迷子探しの異世界たびにっき   作:華村天稀

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今回、出オチ感が超過積載。


ディストピアでやらかした思い出

――問:目標世界到達までの所要時間は?

――答:目標世界到達まで、あと約1984年。

 

 

 ―― Hey, citizen. Are you healthy? (訳:そこな市民。あなたは健康ですか?)

 ―― Health is Mandatory. Insufficient health is treason. (訳:健康は義務です。不健康は反逆、よって処分します。)

 ―― ZAP! ZAP! ZAP! (銃で撃つ音)

 ―― Perhaps next will do better. (訳:次の市民はもっとうまくやってくれるでしょう。)

 

 

 開幕でこんなやり取りをされた世界があったのを思い出した。到着わずか3秒で撃たれた世界は今のところ他にない。

 今思い出しても全力で思う。莫迦(バカ)じゃねぇの!?

 

『あの世界は酷かったな。管理システムのパラメータ1つ間違えたせいでディストピア化とは笑えん』

 

 なお言語は英語に似通ってる初見の言語だった。莫迦監査が文章化する際には混乱を避けるために英語か日本語で書かれるのだろうけど。

 初見つっても英語をちょっと工夫するだけで『あ、コイツちょっと訛り入ってんな』とは思われたようだがだいたい通じた。

 多世界旅行の経験上、俺はいろんな言語を覚えてきたから、今や未知の世界へ行ってもかなりの確率で知ってる言語のどれかが通じる。生物の発声器官の構造上、言語体系もある程度限られてくるからそんなことが起こる、と推測している。もっとも日本人の舌と喉だと発音しづらい音を使う言語とかもあるから、苦労が無いわけではないけど。

 

『おまえは日本人ではなくてハーフエルフだろう?』

 

 あーあーきこえないー。

 だいたいハーフエルフっつーけど別に耳とがってないよ俺。父親が人間で、母親がハイエルフとダークエルフのハーフだったらしいから、俺がハーフエルフなのは間違いなさそうだが。寿命も長かったし。

 

『ハイとダークが合わさって中和したから、おまえには人間の特徴しか出てこないのではないか?』

 

 ハーフとは何だったのか……

 

 あ、今日のゲストは神叢(かむら)レイジ君です。

 

『ゲストではないのだが』

 

 見た目は黒髪黒眼の典型的な日本人だね。背は俺と同じくらいだから日本人の平均より少し高いか。あと俺よりは筋肉しっかりついててガッチリしてる。

 

『おまえと比べれば大抵の人間は筋肉ついているな』

 

 こんな肉質を感じないところがハーフエルフなんだろうか……人外化前は一応、魔術士なりに体力も鍛えてたつもりなんだけど。

 

『その頃は筋肉あったのか?』

 

 いや見た目的には全然。今と変わらずだなぁ。身のこなし自体は問題ないどころか筋肉ダルマも軽く転がせるくらいだったんで、実用上問題はないんだけど。

 って筋肉の話はもういいよ。

 

巫山戯(ふざけ)たディストピアの話だったな』

 

 いやもうちょっとレイジの紹介しようかと思ったんだけど。

 

『誰に? 読者に、と言うならそれを考えるのは物書きの華村と合流してからでいいだろう』

 

 ごもっともで。

 

 で、あのディストピア。

 到着=登場→いきなり機械音声に語りかけられる→全方位から撃たれる。ここまで3秒。

 あんな殺意に満ち溢れる世界、他にあったか? いや無い。

 

『太陽の内部に出現してしまったことはあったが、あれは環境が破壊的なだけで、殺意があったわけではないからな』

 

 つくづく人間のままだったら瞬殺だよなぁ……あれ以来 "出口" の位置にはもうちょっと気を配るようにしてるけど。

 

『気にして何とかなるものなのか? 出る先の様子は事前に分からない、とおまえは前に言っていたはずだが』

 

 目下修行中。【他世界航路開放(エクスチャネル)】に【天啓(オラクル)】を絡めればある程度危機回避できそうなんだよね。期待しててくれ。

 てわけで、太陽に突っ込んでも死なない人外が、蜂の巣にされたくらいで死んだりするわけがないが、痛覚は普通の人間並みにあるため死ぬほど痛かった……特に心臓をぶち抜かれる痛みは二度と味わいたくない。

 

『普通はそれを一度経験したら死ぬからな』

 

 避けるなり防ぐなり弾逸らすなり、蜂の巣回避の手段はいくらでもあったはずなんだけど、あのときはやり取りがあまりに突拍子も無かったせいで気を取られて油断したんだよなぁ。【天啓(オラクル)】の危機警告もなかったし。

 

『おまえは昔から、能力の利便性に反して変なところで隙が大きかったな』

 

 いやでもさ、空気読んで相手の追撃を防いだ、という見方もできなくもない。

 

『防弾しつつ食らった演技でもすればよかっただろうに。本当に身体を弾に貫通させる必要あったか?』

 

 げふっ(吐血)

 正論だけに何も言い返せねぇ……

 

 まあ痛いけど銃創は5秒で全部きれいに直せたんだが、機械音声が言うところの citizen(市民) に囲まれて。それでこの世界の知性種はトカゲっぽい、もとい爬虫人類(リザードマン)ということを知った(ただし当のトカゲたちは自分たちのことを人間と言う)。温かい気候の星だったから変温動物が霊長進化したんだろうか。そりゃ哺乳人類(ヒューム)の俺は顔立ちとか体つきが色々違う、彼ら目線ではさぞ不健康そうに見えたのだろう。不健康は処刑(ZAP)の対象らしいし。

 助けようとして集まってくれたみたいなんだが、そんなわけだからだいぶ困惑された。巻き添えが怖くて遠巻きに見るだけというのも多かったし。結果、ゴミはゴミ箱に棄てるかのごとくスラム街に引き()られたのも、まあ当然の成り行きだね。もう治ってたんで歩いて行けたんだが。引き摺られる必要なかったんだが。

 

 スラム街には、処刑(ZAP)の対象になりそうな連中が逃げ延びて棲んでいた。彼らの話を聞いて、その世界がディストピアであると確信した俺は、

 

『街の管理施設っぽいものを片っ端から破壊し尽くしたんだったな』

 

 ……正直ちょっと早まったよねー。

 実態がどれほど酷かろうとアレは政府だったわけで、部外者の俺がやったことは完全に侵略だった。政府機能は完全停止、ZAPも止まったが他にもいろいろインフラが機能しなくなった、特にそれで街全体の食糧供給が停止したのが痛い。つっても爬虫人類(リザードマン)の食い物は哺乳人類(ヒューム)には滋養にならないものが多いようで、かつ容姿だけでZAP対象だった俺は配給どころではないため、食糧供給が機能していようがいまいが俺自身は断食するか自前の携行食を食うよりほか無かったのだが。

 俺はそれでもいいが市民たちはそうもいかず、代替になる政権のない状態で『おまえたちは自由だ、あとは頑張れ』と言ってのけるのは『おまえら全員()えて死ね』と言ってるのに等しい。大量虐殺は趣味じゃないし、俺の目的に対しては障害ですらある。街を放置するわけにはいかなかった。

 というわけで不本意ながら何とかすべく政治を始めたのだが……

 

『我々は誰ひとりとして政治家の才能は欠片もなかったのだったな』

 

 ホンット揃いも揃ってどうしようもなかったわー……二度とやりたくない。

 

 まず街の反体制組織が4つ、名乗りを上げて出てきたり、探索して見つかったりした。なのでコイツラの合議制による政権を立てようとしたのだが、コイツラ各々の主張がぶっ倒したヤツと似たり寄ったりで、しかも相互に対立してて、意見を摺り寄せたり妥協したりするつもりが全くないので政府としての統一方針がまとまらない。

 ディストピア倒したのに中身変わっただけの同内容で継続とか許容できるわけがないし、いきなり政権抗争とかもっと許容できない。仕方がないので、全員のプライドをへし折った。物理的にも精神的にも。一応死なない範囲で、でも全力で。

 

 次、旧政権の中枢を担っていた中央コンピュータを修理・改修して、抑圧的な体制は無効にしつつも都市機能をできるだけ回復させようとした。これは俺達の中ではずば抜けた電算技術を持つレイジが大活躍。

 

『ディストピア化した理由が、管理システムのパラメータ1つ間違えたから、というのがわかって全員ひどく脱力したのはこのときだな』

 

 まったく、くだらんミスのせいで何百年ディストピアってたんだよ……莫迦なの? 死ぬの? ああ実際ZAPで死にまくってたな。処分記録いっぱい残ってたわ。なお最後の記録は俺だった。死んでないけど。

 

 さて管理システムを直したことでインフラも多少なりとも復旧して、食糧事情もこれでひとまず解決、って思ったんだけどさ。どんなもの食ってるんだろう、と好奇心をあらわにしたのが間違いだった。いやある意味間違ってなかったんだけど。

 

 カ○リーメイトみたいな黒いショートブレッドと、黒いポタージュみたいなスープ、あと水。

 

 三食ともコレだけである。しかも不味(まず)い、だけならまだマシで、ショートブレッドは上に虫がとまるとコロっと落ちて死ぬし、スープはスプーンを長時間ひたしていると少し溶ける。

 どう見ても危険物です、本当にありがとうございました。

 まぁ致死量には程遠いようで食ってもただちに影響は無いという話だったが、これを平然と食う市民達の度量には恐れ入った(味と危険性は彼らにも聞いているので、味覚や感性の違いで問題にならないとかいうわけではない)。しかし哺乳人類が耐えられるかどうかは不明、俺だって不死身とはいえこんなものを好んで食いたくはない。

 こうなると水も怪しいので()()みたが、そっちは日本の水道水よりも塩素がかなり濃い程度で、汚染も特にないし危険性は低かった。ただし一人一日あたり配給量は限りがあるんだと。

 こんな食事情で健やかな精神が育つわけが無いだろ、いい加減にしろ! ってことで改革に着手。

 

 そんなこんなやってると、体制に不満を持った市民、特に4つの元反体制組織が反旗を翻した。オイお前ら、意見や要望は聞いてやるから暴力に訴え出るのは止めろ、こっちだって現地の適任者に舵取り任せたいけど適任者が居ないから苦心しつつ何とかやってんだよ。ただし4反体制組織(バカ)、お前らはダメだ。お前らに任せたら以前と変わらぬディストピアに元通りじゃねぇか。

 

 意見箱を置いたら早速問題が出た。誰も意見を書き入れない。何でと思って聞いてみたら、市民のほとんどが字を書けなかった。うそ、市民の識字率、低すぎ……?

 コンピュータが全インフラ管理してるくらい高度な文明があるのに、それを支える教育がまるでなっていない。調べてみたら学校なんか無かった。長いディストピアな歴史の中で消えてなくなったらしい。その割には一部に頭のいいのが(主に旧体制の上層部に)いるようだが。聞いてみたら、師弟制度みたいなもので個人的に教養を受け継いでいったのだそうだ。

 というわけで、頭のいいやつらを教師にして学校開設。科目は国語・算数・理科。入学は年齢問わず、就学者は通常より美味い飯を出す、成績優秀者は更に豪華。という餌で釣ってみたらほぼ全市民が入学希望したので意欲があって何よりだ。今度は施設と教師が足らんがな。

 

 医療についてもトラブった。病院も診療所も何処にもないのだ。旧体制下では不健康はZAPしてたんだから不要な施設、そりゃあるわけがない。そして長らく必要とされなかったせいで医療技術も失われている。俺は魔術治療を心得ているゆえ医療知識もあるが、哺乳人類(ヒューム)用の医療を爬虫人類(リザードマン)にそのまま適用するのは無理。

 俺の魔術治療については爬虫人類(リザードマン)にもほぼそのまま適用できたのと、中央コンピュータには爬虫人類(リザードマン)向けの医療技術に関するデータが残っていたのは幸いだったが、データだけあっても設備や医者をすぐ用意するのは無理なので、当分の間は医療体制が俺頼りになってしまった。けっこう人口ある街なのに医者が俺一人だけ、しかも為政者を兼任って、ブラックってレベルじゃねーぞ。

 

 衣と住は特に問題なく、食事と教育は改善、医療も俺という対処療法がひとまず機能し、今まで機能しすぎていた消防と警察も問題ないところまで落とし込んで。あと何でもかんでも即ZAPは問題なので刑務所と裁判所を建てて多少の法整備もした。

 そうやって頑張ってると今度は他の都市国家から宣戦布告されてロボットの軍隊が押し寄せる。うちの都市、警察機構以外は武装解除しちゃったから戦えないんすよ……俺以外。というわけで空飛んで魔法矢弾(マジックボルト)超乱れ撃ちで爆撃して撃破。確認のために敵都市に乗り込むと、これまたコンピュータ支配のディストピアだったんでさっくり制圧、しかるのち同様に政治に着手。負担がドン! さらに倍!

 

 最終的に、その星のほぼ全ての都市国家を手中に収めてしまい、原住民の爬虫人類(リザードマン)だけで国家運営や設備メンテナンスをこなして独力で生きられる程度まで文明を正常化させるのに、60年かかった。いや終わってなかったかもしれないがマイルールの『制限時間切れ』なので適当に後任を何人か指名して世界を去った。

 あまりの疲労感にレイジが何も言わなくなってしまうほどの苦行だったんだよ……

 

『語りが調子よさそうなので黙っていたが、何か言ったほうがよかったか?』

 

 所々で茶々入れてくれてもよかったのに。

 

『聞いていて楽しかったのでな。内容はろくでもないが』

 

 じゃあ最後に感想ください。

 

『では……もう世界征服はこりごりだ、二度とやりたくない』

 

 ですよねー。

 

『あと、我々が去ったあと、あの世界が滅んでないとよいのだが。何というかあの爬虫人類(リザードマン)たちはおバkげふげふん、もとい暢気(のんき)すぎる連中ばかりだったから心配だ』

 

 ちょ、そんなことになってたら俺、泣くぞ!?

 

 

 




◇ディストピアの世界
ディストピア化した電脳支配の都市国家だらけの世界。住民は爬虫類から進化した人類。
いきなり蜂の巣にされるのを端緒に色々あってぶち切れたアスカに1都市が制圧されたのを端緒に、最終的に全ての都市国家が征服され、その後の統治で平和になった。
世界征服を成した暴君と書くととんだ巨悪だが、住民たちは感謝していた模様。でもそんなことより後継者達まともに育って。

◇アスカ
どんな重傷でも5秒で完治するというチート。
空を飛んで爆撃すれば機械兵士の軍団を単独で撃破できるチート。
見知らぬ種族の怪我・病気をも治せる魔法を使えるチート。
基本的にヒトが死んだり迫害されるのを良しとしないので、まかり間違って世界征服しようものなら統治に苦労するというお人よし。
なまじチートで無茶が可能な分、個人の負担が大きい。

神叢(かむら)レイジ
主役集団における技術担当。身長180程度で黒髪黒目、中肉中背の青年。
少々ぶっきらぼうな性格、に見えて実は内面けっこう熱血だったりする。一人称はアスカと同じく「俺」複数だと「我々」
会社時代は総技師長というよくわからない役職。
電子機器に対する超越的な能力を持つ。それにより、目視で光学ディスクの内容を把握したり、手をかざしたハードディスクの内容を読み書きしたり、USB端子を指でつまんで接続したPCを操作したり、LANケーブルをつまんでネットワークに侵入したり、ハッキングしたりクラッキングしたりetc。
ディストピア世界の壊れたコンピュータをあっさりと解析・修正してのけたのもこの能力による。

◇【他世界航路開放(エクスチャネル)
神業術(しんごうじゅつ)術式(じゅつしき)の1つ。世界から世界へ、宇宙から宇宙へ移動するための道を拓く。
主人公ズの目的である探し人はこれに準備不足で突入してしまい、迷子になった。

◇【天啓(オラクル)
必要な情報をノーヒントで正確に得られる、というチートな能力。
得られた能力は必ず正しいが、必要とする情報を得られない場合がある。
たまに受動的に発動する。この場合、どうでもいい情報を得る場合がまれによくある。
当話までの冒頭にある所要時間のカウントは、この能力による。

◇マイルールの『制限時間切れ』
基本的に、ひとつの世界に滞在する時間は最長で60年と決めている。
マイルールなので強制力はなく、事情があれば延長することもありうる。
爬虫人類(リザードマン)の世界は、本来の住民に主権を返すためにもルール通りに去った。


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