空腹は最高の調味料的な意味ですね。
でもウチの明華にとっての最高の調味料は京太郎ですよ。
食事においても、人生においても。
「ご馳走さまでした。相変わらずの腕前ですね」
「お粗末さん」
満足気にビズをしてくる明華に、俺はため息混じりにそう返した。
正直美人とのビズとか純粋にご褒美です。ありがとうございます。
そう思っても絶対に口には出さない。だってぜってー調子乗るし。たぶんバレてるけど。
「また京太郎の手料理が食べれるなんて夢のようです。今度はイクラをお願いしますね♪」
「明太子ご飯で勘弁してくれ」
相変わらずの魚卵好きか。今はまだ若いから良いけど、ホドホドにしないと痛風になるぞ。
そーいや、よくキャビアのカナッペをおやつで作らされてたな。俺の自腹で。
そのたびに明華のとびっきりの笑顔が見れてたが、財布へのダメージも半端なかったなァ。
おっと、思わず遠い目をしちまった。
「それでデザートはまだですか?」
「清々しいほど図々しいな。週末でもないのにあるかよ」
須賀だけに。ごめんなさい。心の中で謝っておきます。
何故今日来ると思ってなかった相手のために、デザートを用意しておかなければならないのか。
実はありまぁす。だがムザムザ奪われてなるものか。
「ふふ、嘘はいけませんよ。京太郎は変な所で拘りますからね。絶対に作ってあるハズです。
たとえなかったとしても作らせます。麻雀で!」
「こちらが本日のデザートのブラマンジェになります!」
俺が冷蔵庫から取り出したのは、フランス語で【白い食べもの】を意味する冷製のデザート。
中に肉や魚を入れたりもする。昔は甘いスープとして食べてたらしい。
本来は牛乳に砂糖と生クリーム、アーモンドミルクを加えてゼラチンで冷やし固めて作る。
今回は牛乳ではなく豆乳を使い、アーモンドミルクの代わりに白ごまを加え、仕上げにきな粉と黒蜜をかけてある。
ブイヤベースに鰹節やいりこ出汁を使ってたので、同じく和風に合わせた。
なかなかに上等な出来だと思われるそれが、明華の胃袋へと消えていく。
因みにだが、ゼラチンではなくコーンスターチで固めたものがパンナコッタ。
アーモンドミルクではなく杏の種の中にある【仁】を入れたものが、杏仁豆腐だ。
でも最近では杏仁が貴重なんで、代用でアーモンドミルク入れたりするらしい。
もう区別ねーじゃん。
「おいしい! まったく京太郎は天才ですね!」
「だとしたら、それは間違いなく明華のお陰だな」
明華に麻雀で負け続けてたお陰で、料理人としても菓子職人としても腕を磨けた。
…あれ、喜んで良いことなんだろうか?
もっと負けん気を発揮して、麻雀の腕を磨くべきだったんじゃなかろうか?
「ふふ~ん、京太郎は私が育てました♪」
「ドヤ顔すんな」
メチャクチャ可愛いけどウゼー。
明華の頬を突きながら、俺は食後のホット・カフェオレを差し出した。
美味しく入れるコツは2つ。
カップをよく温めておくことと、よく冷えた牛乳をスチームドミルクにすることだ。
あと、脂肪分の多い牛乳のほうが、きめ細やかで舌触りの良いスチームドミルクになる。
少量の砂糖を入れても、泡立ちがよくなるぞ。
「それで、結局今日はどんなご用でお越し頂いたのでしょう、お嬢様?」
「あら、好きな殿方に会いに来るのに、それ以外の理由が必要なんですか?
もう私の気持ちは正直に伝えているんですから、あまり意地悪な事は言わないで下さい」
カフェオレを飲んみながら、にこやかな顔でどストレートをぶん投げられた。
ここまでストレートに好意を伝えられると、ドギマギしてしまう。顔が熱い。
さすがは愛の国フランス。長いことあの国にいたが、俺の性分ではそこまで素直になれねー。
嬉しい半面、いたたまれない気持ちになる。水を飲んで落ち着こう。
恥ずかしさを誤魔化すために半眼で睨んでみたが、明華の余裕顔は崩れる気配はない。
「ふふふ、京太郎は本当に昔からシャイで可愛いですね。
なんだか年下と接しているような気分になります」
おのれ明華、調子にノリやがって!でも俺自身でさえ明華の事を年上に思える事があるのも事実。
クソ、また明華のペースにハメられてる。咳払いを1つして気持ちを切り替えよう。
長年の付き合いで分かる。言ってる事は本心だが、彼女が来た本当の理由は別にある。
思い当たるフシは1つ。
俺が日本に来た理由であり、そして恐らく明華が日本に来た理由だ。
―――明華は俺を殺しに来たんだ。
イチマツがオソマツとかいうギャグ。
そろそろ話に動きを出していきたい所存。
好きだけど殺しに来たんだろうなという発想。京太郎はサイコパスか何かなんだろうか。
明華がやたら食べる娘みたいになってますが、フランス人なんでしゃーないね。
大食い家というより、食べる事が好きって感じのイメージです。