迷子探しの異世界たびにっき   作:華村天稀

8 / 10
前回のあらすじ
・車に乗って出発進行(全自動運転で)
・こっちが勝ったんだから先に話聞かせろ
・ヴァーサ「あなたは信用できます。たぶん。めいびー」



5.おにーさん怒らないから正直に名乗り上げなさい

「え、あなた死んでるんですか!?」

 

 などと言われて、この世界にもアンデッドとかいるのだろうか、と思って聞いてみると、生物がゾンビみたいになってしまうバイオハザードが過去にあったらしい。それはそれで文明存続の危機だったのではと思ったが、原因となった生体兵器研究所を擁する国に対し、他国全てが一致団結して宣戦布告、ありったけのミサイルを叩き込んで国土全域を文字通り焦土にすることで対処したんだとか。

 これを聞いて思わず『うわっ、この星の人間の血の気、多すぎ?』って念話で呟いちゃったレイジは悪くない。てかネットスラング好きだなレイジ。

 あとそれ聞いて噴きそうになった俺も悪くない。念話だから目の前の二人には聞こえないんで表情が「?」になってたけど、適当に言い訳した。口に含む茶がなくてよかったよ、そんなものがあったら間違いなく二人にぶっ掛けていただろうからな。

 

 そんな会話からほどなくして、車が停車したと思ったら何かが車体に吹き付けられるような感覚を受ける。窓がないので外を見ることはできないが俺には【空間把握(コーディネートセンス)】があるので生物的感覚に頼らずとも……って範囲せまっ。これも能力制限の対象かよ。感覚系封じられるときついんだが。おかげでギリギリで車外あたりまでしか把握できない。吹き付けられてるのは水だった。ああ除染かコレ。いやその程度は【空間把握(コーディネートセンス)】なくても推察できるって。

 つまりは拠点とやらに到着したようだ。車の除染が終わったようで、背後の、つまり出口の扉が開けられる。

 

「ようこそ、ジオグラフォス・コミューンへ」

 

 そいえば、俺まだ自分のこと一切説明してないんだけど、招かれちゃって良かったのかな?

 

 

 

 

 

「ふ、ふははは、よくぞこのワシを倒した。だが心せよ、わしは四天王で一番の小物。第二第三の刺客がお前たちを」

「くらえー(殴)」

「えいっ(蹴)」

「とどめだー(踏)」

「ぐわーっ、サヨナラ!」

 

 瀕死のところを寄って集ってトドメさされた俺は断末魔の叫びをあげた。でも別に爆発四散はしない。

 

「……って、アスカさん!? みんな!? 何これどういうこと!?」

 

 やだなぁヴァーサ君。一部始終を見てたんだから、わかってんだろ?

 顔見るなり俺に「誰だオマエはー」とか「出て行けワルモノー」とか言いやがったガキ共を巻き込んで悪漢ごっこしてるだけである。もちろん子供たちのご指名によって俺が悪漢役。

 襲い来るガキ共をくすぐり攻撃で撃退したり、足をつかんでジャイアントスイング(もちろん他の人にぶつけたりしないし、止めるときはそっと降ろしてやる)したりして善戦したが、正義という名目の数の暴力を前にあえなくダウン。やられ役のキメ台詞を最後まで言わせてもらえず踏んだり蹴ったり(文字通りの意味で)されているわけである。

 なおジャイアントスイングされるのは子供たちにとってかなり面白かったらしく、しまいにはやってほしいとせがまれたりして妙に好評だった。

 

「遊んでるんだが?」

「いきなりですか!?」

「いけないか?」

「いけなくはないですけど……」

 

 ヴァーサはこのノリについていけないようだ。メアリもわけがわからないと言わんばかりの表情である。

 そういやメアリは子供たちに遊んで欲しいとせがまれてたんだっけか。役目取っちゃった。てへ。ついがっとなってやった。反省はしていない。

 次はメアリも巻き込んでやろう。ジャイアントスイングで回すとか。でも反撃はマシンガンの鉛玉になりそうな予感。サツバツ。

 

「はいはいおしまい、どいてどいてー。特に背中に乗ってるやつと頭踏んでるやつ。あと足で頭ぐりぐりしやがったやつは地味に痛かったぞ、誰がやった? おにーさん怒らないから正直に名乗り上げなさい」

 

 ガキ共を退けて立ち上がる。なお犯人は自ら名乗らなかったのでアイアンクローの刑に処した。ばれてないとでも思ったかクソガキ。封印のせいで短射程とはいえ【空間把握(コーディネートセンス)】あるから誰が何したか全網羅できてるんだぜ。

 

「……手馴れてますね」

「アイアンクローか?」

「いえ、子供たちの扱いが」

「孤児院に関わってたこともあるんでね」

 

 そもそも俺は十二歳まで孤児院で育ったし。独立して以降もたまに孤児院へ食糧を差し入れに持って行っては子供たちと遊んだりしていたので、子供の扱いは多少慣れている。つっても闇が深い感じの子は、ちょっと気楽に遊びに行くだけの俺の手には余る。そういうのは必要ならばじっくり時間と手間を割いて真剣に向き合ってやらないとダメだろうし。

 

 遊びを切り上げてヴァーサの部屋に向かうころには、入館?直後の険悪っぷりがウソのように子供たちに懐かれた。自分でそうなるよう振舞っといてなんだけど、そんな危機管理で大丈夫か?

 ヴァーサの部屋の壁には世界地図と島の地図が貼ってあった。正積方位図法で描かれたらしい世界地図によれば、この星には巨大な島が3つ、大きめの島が7つ、小さな島が21、あとは世界地図規模じゃ点になるかならないかの島々で出来ているらしい。少なくとも地図上に描かれた限りではそれが陸地の全て。

 地図の縮尺を見るに、巨大な島は3つともオーストラリア大陸くらい、7つの大きめの島はグリーンランドからマダガスカルくらい、21の小さな島は四国とかアイルランドくらいか。ジオグラフォスは本当に小さいようで、世界地図上では点ですら描かれてない。

 大雑把に言って陸地面積が五分の一くらい。そこに最盛期で人口十億程度という話だった。二一世紀の日本で世界人口が八十億くらいと聞いた覚えがあるので、面積比以上に人口が少なめか? まぁ重要なのは陸地面積じゃなくて居住面積だろうから、こんなものなのか?

 ちなみにこの島の人口は俺を除いて二十六人(機械知性体(オートマタ)含む)。ヴァーサとメアリ+さっき遊んだガキ共で全員。いやガキつーても俺と(見た目は)同い年っぽいのもいたけど。ヴァーサとメアリを除けばその同い年っぽいヤツが一番年長で、ここの料理を三人で担当しているらしい。今日は一番美味い料理を頼む、唸るほどの味ならお礼に食材を提供する、って言っておいた。

 

『僕達の提供する食材って百パーセント異界の産物になるんですけど』

『そんなもの提供して大丈夫か?』

『大丈夫だ、問題ない』

『フラグにしか聞こえませんよ……』

 

 産地で普通に食料だったものが他の世界でバイオハザード起こす(世間一般で普通に使われる意味で。ゾンビが大量発生するヤツではない、いや可能性は極小ながら有る(微レ存だ)が)なんて、細菌とウィルス的な意味ではザラだからねぇ……てわけで三人のやり取りがすげー何か事故りそうな(フラグっぽい)んでやめてほしい。

 

『『『えー』』』

 

 何で息ピッタリで反発するんですかねぇ。

 まぁとにかく、一番いい防止処置を頼む。って俺がやったんだよ防止処置。そこはいつも結構気を配って実施してるから、ネタ抜きで大丈夫でせう。

 

「さて、俺の話だっけ」

「ええ。あなたが悪い人ではないのはだいたいわかりましたが、素性はわからずじまいです。是非お聞かせ願いたい」

「まぁ隠すつもりはないんだけどさ」

 

 まっとうな神経してたら到底信じようがない話が、ごろごろしてるんだよねぇ。

 

 

 

 

 

 とりあえず、自分についてはこれだけ話した。

 

 まず、俺はこの星の存在ではない、どころかこの宇宙の存在ですらない、異なる宇宙の人間であること。

 他の宇宙へ至る道を拓いて通る能力を持っており、数多の宇宙から宇宙へと、大した目的もなく物見遊山で旅して巡り回っている。

 

 故郷の名前は『地球』であり、この星と同じ名前であること。

 名前被りは不審に思われたが、実は別に変わったことではない。複数の星にまたがる前段階の文明は、自身の住む星を『地球』と名づけることが多く、多世界において名前被りすることはチャメシ・インシデント……じゃなかった日常茶飯事だったりするのだ。もっとも、そんな事実を知るのは俺達くらいしかいるまいが。

 

 この宇宙に到達時はこの星の大気圏内というか雲の中あたりに出現し、本来なら空を飛ぶ予定だったが、予期せぬ事情により飛行能力を発揮できず墜落したこと。

 

 軽装の手ぶらに見えるが、実は色々なものを隠し持っており、特殊な能力もあること。ただし先の話の『予期せぬ事情』が継続中であるため、今はたいしたことはできないこと。

 まぁその状態でもメアリ程度は軽くあしらえるわけだが。その気になれば此処の制圧くらいは余裕だろうな、此処には個人で入手可能な銃器程度しか無いみたいだし。

 

 最後に、現地の文明文化に対してあまり干渉するつもりはないこと。

 特に、侵略の意思は毛頭無い。無いったら無い。頼まれたってやるもんか。

 

 全て、嘘偽りも隠し事も無い事実である。

 莫迦監査の捜索は『大した目的』ではないので、嘘はない。

 で、それを聞いた二人の反応がこれである。

 

「……わっつぁ?」

「……ワンモア」

「もっかい最初から全部言えと抜かしやがりますかオマエラ」

「いや、その、怒らないでください。正直ちょっと、信じがたいというか、理解が及ばないというか」

「ぶっちゃけ意味不」

「あーメアリさんや。便利すぎる能力(チート)で言語把握してるわけじゃないんでスラングはちょっと」

 

 おそらく普通の人から見ればほんの数口程度の言葉で言語を把握してしまうのは充分チートに見えるのだろうが、これはあくまで多数の言語に関する知識と経験に基づいた純然たる言語能力による理解である。なので、通常の文法に則った会話と比べると砕けすぎた口語やスラングなどは理解が難しく、誤訳とかあるかもしれない。

 

「お互い様」

「まだ俺そんなにスラング口にしてはいないハズだけど」

szégyen a futás, de hasznos(逃げるは恥だが役に立つ)檀公三十六策,走是上計(三十六計逃げるに如かず)

「それスラングじゃないからね!?」

 

 【悲報】スウェーデンのことわざと中国の故事、異世界ではスラング扱い。

 

 




◇【空間把握(コーディネートセンス)
神業術(しんごうじゅつ)術式(じゅつしき)の1つ。常駐型。
特定範囲内(基本的には術者から一定距離内)の空間内にある物体を、視覚をはじめとした一切の身体感覚に拠らず把握する。
バーチャルリアリティ世界内で周辺のオブジェクトを直接メモリデータ参照して把握するようなもの。
得た情報の処理については術者の頭の処理能力が必要で、それを補佐する機能は術式に備わっていない。また範囲を広げたり精度を上げると頭の負担が飛躍的に増す。
並の人間だと有効範囲的にも精度的にも使い物にならない。

◇正積方位図法
正確には『ランベルト正積方位図法』
地球上の広い範囲の地図を平面に描くための図法のひとつで『地図の中心からの距離』と『面積』が実際に対して正しく縮図となるように描く。
現実には北極点もしくは南極点を中心とした正積方位図法の地図がよく使われる。前者は国際連合の旗に描かれており、後者は南極大陸の地図になる。
作中の地球は主要な陸地(3+7+21の島)が全て片側に偏っており、アスカの見た地図はそんな陸半球を中心にして描いた、この世界では標準的な世界地図。現実では一般的なメルカトル図法による地図は、この世界だと海運関係者くらいしか使用しない。
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