表向きには存在していない、規律が乱れまくりで紫煙立ち込めるとある鎮守府の、肺になっては毒な環境の中、毒にも薬にもならない雑談をする艦娘たちの一幕である。

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鎮守府ニート漣ちゃん

 艦娘とは、第二次世界大戦時に活躍した軍艦(軍の所有する艦の総称を指す)の力を宿した、特別な娘達である。

 たった一人でワニをも倒し、サメを撃ち、アナコンダに襲われてもびくともしない防御力と、映画の吸血鬼以上の力を持ちB級映画のオチ以上の爆破を可能にする、人型大の総称だ。

 

 無論、漣もその一人である。

 とはいえレベルは1、貧弱貧弱ゥとしか言い様がない存在だ。今まで一度も戦場に出た試しは無く、訓練以外で撃った記憶も無い。

 

 そして、漣の所属する鎮守府は――有り体に言えば、平和であった。

 秘匿泊地、731鎮守府。通称、実験鎮守府と呼ばれるここは、様々な試作兵器やら新しい艦娘の開発、深海棲艦の生態調査や軍事利用等を研究しているところだ。

 当然、他の鎮守府は噂程度にしかここを知らないし、周りの住民には「普通の鎮守府ですよー」と適当な働きを見せておかなければならない。

 割と面倒なのであるが、その代わりに仕事がクッソ楽なのである。わーい、漣、不労所得大好き!

 とはいっても、流石に何事も物事には限度があるというもので……。

 

「……暇」

 

 漣は731名物、ヲ級の黒墨煎餅をぱくりと食べながら、がらんどうな食堂で天龍に構えコールをしていた。

 向かいに座っている天龍は、愛用のノートPCをカチカチ煙草をプカプカやりながら、漣にツッコミを入れる。

 

「仕事しろ事務」

 

「今日も元気だアホウドリが旨い」

 

「食うな」

 

 漣はいつものように、同じく暇をしている同居人、天龍に愚痴を零す。

 天龍は律儀にも命じられた仕事――チラシ作りをしている。元々印刷会社で働いていたらしく、その手に迷いは無い。というより、件のチラシはほぼ完成していると言えるだろう。後はなんだっけ、エフェクトを入れれば終わりらしい。

 というかここで開催する訳じゃ無いんだから現地の人に作らせろよ、と思うのだけども、どうも天龍が一番上手く作れるらしい。流石海軍の広報担当。

 

 ちなみに印刷しているチラシは、国民達の息抜きのための祭り『瑞雲祭り』である。ただし、うちの伊勢達はどちらかというと晴嵐派らしい。漣にはどうでも良い話だ。

 一方漣は、既にやるべき仕事も終えたので絶賛暇中なのだ。あれよ、決算とかマクロ使えば一瞬よ。

 

「そんなに暇なら仕事を遅く終わらせれば良いじゃねえかよ」

 

「いや言ってたじゃん? 『仕事には全力で取り組むように』って……漣の全力はマクロを組むのに費やした! これであと十年は戦える……」

 

 天龍は漣の言葉にため息を付く。

 ちなみに彼女、二番目の艦だ。そもそもこの鎮守府に入った理由が「提督が予想以上に美的センスに欠いていたせいで、国内政策の方に色々と問題が出る」という訳で、艦娘として雇い入れられたってだけの話だ。ぶっちゃけ適性もかなり低いし、天龍型の知識も「あれだろ、石炭で動くんだろ」というものしか無い。

 ……よく天龍なれたなこの人。

 

「というかそういう仕事って秋雲のやるものじゃないの? 漣は訝しんだ」

 

「あいつなら、霞と一緒に例の鎮守府へ行ったよ……」

 

 天龍の言葉に、漣は「あー……」と納得する。

 例の鎮守府。ブラック鎮守府がホワイトに見えるとか、あそこはガチでヤバいとか、1d10のSANチェックですとか、いろんな噂の絶えない職場らしい。

 しかもその鎮守府のある場所が南緯47度9分 西経126度43分のところらしい。海のど真ん中、そこに作られた浮島の絶海鎮守府……漣絶対行きたくない。

 

「ご愁傷様、返ってくる頃には立派な狂信者になっていることでしょう」

 

「うわあ、嫌だなぁ……アドレス消しとこ」

 

 噂によるとその鎮守府に所属している艦娘は皆、不自然なくらい目が虚ろらしい。

 なんだ生け贄とかしたりと、色々な黒い噂が絶えない場所だ。「文句があるならあそこへ移籍するか?」という脅し文句は、もはやブラック鎮守府で聞き慣れたものとなっている……らしい。

 漣はよく知らない。

 

「やめてやれよ、なんかブログの方も日に日に病んでいってるのに、友達にまで着信拒否されたらあいつ首吊るぞ」

 

「そんなヤベェのあそこ」

 

「ほら、仕事って人間関係が結構重要になるじゃん? でもあそこの周りって要するに左曲がりばっかりだから……狂気に充てられて頭が……」

 

 悪い友達と付き合ってたら悪くなるっていうのは、よく親から言われるものだけど、どうもそれはマジらしい。 最初はそういうのに興味なかった艦娘達も、徐々に、気付かぬうちに狂気に魅入られて……ヤバくなっていったらしい。

 でも大本営は何の処分も出来ない。そこが一番戦果を挙げているから。くっそ面倒くさいね!

 

 そんなこんなを話していると演習艦隊が帰ってきたのか、にわかに食堂が騒がしくなった。

 そして我ら艦隊から引き抜きされていた愛しのメンバー、神通がふらふらとやってきて、いつも座る、漣の隣の席に腰掛ける。

 

「……疲れた。私もう疲れました……」

 

 ぐったりと、テーブルに突っ伏した。

 

 時に、艦娘の力の原理をご存じだろうか。

 艦娘は昔の軍艦の記憶を持っている、と一般に認識されているが、実はちょっと違うのである。

 その多くは武功――所謂、元船員から聞いたエピソードを元に、その力を再現してみせたもの。分かりやすく言うならば、信仰が力を得たようなものだろうか。

 漣も一応、その口である。艦娘適性があって、漣の記憶が一番入りやすかったから『漣』になっただけの話だ。

 さて、漣は『多くは』と言った。そう、中には軍艦時代の記憶を持った艦娘もいるのである。

 

 漣の隣で疲労困憊満身創痍死屍累々な有様になっている彼女、二艦目神通、通称『神(ツー)は、軍艦の武功ではなく軍艦の記憶を引き継いでしまった艦娘なのである。

 軍艦時代の記憶を引き継いだ艦娘は、正直殆ど使い物ならない。本人たち曰く「三歳で銃弾飛び交う戦場のど真ん中に、しかも多くの命を背負って突入させられるとか狂うわ」らしい。漣は武功を引き継いだタイプなのでぜんぜんわからん。

 

「山城さんの隣走るだけでも胃がキリキリするのに、演習相手で出てくるとか……トラウマ蘇りますよ。死にますよあれ」

 

 神通はかつて、山城との演習で逆落とし戦法……確か、衝突スレスレまで接近して魚雷を打ち込むという戦法だったかな? あれをやった記憶がかなり濃く残っており、正直PTSDを発症しているレベルらしい。ギリで発症していない(前任神通曰く)らしいので、こうして演習にも出させられているのだけど。

 ちなみに、漣の仕事は、彼女のような、軍艦としての記憶を持つ艦娘達の観察、報告である。給料はかなり良いぜ。

 

「今回、そんな凄かったのか?」

 

 天龍が、後ろの席に座っている艦娘、山城に尋ねる。

 山城は煙管を吸い、どこか愁いな表情で答えた。

 

「そうね……神通さん。あっ、私と演習した方ね? 神通さんのしごき、いつも以上に苛烈だったような……なんか妙にテンション高かったし……不幸ね、神(ツー)

 

「いやあの人前頭葉ぶっ飛んでからテンションおかしいでしょ」

 

 漣の指摘に「それもそうね」とだけ返答して、山城は煙管の灰を灰皿に落とす。

 山城の言っていた前任神通、通称「頭のおかしい方の神通」は、漣が所属する前にこの鎮守府を襲った、第二次深海大戦において鬼の首を取った桃太郎が如き活躍をしていたらしい。

 そんで、うっかり敵の砲撃を受けてしまい、前頭葉が吹っ飛んだとのこと。それ以来変な汁出るわ情緒不安定になるわと色々とあったらしい。まあ、戦力としては何ら問題ないので、未だ現役で所属しているけど。

 

 ちなみに漣は、ここに入った経緯が色々アレなので、そんな危険なことをさせられずに済むのである! 上司の七光り万歳!

 

「そういえば、近いうちに辞めるとか言ってたわね……」

 

「えっ、それ本当ですか!?」

 

 二番目神通がガバッ、と顔を上げて、心の底から嬉しそうに、山城に詰め寄る。

 山城は煙管が神通に当たらないように四苦八苦しながら、その言葉を肯定した。

 

「えっ、ええ……部屋で辞表書いてるの何度か見たから……でもいつ辞めるか私も知らないわよ?」

 

「いえ、それだけでこれからに希望を持てます。次の指導艦は阿武隈さんとかが良いですね、優しそうです」

 

「……いや先輩に厳しくする奴いないだろ」

 

 思わず天龍、ツッコミを入れる。

 ちなみに神通、射撃の腕だけは一流なのだけど……それ以外がてんで駄目なのだ。駄目なのである。主にスタミナとか考える力とか。

 脳筋のくせにスタミナ皆無とか、これもう使いもんにならねえな。

 

「まあ次に来る人も、それなりに性格に癖があると思うけどね……神通、貴女が楽できるようになるのはもっともっと先よ。嘆きなさい、不幸だわって」

 

「うぅっ……というか、先輩たちズルいですよ! なんで艦娘なのに内地なんですか!? そんなの博士……じゃない提督に任せれば良いじゃないですか」

 

「その提督が予算度外視の研究キチだから漣がやってんの! あと上司のコネよコネ、フッヒッヒッ」

 

「ズルいです! チートですチート!」

 

「まあまあ落ち着いて、一本吸いなさいよ」

 

 山城が宥めるように、煙草を詰めた煙管の吸い口を神通の顔に向ける。

 神通は自棄になったようにそれを受け取り、一気に吸い込んで、ゲホゲホむせた。

 

「ううっ、漣ちゃん煙草ください」

 

「はいはい。どれが良いですか?」

 

「……なんで全部旧三品」

 

「安いので」

 

 エコー、わかば、ゴールデンバット、しんせい。漣がよく吸う銘柄の煙草四種類。

 別においしい訳でもないし、ただ癖づいているだけなので安く済ませているのだ! 漣はあれだし、ふかしで煙の味楽しむタイプだし。

 えっ? なら味にこだわれ? 良いじゃん、ゴールデンバットあれよ? 『強い、絶対に強い!』のあれよ? 縁起がいいのよ縁起が。

 

 神通は仕方なしにしんせいの箱を取り、天龍が指に挟んでいる煙草で火をつけて吸った。

 ……なんだろうな、この違和感。

 

「そういや、神通さんはここをやめてどこに行くんですかね?」

 

「ああ、それオレも気になってたんだ」

 

「えーっと……なんか、『アイヌの埋蔵金を探し出し、露助共に占領された日本の土地を取り返すための軍資金にするのです!』とか言ってたわね……アイヌってお金持ってるの?」

 

 ……どっかで聞いた話だなー、それ。

 いやあれだわ、漫画で読んだことあるわ。一代目神通さんと語り合ったことあったわ。

 えっ、まさか本気で信じてるの? 嘘でしょ、マジかよ承太郎!

 

「……まっ、飽きたら戻ってくるんじゃない? ここ、そういうの緩いし」

 

「軍とは思えないくらい規律乱れてるもんな……ドイツ艦いたら気絶するくらいに」

 

「いや、なら直しなさいよ」

 

 山城が煙管を向けながら言ってくる。

 漣は天龍と視線を合わせて、同時に返してやった。

 

「断る面倒くさい」




 日常会話の練習がてら書いてみました。
 煙草は吸わないけど煙草吸ってる女性ってなんか、良いですよね。

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