たぶんフランス語で1、2を争う有名な言葉じゃないですかね。
旅立つ相手に言う言葉ですが、今回の京太郎はすでに旅立ってます。
K-01 Bon voyage.
「ツモ、4000・2000」
傾いた日差しの入る静かな部室に、涼やかな和了声と倒牌の音が響いた。
4巡で満貫和了とか。いくら麻雀の修行も仕事の内とはいえ、あれは同卓したくねぇわ。
まぁそもそも仕事じゃなきゃ、他校の部活になんか顔を出さないけどな。
あの日、俺がお嬢に言い渡された仕事は3つ。
その内の1つが、麻雀の腕を上げるための武者修行だ。
どうやら明華との1戦が原因らしい。確かにあん時の俺は神がかってたな。
お嬢は、俺をプロ雀士としてデビューさせ、組の資金源にする腹積もりなんだとか。
男子リーグは女子に比べて人気も実力も下火らしく、あの日の実力なら余裕で人気も金も稼げるとかなんとか。
そのため、少しでも経験を積んでこいと今回の出張が決まった。
同じメンバーで打つより、色んな打ち手と卓を囲んだほうが経験になる、って事らしい。
まぁ確かにそのほうが腕は磨けそうだ。その点には不満はない。
ただ明華がめちゃくちゃ反対してたな。でも気持ちは分かる。
いくら仕事とは言え、折角両思いになったのになぁ。10年越しの恋人だよ?
まぁそんなにかかった理由は、俺がウジウジしてたせいだけど…。
あぁ~、新婚早々単身赴任する旦那の気持ちってこういう感じなのかなぁ…。
それにしても、プロ雀士…ねぇ。そんな上手くいくか?
幸せの絶頂から絶望のズンドコへ落とされた所為か、どうも考えが後ろ向きになっちまう。
俺のプロ雀士化に乗り気なのも、明華となぜかネリーと監督くらいだ。
メグや慧宇は懐疑的。お嬢も上手く行けば良いな、くらいの様子だったし。
俺自身、あの日は単なるまぐれなんじゃという気持ちが強い。
現に、あれ後はいまいちな闘牌しか出来てないし。
そう言えば、部室でやってる間はやたらと監督の視線を感じたな。
俺の腕がヘボすぎて気に入らなかったんだろうか?
そりゃ1軍の練習時間潰して俺みたいなヘボが打ってちゃ、監督も良い気しないか。
「先生、今は部活中ですよ」
「あぁ、だからこうして部活に出てるんじゃないか」
じゃなきゃ今頃喫煙所で一服してるよ。
そして窓から、運動部の揺れ弾むおもちを眺めていたと思う。
「タバコを吸うことを、部活に参加してるとは言いませんよ」
「雀荘に行けば紫煙がモックモクだぞ?
そういう場所で打つこともあるだろうし、今のうちに慣れておくんだな」
「だったら指導なり何なりしながらでも良いじゃないですか!」
「悪ぃ、俺って麻雀は初心者だから。むしろ俺のほうが教えてほしいわ」
いや割とガチで。
これで何一つ腕を磨かず帰ったら、お嬢はおろか明華からも何されるかわかんねーよ。
それに、お前たちだって部活中に平然とベッドで寝てるじゃないか。
というか、部室にベッドあるって何だ。麻雀部っていう建前のヤリ部屋かと思ったぞ。
「部長!なんでこのような方を顧問にしたんですか!!」
「アナタの反応が面白いから。ごめんなさい、嘘です。
そもそも顧問って生徒が選べるものじゃないわよ?」
元気だなぁ、女子高生って。
お嬢や明華達と違い、普通の高校生って感じがして安心する。
そう、ここは高校。そして今の俺は先生。
お嬢はどんな手を使って偽物の教員免許を手に入れたんだろうか。
知りたいけど知りたくない。知ったら、今度から何かの片棒を担がされそうだ。
何故雀荘巡りではなく、ニセ教師なんかになってまで高校に来ているのか。
モチロン、俺が女子高生好きだから、なんて理由じゃない。いやマジで。
それが残った仕事の理由。というか、1つ目はオマケでこっちが本命。
今回の俺の仕事の目的。
それは他校の戦力の調査と、将来的に使えそうな雀士を見つけ、手駒にすることだ。
そう手駒だ。手篭めではない。
そういった手を使う可能性もあるけど、間違っても明華の前で言ってはいけない。
例え話で話題にしてしまったお嬢は、明華から凄い目で見られていた。
そしてその晩、俺はクスリを盛られた。死ぬかと思った。腹上的な意味で。
「もう我慢できません。先生、私と勝負して下さい。
そして、私が勝った場合は部活の顧問を辞めていただきます」
見た目に反して喧嘩っ早い奴だな。
まぁそういった闘争心が、インターミドルチャンプになれた理由なのかもな。
それにしても、顧問を辞めてくれと来たか。
周りからチヤホヤされて育った所為か、随分と考えが甘い。
世の中の全部が全部、自分の思い通りにでもなると思ってんだろうか?
「分かった、分かった。
それじゃ、俺が勝ったら何して貰おうかなぁ」
「貴方のような素人に負けるなんて、そんなオカルト万が一にもありえません」
まぁ確かに、普通ならタイトルホルダーに素人が勝てるわけがない。
でも俺も俺で仕事なんでな。負けるわけにはいかねーよ。
それにここで勝てば、いい感じに弱みを握れるだろう。
インターミドルチャンピオンなら、良い稼ぎ頭になってくれそうだし。
何より、生意気な小娘の天狗っ鼻をへし折るのも面白そうだ。
よっし、少しばかり気合を入れるか。
毎度毎度アホみたいな長いあとがきで申し訳ない。いっぱい喋りたいことあるんですよ…。
元ハンドボール選手である京太郎を、どうやって麻雀に関わらせれば良いんだろうか…。
そう必死に考えた末の答えが、この流れです。
正直京太郎スレとかでよくある展開ですが、コレ以外に関わる方法がないので仕方ない。
あと潜入するなら偽名とか使うんでしょうが、読者も作者も混乱するので本名で行きます。
生意気な小娘の鼻っ柱を、麻雀で折るために気合を入れる京太郎氏。
気合入れたら麻雀に勝てるのだろうか。
それとも、気合を入れてぶん投げた麻雀牌でへし折るんでしょうか。
1話のあとがきで京太郎のステータス貼りましたが、特徴を書き忘れてました。
京太郎の特徴は、ペット、鋼の筋力、投擲の才能、の3つです。
ペットは事前に決めた特徴ですが、残り2つに関しては、サイコロアプリ誰かに操作されてんじゃね?と思ってしまいました。いやマジで。
因みに特徴の内容を簡単に説明すると、
ペット :触れ合うことで精神が安定する。
鋼の筋力:ダメージが上がる。
投擲の才能:投擲の命中率の上昇と、威力が2倍になる。
京太郎がものを投げると人が死ぬ。鼻どころか頭が消し飛ぶ。
だいぶ関係ない話ばかりしましたが、京太郎先生の赴任先は、分岐ルート的な感じで全部書く予定です。
といっても長野、奈良、大阪、福岡といったくくりですけど。
東京は…どうしよっかな。明華たちが勝手に練習試合とかやっててくれるんでね?