迷子探しの異世界たびにっき   作:華村天稀

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スライムで色々と遊んだ思い出

――問:目標世界到達までの所要時間は?

――答:目標世界到達まで、あと約2641年。

 

 

 スライム。

 一般的には『固体と液体の中間的な粘性のある物体』のことを指すが、何らかの事象により自ら動く能力を得たものが世界によっては存在する。魔法系に寄った文明を持つ世界に多く、たいていスライムはモンスター扱いだ。多世界を渡り歩く俺達の間でも、スライムと言えば通常はモンスターのそれだ。

 強さはまちまちで、剣で突くどころか棒で叩くだけでも簡単に倒せるものもあれば、焼き殺すのでなければ処理できない手強いのもいる。生命?維持にどの程度の大きさが必要であるかによって違うのだろう。

 やばいのになると、力をつけまくって世界最強格の一人になった魔王なスライムもいるのだとか。もはや本当にスライムかどうかも怪しい。話に聞くと人類に対して友好的だというのが救いだな。会ったことはないので、機会があれば話でもしてみたい。

 

 で。

 何でこんなことを言い出したかっつーと、

 

『暇なのか?』

 

 それもあるけど。

 ちょっと思い出してたんだよ、昔のこと。

 

 

 

 

 まだ日本に来て日が浅い頃のことだ。

 人外の力を得て日が浅かった俺は、まだ自分の力の底が見えずにいた。幸いにも以前より魔術士だったので力の使い方自体はだいたい何とかなったものの、限界がわからないので知ろうと思って一度思いっきりやってみたところ。

 

 世界を創造(つく)っちゃいました。

 

 いわゆる箱庭世界というやつである。

 一応言っておくと、それなりの目的があってやったのであって、軽い気持ちで創造したわけではない。日本での時間にして二十年ほどでその箱庭世界は役割を終えて、その世界を構成する総ては本来あるべきところへと帰っている。

 間違っても箱庭世界をおもちゃにはしていない。魔王だか破壊神のように暴れまわって世界を滅ぼしましたー、なんて事実は無い。

 

 さてその世界、魔王や破壊神のような振る舞いは断じてしなかったが、勇者はいた。というか俺が送り込んだ。

 

『あー、その話なのか……』

 

 今日の特別ゲストはその勇者、時雨(しぐれ)フルミさんです。

 

『ゲストじゃねーよ』

 

 見た目は銀髪の可憐な美少女です、口は悪いし一人称『オレ』だし喧嘩っ早いしで性格は色々問題だけど。

 

『それ言う必要あんのか?』

 

 ちと背は低いけど男装したらイケメンに見えるんじゃね? 腰まで伸びるロングヘアーは何とかしないとダメだろうけど。

 ポニテにしたら佐々木小次郎みたいに見えないだろうか? あ、ダメだ背が足りないし銀髪じゃイメージが。でも物凄く長い日本刀(ものほしざお)は似合うな。

 

『そう言うオマエは長身なのに女装したら女にしか見えねえよな。声も高めだし』

 

 それ言わないでくれるかなぁ、ちょっとは気にしてるんだけど?

 

『それ以前に、何でオマエ数十年どころか数千年たっても高校生くらいにしか見えねえんだよ? 若作りってレベルじゃねーぞ』

 

 あ、それ人外になる前からなんで。魔道院出るまでは普通の成長速度だったのに、そこでピタッと止まったっぽいな。自分のことながらハーフエルフの成長曲線が謎だ。

 

『精神年齢もその時点で止まってねーか?』

 

 それはノーコメントで。

 つか若作り云々はブーメランだろ。おまえ日本を発つとき子が三人と孫が八人も居たじゃねぇか。

 

『オマエと違ってオレはそんとき普通に婆さんだったろが、一緒にすんな。あと今オレが十六くらいなのはオマエのせいだろ』

 

 そりゃそうでしょうよ、婆さんのままで連れてきても早い段階でぽっくり逝ってただろうし。

 まぁ、その話はもういいや。戻そうぜ。

 

 モンスターとしてスライムが生息する世界の多くで、生態系における掃除屋の役割をスライムが担う。モンスターの死体とか撒き散らされた無秩序な魔力(魔素などと呼んだりもする)などを食らい、ものによっては瘴気も取り込んで、自身の体内に吸収して無害にする。それをモンスターが食ったり、土に溶けて植物の養分になったりする。

 俺が創造(つく)ってフルミが活躍した箱庭世界は、スライムがかなり大量に生息していた。それはつまり、

 

汚染されて(きたなかっ)たんだな、あの世界……』

 

 そういうわけではない、単に魔素濃度が濃かっただけだ。と思いたい……一応、自分が創造した世界なんで、けっこう思い入れはあるんだよな。汚いとか言われるとショック。

 

 まあそれはさておき、いっぱいいたので俺はスライムで結構遊んだ。

 前述の通りスライムは他のモンスターの餌になる、つまり理論上は食える。なのだが人間が生のスライムをかじると、食あたりで酷いことになる。

 

『いや食あたり以前に、スライム(あれ)食おうとするヤツなんかいねーよ。何でそんなこと考えたんだよ、狂気の発想だろ』

 

 魔術士の探求心を嘗めてはいけない。

 

『魔術士ってヘンタイって意味なのか……?』

 

 いや本気で引くなよ……凶作に備えて非常食の確保を考えるのは、いたって普通の発想だと思うんだけど。

 日本人だって稲の害虫であるイナゴを調理して食うだろ?

 

『やめてくれ……思い出しただけで吐き気が』

 

 む、しおらしくなりおった。そういやコイツ食虫文化が本気で苦手だったなぁ。

 

『あんなの好きなヤツなんているのかよ』

 

 農耕文化において不足しがちな蛋白質の補充方法としてはわりとメジャーだぜ。タイとかさ。

 

『カンベンしてくれよ……』

 

 フルミが精神的にダウンしてるんで、スライムに話を戻そう。

 あいつら、カルピスの原液をドバドバ突っ込んでやると段々おとなしくなって、人間でも食べれるようになるんだ。小さく砕くとグミみたいで美味しい。名付けてカルピスライム。

 

『あの頃やたらお茶うけに出てたカルピス味のグミってそういうことかよ!?』

 

 豆打(ずんだ)(作者注:主に仙台で知られる、枝豆を材料にした緑色の甘味)を注ぎ込んで作った、ずんだスライムも美味しかったな。

 

『ずんだのグミなんてどこで作ってるのかと思ったら……こっそり人にゲテモノ食わすんじゃねえよ!』

 

 うわっ、フルミんがマジギレした。怒っちゃいやん。

 

『ぶっ転がすぞコノヤロウ』

 

 殺すじゃないんだ?

 まぁ、これ以上怒らすのもアレなんで、珍味系はこのへんにしておこう。

 それ以外だと、食器洗い用洗剤を突っ込んだら物凄く泡立ちながら増殖したり、あと純粋ナトリウムを突っ込んだら爆発したり。

 

『ロクなことしてないな……まさか、それも食っ』

 

 いやさすがにやんないから。普通に毒物だろうし。

 ちなみに、食塩こと塩化ナトリウムの構成元素であるナトリウムは、金属なんだが他の物質と物凄く反応しやすい。純度の高い金属ナトリウムを水に投げ込むと爆発する、という話は有名だ。

 

『そんな危険物を、そうと知っててスライムに食わせる馬鹿は、世界数多といえどコイツくらいしかいないだろうなあ』

 

 一番すごかったのは、イエローケーキを食わせたら食う前のケーキ以上に濃い放射能を撒き散らすようになったことだな。スライムアイソトープと名付けt

 

『ちょっと待て!? 何だよその、やってる行為も結果も名前もヤバすぎるスライムは!?』

 

 どうやらスライムの作用で自然のペース以上に核分裂が一気に進んだらしい。焚き火に空気が送り込まれて普段よりも火力が強くなり薪が一気に燃えるようなものだろうか。

 いやーあのときは人外になっててよかったと心底思ったわ、あの線量は生身で被爆したら3分で死ねる。

 

『そういう問題かよ!? そもそも何でイエローケーキなんて物騒なもん持ってたんだよ!?』

 

 おかげで放射能除去の技術が出来上がったんだから、一概に酷い行為だとは言わせないぜ。

 当時のあの世界情勢って、まかり間違って核ミサイル発射したらそのまま撃ち合いになって文明殲滅戦争(アポカリプス)一直線にしか見えなかったからね……打てる手は増やしておきたかったんだよね。

 結局、日本にいるうちは使うことはなかったけど、まぁ旅の途中どこかで使う機会があるかもしれない。

 

『オレの冒険の裏でそんなことしてたのかよ……』

 

 そんなわけで色々と面白いことになったスライムたちだが、他の世界でスライムと出くわした時にカルピス原液や豆打(ずんだ)を注いでも特に変質しなかったから、これはあの箱庭世界のスライムだけの特徴であったようだ。

 箱庭世界はもう終了しちゃったので、あの混ぜるな危険なスライムが手に入ることは二度と無い。残念。

 

 なので残り三粒になったカルピスライムグミは貴重品なので味わって食べよう。フルミんも食べる?

 

『オレは絶対に食わねえからな!』

 

 




◇箱庭世界
アスカが会社時代に作っちゃった独自の異世界。オーソドックスな剣と魔法のファンタジー風世界。正式名称は特に無い。
創造主になっちゃったアスカにとって、この世界は繊細すぎて直接降臨することができず、メンテナンスに手をこまねいていた。
役目を終えて消滅した。もう存在しない。

◇スライム
箱庭世界で自然発生していた不定形モンスター。自然界の掃除屋。
アスカは大量に発生するスライムを間引きついでに箱庭世界から取り出し、いろいろ実験してた。
箱庭世界が現存しないため絶滅。
他の世界にもスライムという名前のモンスターが存在し、特徴も似かよっているが、微妙に異なる種族らしい。

時雨(しぐれ)フルミ
身長150弱で銀髪ロングの凛々しい美少女。ただし性格は荒い。
元ケンカ屋。レディースではなく、番長でもなく、一匹狼。三児の母や八児の祖母になっても一人称は「オレ」
会社時代のアスカに請われてバイトで勇者(ブレイブ)し、その際に【練気術】の手ほどきを受けた。帰還後もバイトorパート。
食用虫、特にイナゴの佃煮が大の苦手。揚げタガメとか見たら多分泣く。

◇イエローケーキ
ウランから核燃料を製造する過程でできる中間物質。
個人で所有するにはヤバすぎるアイテム。

◇スライムアイソトープ→名前もヤバすぎる
同位体(アイソトープ)とは核物理学の用語で、ある物質の原子に対して、陽子数が同じだが中性子数が異なる原子のことを指す。水素に対する重水素や三重水素、天然ウランの主成分であるウラン238に対して核燃料の材料になるウラン235などが同位体である。
本義的には同位体は必ずしも危険ではなく、危険なのは放射能を持つ放射性同位体(ラジオアイソトープ)のことであるが、専門的ではない会話においては同位体≒放射性同位体とされてしまうことが多いようである。
スライムへの命名においては "放射性" のところにしか着目していなさそうだし、フルミの評価もさもありなんという感じ。

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