けものわーるど   作:Nyarlan

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メリークリスマス!
今回は以前(……2年前!?)に投稿した『聖夜の買い出しにて』の続きとなる四人のクリスマスパーティのお話です!


クリスマス特別編 聖夜のおうちパーティ

「うぃー、()っしゅ ()メリクリスマス♪ うぃー、()っしゅ ()メリクリスマス♪ あだーはっぴー、にゅー……にゅ〜……にゃあ?」

「惜しい、“ハッピー•ニューイヤー”ですね」

 

「えへっ、はっぴーにゅーいやーっ♪」

 

 少し間違ったクリスマスソングを楽しげに歌い上げる声が響く。

 久遠とチビ助の二人が買い出しに出ている間、自宅ではクーとシーザーの二人によってクリスマスパーティの準備が進められていた。

 色とりどりの折り紙を切り貼りして作った、クーお手製のカラフルな鎖が部屋中から――やや過剰な程に――垂れ下がり、リビングの中心には大振りなクリスマスツリーがそびえ立っている。

 

 箱から取り出した装飾を楽しそうにツリーへと括り付けてゆくクーを眺めながら、シーザーは調理を続ける。出来上がったスープを小さじで掬ってすすると、小首を傾げた彼女の頭頂部から生えた獣耳もまた思案するように半回転した。

 

「うーん、もう少し味が濃くても良かったかもしれませんね」 

「あじみー!? クーもあじみするっ!」

「それじゃあお願いしますね。……どうですか?」

 

 そうやって飛んできた彼女にシーザーが掬ったスープを差し出すと、ニコニコ笑顔のクーはしなやかな白い尻尾をぴんと立てながら「おいしー!」と笑った。

 

「ふふ、よかった、ありがとうございます。それより、クリスマスツリーの飾り付けの方はどうですか?」

「あとはおほし様をつけるだけだよ! でもちょっと手が届かなくて――」

 

 彼女が元気に返答するとほとんど同時に、玄関からガチャリと解錠の音が響いてくる。

 

「ただいまー」「ただいま、うーっ、寒い……」

「おっかえりーっ!」

 

 久遠たちの声を聞くやいなや玄関へと飛んでいったクーに苦笑しつつ、シーザーは居間にそびえ立つクリスマスツリーへ目を向ける。

 本来ツリーの最上段に鎮座するはずの金色の星飾りは、寂しそうに床に転がっている。

 星野家の物置で埃を被っていたクリスマスツリーは家庭用にしては背が高い2m程のものだ。横幅や飾り付けもあって、一番背丈のある久遠であっても直立状態で乗せるのはかなり苦労するだろう。

 

(横に傾ければ……せっかく付けた飾りが落ちちゃいそうですね)

 

「早くストーブに当たりたいのにぃ……」

「ふーっ、部屋があったかくて助かる……」

 

 彼女がそんなことを考えていると、久遠たち二人が外の寒さに身を震わせながら居間へと入って来る。

 彼らに半歩遅れて、二人から受け取ったケーキの箱を掲げキラキラした目で眺めるクーもまた居間へと戻ってきた。

 

「二人ともおかえりなさい、ちょうど準備ができたところです」

「ただいまシーザー、料理任せちゃって悪いな」

 

 尻尾をちぎれんばかりに振りながら出迎えたシーザーに微笑み返し、外した防寒具を纏めてソファへと掛けつつ久遠が言う。

 外気の冷たさゆえにその鼻や耳まで赤くした彼に、シーザーはくすりと笑う。

 

「いえいえ、わたしも楽しんでやっていますので!」

「ただいまぁ……それで、星は? ちゃちゃっと飾っちゃいましょ」

 

 胸を張りながらそう言うシーザーの横を通り抜けつつ、チビ助が防寒具もそのままにツリーへ視線を向ける。防寒着で全身もこもことなった彼女もまた、冷えきった白い肌を部屋の暖気に赤らめていた。

 

「あっ、これだよー! おねがーい!」

 

 名残惜しそうにケーキをテーブルに置いたクーがトテトテと駆け寄り、床に転がっていた星飾りを拾い上げてチビ助に差し出す。

 メッキが施され金色に輝く星が室内の照明を照り返してキラキラと輝いていた。

 

「んもー、届かないのわかってるんだから最初につけなきゃ」

「だってー、いちばん最後の()()()にしたかったんだもん」

「はいはい。うーん、そうねぇ……よっ、と」

 

 彼女は少し考えたあと、星を受け取らずにクーの背後に回り

 そしてその小柄なクーの身体をしっかりと抱き上げた。

 

「わっ、どうしたの?」

 

 急に抱きしめられて驚くクーに構わず、彼女は「いくわよ」と小声で呟いた。次の瞬間、キラキラとした虹色の粒子を周囲へと散らしながらチビ助の艷やかな黒髪に混じって生える小さな翼が羽ばたく。

 二人の体は重力から解き放たれたように少しだけ浮かび上がり、ツリーの上部、その目の前へとやってくる。

 

「さ、()()()は頼んだわよ」

「えへへ、ありがとうチーちゃん! よい、しょっと、完成!!」

 

 そう言ってクーが先端に星の飾りをぐっと押し込むと、大きな大きなクリスマスツリーは見事に完成した。

 お手製の色紙の鎖に加え100円均一で買ってきたクリスマス飾り、そして予備も含めたすべての飾りを取り付けられたクリスマスツリーと随分ときらびやかになった室内を見てストーブの前に座る久遠が笑みを浮かべる。

 

「おー、飾り付けもしっかり完成したな」

「でしょでしょ! がんばったんだよーっ」

 

 尻尾と耳をピンと立てながら誇らしげに胸を張るクーを床へ下ろし、防寒具を着けたままのチビ助はストーブの前を陣取る久遠をグイグイと体で押す。

 

「うー、寒い寒い……ちょっと場所あけてちょうだい」

「はいよ、いやほんと寒いな……」

 

 ストーブの前で身を寄せ合いながら寒い寒いと震える二人を見て、シーザーはくすりと笑う。

 

「くおんさまにチビ助さんも。ストーブもいいですけど、早くごはんにして出来たての暖かいスープで温まりませんか?」

「うーっ、そうね。お腹もすいたことだし……」

「クーもお腹すいたー! ケーキ♪ ケーキぃ♪」

 

 ケーキの前で歌いながらはしゃぐクーの姿に、三人は苦笑する。

 

「……クーも待ちわびてる事だし、さっさとご飯にしちゃうか」

「賛成。あー、ストーブが名残惜しい……」

 

 

 

 久遠が部屋着に着替えて居間へと戻ると、すでに食事の準備は整っていた。防寒具を着たままだったチビ助すらも既に着席している。

 テーブルには久遠たちが買ってきたまるごとのローストチキンのような出来合いのおかずに加えて、シーザーが作ったスープ等の副菜が所狭しと並んでおり、未だ箱に包まれたホールケーキにはクーを始めとした皆の熱い視線が注がれていた。

 

「お待たせ。さあ、みんな待ちかねてるようだし……」

 

 そう言って久遠はケーキの封を破り、中身をそっと引きずり出し始める。ゴクリ、とだれかが生唾を飲み込む音から響く中、箱の端からその純白が姿を覗かせる。

 生クリームホイップによる華やかな装飾を超え、純白に映える瑞々しく赤いいちごが組む円陣が見え始めた。

 ホールの半ばに差し掛かると、大きな袋を片手に微笑むマジパン製のサンタクロースが姿をあらわにする。

 

 テーブルを囲む三人から上がる黄色い声を受けながら、お高いホールケーキはその全容を明かした。

 

「ふわーっ、すごく綺麗です……」

「サンタさん! かわいーっ!」

「ろうそく! ロウソクつけましょう!」

 

 興奮した様子の三人に促されながら久遠は付属のロウソクを等間隔に配置し、ライターによって火を灯した。

 三人の感嘆の声を聞きながら、奮発していいホールケーキを買って正解だったと満足気に頷いた。

 

 

 

「むふー、ごちそうさまっ!」

 

 最後に取り置いていたケーキのいちごを口に放り込んで、クーは満足気な様子で笑顔満面のまま毛繕いを始める。

 

「ごちそうさま、シーザーの作ってくれたスープ美味しかったわ。あれ、何ていうやつなの?」

「えへへ、それはですね……」

 

 食事を終えて各自楽しそうに話し合う中、久遠はそっと居間を抜け出して自室へ戻るとクローゼットを開けた。

 丈の長い冬物衣類の足元に隠すように置かれた物を抱えると、彼は足取りも軽く居間へと戻る。

 戻ってきた彼の足音に耳をピクリと動かして反応したのは毛繕いを終えたクーだった。彼女は戻ってきた久遠を見て目を丸くする。

 

「あれ、にーちゃどうしたのそれ!?」

 

 そんな素っ頓狂な声に反応した残りの二人は振り向くやいなや、サンタ帽と白い付け髭をした彼の姿に愉快そうに笑った。

 

「あはっ、何そのヒゲ〜」

「ふふ、くおんさまがおじいちゃんになっちゃいました」

 

 くすくすと笑う二人に少々照れくさくなりながらも、久遠はこほんと一つ咳払いしながら姿勢を正す。

 

「はい。この一年間いい子にしていたみんなに、久遠サンタからのささやかなプレゼントだ」

 

 そう言って、彼が居間の扉の裏へ隠していた物を差し出すと、三人はきゃあと嬉しそうな声を上げてそれを受け取った。

 

「ありがとー! ねね、あけてもいい? いいよね!」

「ああ、いいよ」

 

 頷く久遠に、クーはいの一番に一抱えもある大きな包を開封する。

 中から出てきたものに、彼女は目をキラキラと輝かせた。

 

「ひゃーっ! ジンベイザメだーっ、にーちゃありがとう!!」

 

 それは彼女が抱いて寝るのにちょうど良さそうなサイズの、大きなジンベイザメのぬいぐるみであった。

 少し前にテレビでやっていた水族館の特集で目にして欲しがっていた物である。

 

「ええと、わたしのは……わっ、新作のゲームソフトですね!」

 

 シーザーが袋を開けると、彼女が気に入って遊んでいるゲームシリーズの最新作が入っていた。

 

「ありがとうございます! ……ああでもどうしましょう、これうちにあるゲーム機で動きますかね?」

 

 そのソフトは近年出たばかりの最新ハードの作品であり、彼女が以前久遠から譲られたゲーム機には対応していない。

 しかし、それは久遠も承知の上である。そして彼女にクリスマスプレゼントを用意しているのは彼だけではないのだ。

 

「はは、それは帰ってのお楽しみ。帰る頃には三隅さんたちも外食から帰ってきてるだろうし、ね」

 

 久遠の言葉に首を傾げつつも、シーザーはプレゼントを大切そうに自分のリュックサックへと仕舞い込んだ。

 

「ええと、あたしのは……と」

 

 チビ助が小さな袋の梱包を丁寧に剥がし、中身を取り出す。

 ちゃら、と細かなチェーンが音を立て彼女の掌へと転がり出た。

 

「これは……なにかしら?」

 

 ――それは、キラリと光る小さな石を咥えるカラスがデザインされたシルバーのネックレスだった。

 

「ネックレス、首に付ける飾りだよ。みんなが喜ぶプレゼントは何がいいかなって思いながら街を歩いてたら見かけてさ。“あ、カラスのデザインだ”って目を引いて……」

 

 キラキラと光る石――さして価値がある石というわけではないが――を光にかざして眺める彼女を見ながら久遠は頬を掻く。

 

「……気に入ってくれるといいんだけど」

 

 くるくると角度を変えながら手元でひとしきりそれを眺めたチビ助は、小さく笑みを浮かべた。

 

「キラキラしてて綺麗ね……ありがとう。せっかくだし、着けてもらってもいいかしら?」

 

 「着け方が分からないの」とはにかむチビ助からネックレスを受け取ると、彼はそれの留具を外して両手で広げる。

 久遠が短くも艷やかな黒髪をそっとかき上げながら待つ彼女の白く細い首元に手を回すとき、ふと二人の視線が合った。

 ぱちくりと瞬きをして笑みを深める彼女に、久遠は少し照れ臭く思いながら笑い返してネックレスの留具をしっかりと留める。

 

「チビ助さん、よくお似合いですよ」

「チーちゃんかわいー!」

 

 ちゃり、と首元で揺れる銀色のカラスをまわりに誇示しながら、チビ助は頭の翼を嬉しそうに弾ませて笑みを浮かべた。

 

「ありがとう、大事にするわ」

 

 その笑顔があまりにも眩しくて、久遠はしばし見惚れてしまう。

 

「……ああ」

 

 はっと気を取り直した彼は、照れ笑いを誤魔化すようにうつむきながらそう答えた。 

 

 ――クリスマスの夜。

 賑やかな笑い声は、月が高く登る頃まで止むことはなかった。

 




作中糖分はここらが作者の致死量ギリギリとなっております(喀血)

シーザーさんはおうちに帰ったらミスミ夫妻からもクリスマスプレゼントとしてゲーム機本体を貰う流れとなります

番外編で地味に家事技能や趣味が盛られてゆくシーザーさん
チビ助さんはお勉強して働き、シーザーさんはミスミ夫妻を支えるための家事スキルを磨き、クーちゃんは毎日楽しく遊んでいます(お手伝いくらいはする)

さあ、今年は2回も更新できたぞ!(駄目作者感)
来年こそは、本編騒動編を完結させたいですね!(数度目)

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