剣と魔術とSFガジェット!   作:hige2902

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あらすじ

 精霊に力を借りた魔術が普遍的な世界、ココン。フムン王国の地下迷宮から発掘された人体を強力に補佐する鎧、機殻。機殻使いを夢見てド田舎から王都に出てきたおれはしかし、まったくのお上りさんでしかなかった。

 機殻使いとして致命的欠陥を抱えたままズルズルと口に糊をする生活を続けていく内に、気がつけば犯罪ギルドに属し、迷宮で盗掘まがいの仕事にまで手を出す始末。
 足掻いてみたが上手くいない。

 もう赤の他人の憐憫やら嘲笑にはうんざりだ。尻尾を巻いて田舎に帰る。夢から醒めるにはいい歳だし。

 それこそが夢だとは思いもしないまま、ギルドを抜ける条件として最後の仕事を引き受ける。


上層漁りの底辺
第一話 レーティング・クリアランス


「いい加減、諦めて出てこいよ。おまえを知っているぞ、有名人。どうしようもないクズ。機殻も無いんだろ。万に一つも勝てねえ。諦めてくれや」

 

 言われなくたってそんな事は理解している、つまり死ぬ可能性が高いという事は。クズって事も。

 おれは迷宮内の開けた空間で物陰からじっと息をひそめ、内心で悪態を吐く。

 声からして、上層で出くわしたチンピラのリーダー格。足音は他にない。なんてこった。二手に分かれて逃げた意味がない。あいつ、生きていればいいが。そうでなきゃおれは無駄死にだ。バランタインさんに申し訳が立たん。

 

 レンタル品のロングソードの柄を握りしめて逡巡する。どうすりゃあ生きて地上に出られる。相手は全身装甲の機殻。こんなボロでなくとも刃は通らん。体力には自信があるが、機殻のパワーアシストを受けたやつからは長く逃げられない。クリーチャーの乱入に乗じる? いやこのあたりはもうギルドの連中によって片付けられているはずだ。

 どうしてこうなったと頭を抱えたいが、剣を握った手が恐怖で固まっている。

 

 こんな事になるんなら、勇気を出してクズの同僚をぶっ殺しておくべきだったと心から後悔する。あいつらだけのうのうと生きている事に腹が立つ。

 いや、クズどもの事よりも、もっと楽しい事を考えよう。死の間際にムカつく男どもを脳裏に浮かべるなんて悪趣味だ。

 

 おれはポケットから、先ほど見つけた手のひらに収まる薄い箱を取り出した。夕暮れと夜の狭間色をしている。夜になるのは決定されているが、日はまだ落ちていない。一縷の望みのようだ。それにあれだけ厳重な仕掛けで守られていたんだ。お決まりのおとぎ話なら、大抵の主人公はこういう時に一発逆転の何かを手に入れるのが常。いいか、おれは主人公だ、気持ちだけでも主人公になりきるんだ。だからおとぎ話みたいに何かを――

 背にしていた岩と共に吹き飛ばされる。爆発音が一瞬だけ遅れて聞こえた。

 壁に叩きつけられ、横たわる体の節節が痛む。破砕された岩の粉塵をかき分けたリーダー格の機殻使いを見上げる。おれはこれからまさに殺される訳だが、角ばった全身装甲は物物しくも、黄色と黒のツートーンはどこかセンスが外れている。たぶん頭部の安全第一と書かれた一文が密やかな笑いを誘うせいだ。

 だがおっかない事に右手には使いこまれた薪割り斧、左手には小さな三角錐の棘の付いた火球が握られている。指の間から炎がチロチロと燃え上がっていた。

 

 おれはなんとか皮肉が言いたくって、痛みで意識が遠のく中でもごもごと口を開いた。

「火葬までしてくれるって? 死後のサービスまで充実してるな」

「クリーチャー葬だと言ったら? ステーキにした後で、こいつで切り分ける」 これ見よがしに薪割り斧をぶらつかせた。

「前菜のおまえでギブだろうよ、食えたもんじゃなさそうだ」

「レアでいいか?」

 

 強がってみた物の、ちゃかすんじゃなかったと後悔する。

 おれはがっくしと視線を落とす。自分の血がゆっくりと流れ出て広がっている。その先には箱と、零れ落ちたであろう中身が転がっていた。夜明け前の空色をした、小さなだ。それを見ておれは涙が出てきた。皮肉がすぎる。なんなんだこの最後。酷すぎる。

 

 今更そんなもん、見せつけてくれるな!

 

 

 

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 第一話 レーティング・クリアランス

 

 

 

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 酷いな、とおれは内心で零し、ポケットからバンダナを取り出して口元をマスクした。

 迷宮の中は腐敗臭が漂っている。すえていて、ほんの少しだけ甘く、とにかく吐きたくなる。

 

「早く進めよ」

 

 後ろからクソ野郎のフィルスが毒づいた。仕方なく歩を早める。

 おまえだけ鎧を着こんで、魔術で周囲を照らすしか能の無い役立たずのくせしやがって。こっちは厚着程度なんだぞ。とは飲み込んだ。喧嘩したところでしょうもないし、八割がた負けるだろう。

 

 クリーチャーが掘り抜いたであろう洞窟を進む。ワーム系かアント系か、それらが掘った巣を別のクリーチャーが利用しているのか。どれでもいい。いやよくない、ワーム系だと体液が飛び散って事だ。

 

「ちゃんとマッピングしてんだろうな」 と名前を覚えるのも無駄のクソ野郎、モーブル。

「ああ。新しい通路だな。期待できる」 と名前を覚えるのも無駄のクソ野郎、ハシィタ。 「見ろ、体液だ。まだ新しい」

 

 フィルスが頭上に浮かべていた光球を、ぬらめく粘液に僅かに寄せる。 「こりゃワーム系だな」

 おれに対しての密やかな冷笑が迷宮に響く。

 

「金は等分するんだから、しっかり頼むわ」

 

 モーブルが無遠慮におれの肩を叩いた。無視して歩を進める。しだいに地面は湿り気を帯びているのが、革靴越しにもわかった。年季の入ったロングソードの柄を握る。

 帰りたいという正直な気持ちを、脳裏に描いた憧れの機殻で誤魔化す。

 

 ほどなくして一軒家ほどの空間に出た。ぐったりと横たわる三メートルほどの長さ、太さだいたい一メートルのぶよぶよとした体躯のワームが五体。天井には張り付いていないようだ。

 手筈通り、モーブルとハシィタが精霊との契約に基づき、魔術によって創られた拳大ほどの火球を投げ込んで二体を弱らせ、追撃で始末した。一瞬で炭化させるほどの魔術でも使ってくれれば、ワームが焼ける悪臭に顔をしかめる必要は無かった。

 あいにくこいつらは、世の中の大体を区別する評価値、レーティング・クリアランス【ブルー】程度しか使えないので我慢せざるをえない。

 

 レーティング・クリアランスの階級は骨身に染みて覚えやすく、日常使用レベルの【レス】無から始まって【ブルー】【グリーン】【イエロー】【オレンジ】、それともう一色。だからモーブルどもが使ったのは下から二番目程度の魔術。初歩の初歩だが弱いクリーチャーは殺せる。

 

 残った三体の内、一体が頭部中心にある口を大きく開き、十数本の太い触手で体躯を持ち上げ、多足昆虫のようにわさわさとこっちに向かって来る。

 おれは舌打ちして駆け出すと同時に剣を抜き、体当たりしてくるワームとすれ違いざまに本体を斬った。水面に剣を叩きつけたような感覚。残った二匹が遅れて触手を突き出してくる。おれじゃなく、クズ野郎どもを狙ってほしい。

 

 ワームにしてみれば遠くから火球を投げてくる敵より、わざわざ近づいてくるおれの方が狙いやすいというのもあるだろう。

 そのまま速度を殺さずに緩やかな曲面の壁面を駆けあがり、燃えているワームの死骸の明かりを頼りに、一体目がけて飛び降り、体重をかけて逆手に持ったロングソードを根元まで突き刺して内部をかき混ぜる。引き抜くと何色だかわからない粘質な体液が糸を引いていた。

 

 すぐさま地面に転がり落ち、最後の一体が放った触手を躱す。距離を詰め、頭部に刺突する。

 このタイプのワームは硬い内臓も無く外皮も柔らかいので、碌な装備が無くとも人数さえ集めれば案外なんとかなる。問題があるとすれば……

 

「おい、終わったんだから水出してくれ、水」

 

 そう言うと水の入った革袋が放られる。べったりと体液の付いた手で受け取る。おれのだ。これから地上へ帰るまでの間、給水無しは堪えるのでこいつは使えない。

 

「マナがもったいねえ、帰り道に何があるかもわからんのによ」

「なに見てんだよ、文句があるなら自分で出せばいいだろ? 水くらい」

 

 かと言ってこいつらに金を払って魔術を使ってもらうのは癪だ。うるさくしたところで、ぶつくさ言いながら嫌になるほど水をぶっかけられるのだから。迷宮を出るまで我慢すればいい。

 昔のおれならカチンと来たもんだが、もう慣れた。何事も忍耐。明確な目標を持ったおれは昔とは違う。

 口に入った苦いワームの体液を唾液と共に吐き捨て、背負っていたスコップを手に持って地面を観察する。満足できる光源の下ではないが、不自然な土の膨らみやぬめりを探して。

 

 しばらくするとモーブルが声をあげた。どうやら、ワームどもが隠していた遺物を見つけたらしい。どうせ【ブルー】の二束三文だろうし、どんなもんか、大して興味も無い。

 

「ま、こんなもんだろ」 

 

 フィルスがいそいそと戦利品を革袋に収めていく。ワームの死骸は見た目の印象が悪く、需要が無いので放っておく。迷宮内の生態系とかに興味はないが、別のクリーチャーが平らげるのか、腐り落ちて自然に還るのか、どっちでもいい。

 

 来た道を戻り、ワームが掘り抜いたと思われる通路が終わると一転して人工的な正方形の通路に出る。そのまま迷宮出口に向かった。

 階段を登り地表に出るとそのまま検問所内部になっている。迷宮とは違う、生活感に満ちた空気を肺に入れると生きているという安心感を味わった。

 冒険者は直に迷宮から出られるわけではない。一旦、衛兵が冒険者の戦利品を確認する。

 【イエロー】以上の危険な物があれば、王国が預かる。ヤバそうなブツを世に流通させる訳にはいかないからだ。市場に出しても問題ないと判断されれば追加報酬と共に返ってくるし、危険ならそのまま国の買い取りになる。

 検問所にはざっくりとした医務室 ――おまじないの方がマシ―― や、有料宿泊施設 ――ベッドが汚い―― 、簡易食堂 ――これはまあまあ――、包帯なんかを売っている小売店 ――ぼったくり―― スペースもある。

 

 戦利品の調査が終わるまで、ちょっとした休憩室で腰を下ろそうとし、じぶんが酷く汚れているのを思いだしてやめた。潜った帰りでくたくたなのに掃除しろと命じられるのはもうこりごりだ。

 

「――じゃあ今んとこそのギルドが最下層に最も近いのか?」

 

 夜明けという事もあって人数は少ないが、休憩室で他の冒険者が一息ついて会話していた。

 

「らしいな、国命が遂行されるのも近いかも。そうなったら、おれらは転職だ」

「どうかな、眉唾だ。第一、先先代だかその前の前だかの王の名において絶滅の根絶が発せられたけど、ココンどころかフムン王国にもそんな兆候はない。というか、最下層まで行って絶滅させるモノを根絶して来いなんて言われてもな」

「簡単な話、ダンジョンの主の魔王を倒せって事でしょ。おとぎ話的だけど」

「それにまあ、絶滅の根絶を大義名分に冒険者なんてヤクザな仕事も堂堂とやれる訳だし」

 

 ああくそ、ひっかぶった体液で身体が冷えてきた。我慢していたくしゃみを堪え切れず、それで他の冒険者どもの会話が途切れた。嘲りの視線を感じる、確認してないがきっとそうだ。

 

「……ああ、あいつが例の」

「精霊に拒否られたってマジ?」

「ちょっと男子ーやめなよー」

 

 ほっといてくれ。

 

 フィルスが衛兵に袖の下を渡すと、今回の探索で得た五個の遺物は、計一個という書類で返ってくる。もちろん衛兵は遺物が【ブルー】であるという安全確認をしたうえでの処理だ。

 

 冒険者が迷宮に潜って得た戦利品は国が公認している商会でのみ取引される。その際の信用は、検問所で発行した書類だ。だから今回、公認商会に売る事が出来るのは書面に記された一個のみ。残りの四個はどうするのかと言うと、あれだ、いつの時代にも、面倒な公的売買ルートがあるなら、大抵は非公式売買ルートが存在する。

 つまりは単純にこうだ。公認商会を介して売買するより、闇取引で売買した方が金になる。税金、取引手数料、安全確認費、煩わしい売買契約書、等等……

 

 残りの四個は闇で流す事になる。全ての衛兵が賄賂を受け取る訳ではないが、まあ、こいつらも【ブルー】以下の物なら多少は目をつむる。ちょっとした小遣い稼ぎ程度。

 検問所を出ると、血の気の多い冒険者を狙った娼婦やポン引き ――この時間帯のは大抵ハズれ。よそとの競争を避けられるから出待ちしてるんだろうけど―― が壁や外灯に寄りかかっていた。

 

「悪いが兄さん、頭から水をぶっかけてくれるか」

 

 顔色の悪いポン引きを捕まえて言うと、金をせびる仕草をしたのでワームの体液でネトネトの硬貨を出す。手は引っ込められた。

 おれはお望みどおりに【レス】の魔術で生み出された水を被り、情けない気持ちでいっぱいになりながら、フィルスほかクズ野郎と共にギルドへ向かう。

 

 そうともおれは、【レス】の魔術すら扱えないクズ野郎なのだ。

 それもこれも、教会に行けば誰でも精霊と契約を結んで魔術を使えるご時世で、なぜかおれとの契約は蹴るという前代未聞の出来事があったからだ。噂はあっという間に広がり、当時はちょっとした有名人だ。帰る際に、後ろで並んでいたガキの呆気に取られた表情は忘れたくても忘れられん。

 

 おれは不意に、王都にいればどこからでも見えると有名な女王の居城に視線をやった。夜明けに照らされる、石灰やレンガで造られた素朴な色合いの建築物がひしめくフムン王国王都中心。そびえる国家の中枢。

 そびえる、とは決して過度な表現ではなかった。最上階を見上げれば首が痛くなる程で、全面が暗色のガラスで覆われた立体長方形の異質。見るだけで心が冷えそうな構造物。冒険者が戦利品として持ち帰る、かつてこの地の支配者が居た神算時代の遺物の象徴。

 

 正式名称、超高層ビルディング。 

 

 ココンに生まれたものならば、遺物によって誰もが脳内にインプラントしている汎用システム、NDB ――Normal Decide Brain―― 。それが視界に映った王城をレーティングする。

 視覚に投影された情報によれば、王城のレーティング・クリアランスは最後の一色。【レッド】。絶対に手の届かない色に畏怖を込めて、オールド・オーダーと呼ばれる極限。

 

 おれたち冒険者は、遠い昔に滅んだ神算時代の支配者が創ったとされる未知の技術の塊、遺物を求め、迷宮に潜る。そうして冒険に適した遺物を装備し、あるいは売りさばき、最下層に存在すると言われる絶滅の根絶を行うのが建前的な使命だ。実際はどいつもこいつも【オレンジ】を、欲を言えば【レッド】を見つけて一攫千金したいのだ。

 

 夜と朝の狭間の光で煌めく王城の側面は艶やかだった。噂ではあれはガラスではなく、透過材とかいう遺物らしい。外から中は覗けないが、内から見る分にはガラスと同じだそうだ。加えて【オレンジ】でも傷一つつかないとか。こんなヤバい物を創っておきながら、神算時代の支配者は、なぜこの地から消えてしまったのだろうか。やっぱり最下層の何かが原因?

 ボスに今回の冒険を報告する為にギルドに向かう道すがら、現実逃避でそんな物思いにふけった。

 言うまでも無く、クズ野郎どもが所属するギルドなのだからボスもクズ野郎だからだ。

 

 途中で警務官とすれ違う。精霊から供給されるマナをリソースに、機殻を纏っている。どことなく丸みを帯びた鎧にも見えるそれは、もちろん遺物だ。

 フィルスが着ていたような現時代の板金鎧ではない。神算時代の趣がある。椀部側面には装甲板が多くのボルトで取り付けられており、胸部には何の効果があるのか、小さな長方形の薄い箱のような物 ――対物粒子配列装甲板―― が斜めに何枚も貼り付けられている。腰の帯革には長剣が吊られていた。

 兜のスリットの奥で動く、小さな単眼レンズが鈍く光を反射する。

 

『おれ農家辞めて冒険者になるわ』

 

 そう言って僅かばかりの金を手に田舎から王都へ来たのはいつの頃だったか。ある時から身体能力的に人より優れていると感じたおれは、単にとにかく都会に行きたかったのかもしれない。機殻を纏いたかったのかも、ひょっとしたら、王家に仕える機殻使いになれると思っていたような。どうだったっけ? ガラス細工のような正義感に突き動かされて絶滅の根絶を誓った? まさか、若すぎる。いや、青くさいと思えるほど年を取ってしまったのか……あーやだやだ。

 まあいい、とにかくそんなものは幻想だ。いつかは何者かになれると、悪い意味で自分を捨てきれずに生きてきたツケが非合法の生業。そんなおれをクズ野郎と言わずとしてなんと言う。

 

 だが、それももう終わりだ。今回の仕事で、嫌な事がある度に夢想した機殻の目標金額に到達する。

 そうすりゃこんな後ろめたい仕事とはおさらばだ。

 おれの足取りはやや軽い。

 




気の利いたタイトル思いつかなくて雑ですんません
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