーザーの手作り衣装を身に着けた一同は、本人らの容姿も相まって中々に様になっていると久遠は感心する。
クーが身に着けた着物は黒地に赤の肉球模様が裾から上へと螺旋状に連なる模様が色鮮やかで、中々いい生地を使われているらしい。
動きやすさを重視してか丈がやや短いものの、寒がりの彼女を考慮してか足元は温かいタイツで覆われていた。
「んふふー、かわいい? かわいい?」
嬉しそうに身に着けた着物を見ながらくるくると回るクーに、製作者であるシーザーも満足げだった。
「うん、似合ってる。……和装も縫えるんだから凄いなぁ」
「ふふ、奥さまは元々和裁のお仕事をやっていたそうなので、実はわたしが習っているのも主に和裁なんです。生地は奥さまが趣味で集めているものからクーちゃんに似合うものを選んでいただきました」
「うはー、コレクションの生地とかいいお値段しそうだな……なんかお返し考えとかないと。ところで、これって何の仮装なんだ?」
可愛らしい着物姿ではあるもののこれといった仮装要素が見当たらず首を傾げる久遠に、クーはにししと笑った。
「ネコマタ! ほら、しっぽー!」
そう言って片足を上げ両手を丸めた猫のポーズを取りながらクーが背を見せると、彼女の自前のものとは別にもう一本長い尻尾が垂れ下がっていた。
帯にくくりつけられる形なので、外せば普通の着物として使えるようにもなっている。
「なるほど、尻尾を増やしてネコマタね。んで、チビ助の方は……」
久遠がクーの隣へと視線を移すと、チビ助は金剛杖を手に自らの格好を見下ろす。山伏衣装に手作りの翼を背負ったその姿は。
「カラス天狗、だったかしら。あの時会ったカラスの格好よね?」
そう言って彼女が思い浮かべたのは例の大騒動の最中に出会ったヤタガラスの使者の片割れだった。
「はい、同じカラスですし、何より格好よかったので!」
久遠は直接見ていないが、錫杖を片手に大型の怪物を退治する姿はさながらヒーローのようだったとクーから聞かされていた。
錫杖がなかったためか手に持っているのは三隅夫妻が昔お遍路で使った金剛杖であったが、その中々の再現度に久遠は舌を巻く。
「本人曰く天狗じゃなくて妖怪烏らしいけど。中々様になってるな」
「本物に背中の羽は付いてなかったし、下駄ももっと長いやつだったけど。かなり良くできてると思うわ」
「うんうん、かっこいーよね!」
口々に飛び出す賛辞にシーザーの頬は紅潮し、背中で隠しきれないほどにブンブンと尻尾が左右に揺れていた。
「えへへ、ありがとうございます! ただ、その分くおんさまの衣装にかけられる時間がなくなってしまいまして……」
そう言うと尻尾の揺れが収まり、少しだけシュンとなってしまう。
久遠は彼女に頼まれて持ってきた高校時代の詰め襟と学帽――着用自由だった為ほとんど着たことはないが――の上に羽織ってほしいと渡された黒い外套を身に着けている。
彼は三人を見渡す。ネコマタの仮装のクー、カラステングの仮装のチビ助、そしてケルベロス(?)の仮装のシーザー。
(……ひょっとして、ラ○ドウのつもりなのかなこれ)
ふとそんな事に気づいた久遠は苦笑する。
数ヶ月前、テレビゲームに興味を持った彼女へ使わなくなって久しい旧世代のゲーム機をソフトごとまとめてプレゼントしたのだが、渡した中にこんな格好の主人公が悪魔を味方にしながら戦うものがあったのを彼は思い出したのだ。
(三隅さんたちとパーティゲームで遊んだってのは聞いてたけど、意外とこういう系のゲームもやるんだな)
きゃいきゃいと楽しそうに戯れる三人を率いながら久遠はいつもの商店街へ向けて歩みを進めた。
※
クラシカルな魔女の仮装をしたカラスのフレンズ――箒に腰掛けている風に見せる姿勢の維持が辛いのかプルプルと震えている――が頭上を飛ぶ姿を眺めつつ、久遠たちは商店街へと足を踏み入れた。
「思ったより客入り多いわねぇ」
カラフルな衣装に身を包んだヒトやフレンズの群れがごった返す商店街を見渡して、チビ助が感心したように言う。
「フレンズもヒトも基本お祭りが好きだからなぁ。クー、慣れた場所ではあるけどはぐれないようにな」
「はーい! おっかしー、おっかしー♫」
「言っとくけど、大したものは貰えないわよ」
貰えるお菓子への過剰な期待でウキウキした様子のクーに苦笑しつつ、一同はイベントをやっている場所まで歩みを進める。
「はえー、結構みんな凝った衣装着てますねぇ」
周囲をキョロキョロと見渡して他の仮装客を眺めながらシーザーは感嘆の息を漏らした。
ヒトもフレンズも一緒くたになって様々な仮装をしており、定番のお化けのコスプレをはじめとしてアニメ等のキャラクターの仮装、そしてフレンズのコスプレ――本物を借りて着ている者もいそうだ――をするヒトや、衣装を交換したらしいフレンズの姿も見受けられた。
「既製品の衣装も出来のいいのがあるからなー、シーザーみたいに和装を自作してるガチ勢とかそうそういないと思うよ」
「そうでしょうか? でも、来年はもっとスゴいの作ってみせます」
「あんまり変なのはやめてね。……あら?」
そんなチビ助の声を皮切りに、一同は道端に大きな人だかりができているのを発見する。
「あれ、お菓子配ってるのはもう少し先でしたよね?」
シーザーが小首を傾げる。
「となると、何か出し物でもやってるのかもな」
「うにゅにゅ、おかし……でも、気になるから見にいこ!」
お菓子への欲望に後ろ髪を引かれつつも好奇心を発揮したクーに連れられて一同が人々の輪に加わると――。
「……うえっ!?」
久遠は目の前の光景に思わず妙な声を上げる。
近頃の彼はもはやちょっとやそっとの出来事では驚かない自信を持っていた、なにせ擬人化した動物から始まり、神様から怪物、陰陽師やその式神と、短期間で様々な奇妙なものを見てきたことで耐性を得たつもりでいたのだが。
「あソレソレ!」「ソイヤソイヤー!」
人だかりの中心では、細い手足を生やした真っ赤な二体の達磨がくるくると踊っていた。
片方は久遠の胸ほどの背丈で、もう一体は膝ほどの背丈しかなく明らかにきぐるみなどではない。
大きい方の達磨がぽふんと煙に包まれると、今度は大きな番傘を持った信楽焼のたぬきが大きな達磨のいた位置に立っている。
たぬきが傘を広げて回し始めると、小さな達磨が大きく跳躍し傘へと飛び乗る――とその姿はいつの間にか鞠へと変わっている。
「はいぃ、いつもより多めに回しておりますぅ」
眠たげな少女の声で決まり文句を言いながらコロコロと器用に傘回しをする信楽焼――よく見ると時々傘から転げ落ちた鞠が自力で傘へ戻っているように見えるが――の姿に、観客たちは思わず拍手を送っていた。
「やー」というちょっと気の抜けた掛け声とともに鞠は高く跳ね上げられ、そして地面に落ちる寸前にぽふんと一際大きな煙を上げ信楽焼もろとも覆い隠し――次の瞬間ブレザー姿の少女と黒の長髪で和装の女性の姿に変わっていた。
少女の頭部にはピンと獣耳がそびえ立っており、灰色字に白い模様の入った髪型からして――。
「どうもぉ、タヌキの変化ショーでしたぁ」
「どうぞ、おひねりはこちらへお願いしまぁす」
へにゃりと笑ってお辞儀する女性の横で、ザルをもったタヌキの少女が拍手を送る観客たちからおひねりを集め始める。
(……なるほど、タヌキのフレンズか。フレンズ化すると変化までできるとはサンドスター恐るべし)
そんな事を思いながら久遠が財布を取り出していると、目をキラキラさせたクーが女性に駆け寄っていた。
「こんにちは! すっごくすごかったよ!」
「あらどうも、楽しんでくれたようで嬉しいわぁ」
いきなり近付いてきたクーに対しても女性はにこやかに対応する。
「あの、変身するやつってどうやるの!?」
「ふふ、今の嬢ちゃんにはちょっと難しいわぁ。まあ、猫やったら二十年くらい生きればできるようになるかもー?」
「そうなんだー」
そんな風に言って笑う彼女に、残念そうにうなだれるクー。
「そっちのぽん吉はこの姿になってようやく化けられるようになったんよねぇ。豆狸未満の若造でもここまで化けられるんやから、ほんま流星の力はスゴいわなぁ」
そんな事を言っていると、一通りおひねりを集め終えたらしいタヌキの少女――ぽん吉――が会話へ混ざってくる。
「とはいえ、オイラは今の姿から背丈の違うもんには化けられんから。はよう姐さんみたいに化け上手になりたいわぁ」
「ふふ、ならもっと修行せななぁ。……それじゃ、そろそろウチは山へ戻るけど、ぽん吉はどうするん?」
「うーん、せっかくやしちょっとだけ街を見て回ってから帰るわぁ」
受け取ったザルの中身を唐草模様の風呂敷へ包んで首に巻きつける女性に、ぽん吉は少し考えてそう言った。
「そか、ほな先帰ってるから車に轢かれんよう気いつけて帰りなぁ」
彼女はそう言うと、クーたちへ向き直って微笑む。
「変化ショーは定期的にやるから、お客さんらも見かけたらまた見たってなぁ。ほな、ウチはこれにてどろん!」
そんな言葉とともに女性の姿は煙に包まれ、煙の中から風呂敷を首元に巻き付けた一匹の狸が飛び出し山の方へと駆けて行った。
走り去っていく狸の姿に、遠巻きにそれを見ていた久遠はしばしフリーズする。
「……えっ、フレンズじゃなくてマジモンの妖怪の方?」
やがて久遠は呆然としてポツリとつぶやく。
その横ではシーザーが何やら少し感動した様子で小さくなってゆく狸の後ろ姿を見送っていた。
「わあ、わたし本物の妖怪さんを初めて見ちゃいました!」
「へえ、タヌキが変身するのってホントなのねえ」
チビ助が先日皆で見たDVDを思い出して一人納得する。
(……というか、ドロンといいつつ普通に走って帰ったな)
オーバーフロー気味の脳みそでそんなどうでもいい感想をこぼしながら、久遠は三人を連れてイベント会場へと足を進め始めた。
※
イベント会場でひとしきり他人のコスプレを見物し、ついでに買い物も済ませた四人は帰路についていた。
「今日はスゴかったねー! タヌキのおねーさんに聞いたらクーも長生きしたらできるようになるかもだって!」
イベントでもらった小袋を手にそう目をキラキラさせるクーは、珍しくお菓子ではなくその前に見た変化ショーにご執心だった。
『あの日』の出来事以降、常識が大きく塗り換わったこの世界ですらなお奇妙に感じた光景に久遠自身も衝撃を受けている。
「猫が二十歳まで生きたら『猫又』って妖怪になると言われてる。迷信だって言われてたけど、案外ホントになれるかもしれないな」
「二十歳かぁ、えーと……いまクー何歳だっけ?」
「もう、五歳でしょ。自分の年くらいは覚えておきなさいよ……。二十歳ならあと十五年後、結構遠いわねえ」
チビ助の言葉に、一同は「十五年かぁ」と未来へ思いを馳せた。
人間の小さな子供も大人になるような年月は、寿命の短い生き物にとってはあまりにも遠い。
「クーちゃんがその歳になる頃、みんなどうなってますかねえ……。わたしももう犬的にはおじいちゃん……おばあちゃん? ですし」
「実際、こうなったあたし達がどれくらい生きられるのかまだ分からないのよねぇ。ただのカラスと同じなら割とギリギリかも」
そんな二人の言葉にクーは驚いたように目を潤ませる。
「え、えーっ! みんな死んじゃヤダよ!」
「……サンドスターの力が確かならみんなは若いままじゃないかな。僕はおっさんになってるけども」
ひしと抱きついた彼女に、シーザーはよしよしとその頭を優しく撫で付ける。そんな様子を見て久遠は苦笑する。
「ま、そんな遠い先の事で泣いてもしょうがないでしょう、ホントにネコマタになるのかも分かんないし。こう言うのなんていうんだっけ、ええと、捕らぬタヌキの……皮、算用? だったかしら?」
「この場合使い方合ってるのか? それにしても実際タヌキと会った後で使うにはちょっとアレな言葉だな……」
そんな事を話しながらも、四人は帰り道を進んでゆくのであった。
数年後、彼らも見知った一人の猫のフレンズが猫又となってちょっとした騒ぎになるのはまた別の話。
「私は
というわけで、今になってハロウィン回の続きでした。
本編は苦戦していますが、話的にはもうほぼ終盤なんです。
時間はかかっても完結はさせるのでコンゴトモヨロシクお願いします