最近モチベが少し回復し始めたので本編ももうそろそろ書き上がるはず……多分……お待たせして本当に申し訳ない
今回の話は本編から数年後、隕石騒動&サンドスターとのファーストコンタクトのショックから人類が立ち直り始めたあとのお話です
クリスマスネタながら糖分も控えめとなっております
切りつけるような真冬の風にも負けず、町中が活気づいていた。街路樹や建物に雲に覆われた星々の瞬きに取って代わらんとばかりに華々しく煌めいている。
――今宵は聖夜、クリスマスその日である。
「今年は一段と華やかよねぇ、どこもかしこもキラキラしてるわ」
「去年はまだ発電所の復旧が終わってなかったし自粛ムード抜けてなかったからな。むしろやっといつも通りになったって感じだ」
壁面で手を振る大きな電飾のサンタクロースをしげしげと眺めるチビ助の真下で、久遠は缶のポタージュをズズッとすする。
彼がそっと視線を上げれば、スカートの下には飛行を前提としたインナーが履かれておりもはや彼女の下半身は飛行中でも無防備を晒したりはしない。
教育の成果に嬉しいやら残念やら複雑な思いを久遠は抱く。
「ね、それ少しちょうだい。寒くなっちゃったわ」
そんな邪な考えなどお構いなく、彼の横に降り立ったチビ助が小首を傾げながらおねだりをした。
彼女は無意識的に自身の魅力を引き出す構図を心得ているらしい。久遠は苦笑いを浮かべつつ缶を差し出す。
「冷たい飲み物選ぶからだ、そりゃ冷えるわ」
飲み口から湯気の立つ缶を受け取ると、チビ助はその温度を楽しむように手の中で転がし、はにかんだ。
「だって好きなんだもの……んっ!」
「火傷するなよ。って、こらこら飲み過ぎ! ったく……」
口をつけると同時に頭の翼をピンと広げた様子を心配したものの、彼女は何事もなかったかのように二口三口と喉を鳴らす。
ずいぶんと軽くなったそれを取り返すと、久遠はため息を一つついて残りを煽った。最後に残った粒を吸い込むように口へおさめると、空になった缶をゴミ箱へ投入する。
「さあ、そろそろ買い物を済ませちゃいましょう。そろそろ飾り付けも終わってる頃じゃないかしら?」
「どうだかなー、手伝ってくれるシーザーはともかく肝心のクーが割と洒落にならないレベルのぶきっちょだし」
クリスマスパーティとやらをやってみたい、なんて言い出したのは他ならぬクーである。去年もイチゴのショートケーキとケンタのチキンでささやかなクリスマスを楽しんではいたが、どうやら更に上をお望みらしい。
自ら飾り付けを買って出た彼女を尊重し、手伝いに来てくれるシーザーとともに家を任せて料理の買い出しに出てきた二人。
「そこは信じてあげましょう。それより、予約したケーキはどんなかしら! 実は私、楽しみにしてたの」
「カタログで見ただろ。サンタのマジパンが乗ってるやつ」
「それはそうだけど、実物が早く見たいのよ」
そう言って目を輝かせる彼女に、朝からそわそわしていたと思ったらそういう事かと久遠は苦笑する。
「先にチキンと飲み物な、ケーキは最後。崩れたら台無しだし」
「分かってるわ。だからね、早く行きましょ」
「うぉ、押すなって!」
『本日はご来店まことにありがとうございます。今夜だけのスペシャルゲスト、トナカイさんの飛行ソリショーはこの後17時30分、南館屋上にて開催となります。グルメエリアではクリスマスの特別メニューをご用意しておりますので……』
そんな素っ頓狂なアナウンスが聞こえたのは、二人がショッピングモールの食品コーナーをぶらついていた時であった。
館内アナウンスを半ば聞き流していた久遠だが、その珍妙な告知を聞き漏らすことは流石にできなかった。
「……は? 今、トナカイがソリで滑空とか言ってなかったか?」
「言ってたわね、それがどうかしたの?」
「いや、まずトナカイは空飛ばねぇし。こんなところに連れてくるくらいだからフレンズ化したやつだろうけどそれでも飛ぶとか聞いた事ないぞ」
首を傾げるチビ助に久遠が困惑したようにそう言う。
「え? トナカイってサンタクロースを乗せたソリを引いて飛ぶものなんじゃないの?」
「それは空想上の事で……いや、もしかしてサンドスターはそんなことまで出来ちまうのか?」
動物から果ては神や妖怪まで人間の少女の姿に変えてしまったり、小さな翼で空を飛ばせたりと様々な不可思議現象を起こすサンドスターのこと、聖夜にトナカイを飛ばす位のことは出来てしまうのではないかと久遠は思い直す。見たい、超見たい。
「んー、そんなに気になるなら見に行ってみる?」
「良いのか? 少し遅くなるかもだけど」
「ちょっとくらい良いでしょ、買い物は手早くしなきゃだけどね。ほら南館はあっちよ、行きましょ!」
上機嫌なチビ助に手を引かれ、久遠は目的の南館へと歩みを進める。アナウンスの効果か、同じ方向へ向かう親子連れやカップルなどの姿がいくつも見えており、これは混みそうだと彼は思った。
「そこの鳥のフレンズの皆様、館内での飛行は大変危険ですのでおやめください!」
「ほら、やっぱり怒られたじゃん!」
「えー、だって飛んだほうが早いよー?」
「壁にでっかく貼られてるよね、飛行禁止って」
そういった中には当然フレンズたちの姿もあり、彼女らの奔放な振る舞いに警備も忙しそうにしている。その警備員の中にも警備帽から獣耳がはみ出た女性――フレンズが混じっている。
ある日突然降って湧いた彼女らも、すでに街の一部として溶け込み始めている。そんな実感を抱いた久遠は、何となくチビ助の横顔に目をやった。館内の暖房に当てられてか頬がやや上気していた。
その視線に気づいたチビ助は嬉しそうに頭の翼をはためかせる。
「……うん? どうかした?」
「いや、なんでも。フレンズの子らもずいぶん馴染んだなって」
「そりゃあ、ヒトもけものも変化に慣れていくしかないもの。去年辺りはかなり騒がしかったけどね、法律とかなにかで」
「だなぁ……まだまだ行き届いてない感じはするけど」
「それは仕方ないわ、私たちもフレンズスクールで知識を詰め込まれてるけど追いついてない子多いもの。ヒトが決まりを定めても、けもの側がそれに沿えないと意味がないわ。ああやって働ける段階まで行けてる子はまだ少ないみたいだし」
そう言って、チビ助は頭の翼を脱力させてため息をついた。
「私もそろそろ就業の許可が降りるとは思うんだけど、枠がまだ少ないのよね……ホント面倒だわ」
「仕方ないさ、まだ様子見の段階だし。別に無理して働かなくてもいいと思うけど」
「ダメよ。アナタがバイトちょっと増やしたの知ってるんだから」
「んー、まあ、無理をしない範囲で頑張ってくれ」
「ふふ、任せて」
図星を突かれた久遠がしどろもどろになるのを、彼女は得意そうに翼を広げて笑った。
「皆様、大変長らくお待たせいたしました! 本日はクリスマスと言う事で、スペシャルゲスト! ○○動物園よりトナカイのサンタさんをお呼びしております!」
南館の屋上にある広い休憩スペースに二人が到着すると、丁度イベント開始のアナウンスが司会によって告げられた。
「丁度良いタイミングだったかしら。でもヒトが多くて見辛いわね」
「結構ギリギリだったからな。しかしトナカイなのにサンタか……」
人の間をすり抜け舞台がそれなりに見える位置に到着すると、準備が出来たとの報告を受ける司会の姿が見えた。
「……さて、ソリの準備の方が整ったようです! それでは皆さんご一緒に、大きな声でサンタさんを呼んでみましょう! せーの!」
『サンタさーん!!』
小さな子どもたちとその親が中心となり――久遠は隣からしっかりとコールする声を聞いた――名前を呼ぶ声が会場を響き渡ると同時に、舞台に設置されたスピーカーからはシャンシャンという連続した鈴の音とクリスマスソングが再生され始める。
黄色い歓声に迎えられながらフェンスの向こう側から電飾に飾られた大きなソリがふわりと浮かび上がってきた。
『はーい、皆さんこんばんわー! トナカイのサンタでーす!』
照明に照らされ、弾けるような笑顔で手を振る一人の少女。その頭にはいくつにも枝分かれした立派な角が生えており、胸元に大きなベルをあしらった真っ赤なサンタ服を身に纏っている。
彼女はソリの座席に座り、片手で手綱を握っていた。その手綱の先には――。
「ふんぬーっ!」「ちょ、後ろ下がって来てるわよ!」「お、重い……!」「ごめん、割と限界が近い……!」
――トナカイの角が生えたカチューシャの横で必死に翼を羽ばたかせてソリを担ぎ飛ぶ四人の鳥類のフレンズの姿があった。
『わっせ! わっせ! よいせ! よいせ!』
掛け声を合わせながらゆっくりゆっくりと舞台までやってくると。
『よいしょぉーっ!』
と、威勢のいい声とともに神輿……ではなくソリを舞台上に下ろすのであった。
いい運動をしたとばかりに紅潮した頬の汗を拭うトナカイ役の彼女ら、それに労いの言葉を掛けるサンタ役のトナカイを見て、久遠を含む観客の多くは思った。
――思ってたのと違う。
「結構面白かったじゃない」
「うん、まあ面白かったのは確かだけど、ある意味」
一部の微妙な反応もなんのその、トナカイたちは無邪気な子供の参加者たちと楽しそうに握手をこなしては大きな袋からお菓子を取り出して配り、イベントは盛況のうちに終了した。
小袋を片手に上機嫌なご様子のチビ助と、子供向けに配られていたそれを当然のように受け取りに行っていた彼女に苦笑を浮かべる久遠は、買い出しを終えて帰路についている。
「予定よりちょっとだけ遅くなっちゃったかしら」
「ま、誤差の範囲内だな。飾り付けも終わってるだろうし……寒っ」
不意に冷たい風が吹き付け、久遠は思わず身を強張らせる。
「指先が冷てぇ……」
「手袋しないからよ、今日は冷えるって言ってたじゃない」
「締め付けられる感があるから手袋は好きじゃないんだよな……」
ケーキの入った紙袋を握る彼の手に力が入る――その手を、チビ助の手がそっと包み込んだ。
「ホントだ、すっごく冷たい」
少し驚いたような顔をする久遠に、チビ助は得意げな笑みを浮かべる。
「ほら、体温高いから暖かいでしょ」
「お、おう……あ」
照れたような笑みを返す久遠の鼻先に、冷たいものが一粒落ちた。
それに気付いた二人が空を見上げると……まばらながら、雪が振り始めている。
「ホワイトクリスマスっていうんだっけ、こういうの」
「そうだな……」
暗い夜空から舞い降りアスファルトへ落ちては消えていく雪に、二人はしばし見とれた。
「……さ、みんな待ってるし帰ろっか」
「ああ、ケーキを待ちわびてるだろうし」
そう言って二人は帰路を少し急ぎ始めた。
そっと繋がれた手はそのままに。
リハビリと言う事でやや短め&主要登場人物二人だけの省エネ仕様でお送りしました。
クー、シーザー、文中からもお留守番させて出せなくてすまぬ……すまぬ……
そして糖分も控えめ、イヴは仕事、本日はぼっちの私にダダ甘い話を書く体力はないのだ