・やせいの きかいしょうじょが おそいかかってきた
・制圧完了(1.3秒で)
・降参しますから命だけは
「それじゃあ、降参を受け入れよう」
というわけで車内に招かれた。未だに痺れが取れないメアリはお姫様抱っこで運ぶ。
入ってすぐのところは小部屋になっていて、奥に入る前にここで汚染を洗い流す仕組みらしい。クリーンルームに入る前のエアシャワーみたいなものか。
容赦のなさはエアシャワーよりはるかに上っぽいけどな。入り口がロックされたと思ったら何の前振りもなく大量の水で掻き回されて洗い流されて、ドライヤーの数倍太いアツアツの突風で徹底的に乾燥された。俺は全自動される洗濯物かっての。機械類や食べ物持ってたら絶対ダメになるだろコレ。確認もせずにいきなりやりやがって、そうなったらどうしてくれるんだ。今は持ってないからいいんだけど。
なおコレ、俺は徹底的に翻弄されたわけだが、途中で麻痺から回復したメアリは平然と立って受けていた。さすがだけど、機械の身体で水圧洗浄なんか受けて大丈夫か?
洗われ終わって服も乾くと、アンプルを渡された。なんでも医療用ナノマシンが詰まっているそうで、これを投与することで体内の汚染を浄化できるとのこと。メアリも色違いのを腕に刺していて、そっちはオートマタ用で俺のは人間用だそうだ。
俺には効果がないし必要もないんだけどねぇ。バラバラ死体から5秒で復旧するふざけた構造の身体に汚染物質だのナノマシンだの何の効果があるのさ。つっても相手を安心させるためとかそういう理由で使いはする。
奥に入るドアが開く。メアリがそこへ先に入る、というか背中で道をふさぐ。
「もしヴァーサを害するつもりなら殺す」
「おまえそれ、自分が先に襲ってきて負けて降伏した立場だってわかって言ってる?」
「……っ」
「ま、不埒な真似されない限りはこっちから暴力振るったりはしない。それは約束しよう」
それで一応は納得したのか通してくれた。
車内だというのに対面ソファ、向こう側にメアリともう一人、青年が座っている。
「座ってください。車を出します」
「シートベルトは?」
「いつの時代の話をしてるんです?」
田舎者ならぬ昔者扱いされた。そりゃおまえらの文明水準からすれば、俺の知識基準である21世紀は昔話なんだろうけども。
「改めて、はじめまして。ヴァーサと言います」
「メアリ」
「アスカだ。よろしく」
握手のために手を出すが、ヴァーサはよくわからなさそうな顔をし、メアリはかなり露骨に警戒する。
「あー、握手の習慣なさそう、この反応」
「あく、しゅ?」
「……凄く昔にあった習慣で、挨拶の一種」
「ヒトを昔者扱いするの、やめてくれないかねぇ」
「実際古い」
「がっでむ」
第二の故郷と思っている地の文明が古いなどといわれると、仕方がないと頭でわかっていても、なんか腹立つなぁ。
「気に障ったならメアリに代わって謝ります」
「いや気にしなくていい。多分にただのノリだ」
「ノリ、ですか」
「そんなことより、最初に言ったとおり俺は世情に疎いんで色々話が聞きたいんだけど」
「そうですね、こちらとしてもあなたの話が聞きたい」
「こっちから先に聞かせてもらっていいか?」
「……得体の知れないものを拠点に招待せねばならない、という我々の困った事情に配慮していただけると助かるのですが」
「それを言ったら俺だって、後詰めの戦力がどれだけあるかもわからないところに単身飛び込むわけだが。あとは、先に襲い掛かってきた挙句に負けて降参したのはどっち、って話」
「う……」
「そちらにとって悪いことにならないようにはするから」
「…………わかりました」
というわけで、苦い顔をする青年ことヴァーサに対して、少しばかり強引に先手を取って、まずこの世界について教えてもらったところによると。
まずこの星の名前だが、地球だった。定番ですな。第一の故郷も第二の故郷も地球だったし(蒼星とか紫星というのは俺達だけの内輪の命名だ)
この地球にいる知性種は目の前のヴァーサのような普通の
文明は科学技術一辺倒のようで、そのレベルは俺の知る21世紀日本よりかなり進んでいる。目の前にも一人いるオートマタや、さっき使ったナノマシンがいい例だろう、これらは21世紀では空想上の存在でしかない。この車にしたって運転室が無人でも全自動運転で走れるとのことで、今それで拠点に帰還している最中だとか。
当然、軍事的にも発達しており、建物1つ分くらいの範囲のみを綺麗に抉り飛ばすようなピンポイント攻撃のできるミサイルとか、縦横無尽に飛び回り狙った人物を銃殺あるいは爆殺する殺人ドローンとか、逆にそういう小型殺人機械の電子制御を電磁波で破壊して無効化する防御システムとか。あとオートマタにも隠密戦闘や災害派遣を目的とした軍用があるとか。
なおメアリは汎用オートマタだそうだ。戦闘技術もインストールされているので一般人をいなしたり捕まえるくらいわけないが、軍用相手だと奇襲やゲリラ戦ならまだしも対面してしまえば勝ち目はないらしい。彼女は俺にもほぼ瞬殺くらってるので、彼女を基準に軍用オートマタの性能を推すことはできない。
さて、そんな高度な技術力を持つこの星の住人であるが、人類文明の常というべきか、小競り合い程度の戦争行為は世界のどこかでいつも行われていたという。
転機は数年前。小惑星のひとつが海に墜ち、全星規模の津波で世界人口の3割がわずか1日足らずのうちに洗い流された。その後に起きた寒冷化で食糧難も発生。そんな人類存亡の危機に全世界が協力して万難に立ち向かえればまだ救いはあったろうが、実際はその真逆を一直線に突っ走ってしまい戦争が激化。
化学兵器や核兵器も躊躇なく使用して環境を汚し、自動兵器で従来以上に人口を目減りさせていった結果、どの国も被害を受けすぎて体制崩壊したらしい。屋外はどう軽めに見ても生き物が生身では5分と過ごせない死の環境と化し、殆どの都市の人間はだいたい容赦なく殺し尽くされ、郊外は郊外で汚染を防護する施設がないだろうからやっぱりほぼ全滅しただろう。
推測なのは知り合いや公機関等に一切連絡がつかないため情報が入らないからだ。
もはやどの国にどれだけ生き残りがいるかどうか定かではない。土壌が汚染されてるので食糧生産も非常に限られる。人類滅亡待ったなし。
『ポストアポカリプスの典型って感じですね』
『馬鹿なの? 死ぬの?』
『レイジって某掲示板的な言い回し好きなのか?』
『嫌いではないな、といってもアスカがよく使うのを真似ているだけだが』
そんなにしょっちゅう使ってないよ? 脳内以外では。
『それは置いといて。今まさに死に絶えそうですね、この星の人類が』
『せっかく来たのに種族ごと瀕死か。見捨てるのは気分が悪いが、さて』
どうにかしろって意味かな? 考えとく。
ただ、全部俺の力でちょちょいのちょい、みたいなのはやりたくないねぇ。やっぱ現地のヒトの不断の努力で改善って形にしないと、後世に反省が活きないと思うのよ。俺はその手助け程度が理想。
『でも気がつくと自分で主導権握って馬車馬のように働いてるのが今までの現実な』
うっせ。フルミうっせ。
話を戻して。
ヴァーサとメアリは、そういう危険な世情をいち早く察して、ジオグラフォスという名前の小さな島へと逃げ出すことでかろうじて生き延びているという。拠点には彼らのほか20人くらい、災害や戦争で身寄りを失った子供たちが暮らしているのだそうだ。
今いる場所はそのジオグラフォス島の一角。二人は定期的に環境調査に出ており、隕石のようなもの(=空に出現して墜落した俺)を発見したので偵察にプローブを飛ばして、その結果として今に至る。
あと聞けるのはこの星の地形くらいだろうけど、それは世界地図を見せながらのほうが話が早いけど残念ながら車内にはないとのこと。拠点に帰れば地球儀があるというので、そこで話してくれることになった。
「実のところ、あなたには少し期待しているんです。初めて自分たちから接触してきた生き残りですので」
「でも警戒もしている、と。そりゃ生き残りが善性の存在とは限らないもんな」
「むしろ奪え殺せのほうが可能性ありましたね。人類の最後の歴史を思えば、そう考えるのが無難です」
「過去形なのは、そういう疑いは晴れたのか?」
「ちょっと考えにくいかな、って今は思います。なにしろあなた、常識を知らなさ過ぎますし」
「デスヨネー」
今根掘り葉掘り聞き終えた話は、この星の人間にとってはだいたい常識ばかりだったろう。
そんなの異世界人の俺が知るわけないじゃん。
【
たぶん、能力頼みになりすぎると人と触れ合うことが無く、それは俺たちにとってマイナスなので能力の側で何か調整が働いているのだろう……あれ、それって、俺はこの能力に操縦されているってことになるのか?
能力に人間が使われるって、好ましい話じゃないんだがなぁ。うーん……
「演技とも思えませんでしたから。常識を知らない人が策を練るとは考えにくいので、こうして暴力的にならず話を聞きに来たことも考えて、多少は警戒を解いても大丈夫ではないかと」
常識皆無でも練れる策はあると思うんだが、ヴァーサはちょっとお人好しが入ってるんじゃないのか。と思ったが笑顔で誤魔化した。まぁこんなご時世なので人恋しいのかもしれない。
「うーん、警戒を解いてくれるのは嬉しいが、期待に応えられるかどうかは、微妙な線じゃねぇかなぁ」
「と言いますと?」
「俺、生き残りじゃないし」
「え、あなた死んでるんですか!?」
そういう意味じゃねーよ。
◇クリーンルームに入る前のエアシャワー
半導体や薬品の製造には塵の一つもない環境が必要で、そのための環境であるクリーンルームは色々と気を使った設備がある。
入り口に備わるエアシャワーもそのひとつで、出入りするヒトとモノに付着する塵埃はこれで徹底的に吹き飛ばされる。
体重の軽いヒトは油断していると当人が吹き飛ばされる。
◇途中で麻痺から回復したメアリ
前話で使用した【
必要なら追加で打ち込むことで延長可能だった。
◇医療用ナノマシン
投与することで体内の汚染物質の除去、細胞や遺伝子の原子レベルでの損傷の修復、怪我に対する治癒力の補助や完治した傷痕の整形などを行える。
今回のものはアンプル剤に封入されており、無針注射で投与する。
オートマタ用も存在し、こちらは体内の汚染物質の除去のみ。